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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部二年生
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第二百五十六幕 明るく暗い星

 ──“第二惑星”。


「ハァ……不可抗力で暑苦しくて薄暗い所に来てしまいましたわね……」


 転移が終わり、わたくしルーチェ・ゴルド・シルヴィアは外部から見たらとても明るく、内部では曇り空のような視界が広がる惑星に来ましたわ。

 多分……と言うか確実に本来の此処は人なんて降り立つだけで死亡する場所でしょうけれど、温度調整も施されており、呼吸も確保出来てますわね。あくまで近しい環境が再現されているだけですので当然ですけれど。


「しかし、私に気配を探る術は無し……如何しましょう……」


 ボソリと呟き、辺りを見渡す。

 気配が読めねばほぼ高確率で先制されてしまいますものね。

 しかし嘆いていても仕方無い。初撃で意識を失わぬよう気を付けて戦うべきですわ。


「おー! 敵が居たァ!」

「何事!?」


 動き出そうとした瞬間、とても元気の良い方が高速でやって参りましたわ。

 その話し方からして気配などを読んだ訳では無いようですわね。感覚派の方みたいですわ。

 そしてこの方、何処かで見覚えがと思えばメリア先輩と戦っていましたわね。


「スクロさんでしたっけ?」

「ん? そう言うアンタは……“魔専アステリア女学院”の誰かか!」

「ルーチェ・ゴルド・シルヴィアですわ! シルヴィア家のご令嬢! 是非とも覚えてくださいまし!」

「お、おう! よろしくな!」


 試合の前後で顔合わせしたくらいですのでほぼ初対面のスクロさん。故に私の事を教えて差し上げ、そのまま臨戦態勢へと入る。

 風魔術のみの使い手が為、今回の参加メンバーでは戦いやすい方。メリア先輩との練習で一属性のみの方とは何度も戦っておりますものね。

 そして実力は先輩以下。余裕という程ではないにせよ、勝利を収めて見せますわ!


「では、始めましょうか! “光球”!」

「上等だァ! “リヤーフ”!」


 光球を放ち、風で迎撃。二つは衝突して爆発を起こし、空の分厚い雲が少し揺らいだ。

 互角……という程でも御座いませんわね。お互いに軽い牽制程度。まだ判断は出来ませんわ。


「“光球連弾”!」

「“風の刃(リヤーフ・セイフ)”!」


 複数の光球を放ち、スクロさんは風の刃で対抗。光と風の衝突でまた雲は揺れ、辺りに風が吹き抜けた。

 今度は明確に互角と言っても良さそうですわね。

 しかしメリア先輩が余裕を残して勝利した相手に対してこの現状とは。いえ、まだまだこれからですわ!


「“光の矢(シャイニングアロー)”!」

「“風の矢(リヤーフ・サハム)”!」


 光と風の矢が降り注ぎ、お互いを狙う。

 初級魔法では互角の領域を抜けませんわね。もう少し工夫しなければ……。


「そこォ!」

「……! 自らが……!」


 するとそこにスクロさんが自身を風で加速して迫ってきた。

 風魔術は自己強化や手助けにも使える代物。そこに魔族の身体能力が加わるだけで大きな武器となる。

 メリア先輩はほうきによる速度上昇があったので問題無かったようですが、生身の私は少し大変ですわね。


「吹き飛べ!」

「“光の緩衝材シャイニングクッション”!」


 突き出された蹴りを光で受け止め、吹き飛ばされはするも威力は殺す。

 更なる追撃に風で加速してくるのが見えましたが、正面ならば受け切れますわ!


「“近距離光球”!」

「……!」


 風の突進の到達に合わせ、光球を正面へ。スクロさんは光の中に突っ込む形となり、次の瞬間には光の爆発が巻き起こりましたわ。

 至近距離で受ける熱と衝撃。目映さによる視覚障害。一転攻勢ですの!


「ぐあァ……! 目がチカチカする……!」

「“光球”!」

「……!」


 眩んでいる最中にまた光球を放ち、爆発。光が広がり、砂塵が舞い上がる。

 スクロさんはその中から姿を見せ、ボロボロになりながらも闘志は残っていた。


「ハハハァ……効いたァ……!」

「本当に効いているようですわね。効いてるだけですけれど」


 流石は魔族の意思。及び本人の気力。

 まだ戦闘は続行されると踏まえ、私は再びスクロさんに向き合う形と……。


「──カハッ……」

「……!」


 なった瞬間、スクロさんは意識を失い転移。……私の力? いえ、明らかに別の外的要因による気配を感じましたわ。

 そう言った気配を感じる事の出来ぬ私であってもそれは分かりましたの。


「……っ。“光球”!」


 一先ず不安が為、足元に光球を撃ち込み周り諸とも粉砕。何であろうと辺り一帯を吹き飛ばせば見つけられる筈ですものね。

 私自身の体は聖魔法で覆っており、防御と回復を同時に執り行う。

 今感じた気配の正体を探り、粉塵の中から人影が見えましたわ。

 あれは……!


「……やれやれ。闇夜に紛れて獲ろうかと思っていたが……咄嗟に辺りを吹き飛ばすとは。考えたな。ルーチェ・ゴルド・シルヴィアよ」


「おやおや。貴女でしたか。シュティル・ローゼさん……! 今はまだ夜ではなくてよ……!」


 影の正体、ヴァンパイアであるシュティル・ローゼさんその人。

 すなわち影に紛れ、スクロさんにトドメを刺した後で私の動向を窺っていたという事ですわね。

 まんまとポイントを横取りされてしまいましたわ。


「同じ1ポイントなら貴女と戦うより他の方を探した方が良いかもしれませんわね」

「そうだな。この星は太陽にも近く、外部から見たら明るいが、内部はこの通り雲で覆われている。私のテリトリーと言っても過言じゃないステージだ。逃亡するなら止めはしない。追いはするがな」

いずれにせよ貴女には気配を探られてしまいますわね。だったらせめて、仲間達が勝つと信じて貴女を削りましょうか!」

「フッ、良い意気だ。だが、負ける事を前提に話しているぞ?」

「それもそうですわね。では貴女に勝ち、仲間達の手助けをしましょうか。わたくし、貴女の天敵ですもの」

「……? ……ほう?」


 光を込め、複数の球体を宙に浮かべる。

 そう、私はシュティルさん、この場に置いては唯一の天敵と言える存在。

 かつての食物連鎖で人間は、ヴァンパイアより下の位置に居ましたが対抗する術は身に付けられ、魔法という形で今の私には宿ってますわ!


「“光球連弾”!」

「光の球……しかし天敵か。日光などとは違うようだが……」


 光球の分析をする最中、シュティルさんの体に光球は命中。そこから更に連鎖爆発が起き、辺りを大きく揺らした。

 そこへ向けて杖を構える。


「“シャイニングレーザー”!」

「……!」


 光線で撃ち抜き、シュティルさんの肩を貫通させた。

 それらを受け、火傷のような痕を自然回復させながら彼女は話す。


「やはり天敵という程でもない。細胞一つ残らず消し去る威力も無い。私への対抗手段には少々甘いと思うが」

「細胞一つ残らず消し去るのはルール違反ですのでしませんわ! だったらこれを至近距離で受けてくださいまし!」


 光球も光線も効かないのは分かっております事よ。何故なら本当にただの熱と衝撃ですもの。ボルカさんの炎魔法や炎魔術の方がまだ威力は高い。

 ですので、油断させてからのこれが本命。


「“聖光球”!」

「……! これは……」


 聖魔法を光球の中に組み込み、有した一撃。

 シュティルさんの涼しい顔は消え去り、咄嗟に離れる。けれど、


「……! 窪みか……。しまったな。つまずいてしまった」

「食らいなさいませ!」

「何だその言葉」


 光の爆撃で足元は穴だらけ。多少注意していても少し躓いてしまうくらいにはなってますのよ。

 そんなシュティルさんへ向け、肉薄。私は聖なる力を込めた光球を撃ち込みましたわ!


「……ッ!」

「はあ!」


 至近距離で叩き込み、押さえ付ける形でシュティルさんの体を押し倒す。

 光の爆発が起こり、辺りはそれらに包み込まれた。


「はぁ……はぁ……この光は……私のですかシュティルさんのですか……」


 立ち上がり、少し沈んだ地面の底を見やる。

 私の魔法は光魔法なので魔力が光その物となって散るが為、如何様になったのかは本人の姿を見届けるまでは分からない。

 次第に砂塵が晴れ、クレーターの底に彼女の姿はありませんでしたわ。


「や、やりましたの……?」


 固唾を飲んで見守る。周りの気配などを探る事も出来ない私。現場の状況からどうなったかを判断せねばなりません。

 ズザザザと滑るように穴の底へ降り、シュティルさんの姿が無いのを確認。彼女は霧にもなれますのでより細かく辺りを見渡す。霧のような物は無く、穴などを掘ったような痕跡も無し。

 これは……。


「私が本当に、あのシュティルさんを──」

「ああ。惜しかったな」

「……!?」


 掛かった声は、空の上から。次の瞬間に私へ雷が落とされ、体が感電と共に痙攣した。これでは身動きが取れませんの……!

 やってしまいましたわ……! 周囲や地面に気を取られるあまり、砂塵に紛れて上へ飛んだと言う発想に至りませんでしたの……!

 見れば上空の分厚い雲に紛れて霧から戻っている為、空を一瞥したくらいでは分からないようにしていたみたいですわ……!

 元々この星の雲は深く、濃い。内部の暗い惑星。霧になられてはそれだけで見失ってしまいますの……!


「さて、これで終わりだ。しかし、聖なる力に光魔法からなるダメージ。お陰で今までのように即座に戦線復帰とはいかなそうだ」

「そう……ですの……」

「最近は吸っていないが……私を此処まで追い詰めた君に敬意を表し、快楽と共に脱落させよう」

「はう……!? ん……あっ……!」


 カプ……と鋭い感覚が首筋に当たり、血を抜かれるのを実感した。

 しかしそれに痛みは伴わず、得も言えぬ快楽が全身を包み込み、ビクビクッと雷とはまた違った痙攣を起こす。

 ヴァンパイアの吸血ですわね……!


「しかし、金髪縦ロールが邪魔で上手く吸えんな……」

「失礼……な……! んっ……!」

「ほう? この状況でも光魔法を……素晴らしい。最後まで諦めず戦うその姿、感銘を受けたよ」

「……あっ……」


 意識が遠退き、倒れる直前に空中で光魔法が炸裂。

 目映い光がかえって影となり、陰るシュティルさんの美しい顔が映り込む。

 そのまま私は意識を失い、体が光に包み込まれた。


「……フム、今の光の爆発。あれは倒れる直前の足掻きではなく、他の選手を呼んだものか。今の私では少々苦戦を強いられる……この場は離れるとしよう。いや、もっと遠くの星へ避難しておくか」


 あらら……私の悪足掻きも不発に終わってしまいましたの。体の感覚や意識は無いのですけれど、聴覚はまだ微妙に残っていますわね。

 その様な事を思い、今回は残念ながら0ポイントで私は戦線を離脱してしまいましたわ。

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