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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部二年生
255/457

第二百五十四幕 ダイバース代表戦・最終戦開幕

 ──“太陽系ステージ”。


(ここが今回のステージ……)


 今回転移した場所は、私達の住む星の系列を再現したステージ。太陽を中心に幾つかの惑星が廻っているね。

 大きさは本物に比べたらかなり小さくて私達の星で一つの島サイズ。太陽がその百倍くらいだから、太陽は大陸レベルあるかもね。

 もちろん環境も再現しているから多少の重力の影響もある。

 なので私は水が豊富な惑星に降り立った。モチーフは前述した通り私達の星だね。

 他の人達もそれぞれの星に引っ張られて着地してるのかな。


「…………」


 降り立つや否や私は周りの気配を探る。

 でも流石に難しいかな。それぞれの星は魔力から創られているから気配が分散しちゃう。

 今までのステージも全部魔力から造られた物だけど、今回は惑星ってだけあっていつもと魔力の流れが違うの。

 全体的にじゃなく、自分が居る惑星内の気配にのみ集中した方が良さそう。


「それなら……」


 小さく呟き、気配には集中しながら星を移動。

 ティナとの感覚共有とは違い、気配を探るだけなら周りの事を確認しながら移動する事も可能だもんね。

 どこに誰が潜んでいるのか、そもそもこの星には居るのか。ダクさんのチームとシュティルさんのチームメンバーは顔見知り……と思ったけど“神魔物エマテュポヌス”は新入りの子達だけで他の主力メンバーはキドナさんくらいしか知らないね。基本的にシュティルさんだけが来てくれてたから、意外とメンバー達とは面識がないの。拠点に泊まったりもしたんだけどねぇ。

 でも、どちらにせよ全員が強敵なのは変わりない。気を引き締めて行こう。


「……!」


 そして魔力の気配を一つ確認した。ここにも誰か来ているみたい。

 惑星の数は十個未満だけど、小惑星や衛星を含めたら数百数千に及ぶ。なんなら億行くかも。そのうちの一つであるここに来る可能性は少ないと思っていたけど、少人数ながら降り立った人は居るみたいだね。

 ボルカちゃん達の気配じゃないのは理解した。だから構わず仕掛けるが吉。


(場所は……東側……)


 私の現在地は惑星にある荒野地帯。何もない場所だね。東側は街とかあるのか分からないけど、取り敢えずそこへと行ってみる。

 移動は植物に乗って!


(うわぁ。スゴいや。ミニチュアみたいな建物が並んでる)


 そして街並みや都市もしかと再現されているのが分かった。

 今現在山よりも遥かに大きな私だけど、お人形さんの街みたいでこのステージをもっと観光したい気分になる。

 でもダメダメ。今は気配の方に集中しないとね! ダイバースのステージは許可さえ降りれば試合が無い期間なら見て回れるし、その時に取っておこうか。

 壊しても問題無いとは思うけど、極力景観は崩さないように移動した。


『……来るか……!』

「気付かれたかな」


 見た感じ人間や魔族じゃないね。四足歩行で牙のある幻獣さんか魔物さん。荒々しく、強い魔力の気配を感じるから魔物さんと断定。

 植物を展開し、その相手へけしかける。


『……ティーナ・ロスト・ルミナスだな』

「え!? 頭が三つ!?」


 放った植物はその魔物さんの一つの頭に噛み切られ、もう一つの頭が炎を吐いて焼き尽くす。

 四肢で踏み込み、私の眼前には残り一つの頭が差し迫る。


「アナタ……その見た目、地獄の番犬ケルベロスですか……!」

『如何にも。ケルベロスのベロスだ。だが此処は地獄ではない。我が血縁は何千年も前の血筋だ』

「そうですか……!」


 地獄の番犬ケルベロス。ベロスさん。

 伝承は色々あるけど、地獄で番をしていると言うのが一般的かな。

 見た目通り、三つの頭が特徴。口から吐いた炎はドラゴンのような身体能力じゃなく、魔力を扱った魔導の一つかな。数千年の月日で遺伝子に組み込まれて使えるようになった可能性もあるけど、取り敢えず警戒はする。


「“樹木刺突”!」

『植物魔法。シュティルを苦戦させた力だな』

「やっぱりアナタは“神魔物エマテュポヌス”の一員ですね……!」

『ああそうだ。むしろそれ以外無いだろう』

「一応幻獣の国代表の可能性もあったので……」

『フム、確かに人間からすれば魔物と幻獣の違いはそんなに分からぬか』


 鋭利な樹木を放ち、それは正面から粉砕される。

 実力は当然高水準。シュティルさんが最終戦のメンバーに選出した存在だもんね。魔物の国でも上澄み中の上澄みなんだ。


『基本的な戦いは力押しらしいな。ティーナ・ロスト・ルミナス。我も搦め手はあまり得意ではない。真っ向勝負は受けて立つ!』

「……! 速い……!」


 一歩踏み込み、ベロスさんは私の眼前へと迫り来る。

 速さはあるけど、本人……本犬? が搦め手を苦手と言っているだけあり、正面からの突進が主体。

 だったらと植物の壁を張り巡らせて受け止め、弾いた所で無数の木々を叩き込む!


『やるではないか』

「アナタもです……!」


 ミニチュアの街は倒壊し、この世界では山よりも大きな植物が辺りに生えている。

 折角の街並みなのに勿体無いなぁって感じもするけど、多分すぐに再構成されると思うから気を取り直す。

 今の相手はベロスさんだもんね。集中しないと。


「“樹木乱打”!」

『受け止めてくれる!』


 魔物の国の選手は回避をあまり選択せず、その身に受ける方が多い気がする。

 元々他の種族よりも耐久力が高く、傷の治りも早いからそうなるんだと思う。

 だから私にやれる事は、意識を奪うまで打ち込み続けるのみ。レモンさんがやっていた事だね。


『ガァ!』

「本当にその身に受けて突破してる……!」


 だけどベロスさんのタフネスはそれ以上。正面から植物を粉砕して突き進み、至近距離で大口が空けられた。

 その時に迫られる選択は二つ。魔力による炎などの攻撃か牙か。そのいずれにせよ、やれる事は一つ。


「“閉鎖樹林”!」

『……!』


 大きく開かれた口に大量の植物を詰め込み、不発に終わらせるという行為。

 魔力なら暴発し、牙なら折れる。口に詰められたベロスさんは、


小癪こしゃく!』

「こっちかぁ……!」


 そのどちらでもなく、詰め込められた植物を噛み砕いた。

 強度はかなり高めたけれど、それでも意味を成さない強靭な牙や顎の力。

 植物を噛み千切ったベロスさんは体を回転させ、私を吹き飛ばした。


「……ッ!」

『カァ!』


 吹き飛ばされた私はミニチュアの建物を粉砕し、膝下くらいの山々を貫く。

 そこに炎が撃ち込まれ、私の体は炎上した。


『この程度では無かろう!』

「当然です!」


 炎を植物で掻き消し、薙ぎ払う。そのまま上から下へ勢いよく降り注がせ、ベロスさんの体を植物で打ち叩く。

 その衝撃で地表は削れ、ひしゃげてクレーターが形成。大気圏まで舞った土塊や岩石はこの星の重力に引かれて降下。あらゆる箇所から粉塵が立ち上った。

 そこから更に魔力を込め、正面へその力を解放する。


「“樹突猛進”!」

『ガァ!』


 正面へ放つ一点集中の大樹。それをベロスさんは受け止め、地面を擦り海を越えて停止。……って、止められた……! 本当になんて耐久力なの!?

 だけど確かなダメージにはなった筈。追撃を兼ね、私は更なる魔力を込める。向こうも既に全身の筋肉へ力を込めている状態だった。


『これで終わりだ!』

「受けて立ちます!」


 踏み込み、超加速。ソニックブームを身に纏い、余波だけで海の水は割れ大地も建物も粉砕する。

 これに反応し切る事の出来ない私は、私の元へ来るであろう事を推測してカウンターの一撃を与えるのみ。


「“ナチュラルカウンター”!」

『クァァッ!!』


 ズドォン! と轟音が響き、鋭利なカウンターは粉砕。私の体も全身を強く打ち、軽い呼吸困難に陥る。

 だけど目の前には、光となって転移したベロスさんの姿が。


「や、やった……みたい……」


 最初に戦った相手でこのダメージ。ほとんど意識が飛び掛けていた。

 思ったよりも最終戦って言う舞台は大変だね……。私はすぐに治癒効果のある植物に身を包み、傷を癒して疲れを取る。

 ……だけどそう簡単には休ませてくれないのかな。


『おや、二つの気配を感じてましたが、既に一つは消えたようですね。残念です』

「はぁ……はぁ……。お馬さんの姿に一本角……ユニコーンさんですか」

『ご名答。名はユニと申します。見た感じ……いえ、厳密には見えませんが、何の穢れにも染まっていない清らかな貴女は私の好きなタイプの人間。更に言えば女性です。リタイアするのならトドメは刺さないで差し上げましょう』

「好かれるのは良いけど……リタイアは選択肢に無いかな……」

『そうですか。では、心苦しいですが打ち倒して差し上げましょう』


 一本角が立派なユニコーンのユニさん。彼女は幻獣の国出身だね。

 なぜか私は好かれてるみたいだけど、やって来て戦うかリタイアなら戦闘の一択だよね。

 多少は治療もしたし、少し痛むけど体も動く。逃げる選択肢は無いよ……!


「もう体も治ってきたから大丈夫です……!」

『そうですか。それは良かった。ではお相手願います』


 告げると同時に駆け出し、強靭な足からなる速度。鋭利な角を突き出した。

 私は即座に植物魔法で対処。しかし木々は直ぐ様貫通してしまい、歩みを緩める事無く眼前に迫る。


「なんて頑丈なツノ……!」

『ええ。金剛石ダイヤモンドも容易く貫きますよ。ルール上、貫く箇所は急所などではなく肩などになりそうですが』


 ダイヤモンドも貫くという硬度の角。

 ユニさんならそれも当然の標準装備なんだよね。

 速度は普通のお馬さんより少し速い程度だけど、正面からぶつかるだけで致命的。上手く対応しなきゃ……!


『植物で上へ逃れても無駄。私は身のこなしも軽やかなのですよ』

「そうみたいですね……!」


 トトーンと軽く跳び、それだけで上の方までやって来た。

 見たところ遠距離技は無いみたいだけど、遠くから攻め立てても攻撃と防御を兼ね備えるあの角で防がれて終わり。

 だったら角があっても意味がない方法で攻めるべきだよね……!


『貰います』

「“ファイアボール”!」

『……! 炎魔法……!』


 ボルカちゃんに魔力を込め、火球を放ってユニさんを打ち落とす。

 全身を包み込んで焼き払う炎魔法なら、ある一点が無敵だとしても効果的。落下したユニさんに無数の植物からなる追撃を叩く。


『硬度が意味を成さない炎魔法に変幻自在の植物魔法。厄介ですね』


 ユニさんは植物に足を掛けて離れ、追う植物から飛び退く。

 追撃は行うけど即座に方向転換し、強靭な角でそれらを粉砕した。


『一気に仕掛けるしか無さそうですね』

「私も負けません!」


 無数の大樹を放ち、ユニさんは跳躍で回避。植物達は都合良く足場のような形となり、その上を彼女が走り出す。


『速度も質量もありますが、一度避けてしまえば貴女への良い足掛かりです』

「そうですね……!」


 都合良く作られた足場を真っ直ぐ突き進み、正面の私へ肉薄する。

 そう、私が(・・)都合良く(・・・・)作った足場(・・・・・)をね。

 植物の表面には小さな毛を生やしており、植物性の油で浸していた。


『……いえ……これは……!』

「気付いたところでもう遅いです!」

『……っ』


 流石に気付かれたけど、油に足を取られて滑らせるユニさん。

 これで捕らえたも同然だけど、念には念を入れる。相手はそれ程の強敵。


「“ファイア”!」

『毛と油に引火して……!』


 炎魔法を放ち、通り道を焼き尽くす。

 油によって更に大きく燃え広がり、藻掻き苦しむユニさん。

 最後の一押しとして魔力を込め、一点集中の大樹を正面へ。ユニさんは角で対抗するけど炎と油によって踏ん張りが利かず、押し出されて吹き飛んだ。


『……ッ!』


 空中で意識を失ったのか光に包まれて転移。これで魔物の国のベロスさんと幻獣の国のユニさん。この二匹を打ち倒し、私は2ポイントを獲得する。


「……っ。ハァ……! ハァ……!」


 見届け、膝を着いて呼吸を荒げる。我ながらプライドの無い見苦しい疲弊。だけど本当にこのレベルで疲れちゃったんだから仕方無い。どうしても耐えられない事もあるもん。

 植物は消え去り、私は新たに作った草原に寝転がる。少し休憩……。次から次に強敵がやって来るのは大変だね……。

 何はともあれ、ダイバースの最終戦がスタート。私は早々に2ポイントを得た物の、疲労が大きく少し身を休めるのだった。

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