第二百六十幕 太陽に近い惑星と遠い惑星
──“第一惑星”。
「やっぱ太陽に一番近い惑星は暑いな~。本来は降り立てないくらいだからかなり抑えられてっけど」
赤い星から移動したアタシは、炎の加速でジェット噴射しながら宇宙空間を飛び、取り敢えず太陽の近くに行ってみっか~くらいのノリでその惑星にやって来た。
太陽っても此処のステージのそれは大きな電球みたいなもん。プラズマとか水素爆弾的な内部とか、そんな要素は無い。熱もあるにはあるけど、照明の領域は抜け出さないな。
でも直に乗ったら熱いから誰もそこに行こうとはしてないぜ。流石にこの領域の気配は探知出来ないけどな!
何はともあれ、そんなこんなで立ち入った太陽に一番近い惑星。当然熱いけど裏側は寒くてアンバランスな感じ。アタシはそこで敵を探していた。
「ん? あれは……」
惑星の空を飛んでいると、下方に人影を発見。でも別に警戒を高めたりはしない。
何故かと言うと、
「ビブリー!」
「……! あら、ボルカさん」
頼れる仲間だから。
此処にビブリーが居るって事はメリア先輩かティーナかルーチェにディーネの誰かが交代したという事。
今回のステージは決勝の舞台だけあって一段と広いからな。同じ惑星に居ないと誰が居なくなったのかまでは分からない。
「此処に居るって事は誰かと交代したんだな?」
「ええそうね。メリア先輩と代わったわ」
「て事はメリア先輩はリタイアはしてないって訳だな。戦況はどんなもんだった?」
「ルーチェさんとディーネさんがシュティルさんとリルさんに敗れたわね。私が交代した時点では各チーム三人や三匹ずつだったわ」
「成る程な。サンキュー。情報ゲット出来て良かったぜ。それから更に盤面が動いた可能性はあるし、数はもっと減ってるかもな」
「そうね。私が来たのは第五惑星のガス惑星からだけど、その道中で誰とも会わなかったからその可能性はあるわ」
どうやらビブリーが代わったのはもっと後ろの惑星らしく、此処まで来たとの事。
その上で誰とも会わなかったのならマジで数がかなり減ってるのかもな。
「そんじゃ、早速探すとすっか。因みにこの星にはアタシ達以外にも居るぜ」
「……それを先に言って欲しかったんだけど」
「悪い悪い。アタシとしても今気付いた。気配は限りなく消してるな。近付いてきたから把握出来たみたいだ」
「そう。じゃあ準備はしておこうかしら。物語──“ミノタウロス”」
「お、いつもの十八番」
「歌う曲みたいに言わないでくれるかしら」
既に近くに居る敵の存在は確認済み。後は誰がどんな風に仕掛けてくるのか。
ビブリーには手駒が沢山あるし、数の差では優位が取れる。相手の実力次第だな。
「居たァ! ボルカ・フレムとウラノ・ビブロスか! 問答無用ォ!」
「げ……ゾルかよ」
「炎魔術と雷魔術の人だったかしら。強敵ね」
「そうだな。割と厄介な相手だ」
雷を迸らせ、炎で軌跡を描きながら迫り来るは魔族の国のゾル。
ビブリーの言う通り二つの魔術を使い、主にスピードで攻めて来るタイプの相手。
まあ前は一人でも勝てたし、今回はビブリーも居るから余裕があるかもな。
「“炎雷”!」
「“フレイムキャノン”!」
来るや否や炎魔術と雷魔術を同時に使われ、アタシは中級魔術の炎で防御。相殺し、辺りの地表が捲れる。
そこ目掛けてミノタウロスが突っ込み、戦斧を振り下ろした。
「っ危ね……! 数の差は不利か……!」
「追撃だ!」
「そうね」
炎で加速し、ビブリーは剣を取り出し本の鳥に掴まって移動。
ミノタウロスから距離を置いたばかりのゾルはまだ立ち直っておらず、次の攻撃は当たる確信があった。
やっぱりビブリーと一緒なら余裕が生まれるな。
──と思っていた矢先、唐突にもう一つの気配が現れた。
「ビブリー! 頭上に注意だ!」
「……!」
感じるエネルギーの気配。アタシはビブリーの手を引き、更に加速してそこから離れる。次の瞬間にはエネルギー体が落ちてきた。
それは着弾と同時に大きな爆発が起こり、この惑星の半分が欠ける。
「この感じ……超能力。アタシの気配探知にも反応が無かったのは差し詰めテレポートで一気に近付いたからか……!」
「成る程ね。この星に居る相手は二人だったって訳」
「もう気付かれちゃった。やっぱり鋭いね~。ゾルー! 失敗したー!」
「嬉々として言ってんじゃねェ! 絶好のチャンスを作ってやったろ!」
「何処がチャンスなのさ~。ボルカちゃんの動きは速いし、単なるサキコキネシスを塊にして落としただけだから速度は遅いもん!」
「まァ、ミノタウロスは倒せたようだがな」
現れたのは魔族の国のリテ。
視線の方向には爆発に巻き込まれ、本の中に戻ったミノタウロスが。
派手なゾルを使った囮作戦って訳だ。アタシとビブリーは無事だけど、召喚したミノタウロスと本の鳥達は消されちまったな。
「次の魔力が貯まるまでどれくらいだ? それまで耐える。もしくは相手を倒してやるけど」
「1分も掛からないくらいよ。私も魔法は鍛えているから、使用可能時間までドンドン短くなっているわ」
「流石だぜ。んじゃこの会話が終わる頃にはもう大丈夫って訳か」
「直前に使った本の種類にも寄るけどね。魔力消費が多く、強い物語なら相応に掛かるわ」
「OK、分かったぜ。取り敢えず今はもう大丈夫なんだな?」
「そうね。物語──“風雷神”」
会話を終わらせるや否や、ビブリーは次の召喚獣を生み出す。
会話の最中にも攻撃は仕掛けられていたけど、全部を躱したからな。1分以下なら避ける為に動き続けてもそんなに負荷は掛からない。
「相性的にどっちと戦り合う?」
「そうね。広範囲の炎と雷で焼かれるゾルさん。多種多様な近距離中距離遠距離からサポートまで何でも御座れのリテさん。個人的にはまだゾルさんの方が戦いやすいかも」
「分かったぜ。アタシの相手はリテだ。どっちも既に倒してるし、今回も勝ってやるぜ」
「だとよ。本魔法使いとは戦った事無ェからワクワクするが、それと同時に戦いやすそうって評価は納得いかねェ」
「だってゾル、能力は高いけど基本的に脳筋だからね。真っ直ぐ挑んで来るのはどう足掻いても戦いやすいって結論に至るよ」
「チッ、だったら勝利してそのイメージを払拭してやるぜ!」
「頑張ってね~。私もボルカちゃんへのリベンジマッチを挑むからさ!」
「俺もリベンジしてェところだが、戦いの最中に他の相手の事を考えるのは侮辱に値する。て事で目の前のウラノ・ビブロスに集中すんぜ」
向こうも対戦相手の取り決めについて納得してくれたみたいだ。
元々魔族は戦いの事には真面目な性格。あまりに実力に差が開き過ぎていたりすると納得いかないんだろうけど、殆ど差が無いアタシ達相手なら文句は無いって訳だ。
「対戦相手も決まったし、そろそろやるとすっか~」
「そうだね~。ボルカちゃんと一緒にするの数日振り~」
「テメェとは初対面だな。だが、実力で言えば俺の方が圧倒的に上だ」
「そうね。ボルカさんが貴方の仲間を倒すまで粘るのが定石かしら」
「ハッ、“暗黒学園”をあまり舐めるなよ?」
「今更だけど学校に暗黒って……まあ“魔専アステリア女学院”も英雄の名前をそのまま使ってるだけだから似たようなものだけど」
それぞれの対戦相手が決まり、臨戦態勢に入る。
あくまで中心的に戦う相手が決まっただけだから近い時はサポートとかも出来るな。魔族の国にそのつもりがあるかは知らんけど、今回はタッグマッチだ。
アタシとリテ。ビブリーとゾルの試合が始まった。
*****
──“第七惑星”。
太陽から二番目に遠い緑掛かった惑星。その大きさは凄まじく、太陽を除けば三番目に大きな物だろう。
分厚い雲を抜け、本来なら太陽の光すら差し込まない暗い氷の地表。選手用に設定されているので問題無いが、再現された環境にて最高戦力同士が向き合っていた。
「あァ……なんか匂わね?」
『そうだな。少々臭い。嗅覚の鋭い私には厳しい物がある』
「だろうな。面倒だが、何なら戦う場所を変えても良いぞ? リルさんよォ」
『いや、お気遣い感謝するが私はこのままで構わない。ダク殿』
魔族の国“レイル街立暗黒学園”ダクと幻獣の国“フェンリヤンフロマージュ”のリル。
一人と一匹は再現された物だとしても多少の辛さがある氷の惑星にて対面していた。
この惑星の雲は硫化水素で出来ており、放屁の匂いがする。暴風が吹き抜けているが、生物の生存出来る環境となっている今なら戦闘に支障を来す程のものでもないだろう。
最も、人間の数万倍の嗅覚を持つ犬。それの更に強化バージョンみたいなリルからしたら堪った物ではないが。
ダクは親切心で提案したが拒否され、一人と一匹は向き直る。
「じゃあ構わず仕掛けるが、本当に良いんだな?」
『無論だ。受けて立とう』
氷の地面を踏み、ジリッと出方を窺う。次の瞬間には踏み込み、砕く勢いで加速してリルの眼前へと迫った。
『速いな』
「そら」
ダクの動きを見切り、軽い掛け声と共に放たれた拳を躱す。
即座に死角へ回り込み、リルは肉球のある巨腕……前足を振り下ろした。
「アンタも速ェじゃねェかよ」
『お互い様という事だな』
前足は掌で逸らし、ダクの側面から地面に突き刺さりクレーターが形成される。
氷塊が浮き上がり、ダクはそれに蹴りを放ってリルへシュートした。
『この程度の物、大した事にはならぬ』
「ああ。目眩ましだ」
『それも同義よ』
氷は粉砕。今一度前足が下ろされ、ダクの拳と衝突。衝撃波が辺りに散り、氷の大地を吹き飛ばした。
一人と一匹は拮抗しており、両者が力を込めると同時に氷は更に拉げる。
ダクはまた前足を逸らし、その上を駆け出してリルの眼前に迫った。
『素早しっこいな』
「身体能力にはまあまあ自信がある」
高速で駆け上ったダクはそのまま頬へ蹴りを打ち付け、リルの体を吹き飛ばす。
そこから更に追撃するよう、近くの氷塊に魔力を込めて撃ち出し高速の氷が衝突。氷塵を舞い上げる。
続くようにダク自身も加速し、リルは口を大きく開いた。
『ワオ━━ンッ!!!』
「……ッ!」
遠吠えをし、音が衝撃波となって氷の大地を粉砕。音速の波にダクは押されて止まり、踏み出したリルの爪が迫っていた。
「犬なのに爪での攻撃が多いな……!」
『種族は関係無かろう』
巨腕が直撃し、氷の大地を滑るように吹き飛ぶダク。
複数の氷山に衝突しながら突き抜け、全身を強く打つ。
「たった一撃でこれか。面倒だな」
ガラガラと落ちてきた氷を払い、痛む体を動かして骨への影響を確認。特に何の問題も無い様子で正面に来ていたリルへ視線を上げた。
『今までの者ならこの時点で倒していたが、頑丈な肉体を持つ者だ。魔族の中でも随一だろう』
「かもしれねェが、No.1じゃねェ。中等部だけに絞っても精々No.2だ」
『ほう? では主以上の者が居るという事か。その者は何をしているのだ?』
「さあ、そこまでは分からねェ。ちょっとした催しで手合わせしたくらいだからな。そいつはダイバースもやってねェ」
『成る程。未知数という訳だ』
「だな。……んで、なんか天候崩れてねェか?」
『そうだな。そこまで吹き飛ばしてしまったらしい』
元々暗い空だったが、更に曇り掛かりポツポツと雨……ではない別の何かが降り注ぐ。
本来よりも遥かに小さな惑星なので一人と一匹は雲にも届く身長となっているが、足元や体にそれが当たる。
そう、それは。
「……圧縮された炭素。ダイヤモンドみてェな物か」
『本来の惑星では音速相当の暴風にダイヤモンドの雨が降り注ぐという事。危険な環境だな』
「宇宙全土が危険だわ。開拓も行われてねェしな。……いや、確か風の噂で数年後にはルミエル・セイブ・アステリアを筆頭に宇宙開発のプロジェクトが進んでるとも聞いたな」
『やれやれ。彼女にはやれない事が無いのか……。さて、少し話し込んでしまった。続行する』
「そうだな。面倒だが勝つ為だ」
両者は滲み寄り、刹那に衝突。前足と拳がぶつかり合って衝撃波を散らし、氷の地表とダイヤモンドの雨を吹き飛ばす。
ダイバース代表戦。残ったメンバーによる対戦カードが出揃った。




