第二百六十二幕 いざ終盤へ
──“第一惑星”。
「“ファイアボール”!」
魔力を込め、リテ目掛けて火球を放つ。
それは一つだけじゃなく複数個。あらゆる方向から迫り、それら全ては空中で停止した。
「これくらいなら簡単に止められるよ~」
「ああ、知ってるさ!」
止められるのは想定内。アタシ自身が加速し、リテの眼前へと迫る。
相手は片手を翳し、アタシの体を停止させた。
「正面から来ても意味ないよ。“サキコキネシス”は遠隔操作が主体なんだもん」
「それも分かってる。“火代わり”」
「……! 火……!」
向かわせたのは炎で作ったアタシのレプリカ。時間経過と共に元の火に戻る。
至近距離で戻ればそのまま発火し、ダメージにもなるだろ。
向こうは前の戦いからアタシ相手には極力“テレパシー”も使わないようにしているからな。こう言った不意を突くやり方が効果的なんだ。
「……っ。不覚を取った……! でも、だったら!」
「一気に嗾けて来るか……!」
辺り一帯に念動力を放ち、既に半分欠けている惑星が更に圧縮される。
でも動けない程じゃない。炎の量を調整してこの圧力以上の出力を出せば無問題だ。脱出速度ってやつ。
「“ジェットパンチ”!」
「シンプルだね……!」
「シンプルイズベストってな!」
呪文は複雑な程威力は高まるけど、シンプルな程想像も付きやすくなる。どっちを使うかは好みと場の雰囲気次第だな。
アタシに殴り飛ばされたリテは地表へ落ち、粉塵と共にクレーターを形成。そこへ追撃するよう、魔力を込めて火炎を放射した。
アタシの方は万全なのもあって何とかなりそうだ。ビブリーの方はと。
「ハッハァ! その程度か! ウラノ・ビブロスーッ!」
「ええ。残念ながらそんな感じよ」
今回は最初から全力モード。ゾルの炎と雷が迫り、ビブリーは風雷神の風と雷で相殺。本の鳥を放ち、自身は弾丸で中距離から仕掛けていた。
一見すればビブリーが押されてるようにも見えるけど、案外のらりくらりと受け流してんな。ビブリーってそう言うところあるもんな~。
なのでまだどちらが有利か不利かも分からない状況って感じだ。
「朽ち果てろォ!」
「そう言う魔術かしら?」
更に力の込められた火炎放射と雷撃。風と雷の膜で軌道を逸らし、背面から本の鳥達が体当たりを行う。
「無駄ァ!」
「じゃないわ」
本を炎で焼き払い、ビブリーに向く魔術が一時的に雷だけとなる。そこへ弾丸を撃ち込み、風で加速させてゾルに直撃した。
「……ッ! 痛ェな! 魔力で強化してなきゃ即死もあり得るぞ!」
「即死しないから安心なさい。もしそれを狙うなら眉間とか脳の近くがオススメよ」
「自分の魔力で作る以外の武器なんか使うかよ!」
魔術に絶対の自信を持ってるゾルは武器の使用を否定。一理あるかもしんないけど、アイツのチームメイトにも剣士居たよな?
まあ半分以上その場のノリで話してるんだろうけど。アタシと同じだ。
「メラメラメラメラと……! 私は食肉じゃなーい!」
「お、抜け出した。常に炎を浴びてた割には無事みたいだな」
「“エアロキネシス”で空気の膜を貼って逸らしていたからね! まだまだァ!」
「ああ。受けて立つ。仲間の安否も心配だからな」
“テレポート”でその場から消え去るように移動し、アタシの死角から“フェノメナキネシス”の何れかからなる刃を射出。
炎のガードじゃ空気ごと切断されて終わりなんで自身の魔力強化に集中。刃を受けつつダメージを軽減した。
「それ!」
「次は惑星の欠片か」
既に戦闘で割れた惑星。その欠片が“サキコキネシス”によって操られ、アタシ目掛けて隕石が落ち来る。
岩を焼き尽くすには火力不足。それが凄まじい勢いかつ念動力も纏ってるしな。ちょいムズって感じだ。
なので炎で加速して避けながら突き進み、リテの正面へと移動。自分ごとは巻き込めねえだろ。
「小癪……!」
「近付くや否や“テレポート”で離脱するアンタが言うなよ」
「早い反応速度……そっか。気配を読んでるから到達点も導き出せるんだ……!」
「そんなところだ」
瞬間移動されても、気配を読めばどの位置に来るかが大凡分かる。そこに先回りしておけば出現と同時に仕掛ける事も可能。
既に一度戦ってるからな。万能とも言える超能力に対するノウハウはある。魔法や魔術にも言える事だけど、相手が何かするよりも前に仕掛けるのが攻略法だ。
現れたリテに向け、狙いを定めた。
「“フレイムブレード”!」
「……ッ!」
炎の刃を伸ばし、リテの体を斬り付ける。傷口から発火し、更なるダメージになった。
その怯みはそのまま隙となり、ブレードを炎剣として斬り飛ばした。
そこから更なる魔力を込め、至近距離で火炎を放つ。
「終わりだ。“フレイムバーン”!」
「……くっ……こんなにあっさり……!」
上級の炎魔術で吹き飛ばし、惑星の地表に撃墜。燃え上がり、炎が惑星を貫通して大爆発が巻き起こる。その中に光の粒子が確認出来た。
これでアタシの勝──
「……!」
って、勝ち誇ってる場合じゃないな。ビブリーがピンチだ。
その場から離れて移動し、炎で加速してビブリーの元へと向かう。
*****
「……クク、単純な力押しってのも強ェだろ?」
「……そうね。あらゆる力を使えるのが私の強みだけど、正面から突破されては成す術無いわ」
風雷神は消え去っており、切り札とも言える龍を横に痛む体に鞭を入れる。
炎と雷。単純なこの力による強い攻撃。それだけで絶賛ピンチに陥っていた。
まあ、炎と本は絶対に相性が悪いものね。とは言え、リテさんでも結果は同じようなもの。遊ぶ癖があるゾルさんだからこそ此処まで戦えたとも言えるわ。
向こうにもそれなりのダメージは与えられたから上々かしら。
「終わらせんぞ! “炎と雷”!」
「初撃とは少しニュアンスが違うわね」
『ガギャア!』
炎と雷が放たれ、龍の炎で正面から受ける。
今のところ大技は使ってきていない。私の実力を思えば当然の判断。だから対等に戦えている。
炎と雷は打ち消し合って爆発を起こし、星の地表が抉れる。向こうでも頻繁に爆発が起こっていたけど、落ち着いた様子からして決着が付いたのかしら。
それなら手助けが来るかもしれないわね。その時まで粘る事が出来れば私とボルカさんの二人で他の場所に手助けに行ける。多分ティーナさんはまだやられていないと思うもの。
……だけど、
「さあ、高めて行こうぜ! チマチマと撃ち合うだけじゃ張り合いがねェ! 本気で行くぜ!」
「そう」
私が持たなそうかしら。ゾルさんの体が発電し、バチバチと電流を纏っている。
映像でも見た行動。自身を雷と一体化させて大幅の強化を図る手法。雷の使い手はそのやり方を用いる人が多いものね。
理屈で言えば体内に流れる魔力を魔導の要領で電子に変換。それらを用いて自身の能力向上。体内を巡らせ、肉体を魔力でコーティングして雷と同等にする。自分の体なので速度もある程度融通が利く雷の肉体が完成って訳。
雷魔法を使えるとは言え本来の雷速レベルだと調整が利かない人も多いから亜雷速に留める人が大半だけど、それでも私は到底目で追えないわね。
「吹き飛ばす……!」
「そうね。雷が質量を持って移動すると衝撃波のみで辺りへの被害が大きくなるもの」
「んな理屈的な事じゃねェが、取り敢えず威力が高まるって事は確かだぜ!」
踏み込み、電流が走る。
刹那に私の髪の毛が逆立ち、気付いた時に龍は破壊されていた。
これは想像以上。本気の彼はこんなにスゴいのね。多分次の瞬間に私は敗れる。だったらボルカさんへの手助けになる事をして起きましょうか。
「次ィ……!」
「そうね」
「さっきから返事がテキトー……ってか……!」
振り向いた瞬間、ゾルさんには銃口を向けていた。
彼は飛び退くように躱し、そこには魔力がそんなに必要無い鉄製の物が。
「んなっ!?」
「貴方は別に、銃口を躱す必要は無いわよね。今は雷ですもの。銃弾よりも遥かに速い。だったら何故避けたか。答えは簡単。金属に引き寄せられたのよ」
「ハッ、そうかよ。だが、だからどうした! この程度の金属くれェ、すぐに燃やせる!」
「そうね。すぐに燃やされてしまう。でも、それまでにダメージを与える事が出来れば上々よ」
「……!」
残り僅かな魔力で本の鳥達を放ち、ゾルさんの体にぶつける。そこから銃口を向け、身動きが取れない状態で数発撃ち込んだ。
常に魔力は込められているからちょっと痛い程度だけど、十分でしょう。
「くっ……チマチマとォ……!」
発火させ、金属を溶かして加速。でも魔力の成分を炎に変えた為、さっきよりは遅い。
そこに落とすのが最後の魔力。
「“降下”」
「……!」
魔力からなる大きな本。それがゾルさんに落ち、ズズーン! と大きな地響きを鳴らす。
今更だけどこの宇宙空間では音も普通に通じてるわね。選手用に合わせてあるから当たり前ね。
魔力が残っていたら更なる追撃も出来たけど、残念ながらそれは叶わない。
「トドメだ!」
「……」
炎で本は焼き尽くされ、多少の傷を負ったゾルさんが眼前へ。
炎纏の拳が打ち抜き、私の体は殴り飛ばされた。でもまだ意識はある。更なる追撃に炎を放ち、その炎は別の炎に相殺される。
「……! ボルカ・フレム……! リテを倒したか……!」
「ああ。アンタもアタシの仲間を倒しそうな雰囲気だな……!」
「来てくれたの。ボルカさん」
「へへ、当たり前だろ?」
リテさんを倒したボルカさんが躍り出る。
彼女は灼熱の炎を放って焼き払い、ゾルさんも炎で相殺。一度トドメを刺そうとした手前、勢いそのまま決着を付ける為に動き出す。
対するボルカさんもリテさんとの戦闘後と言うのもあって様子見の雰囲気は無い。私は傍観しか出来ないわね。
「“ファイアランス”!」
「“雷の槍”!」
炎と雷の槍が衝突。既にこの惑星も本来の三分の一の大きさしかない。惑星が持つか決着が付くか。
ゾルさんは雷速で突き抜け、ボルカさんは炎でジェット噴射。正面衝突を起こして爆発。星が更に削れる。
何か手助けしたいところだけど、二、三分休んだ程度な私の今の魔力でやれる事なんて限りが……。
「……!」
そして思い付く。現状、これが最適解ね。
後はボルカさんに委ねましょうか。ゾルさんは更なる霆を込めており、雷その物にでもなろうとしているみたい。
けどかえって好都合。私は残りの魔力を本に込めた。
「これで終わりだボルカ・フレム!! “雷の──」
「……!」
バチバチバチと空気が熱で膨張して破裂音が鳴り響く。本物ではないステージだからこそ此処の惑星で空気の鼓動が感じられるわね。
ゾルさんは一気に加速し、私の方へ来た。
「……は? え?」
「あら、いらっしゃい」
「……!」
私の片手には電流を引き寄せる効果のある金属が。さっきのより効果的よ。だってそう言う代物を召喚したんだもの。金属を立てるだけじゃこれ程的確に電流が来ないわ。
私の全身の毛が逆立ち、ボルカさんの方を見て微笑む。
「さ、早くトドメを刺しちゃって」
「ビブリー……! ……ああ!」
「テメ……だったら……!」
ボルカさんが魔力を込め、ゾルさんは一気に放電して私の体を感電させる。魔力がほぼ尽きている現在、致命的ね。一瞬にして意識は飛ばされ、ボルカさんへと一瞥した。
そして体は光にに包まれて転移。
「終わらせる! ──“メテオフレア”!!」
「新魔術かよ! “炎雷の──……!」
──ビブリーに託され、流星の如く火球となって蹴りを突き刺す。
お陰で相手の動きは鈍くなり、ゾルの魔術が成立するよりも前にアタシが到達。そのまま突き刺すように打ち込み、その体を宇宙の彼方へ吹き飛ばした。
「クッソ……!」
流星となって飛び行き、そのまま転移。これでアタシ達の戦闘は此方側の勝利。ビブリーが動きを止めてくれたお陰であまり体力も消費せずに終わらせる事が出来た。
ビブリー様々だな。
「……っし、行くか」
残りのプレイヤーを探しにアタシは崩壊した惑星から移動。遥か遠方なのに、強い気配のぶつかり合いを感じる。
経過時間数十分の割に長く感じたこの試合も、そろそろ終盤って感じみたいだ。




