第二百六十七幕 救出作戦
──“部室”。
「取り敢えず落ち着いて。はい。紅茶」
「あ、ありがとう御座いますわ」
慌てて入ってきたベルちゃんに事情を聞く為、取り敢えず紅茶を出して落ち着かせる。
のんびりしてる暇は無さそうな様子なので手早く。
「実は、代表戦以降の反響が凄まじく、追われる立場になってしまいましたの」
「あ、やっぱりそうなんだ」
「先輩達も当然体験してますわよね。それで、学校の先輩やクラスメイト達に追われるのは悪い気がせず嬉しかったんですけど……」
「あ、同じだ~。私もクラスメイトや後輩ちゃん達に追われるのは悪くないと思ってるよ。でもその様子、それ以外が問題なんだね」
「お察しの通りですわ。メリア先輩」
話していた事が原因なのはなんとなく分かっていた。なので話自体はスムーズに進んでいく。
問題点は間違いなく外部の人達。
「理由を述べるなら私達の不注意ですわ。元より悪い気はしておらず、部活動も休みだったので気にせず街へ赴こうとしたが最後……」
「あー……出待ちしてる人達に捕まっちゃったと……」
「はいですの……」
大方予想通り。この形で有名になるのが初体験だからこそ陥ってしまった。
それなら何故ベルちゃんだけが来たのか。それについて訊ね、彼女は返答する。
「簡単に言えば私が並びの後ろ側だったので捕まった瞬間にお三方の手伝いもあり脱出を成功させ、先輩達へ報告に来た次第ですの」
「成る程ねぇ。それじゃあ今どうなってるかは分からない状態みたいだね。ここに来てないからまだインタビューとか受けてるのかもしれないけど」
「そうなりますわね……」
記者達にインタビューを受けているだけなら、実害が被る事は無さそう。
けれど記事が事実だとしても、過剰に誇張したり悪い方向に言い方を変えて載せたりもあるから早めに対処した方が良いよね。
私達はあくまで学生なのもあり、今後を考えてもそう言う特集にはあまり乗らない方が良いからさ~。
「それじゃあ行ってみよっか。実害が出なくても迷惑はしちゃってるだろうし、助けに行こう」
「だな。アタシでも長時間のインタビューはダルい。ベルの口振りからして複数人に囲まれたなら尚更だ」
時間で言えば記者達に詰め寄られたのが校舎を出てから数十秒程度として、ベルちゃんがここに来るまでの数十分。少なくとも数十分間はインタビュー中。そろそろ解放されてるかもしれないし、取り敢えず行くだけ行ってみた方が良いよね。
なので私達はすぐに部室の外へ行こうとした時、ボルカちゃんが手を引く。
「まあ待て。アタシ達もそれなりの有名人。簡易的でも変装くらいはした方が良い。帽子やメガネに付け髭とかな……!」
「付け髭は要らないんじゃないかしら?」
「アハハ……でも、それもそうだね。簡単な変装はしておこうか。なぜか衣装は沢山あるし」
「あ、私達が去年ティーナちゃん達を迎える為に着てた服」
「そう言えばありましたわね……」
確かに最初のかくれんぼとは別に謎解きゲームをして秘密を解き明かしたっけ。一年前くらいなのにもう懐かしいなぁ。
その時のコスプレ衣装に加え、他にも様々なグッズが。これも割と恒例行事だったんだね。
取り敢えずそこに変装セットがあるなら話は早い。私達はそれを着、部室から校門の方へ向かうのだった。
─
──
───
「彼処か~……確かに人だかりが出来てんな」
「そうだね。ディーネちゃん達の姿は見えないけど真ん中の方かも」
「絶対に逃がすつもりはないという強い意思を感じるわ」
「あの中で救出するのは大変そう。学外で他人への攻撃魔導は法律で禁止されてるものね」
「上手く記者達に紛れて連れ出さなきゃね~」
「そうですけれど……」
校門近くに来た私達は近場の木陰から覗いてその様子を探る。
ベルちゃんはなんか不安みたいだね。でも大丈夫。
「心配しないで。絶対にあの中から助け出すから!」
「ああいえ、それは良いのですけど……」
「……? どうした? やけに挙動不審だな」
「それはそうですわ……! 私達の衣装、大目立ちじゃありませんか……!?」
「ねえ……あれ……」
「誰かしら……」
「部外者……?」
「先生呼んだ方が良いんじゃ……」
「でも何となくダイバース部の人達の気配もするような……」
ベルちゃんの懸念。それは奇抜なカモフラージュ、もとい変装。
帽子やサングラス、付け髭を身に付けたヘンテコな集団に見えてるもんね~。
関係者以外立ち入り禁止である“魔専アステリア女学院”。その敷地内に居るにも関わらずこんなに怪しまれちゃってるんだもんね。不安なのも分かるかも。
だけど、少なくとも私達とは気付かれていない。それについては良かった……のかな?
「まずは様子見からだな。インタビュー自体を楽しんでいるなら邪魔するのは悪いし、止めには入らない。迷惑そうなら即刻奪い去る」
「うん。それの役目は私達……!」
ティナを飛ばし、魔力を込めて感覚共有。視覚と聴覚を繋げる。
大きさ的には目立たないし、小回りも利くから気配を読めるだけじゃどうにもならない索敵や諜報に打ってつけ。
上空から中心の方へと下ろし、向こうの様子を確認する。
「それでは、“魔専アステリア女学院”の今後について──」
「えーと……えーと……」
「今後はもちろんやれるとこまでやる感じで──」
「先輩達が居なくなった場合、貴女達──は」
「あの……その……」
「その時は私達が最年長となっているので、後輩達が入ってきている筈です。教わったノウハウを伝え、後進の育成に──」
一見すればディーネちゃんが少し返答に遅れを取って他は上手く受け答えしてるように見えるけど、その表情から大変そうな雰囲気は窺えられた。
これは間違いなく助けを求めている様子。見たまんまの事をボルカちゃんに話す。
「そっか。なら早速行動開始だ。ティーナ。準備を」
「うん」
ママに魔力を込め、周りの植物を成長させる。後で元に戻すけどね。
植物を操るだけで基盤は完成。後はそれをボルカちゃんに括り付けて、千切れないのを確認した。
「大丈夫そう?」
「ああ。流石の出来映えだ。気にもならないし苦にもならない。じゃ、行ってくる」
「気を付けて」
「ああ。ま、ちょっと姿を見せるだけだしな。そんな大事にはならないさ」
それだけ告げ、炎魔術で跳躍。そのまま加速し、メリア先輩も箒に跨がり同時に移動。
一瞬にして二人は相乗効果で通常の数倍は速くなり、校門を越えて群衆の上スレスレへと飛び込んだ。
「それでは次の質問を──」
「チィーッス……(まだあるの~!?)」
「ええ(そろそろいい加減にして欲しいものだな……)」
「はい……(もうイヤだ~!)」
中心部分にて囲まれる三人を発見。近付くとより疲弊した感じの声が分かる。
だけどボルカちゃんのコントロールなら、そこから三人を連れ出す事も可能。その為に植物魔法を体に括り付けたんだからね!
「そーらよっと!」
「わ!?」「……!?」「わわ……!」
輪っか状にした植物を放ち、三人の体に巻き付ける。と言うより輪投げみたいな感じで当て嵌めた。
そのまま引っ張れば縛れる構造なので痛みとかも伴わない範疇で結び、三人の体を引き上げた。
「大丈夫かー?」
「その声は……ボルカせ……!」
パァーッと明るくなり、ディーネちゃんが見上げた先に居たのは──怪しいサングラスと髭のおじさん。
「誰ですか!?」
「アタシよアタシ!」
「新手の詐欺師!?」
「なんでだよ!? いや、確かに微妙にニュアンスは似てるけど!」
「あ、やっぱりボルカ先輩だ」
変装しているので一瞬の戸惑いは見せた物の、声と話し方で気付きそのままメリア先輩の箒操術で華麗に退散。
記者達は手を伸ばして肩を落とす。平常時の魔法使用は禁止だもんね。今の私達みたいに移動目的で使うのは良くて、下手したら傷付けるかもしれない在り方がダメなの。
だから記者さんやインタビュアーさん達も魔法や魔術で連れ戻そうとはしていない。
「いや、待て! あれは植物魔法!」
「ならばティーナ・ロスト・ルミナスが近くに!?」
「それにあの箒捌き……!」
「メリア・ブリーズか!」
「だったらあの男性……? は……」
「赤毛が見えた。ボルカ・フレムの変装だ!」
「こんなに近くに大物が!」
「これは収めなければ!」
「あちゃー。ある意味逆効果って感じか?」
「ちょっとした特徴で分かるんだね~」
『私の本体は見つかってないけど……植物のロープだけで分かっちゃうんだ……』
結局見つかりはしたものの、遠目で変装した姿なので大事にはならなかった。
私はティナの感覚共有で視覚と聴覚のみならず声帯とも繋げており、ボルカちゃん達とも会話可能。あの人達の一度獲物を見つけたって感じの顔は凄まじいものがあるね~。
「「「うおおおぉぉぉぉっ!!!」」」
「私達も先輩達のお役に……!」
「そうだね!」
「ああ。傷付かない範囲で……!」
吊るされているディーネちゃん、サラちゃん、リゼちゃんの三人は軽く魔力を込め、炎と水をぶつけて水蒸気を発生させ、風で向こうへ追いやって煙幕とした。
流石のコンビネーション。逃げ隠れするには持ってこいの魔法・魔術。
その霧に紛れ、私達は校舎の方……ではなく、そのまま真っ直ぐ部室へと飛んでいった。
「何だったのでしょう……あの変な格好の方々は……」
「ボルカ様方……?」
「いえ、流石のボルカ様でもあの格好は……しそうですわね」
「ボルカ様はともかく、ティーナさんやウラノさんはしないのではないでしょうか」
「謎は深まりますわね……」
「“魔専アステリア女学院”の七不思議ですわ……」
なんか下方から訝しむような声が聞こえた気がしたけど、すぐに飛んじゃったので全容は聞き取れなかった。
取り敢えず作戦は成功。物事は解決し、私達は部室の方へと戻るのだった。




