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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部二年生
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第二百五十九幕 小さい惑星と不思議な惑星

 ──“第九惑星”。


「やれやれ……面倒だな。何で敵同士である幻獣と魔物が手ェ組んでんだ? ん? 幻獣と魔物……だよな? 同族じゃなくて」


『ああ。元より討ち仕留めるつもりではあるが、ダク。お前を先に倒す方が得策と判断した』

『敵同士であっても、利害の一致による共闘はダイバースでも珍しくない。気の毒ですが、滅ぼしましょう』


 太陽から最も離れ、最も小さな惑星で二匹がダクを前に臨戦態勢に入っていた。

 理由は以上の通り。それぞれの国で最も強い者が誰であるかは双方理解しており、その者を打ち倒すに当たっての共闘。実に合理的な判断である。


『そんな訳で、仕留める!』

『お覚悟召されよ!』


「あー……面倒だが受けて立つ。2ポイント入るからお得だしな」


『舐めるな!』

『はあ!』


 二匹をポイント換算で見立てるダクに激昂し、巨腕と巨足が振り下ろされる。

 ダクは微動だにせずそれを見届け、両手でそれらを受け止めた。その衝撃で足場にはクレーターが形成される。


『なにっ?』

『まさか!』

「腕力だけなら、まァ今大会では一番を自負してる」


 残りの手足や尻尾による追撃がされる前に二匹を振り回し、遠方へ投げ飛ばす。

 その者達は氷の地面を擦りながら止まり、幻獣の前にはダクの拳が迫っていた。


「まずは1ポイント」

『……ッ!』


 メキャッ! と顔が陥没し、幻獣の体は更に吹き飛ばされる。

 吹き飛び途中に追い付いたダクは上空から降下し、その体を踏みつけるように蹴り抜き惑星を貫通させて宇宙空間へと吹き飛ばした。


「小さい星だから砕けないか心配だな。元の世界換算でも山くらいしかねェし。流石に普通の山よりかは頑丈だがな」

『ガァ!』

「来てくれるのは助かる。面倒じゃねェ」


 魔物が駆け出して巨腕を掲げ、次の瞬間には振り下ろして星にヒビが入る。それを避けたダクへ追撃のように薙ぎ払い、跳躍で回避。その腕の上に立つ。


『カッ!』

「当然炎とかも吐くか」


 魔物は自分の腕ごと焼き払い、巨腕は恐ろしい再生力で治癒。既に戦闘の傷も癒えていた。


「魔物特有の再生力。面倒だな」

『面倒臭がり過ぎだ!』

「悪ィ。口癖なんだ」


 再生直後の巨腕を下ろし、ヒビを更に深めて星が欠ける。

 ダクは紙一重で避けて腕を足場に跳躍し、頬へ回し蹴りを打ち付けた。


『……っ。カァッ!』

「……」


 捻られるように横に反るが持ち直して火炎を放つ。しかし既にダクは居ない。

 気付いた時には顎が爪先で蹴り上げられており、魔物は大きく仰け反った。その魔物をそのまま踏み場にして跳躍。より強い降下蹴りを腹部に叩き込みクレーターの形成と共に意識が揺らぐ。

 魔物はまた起き上がろうと藻掻くが、今一度踏みつけられ更に沈む。

 ダクは片手に力を込め、体を捻り全身の力をもちいて頬へ拳を叩き込んだ。


『……ッ!』

「……マズイな」


 それによって魔物は沈み、先程の幻獣のように惑星を貫通。ダクが周りを見渡した時には既に遅く、太陽系最小の第九惑星は崩壊。宇宙の塵と化す。

 とは言え、既にこの惑星は惑星の枠外へと押しやられているのだが。


「此処にはもう誰も居ねェか。面倒だが、次の相手を探しに行こう」


 呟くように言い、宇宙空間を移動。

 此処はあくまで再現された場所。故に宇宙でも活動可能となっている。

 各国の最高戦力達は、頭一つ抜けた強さで他チームの主力達を打ち倒していくのだった。



*****



 ──“第六惑星”。


『ガギャア!』

「なんだか魔物の国の方とよく会いますね……!」


 現在地、輪っかがある不思議な惑星。休息がてら私達の住む星モチーフの場所から移動した私は、そこで会った魔物の国の方と戦っていた。

 鋭い牙で私に噛み付こうと試み、その口は植物魔法で結び塞いで抑える。

 そのまま身体中に植物を巻き付けて動きを封じ込め、地面から一気に生やして叩き付ける。

 更なる巨木によって打ちのめされた体には確かなダメージが入り、魔力を一点に込めた大樹をもちいてけしかけた。


「“樹木突撃”!」

『クァァ……!』


 威力は絶大。それよりも前に何度かダメージは与えていたし、これがトドメの一撃となって魔物さんは意識を失った。

 これで私は計3ポイント。魔物には流暢に話すタイプと野生に帰って力を解放するタイプの二種類居るかも。今回は後者で、さっき戦ったベロスさんは前者。

 いずれにせよ強敵だったね。少しの休憩を挟んだ後の戦いだったけど、変わらず強敵揃い。

 だけどドンドン進めて行くぞー!


『……』

「……!」


 意気込みを見せた瞬間、目の前には幻獣さんと思しき選手が立っていた。

 次から次へと続々来るね。私はママ達に魔力を込め、幻獣さんが光となって転移した。……え?


「……! この力の気配……!」


 消え去ると同時に自分でもよく分からない何かを察知し、周りを植物で薙ぎ払う。

 周りにはガス以外の何も無いけど、確かな強い力を感じていた。

 そう、この感覚。


「シュティルさん……だね」

「フム、見つかったか。ルーチェ・ゴルド・シルヴィアも察知はしたが、彼女より鋭いな」

「……っ。ルーチェちゃん……!」


 その口振りからして既にルーチェちゃんはやられちゃったと考えて間違いない。

 彼女。シュティル・ローゼさんの手によって。


「しかしながら、今回のステージの広大さ。及び他の者達の実力からして私はまだ3ポイントしか取っていない。それは由々しき事態だ。なるべくポイントを稼ぎたい中、君のような強敵と会ってしまうとはな。あの幻獣を倒した辺りで近付いた事は把握したから不意を突いて終わらせようと思ったが、ダメだったようだ」


「そうなんだ。じゃあお互いに見逃すという方向で手を打つ?」

「冗談。君にもそんなつもりは毛頭無いだろう」

「ふふ、まあね」


 シュティルさんとはそれなりに親しいので軽口を叩く。

 私も逃げるつもりはないよ。ポイントが欲しいのもそうだけど、ルーチェちゃんを倒した相手だからね。所謂いわゆる仇討ち。それに、最終的にはポイント数で勝負が決まる。シュティルさんを野放しにした方が不利益生じるよね。


「シュティルさんの攻略法はレモンさんの戦いを通じて把握してる。あれ程の手数は難しいけど、近い事はやれるかもしれないから……!」

「かもしれぬな。何故なら君の植物魔法は大陸一つを覆う程の出力があるからな」

「大陸……そうだっけ……?」

「そうか。記憶は曖昧だったのだな」


 記憶……何を言っているのかはよく分からないけど、それくらいの気概があれば良いってアドバイス的な事かな?

 私にアドバイスしてくれるなんてシュティルさんには余裕があるね。私も負けてられないよ!


「先手必勝! “樹木連撃”!」

「狙いは意識の喪失……癖で真っ直ぐ仕掛けてしまいそうだが、当たる訳にはいかないな」


 放った無数の木々に対し、全てを見切ってかわしていくシュティルさん。

 相変わらず軽やかな身のこなし。動くたびに揺れる金髪と光で反射して紅い線を残す瞳がとてもキレイ。

 見惚れてる間に正面へと迫っており、樹木の壁で進行と攻撃を防ぐ。


「頑丈な植物は厄介だな」

「そう言いながら簡単に壊してる……」


 念力を使い、風を一点に集めて木々を粉砕。

 的確に自分へ当たる物だけを狙っているね。避けられる可能性を考慮して色んな方向から仕掛けてるけど、これじゃ魔力が分散するだけ。こうなったら速く重く鋭い一撃に集中した方が良いかも。

 今まではその再生力からあまり避けなかったシュティルさんの選択肢に“回避”が加わってるのなら、こちらの取る行動も色々変わってくるもんね。


「“高速植林”!」

「植え付ける苗が大き過ぎだ」


 一直線に伸びる高速の木を放ち、シュティルさんはそれをしゃがんでかわした。

 そのまま踏み込んで駆け出し、低姿勢のまま私の眼前へと迫り来る。だったらと直進する木の枝を下方向に伸ばし、隙間に居るシュティルさんを狙う。

 でもダメみたい。霧となって枝はすり抜け、再び実体を得て掌が迫っていた。

 だけど攻撃する時も霧のままじゃいられないから、やりようはある!


「“反射樹”!」

「ほう? カウンターか」


 近場の樹を寄越し、枝でシュティルさんの体を吹き飛ばす。

 あ、吹き飛ばすのはダメなんだっけ。再生力の時間を与えちゃうから。だけど他者の体を破壊しようとした時なんて無い……どうすれば良いんだろう……。


「……っ」

「……?」


 追撃をするべきか否か。いや、するべきだとは思うんだけど、今まで以上に過激な攻撃をする勇気が湧かない。

 ヴァンパイアの性質上、ほぼ絶対無いのは分かっているけど……万が一■んじゃったりしたら……。そう思うと今までやれた攻撃の手が止まってしまった。

 シュティルさんは体を再生させ、私の眼前に躍り出る。


「何かを迷っているようなら、早々にリタイアする事をオススメする。戦意の無いプレイヤーは観客にも、対戦相手にも失礼だからな」


「……!」


 その言葉と同時に風が放たれ、私の体は回転して吹き飛ぶ。

 背面を柔らかい植物で覆ってダメージを軽減し、シュティルさんは追撃に現れた。


「私の倒し方について悩んでいるのだろうが、何を思い詰めているのか。君は既に今まで数多の選手達を倒して来たのだからな。今更怖じ気付いてどうする。私や卒業する者への敬意は無いのか?」


「……!」


 その言葉でハッとする。

 そうだ。何も私は今までただ相手を傷付ける為に戦っていたんじゃない。試合に勝つ為、勝利の喜びをみんなと一緒に分かち合う為に戦っていた。

 何より今年は、メリア先輩が引退の場所に決めた大会。だったら私は、それに応える義務がある。


「私としても、キドナとは来年共に戦えないからな。再来年以降はまたチームを組む事にもなるかもしれないが、魔物の国の情勢を思えばどう転ぶか分からない。だから私は、今年で終わりの者達の為にも戦っている。皆の意思を背負っているのさ。君はどうだ? ティーナ・ロスト・ルミナス」


「……私も……私も先輩との最後の試合になる今回、絶対に勝ちたい! ありがとう。シュティルさん。──勝ちに行くから……!」


「……フッ、相変わらず凄まじい魔力量だ」


 返答し、辺りに植物を展開。

 魔力が分散するからと一点に込めたりしてみたけど、それじゃ結局当たらない事が分かった。

 だから、ちょっと無茶をするかもしれないけど、今生やした全ての植物に一点集中の魔力を付与する……! 凄まじい集中力と精密な魔力操作が必要だけど、基礎は先輩達に教えて貰ってるから後は感覚で執り行う事が出来る……!


「リタイアするのは私じゃなくて、貴女になるよ。シュティル・ローゼさん……!」

「ああ。どちらになるかを決めるのが今の試合だ。ティーナ・ロスト・ルミナスよ」


 展開した植物で取り囲み、シュティルさんも力を込めて迎撃態勢へと入る。

 私達の行うダイバース。去年は実力不足で叶わなかったけど、それを遂行出来るだけの力を付けた今、優勝をこの手に掴んでみせる……!

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