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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部二年生
264/459

第二百六十三幕 イカれた戦法

 ──“第七惑星”。


「連打連打連打!」

「闇雲に思えるが……そうではないな」


 大量の植物を操り、シュティルさんへと叩き付ける。

 全てはかわされちゃうけど、掠ったりしている物もある。より精度を上げて、鋭く、速く……!


「はあ!」

「……っと……」


 一撃が当たって半身が消し飛び、即座に再生させたシュティルさんが加速して距離を詰め寄った。

 少しでもダメージになると判断したら直ぐ様反撃へと移る。当たり前の行動だけど、凄まじい再生力を有するシュティルさんに限って言えばそれが効果的である証明になる。

 このままの調子で仕掛けて行くしかないよね!


「“火樹園”!」

「……! 炎魔法の付与……。少々危険だな」


 ボルカちゃんにも魔力を込め、生やした植物に引火させてけしかける。シュティルさんが危険と判断したこのやり方も効果的みたい。

 効果的=勝てるって方程式はそう簡単に成り立たないんだけどね。


「ハッ!」

「……っ!」


 そう思った矢先、火の樹林を風で吹き飛ばしながら迫り、私の体が吹き飛ばされた。

 こう言う事だよね。これくらいの弾幕なら幾度と無く潜り抜けて来た筈。手数や質量、再生力に強い炎。正攻法じゃかわされるのが身を以て立証されちゃってる。

 だから常に反撃の事を考慮して植物で全身を覆い、衝撃に備える事も必要。備えたところで痛いものは痛いんだけどね。


「植物相手なら風より此方か」

「……!?」


 次の瞬間、追い付いたシュティルさんがすれ違い様に雷を放出。植物を伝って電流がほとばり、私の体を感電させた。

 雷はキツイ……! 風の衝撃波も大概だけど、植物から直に伝わるから風よりも厳しい。

 でも、こんなくらいで音を上げていたら始まらない。折角せっかく体を植物で包んでいるんだもんね。利用しない手は無い……!

 そう、私は──


「“操り人形(マリオネット)”……!」

「……! 植物操作で自身の体を……イカれているのか君は……!?」

「動きにくいなら、こうするしかないもん!」


 絡み付く蔦から自分の体へ。

 痺れていても四肢は動く。動くたびに傷口が広がって痛むけど、植物には薬草のアフターケア付き。治しながら動かせる画期的なアイデア。

 これならまだまだ戦える!


「“樹木行進”!」

「この距離では……!」


 場を埋め尽くす程の植物を使い、シュティルさんの体を飲み込む。

 彼女は天候や念力で防いでいるけど、無尽蔵に湧いて出る植物の勢いは止まらない。

 山川草木のみならず、多種多様の植物類。被子植物にシダ植物。取り敢えず考えうる限りの植物達による大行進。

 シュティルさんを自然の力で蹂躙し、ボルカちゃんへと魔力を込めた。


「そこは燃えやすい植物と植物性油の領域だよ! “ファイア”!」

「……ッ!」


 大きく燃え上がり、大炎上。

 お馴染みススキのような燃えやすい種類から紅花や菜の花と言った油を作れる物まで。意外と燃えにくい体でも、これなら効果的。


「くっ……体に付着した物が……」

「流石だね……火だるまになっても意識を保ち続けるなんて……」


 炎に包まれたシュティルさんはまだ意識を保っており、火を消す為に天候を操る。

 この火力じゃ私も近付けないから見届けるしかないのかな。ううん。今こそがチャンス!


「“樹木多連打”!」

「追撃か……!」


 消火の妨害。無数の植物は燃え盛るけどそれでも集中力は切らさず、シュティルさんへと放ち続ける。

 ドドドドド! と降り注ぐ植物によって氷の大地は割れ、クレーターやクレバスが形成。暗い空は更に曇り掛かり、ポツポツと何かが降ってきた。

 このタイミングで雨……! 炎が消えちゃう……と思ったけど、シュティルさんの反応は想像と違った。


「マズイ……雨の降る地帯に来てしまったか……!」

「あれ?」


 そこから抜け出すよう燃え続ける翼を広げ、一気に離れた。

 私も樹に乗って後を追い、その地帯に入って気付く。


「この雨……ダイヤモンド……! そっか。炭素だから逆に燃えちゃうんだ」


 降り注いでいるのは圧縮され、目映く輝くダイヤモンド。それが暴風の中で吹き荒れるのは散弾みたいな物だけど、私達用に調整されたステージだからちょっと痛いくらいで済んでる。

 シュティルさんが逃れた理由も納得し、私は更に植物を伸ばした。


「そうと分かれば……逃がさない!」

「……! そうか。ならば私も行動を変えよう!」

「……!」


 方向転換し、彼女は私の方へ向かってきた。

 そしてハッとする。このダイヤモンドの雨に燃え盛るシュティルさん。彼女が私に近付いたら体に巻き付けている植物に引火して大ダメージを追っちゃう……!

 それは非常にマズイ事態。普通なら逃げるのが得策だけど……ここしかないよね!


「受けて立つよ! シュティルさん!」

「ほう? 玉砕覚悟か。面白い!」


 正面から相手取る。

 今までは避けられたり防がれたりする頻度が高かったけど、流石にこの炎はマズイと判断した彼女は直接攻撃に移行した。

 つまり、避けられる可能性が少し下がった状態で彼女と戦えるという事。

 これこそ不■身のシュティルさんを相手するに当たって最大のチャンス。言うなれば、最後のせめぎ合い!


「「はあ!」」


 念力を纏った拳や蹴りが私に当たり、衝撃波が突き抜けて意識を遠退かせる。

 だけど消えていない。痛みなんて気にせず、操り続ける私の体で植物を放ち、シュティルさんに乱打を叩き込んだ。


「能力バトルだったが、最後は根性の殴り合いか。魔族のような在り方だ……!」

「シュティルさんにはその血筋があるもんね……!」

「人間も近い存在だろう。人間と魔族の姿形が似ているのはちゃんと理由があるんだ」

「そうなんだ……!」

「……っ。ああ……今は話すタイミングじゃないから、今度起源などを調べてみると良い」

「カハッ……。……そう……してみるよ……!」


 会話をしながら私の体に何度も衝撃波や電流が突き抜け、意識が朦朧とする。

 でも薬草の直接注入で脳を覚醒させ、表面上の傷も癒しながら炎の中のシュティルさんへ植物を打ち込み続ける。

 あ、私の意識を覚醒させてる植物はちゃんと合法のやつだから大丈夫! 行き付けの雑貨店の店主さんに教えて貰ったの!


「……っ。ハァ!」

「……ッ! やあ!」


 あらゆる力が打ち込まれ、骨が砕けて血が出る。向こうも常に燃え続け、意識が揺らぎ始めていた。

 砕けたり折れたりした骨は植物で繋ぎ合わせて無理矢理固定。薬の注入で再度意識を覚醒させ、一点集中の植物を連打する。


「ヴァンパイア以上にアンデッドだが、これで終わらせる……!」

「私も……!」


 天候の力を一点に込め、私へてのひらを打ち付ける。それによって吐血し、複数本の骨が折れたのを確認した。

 でも、まだまだ……まだ意識は飛ばない。飛ばさせない……! 意識が残り続ける限り、無数の植物でシュティルさんを狙い続ける。


「──“一点集中・神力樹木多連打”……!」

「……ッ!」


 魔力を注ぎ込み、シュティルさんの体が見えなくなる程に植物を打ち込みまくる。

 意識が消えた判定を受けるのは精々数秒。脳を中心に、無数の植物をただひたすら一点にのみ集中して打ち付ける。


「……ッ! カハッ……ゲホッ……!」


 無茶が祟って今一度吐血し、私は膝を着いて植物魔法は消え去る。

 数十秒植物を打ち込み続けたけど……果たして結果はどうなったのか。

 ボヤけた私の視界にはシュティルさんの体が……上を見れば、そこは光の粒子に包まれていた。


「これで……終わり……!」


 だったらと、再び顕現させ、左右から植物を挟み込む。それによって意識が飛んだのか、シュティルさんの体は完全に光の粒子となって消え去り、控え室へと転移した。

 これで私の勝ち……でもまだまだ。ここで私が意識を失ったら向こうにもポイントが入っちゃうもんね。

 そうならないようにまた意識を覚醒させる薬草を体内に打ち込み、激痛の体に植物由来の傷薬を塗りたくる。骨折は植物で固定し、正常な形で止めた。


「……ッ……ハァ……ハァ……」


 血と汗と涙と火傷でぐちゃぐちゃ。この服、洗っても取れないかも。治癒魔法を受けてもしばらく痛むんだろうな……。

 もはや喋る気力も無く、そんな事を考えていると周りに気配を感じた。


「……!」

「……ヒデェ様だな……ティーナ・ロスト・ルミナス……」

「ダク……さん……?」


 立っていたのはダクさん。その体はボロボロであり、辛うじて意識を保っている状態。

 まだ残っていたんだね。次の相手はダクさんか。

 そう思いながら無理矢理体を動かし、


「──」

「……!」


 ダクさんの体は光となって転移した。

 それが意味する事は一つ。最後の対戦相手はこの方になるのかな。


『ゼェ……ハァ……凄まじい戦いだったが……私の勝利だ……。そして……余波は感じていた。次なる相手は君のようだな。ティーナ・ロスト・ルミナス……!』


「リルさん……」


 幻獣の国“フェンリヤンフロマージュ”のリルさん。

 この星で戦っていたもう一組はダクさんとリルさん。その決着が付き、最終戦へともつれ込む事になるんだね。


『ハァ!』

「……!」


 体を震わせ、力の巡りを変える。

 リルさんなりの回復術かな。さっきより呼吸が落ち着き、足取りもしっかりするようになった。

 でも大丈夫。私もちゃんと応急措置はしたから。体内にも蔦を張ってるから四肢がもがれても繋ぎ合わさる事が出来るよ……!


『カッ──!』

「ハァ──!」


 双方共に小手調べで渾身の一撃を放ち、この惑星は崩壊する。

 星の爆発によって私達は吹き飛ばされ、第八惑星、及び第九惑星の残骸を抜け、遥かに巨大な黒い惑星へと落下するように降り立った。


「ここは……」


『我らの住む太陽系にあると噂される第十惑星のようだな。観測はされていなかった筈だが、催しのステージとしては最適。造られていたのだろう』


 存在するか定かではない幻の第十惑星。見れば人工的な建物もある。あくまで幻だからそう言った物も用意してるんだね。

 けど、周りの景色をじっくり見渡す余裕はない。今の一撃でも体力がゴッソリ持っていかれちゃった。このままじゃ、次の一撃でやられちゃう。もっと体内に薬を注入しなきゃ……。


『終わりだ……!』

「……っ」


 大地を踏み込み、高速で私の眼前に迫る。間に合わない。突進でも犬パンチでもやられちゃう。

 咄嗟に植物魔法で全身を覆うけど、流石に疲労で数が足りない。私達、“魔専アステリア女学院”の命運はここで……!


「させるかァ━━ッ!」

『……!』

「……!?」


 刹那、炎の軌跡と共に爆速で誰かが通り、リルさんの頬に蹴りを打ち込んだ。

 リルさんは吹き飛んでこの星にある岩石や建物を粉砕し、遠方で粉塵を巻き上げる。

 その流星の正体。


「ボルカちゃん……!」

「おう、大丈……って! なんだその傷!? リルにやられたのか!?」

「ううん。この前にシュティルさんと戦っ……て……」

「うわあ! “フレイムヒール”! 取り敢えず応急措置だ!」


 ボルカちゃんが来てくれた。

 炎による応急措置で更なる治療が施される。少しはマシになったので話せる範疇で状況の説明をし、彼女は理解した。


「そうか。なら、マジで残りはあのリルだけみたいだな。太陽に一番近い惑星から一番遠い惑星まで一直線で来たけど、他の選手の気配は無かった。これが最終戦だ」


「うん。まず間違いないね。頑張ろう……!」


『フム……“魔専アステリア女学院”にはまだ二人残っていたか……それは好都合。2ポイントを取る事が出来れば我ら幻獣の国が数十年振りの優勝を飾れるというもの』


 幻獣の国は、実力者揃いなんだけど性格などが合わず、この数年のダイバース公式戦では成果が収められていない。

 リルさんの懸ける思いは強く、凄まじい。

 だけど私達も思いの強さで負ける気はしないよ。メリア先輩への餞別。“魔専アステリア女学院”ルミエル先輩世代以降の初優勝。その為にも負けられない。

 私達とリルさんによる本当の最終決戦。それは幻の第十惑星にて始まった。

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