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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部二年生
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第二百六十五幕 大会の後

 ──“病室”。


「ふわぁ……暇だなぁ……」


 長期休暇も終盤に差し掛かった暑い日。私は傷の治療をしながら窓から空を見上げた。

 青い空に白い雲。平穏な日常の景色。だけど退屈ではある。

 奇跡的にリハビリとかは必要にならない程度で収まり、既に自由に動けはするけど包帯とかは取れず、大きくは動かないように注意されている。


「来月……大丈夫かなぁ……」


 ちょっと無茶し過ぎちゃったよね~。来月にはもう新人戦が始まるし、それまでには治るのが分かっているけど練習不足でエメちゃんやユピテルさんに負けちゃうかもしれない。何ならボルカちゃん達の誰かと当たる可能性もあるんだもんね~。

 少しでも練習をしたいところだけど大きくは動けない。なのでお見舞いに来てくれるみんなやママにティナとお話したり、感覚共有でティナを飛ばして空から街を見渡すくらいしかやる事がない。魔力を使ってるから少しは練習になるかもだけど。


「オーッス! ティーナ~! 起きてるか~!」

「あ、ボルカちゃん! 今日も来てくれたんだね! ありがとー!」

「へへ、親友だからな。当然だろ?」


 他のみんなも定期的にお見舞いに来てくれるけど、ボルカちゃんはほとんど毎日来てくれてる。

 練習は変わらずあるだろうし暇じゃない筈なのに合間を取って来てくれるなんて優しいね。


「ほら、病院食は薄味って聞くし今日も弁当作ってきたぞ~。ちゃんと栄養管理もバッチリ。暑くても長持ちして傷にも良い食べ物を中心に整えた」


「アハハ……相変わらず手際が良いね~」


 こんな感じでお弁当とかも持ってきてくれる。栄養バランスがしっかりしており、スゴく美味しい完璧な物。他にもお話したり軽い魔力操作でトレーニングしたりと、ボルカちゃんが来てくれると退屈な時間も楽しくなる。

 それから他のみんなもお見舞いに来たりしていた。


「お見舞いに来ましたわよ~! あら、ボルカさんお早いですわね」

「病院よ。静かに」

「ルーチェちゃんにウラノちゃん!」

「ティーナさん。貴女も静かに」

「よっ。ルーチェにビブリー!」

「ボルカさん。貴女もよ」


 ルーチェちゃんとウラノちゃん。


「見舞いに来たぞ」

「来ましたよぉ~」

「来たよー!」

「レヴィア先輩にリタル先輩とメリア先輩!」


 高等部も含めた先輩達。


「遅くなりました……!」

「ちょっち遅れちゃった!」

「遅れましたわ!」

「すみません。遅くなってしまって」

「いいよいいよ~。それにみんなも忙しいんだし、わざわざ私のお見舞いに来なくてもいいんだよ?」

「そんな訳にはいきませんよ!」

「そうですわティーナ先輩!」

「そうそう! 先輩の活躍あっての優勝だったんですし!」

「行かないのは後輩の名折れ」

「そ、そう。ありがとねー」


 後輩達


「調子はどうだ? ティーナ殿」

「魔物の国から遥々来てやったぞ」

「大丈夫ですか……!?」

「我の加護があるからな。必ず治るだろう」

「レモンさんにシュティルさん! エメちゃんにユピテルさんも! 猛暑の中こんな遠くまで……」

「私にとっては鍛練にもならぬ暑さと距離だ」

「距離はあるが、苦ではないさ。日光はまあまあ厳しいがな」

「私は比較的近距離なので」

「我なればこの程度の距離も一瞬だ」


 レモンさんにシュティルさん、エメちゃんにユピテルさんの四人。

 そして──


「あら、こんな遅くなのにみんなで集まっているのね」

「ティーナの信頼が成せるものだな。それと優勝、見事だったぞ」


「ル、ルミエル先輩にイェラ先輩!」

「先輩達も来たんですかー!」


「ルミエル・セイブ・アステリアにイェラ・ミールだと……!?」

「わわわ……また会っちゃいました……!」

「相変わらずやはり凄まじき神々しさ。我にも負けず劣らず……」

「ユピテル殿のその自信も凄まじいがの」


「ほ、ほほほ……本物の二人です……!」

「ちょっ! 待っ! っと、写真! サイン……良いですか!?」

「大スターに会ってしまいましたわ!!」

「これが彼の有名な二人……感激です」


 なんとルミエル先輩とイェラ先輩まで来てくれた!

 もう閉院間近の頃合い。ここはそれなりの広さを誇る個室だから他のみんなもこんな時間まで居てくれてたけど、まさかこの二人も来てくれるなんて思わなかったよ。


「賑やかね。ある程度防音加工はされているけど、あまり騒ぎ過ぎないようにね♪」

「「「はい!」」」

「フフ……私は話さない方が良いのかしら?」


 注意をしたところで元気に返答するみんなを見てやや困り顔のルミエル先輩。

 因みにサインはサラサラっと流れで書いていた。流石、手際が良いですね。


「先輩達も来てくれるなんて。道中大変じゃありませんでしたか?」

「ええ、大丈夫よ。時間も時間だし、簡単なファンサービスで満足してくれる良い子達ばかりだからね♪」

「流石です。やっぱり先輩程のファンとなると民度も最高峰ですね……」


 ここに来るまでの道中、ファンの人達には当然追われたりしたみたいだけど、きっと華麗に対応したんだろうねぇ。

 私もこんな事が出来る人になりたいなぁ。


「けれど良かったわ。ティーナさんの傷も治りつつあって。もうほとんど動けるのよね?」

「はい。お医者さん達がスゴく頑張ってくれました! お陰様で数日中には退院出来るかもしれないと言われてます」

「それは良かったわ。優秀なお医者様方に感謝ね♪」

「はい!」


 傷の治療は上々。休み明けには学校にも行けるようになるので、今はちょっとした休憩みたいなものかな。

 そんな感じで閉院までみんなとお話して過ごし、終了と同時に帰宅。と言っても大半が寮生活なんだけどね~。

 また私はママとティナとの時間になるけど、傷の治りもあってかスゴく眠い。なので食後に体を拭いたりしてすぐに眠りに就く。

 今日もみんなが来てくれて楽しかった~。明日も良い日になるといいな。

 そう思いながら私は微睡みに沈んだ。


──

───


 ──“深夜”。


『…………』

「………?」


 眠っていたら、何かの気配を感じた。

 看護師さんの誰かが来たのかな。まだ目は開けておらず、そんな事を考える。

 目を開けないのは気配に気付いただけで起きる程の事じゃないから。「起こしちゃってごめんなさいね」とかみたいに、必要無い気遣いをさせちゃうのは悪いもんね。

 そこに居るのは分かるけど物凄く静かだし、ダイバースで成長したからこそ存在を掴めるようになって余計な気配を拾っちゃった私の落ち目。気配の読み方も調整しないとね。

 でも今はそれが出来ないので、落ち着くまでその気配でも追いながら静かに目を閉じる。


「……」

『……』

「……?」


 何してるんだろう。いや、何もしてない。なんかじっと止まって動いてないの。

 起こさないように気を付けているのか、悪意の気配は感じないけど何かをしようともしていない。

 流石に気になるけど、起きて確認するのも前述した気遣いをさせちゃう問題になるので棚の上に座らせているティナと感覚共有してその様子を窺ってみる。


(何してるのかな? ……あれ? 看護師さんじゃない?)


 丁度ティナ越しに映る黒い影。夜中なので暗くてよく見えず、そこにたたずんでいるのだけ分かった。

 何かをしている訳ですら無いなら不審者とか? だとしたらお医者さんや他の患者さん達が危ない……!

 すぐに起きて拘束しないと……!


「……!?」


 そう思った矢先、私の体が硬直したかのように、縛られたかのように動かなかった。

 意識はハッキリしているのに動かない……目も開けられない……! これって……!


(傷の後遺症でこんな風に……!?)


 きっとそうだ。そうとしか考えられない。この人が現れると同時になんて……よりによってこのタイミングで……!

 でもティナとの感覚共有はそのまま。つまり魔法は変わらず使えるという事。

 だったらこの場でティナ伝いに近くのママと干渉。魔力を込める形として、この不審者を止める!


(“束縛樹木”!)


 あまりに大きな範囲だと他の患者さん達に迷惑が掛かっちゃう。だから音も出さず、迅速に拘束へ当たる。

 影の周りには植物が集い、一瞬にしてその身を包み込んだ。

 でもなんだろう。手応えが無いような……。


『……』

「……!」


 なんと、怪しい影はスルッと植物を抜け出した。

 何かしらの魔法を使ったのかな? すり抜ける魔法……でも大丈夫。だって……ママの植物魔法だもんね。


『ええ、そうね。ティーナ』

『……!?』


 瞬間的に影を覆い尽くし、見る見るうちに飲み込んでいく。

 今度は手応えあり。すり抜ける様子も無い。なーんだ。ママとの連携が上手く行けばこんな感じなんだね!

 そのまま影を締め付け、影は苦しむように手を伸ばし、消滅した。

 何だったんだろう。植物魔法でも人形が作れるからそんな感じのモノかな?

 そんな疑問はそのまま、開かなかった目は開き、体にも自由が戻っていた。と言うより、なんか昼間より痛くない!


「……変なの。ふわぁ……」


 そう思ったのも束の間、急に眠気が襲い、私は就寝。

 ふふ、まるで夢でも見てたみたい。あまりにフワフワした感覚で現実味が無かったもんね。

 そんな感じで眠りに就くのだった。


───

──


 ──翌日。私を見てお医者さんは驚きの表情を浮かべていた。


「す、スゴい。何事も無かったかのように完治している……!」

「こんな治癒力、単なる治癒魔法とも違いますよ……!」


「そうですか!?」


 それは私の回復力について。

 どうやらあり得ない程の回復らしく、既に完治もしたみたい。

 私ってそんなに治りやすい体質だったのかな? と、そう思っていたら更に何人かの看護師さん達が慌てた様子でやって来た。


「院長! 他の患者さん達もたちまち治っております!」

「危篤状態から驚異的な回復を果たした患者さんも!」

「お子様の患者さんからは黒い怖いモヤモヤが現れなくなったと報告が!」

「お迎えが来たと思ったら消え去ったと報告が!」


「な、なんだと!? それは良い報告だが、なぜ急に……度々黒い影の噂は出ていて傷が悪化する前や亡くなる直前に影に襲われたとは聞いたりしたが……まさか本当に……?」


「黒い影?」


 何だろう。なーんかどこかで見たような気もするけど、覚えてないや。本当に最近……何なら数時間前とかの気もするんだけどねぇ。

 取り敢えず、なんか色々と噂があったみたいって事だね。


「えーと、とにかく私はもう完治したなら退院しても良いのでしょうか?」

「そうだね。念の為に今日一日だけ様子を見て晴れて退院だ」

「やった!」


 これで私退院する事が出来るようになった。

 今日もお見舞いに来てくれたボルカちゃん達にもそれを報告し、話がまた盛り上がる。「そうなのか! やったな!」とか、「よーし、じゃあ早速手配開始だ!」とか言ってくれたよ! ……手配って何の手配だろう?

 その次の日、荷物を纏め、私は病院を出る事になる。

 そして──



 ──“会場”。


「では、ティーナの退院祝いと人間の国の優勝祝いと先輩達の引退という事で、祝勝会&送別会のパーティーを開きたいと思いまーす!」


「「「イエーイ!」」」

「も、物事が進み過ぎてる……」


 色々を引っくるめたパーティーが開かれる事になった。

 手配ってこれの事だったんだ……。


「祝勝会は私が入院中に終わらせてものばかりと思ってたよ」

「ばーか。主役が居ないんじゃ始まらないだろ? ティーナは今回のMVPみたいなものなんだしさ!」

「そうですわ! 貴女が居たから勝てたのですもの! 私も負けてられませんけど!」

「満場一致で貴女が主役よ。ティーナさん」

「みんな……ありがとー……!」


 私ってそんなに大活躍したかな? ボルカちゃんの方が活躍してると思うけど、その上でみんなは私がMVPと言ってくれた。温かいなぁ……。

 更にはディーネちゃん達後輩からメリア先輩に高等部の先輩方と全員が揃っている。

 そして“魔専アステリア女学院”のみんなのみならず、


「招待頂いたのは有り難いが、祝勝会と言うのは私達への当て付けにしか思えぬがな」

「そうね。私達敗者側なのよ?」


「まあ良いではないか。折角の宴の席だ」

「そうそう! 楽しまなきゃ損損! 同じく負けた私達も来てるんだよ!」

「私も都市大会で敗退でしたもんね」

「我も代表決定戦で敗れた身。来年……いや、今年の新人戦では勝利を掴んで見せる!」


 シュティルさんにキドナさん。レモンさんにリテさん。エメちゃんにユピテルさんも来てくれていた。

 そのチームメイトであるダクさんや別チームのリルさん等、他のみんなは離れた場所で過ごしている。

 と言うか本当によく呼べたね。同じ国内のレモンさんやユピテルさんにエメちゃんはともかく、他国の豪華メンバーが揃ってるなんて。


「こんなに集めるなんてみんなの人脈スゴいね……」

「大半はボルカさんとサラさんよ。試合直後にもどんどん話し掛けていって連絡先集めてくるんだもの」

「それはそれでスゴいや……」


 ボルカちゃんとサラちゃんの人脈からなる現在の状態。

 お店の方はいつも通りルーチェちゃんだけど、みんな違ってみんなスゴいや。もうスゴいとしか言えないもん。


「取り敢えず、みんな揃ってるし早速始めようぜー!」

「「「おー!」」」


 そしてパーティーが始まった。

 ボルカちゃんの合図と共に人間、魔族、幻獣、魔物のみんなが同じ場所でご飯を食べる。

 そこには種族の壁などなく、ダイバースでの繋がりから形成された仲間達が居た。


「いやしかし、ティーナ殿が早くに治って良かった。これで来月の新人戦では全力で楽しめそうだな」

「アハハ……お手柔らかに……」

「新人戦でも代表に行けると良いな。お互いに」

「シュティルさんなら心配無いと思うよ~」


 レモンさん、シュティルさんと共に私は来月行われる新人戦について話し合う。

 と言っても深刻な感じでもなく、戦えると良いね~。くらいの感覚。

 別の席でも他の人達が話していた。


「キドナちゃんも今年で引退なんだよね~」

『そうなるわね。けれどメリアさんのようにダイバースから完全に手を引く訳でも無いわ。貴女はほうきレースの選手になるのよね。有名になったらサイン頂戴ね』

「有名になる前からあげようか~? そうなるのは確定だからね!」

『フフ、それもそうね。じゃあ貰っておこうかしら』


『私も今年まで。ダク殿もそうなのだろう?』

「ああ。ま、何もしねェってのも退屈だし来年以降もやるかもな。やりてェ職が見つからなかったらそのままプロの道に行くのも悪くねェ。就活も面倒だしな」

『主にはそれを言えるだけの実力があるからな。私はどうするか。その手の分野に就くのも良し、野生に帰るも良し。世界を見て回るのも良い』

「野生に帰るって選択肢がある幻獣や魔物ってのは改めて不思議なものだな。知能面も人間や魔族と変わらねェと言うのに。むしろ幻獣は種族によっては総合的な知能で世界一だろ」

『フッ、野生も現在も変わらぬさ。結局生き物の役割は食して眠り繁殖するだけなのだからな』

「俺達魔族の場合は食って寝て戦うって感じだけどな」


「ほらほらー! ダクさんにリルさん! そんなところで一人と一匹哲学してないで一緒に楽しもうよー!」

『貴女のそのコミュニケーション能力の高さ足るや……。と言うかあの二人は“さん”なのね』

「キドナちゃんとは親しくなれる気がするからさ~!」

『……ふぅん? ま、まあ……悪くはない気分ね』


 メリア先輩とキドナさんやダクさんにリルさん。他のみんなも各々(おのおの)で楽しんでいるみたいだね!

 私も楽しいし、良い時間だなぁ。

 そんな感じで雑談に談笑、食事にちょっとしたイタズラ等々。

 長期休暇期間中なのもあり、ダイバース代表戦終了後の打ち上げパーティーは夜更けまで続くのだった。

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