第二百六十六幕 ちょっとした騒ぎ
──“新学期”。
《──で、あるからして、そうあるように、この様に、“魔専アステリア女学院”の生徒としての自覚を持ち》
少し経ち、長期休暇も終わりを迎えて新学期が始まった。
いつもの同じような事を繰り返しているように聞こえる校長先生のお話を聞き、ボルカちゃんを筆頭に何人かは魂が抜けたような状態で立ち竦む。
ある意味一つの魔法みたいだねぇ。相手を無気力にしちゃう魔法。全国でも半数以上が使える強力なもの。
──なんてね。私としても暇だから余計な事を考えちゃってるや。先生に失礼だよね。
《そして、“魔専アステリア女学院”の誇りを胸に新学期も乗り越えて行きましょう》
そんな事を考えているうちにお話は終了。私達は教室に戻り──
「「「ティーナさーん!!」」」
「「「ボルカ様ぁー!!」」」
「「「ルーチェさーん!!」」」
「「「ウラノちゃーん!!」」」
「わ、わわわ、わ!」
「ハハハ、ほらほら落ち着いて落ち着いて。ティーナもみんなもな」
「ふふん、今日の私も輝いておりますわ! そう、まさしく光魔法が如く!」
「静かに過ごしたいんだけれど……」
クラスメイト。及び他のクラスや学園の子達に囲まれてしまった。
こんなに人が集まってくる理由は一つ。
「ダイバース優勝見事でしたわ!」
「ルミエル先輩以来の快挙!」
「傷の方はもう大丈夫ですの!?」
「同年代の星ですの!」
「是非ともお話を聞かせてくださいませ!」
ダイバース代表戦での優勝。
世界で最も流行っていると言っても過言ではないこの競技。それで優勝したとあらば去年までの実績も相まって凄まじい人気を泊する形になるのも当然。更に言えば私は入院していて学校に顔を出してなかったもんね。よくお見舞いに来てくれていたボルカちゃん達も然り。だからこんなに激しくなってる。
生徒のみならず記者やスカウトの人達も学院の門前に集まっており、それについては先生達が対応していた。
こう言ったメディア関連の規模で言えばルミエル先輩達以上との事。
何故ならあの世代は注目されているのがルミエル先輩とイェラ先輩だけであり、それまで“魔専アステリア女学院”がダイバースの分野ではそんなに有名じゃなかったから。
それが軌道に乗った今、ルミエル先輩の後釜兼数年振りの優勝&大会MVPの獲得。諸々の事が重なって今の騒ぎになっているの。
「ほらほら、皆さん。席に着きましょう。今日は始業式なので午前中に終わりますから」
「「「はーい」」」
先生がやって来、クラスメイト達は渋々席に着く。この辺はちゃんと素直に聞くんだよねぇ。流石は“魔専アステリア女学院”。
そんな感じで新学期の心構えなどについて話され、私とボルカちゃんとウラノちゃんは気付かれない範囲で目配せをしていた。
それから数十分後に終わりの挨拶がされ、窓際のウラノちゃんがそっと窓を開けて行動に移る。
「それじゃみんな! また明日ねー!」
「またなー!」
「バイバイ」
「私はもう少しちやほやされたかったですのに」
「「「あーん……」」」
開けた窓に植物を伸ばし、ボルカちゃんとウラノちゃん、ルーチェちゃんにそれを巻き付けて飛び出す。
ボルカちゃんが周りに影響が出ない程度の炎を出して加速し、私達は教室から飛び出した。荷物は既に持ってるから問題無いよ。ルーチェちゃんはちょっと名残惜しそうだったけどね~。
そのまま校舎や他の建物に植物を絡み付かせ、ワイヤーアクションのように飛び交って移動する。ボルカちゃんは自分でも飛べるけど、私達の事を案じてくれてるんだね。
「いや~。にしても人気者は大変だな~」
「そうだねぇ。私にルミエル先輩みたいに華麗な対処は出来ないから逃げる事しかやれないよ」
「名残惜しくはありますけど、自慢の髪型が崩れてしまいますものね」
「それは貴女だけじゃないかしら。ルーチェさん」
改めて有名になる事の大変さを知る。
一挙一動が周りに大きな影響を与えちゃうんだもんね。世界的に有名なルミエル先輩はそれこそ外出するだけで大変そう。
「あ! ティーナさん達よ!」
「ボルカ様~!」
「今日も部活に向かうのかしら?」
「全ての部活動はお休みではなくて?」
「寮かもしれませんわ!」
「アハハ……本当に大変」
「だなー」
「ごめんあそばせ~」
「貴女は余裕そうね」
移動途中でも私達を見つけた人達が後を追ったり写真撮ったり。
見れば遥か遠方で構えてる記者さんも居た。学院内に部外者は入れないからあんな感じで何かしらのスクープを追ってるんだね。
それは良いんだけど、制服だからスカートの中が見えちゃわないか心配。その辺も注意して飛んでるけどね~。
それから森に入り、念の為にフォレストゴーレムやビースト達を配置して部室へと入った。
今日は部活休みだけど、絶対に寮の方だと部屋の前で待機されてるもんね。ほとぼりが覚めるまでここに居ようという事にした。
「あ、メリア先輩。先輩もここに避難していたんですね」
「おー! ティーナちゃん達。そうそう! ほんの一ヶ月前までこんな事は無かったんだけどね~。有名になった途端に囲まれちゃってさ~。クラスメイトや学校のみんなはずっと応援してくれてたから良いんだけど、記者とかスカウトマンとかが最悪~。有名になった後でちやほやするんじゃなくて、なる前に原石を見つけないで何の仕事してんのー? って感じだよ~。本当に見る目が無いんだね~」
「アハハ……メリア先輩の場合はほうきレースの道に進む訳ですもんね。その辺の意識は強いんですね」
「うん。必要な事。だけど見る目が無いスカウトや審査の人なんか無視して自分の力で頑張るよー!」
「プロ入りするなら最短で三年後くらいですし、その頃には対応も変わってるかもしれませんね」
「だね~」
部室にはメリア先輩もおり、珍しく憤っている様子。
メリア先輩はルミエル先輩が中等部に居た時期とズレており、見向きもされなかった時代の中等部ダイバース部だったから今更掌返すな~って感じなのかも。期待されてはガッカリされた厳しい時代だもんね。
向こうが求めてるのはあくまで話題性だもんね。
「そう言えばディーネちゃん達は来てないね。こんな事初めてだから戸惑ってるんじゃないかな?」
「あ、確かにそうですね。サラちゃんやベルちゃんは笑顔で対処してそうですし、リゼちゃんは流していると思いますけど、ディーネちゃんが心配……」
私達とメリア先輩は部室に到達したけど、一年生の子達が心配になって来た。
特にディーネちゃん。大会でも活躍したし、魔力量とか空間魔術とか注目点が一気に公になったけれど本人が消極的な性格だから取り囲まれたりしたら……。
「そんなに心配する必要も無いんじゃないかしら? あの子達は思ったよりも強いわよ。それにディーネさんも他の三人が対処してくれるでしょう。私達が向かったら逆に人を集めて脱出が困難になってしまうわ」
「ウラノちゃん……。そう……だよね。確かに私達が行ったんじゃ逆効果かも……」
助けに行こうか考えていたら、ウラノちゃんに制された。
それについてはその通り。人が沢山集まっちゃうから部室に避難した訳で、私達が向かう事によって更に多くなるもんね。
「んじゃ、待機するしかないか~。何なら外に出ている可能性もあるし、寮に入れたかもしれないしな。必ずしも部室に集まるって訳じゃない」
「そうですわね。寧ろ三ヶ月くらいしか利用していない部室よりは寮部屋や街の方が馴染み深い筈ですわ」
「それもそうかも。私が必要以上に心配してもしょうがないよね」
「そう言う事よ」
ディーネちゃん達はディーネちゃん達で行動しているよね。迷惑な人達ではあるけど、悪い人達に追われてる訳でもないし、それこそ余計なお世話になっちゃう。
少し落ち着いたので私は立ち上がる。
「このまま待ち続けてるのも暇だから、紅茶か何か入れてくるよ。ルミエル先輩達に貰った物がまだ余ってるもんね」
「お、んじゃアタシがクッキーとか作っとこうか? 昼もまだだしな」
「お昼にお菓子って……材料があるから何か簡単な物なら作れるんじゃないかしら? 私が作るわ」
「それじゃあ私が準備するよー! 先輩としてね!」
「私も手伝いますわ! メリア先輩! 後輩として!」
「お、ありがとー!」
お腹も空いてきた頃合いなので私達は部室でお昼ご飯を摂る事にした。
お茶会は定期的に開いており、材料とかも結構ある。期限の方も大丈夫なので早速取り掛かる。
「~♪ ~♪」
「よっと~」
貰った茶葉を入れ、お湯を注ぐ。そこに氷をいくつか。
まだ暑い時期だから作るのはアイスティーだね。ボルカちゃんの方もクッキー作りは順調みたい。
バターと砂糖、卵などの食材を混ぜて生地を作成。そこから手順を踏んで作っていく。
ウラノちゃん達が作っているのはサンドイッチとかかな。簡易的なものであり、今日のランチはサンドイッチやクッキーとかになりそうだね。この時点でもう美味しそう。
他にもちょっとした物を作っていく。来月の新人戦の為にも食事のバランスはちゃんとしなきゃならないもんね。
数十分で殆どが出来上がり、私達は昼食を摂る。
「この時間までディーネちゃん達は来ないし、やっぱり寮部屋か街中か、学院内で対応してたりするのかな?」
「っぽいな~。ま、四人で行動してるだろうし、場の雰囲気に流されやすいサラやベル。物事を断りにくいディーネはともかく、しっかり者のリゼが居るから大丈夫だと思うけどな~」
「悪徳記者に捕まったりしても流石に気付くでしょうしね」
「ですわね~。“魔専アステリア女学院”に通う以上、ある種の分野で有名になる前からスクープ記事は狙われますし」
「本当にね~。そりゃ大半がお嬢様だからそうなんだけど、ちょっと気持ち悪いよね~。今時そんな事をする人は絶滅危惧種みたいなモノだけどさ~」
そう。仮にダイバースや他のスポーツをやっていなかったとしても、有数のお嬢様学校である“魔専アステリア女学院”を狙う人は少なからず居る。
本当に少ないとは言え、可能性は0じゃない。一般的な学校よりは高いからね。その手の事については再三注意を受けてるので学院生全員が心掛けているよ。
何はともあれ、常に警戒はしたりしてるからディーネちゃん達は大丈夫だと思う。
そんな話ばかりじゃ辛気臭くなっちゃうので切り替え、談笑を交えつつ昼食を摂り終えた。
「た、大変ですの! 先輩方! ディーネさん達が……!」
「「「…………!?」」」
その瞬間、飛び込むように入ってきたベルちゃんに私達は振り向く。
珍しく声を荒げており、ただ事ではない様子。
一体何があったの~!?




