第二百五十二幕 代表戦・三日目終了
──“森林ステージ”。
いつものように司会者さんの挨拶があり、それを経て私達は今回のステージへと降り立った。
今回は森林だけのステージ。いつもは山河や町村の外れにある感じだったけど、見渡す限りのジャングルがそこにあった。
とは言え水の音が聞こえるので川などが流れているのも窺えられる。
早速気配に集中して相手を……って、え?
「………」
「もう見つかったの……!?」
次の瞬間に複数の矢が射られた。
まだ開始してそう間もない頃合い。私も気配を探り始めた辺り。少しでも探るのが遅れていたらやられていた……!
この的確な矢の動き。及び周りを囲む存在。
「“エルフォシア”の皆さんですね……!」
今回の相手チーム、エルフとダークエルフ達で構成された“エルフォシア”の方々。
代表戦の常連であり、私は戦った事が無いけど、レモンさんやルミエル先輩がこのチームと戦った事があると言えばその実力は分かるよね。
「既に私を囲んでいるようです……!」
「フム、鋭いな。やはりもう気配を読めるようになっているみたいだ」
「貴女は確か……レモンさん……じゃなくて、オガさんに負けたレナーさん!」
「その覚え方はやめて欲しいものだな。いや、寧ろよく覚えていたな。一瞬ルーナ=アマラール・麗衛門と混合しただろ」
今回のリーダーはレナーさん。去年新人代表戦でオガさんという魔物の国の鬼さんと戦っていた相手。
私達のブロックに特筆して抜けた人は居ないけど、それはあくまで個人の話。チームの総合力。つまり平均値は相応の高さ。全員のバランスが良いって事だね。
ステータスにSクラスの分野は無いけどオールAが沢山いるような……うーん、私には説明が難しいや。
取り敢えず、最上級レベルで使える訳じゃないけど全ての事柄が高水準って感じ。
そんな人達が徒党を組んで仕掛けてくるのはスゴく大変かも……。
「まあいい。敗北の記憶は勝利で払拭すれば良いだけだからな」
「私も負けるつもりは毛頭ありませんよ……!」
レナーさんの指示と共に二本の矢が打ち込まれる。
付いていている人は二人かな。計三人。もちろん他にも潜んでいる可能性は考慮しておく。奇襲目的だとしても現状は仕掛けて来ない筈だから保留で良さそうだね。そもそも気配はこの三つだけだし、可能性は薄いんじゃないかな。
周りに植物を張って矢を防ぎ、気配の方へと放つ。
「これが変幻自在の植物魔法ね」
「自然と共に生きるのは我らエルフ・ダークエルフなのだがな。アイデンティティを取られた気分だ」
「自然と共に生きるのと自然を操るのは違うと思うけどね。レナーさん」
植物を避け、他の二人も姿を現す。
隠れている可能性を考慮して周りの植物も操り、辺り一帯を一蹴。
一通り吹き飛ばしたけど現れる気配は無し。ほぼ確定でこの三人だけみたいだね。
もう一人多くなくて良かったけど、強敵なのは変わらない。するつもりはないけど油断出来ないね。
「フォーメーションA!」
「「はっ!」」
「え? フォーメーション?」
レナーさんの掛け声と共に他のエルフさん達が陣形を組む。そう言えばレナーさんはダークエルフだけど“エルフォシア”のリーダーを努めているんだね。みんながそれに従っているや。
そんなフォーメーションAとやら。エルフさん達が左右から挟み込むように矢を射り、私の動きを抑制。そこへレイピアを触媒とした炎魔法が放たれる。
(動きを操って仕掛けるやり方かな)
思考しながら植物を周りに放ち、矢も炎も防ぐ。
これくらいは想定内の筈。だったら次には何かしらの準備が施されている筈。周囲への警戒は怠らない。常に気配も読んでおく。
と言っても私が読む気配は魔力だから正確性はそんなに無いんだけどね。
「予想通りの動きだ。次、フォーメーションα!」
「「………」」
「え!? アルファ!? Aと来たらBとかCなんじゃないの!?」
思わぬ行動にカクンとずっこけそうになる。
それも含めての狙いなのかな。移る前に予想通りとか聞こえたし、防がれる前提のAだったんだ。
それじゃあ次はどうなるのか。
レナーさん達は矢を放ち、また同じ方法で私を狙う。ここまではAと同じ。αはなんなんだろう……。
「そこだ!」
「シンプルに火球?」
炎と火球の違いが分からない。火球の方が丸い形だからαとか? ……アハハ、そんな訳無いか。
取り敢えずまた同じように植物魔法で防ぎ、今度はそのまま周りを薙ぎ払う。どんな方法だとしても、周りが無くなれば問題も無くなる筈。
気配の数は変わらず二つ……二つ?
「はぁ!」
「……!?」
その瞬間、地面からエルフさんが一人飛び出し、私へレイピアを突き立てた。
レイピアは模擬に魔力を有した物だけど、その魔力によって威力は高まっている。咄嗟の事で反応し切れず、私は肩を貫かれてしまった。
すぐにポーションの役割を担える植物で傷口を覆ったけど、やっぱり痛い……!
「……ッ。まさか地面から出てくるなんて……下には気配を伸ばさないから気付かなかった……!」
「Aもαも基本的な動きは同じ。だが、方法に少し差違点がある。だから表記では同じAを用いたのさ」
「わざわざ説明してくれるんですね……」
「一回行うだけで行動は読まれるからな。予めそれを言っておく事でまんまと嵌められた気分にさせる事が出来、相手の士気を下げられるのさ」
「それを説明したらダメな気がしますけど……」
「だが、今現在の君はそれなりに士気が下がっているだろう?」
「それは……そうですね」
攻撃のみならず、ある意味での追加効果も付与された言葉に納得してしまう。
確かに少し意気消沈しちゃったかも。普通に攻撃されるより精神的にちょっと影響が出ちゃう。
だけどそれによって大きな事が起こるかと言えばそうではない。ほんの一瞬の隙が出来てしまうだけであり、その隙を突かれる事は理解しているから対処は可能。
「予想通り、的確な動きですね……!」
「「……っ」」
「この植物、本当に隙がないな」
動きは的確。だからこそ狙われる位置を推測して防ぐ事も出来た。基本的に相手は急所を狙ってくる。
それによって植物を二人に絡ませる事がかない、そのまま絞め落として意識を奪い去った。
「後は貴女だけですよ。レナーさん!」
「チームワークで攻めてみたが、広範囲と殲滅を得意とするティーナ・ロスト・ルミナス相手では返って逆効果だったか。まあいい。なればフォーメーションSに変えるまで」
「フォーメーションS……!」
「フォーメーションSだ!」
「一人って事じゃないですか……」
数を減らしたとは言え、レナーさんが手強いのは変わらない。模擬刀からなるレイピアを構え、彼女は私の方へと駆け出した。
それに対して植物を放ち、無数の攻撃を降り注がせる。
「はっ!」
「捕まえられない……!」
レナーさんは軽やかかつ素早い動きで植物を躱す。
蔦を切り伏せ、樹木を駆け避け、身を翻してすり抜ける。
一瞬にして私の眼前へと肉薄し、レイピアが突き出された。
「……っ」
「フム」
「……ッ!」
レイピアを避けたところに腹部に回し蹴りが差し込まれる。ダクさん程じゃないけど重い一撃。
でも植物のガードは間に合っている。間に合ったと言ってもちょっと和らげたくらいだけど、植物で足を絡めて捕縛……する前に抜けられちゃった。
「動きが……単純な速さだけならダクさんやレモンさんの方が上なのに……!」
「撓やかだろう? これもまた特徴の一つだ」
「……!」
木々の隙間を抜け、レイピアが向けられる。次の瞬間には高圧の水が放たれ、私を守る植物が切断された。
魔法の大きさや威力も変幻自在。エルフは魔族以上に魔力の使い方に長けている種族だもんね。初級魔法ですら工夫次第で上級魔法に匹敵するレベルになりうる。
「さあ、踊れ!」
「……っ」
守りが崩され、風魔法からなる刃が私の体を傷付ける。
周りに植物があるから威力が弱められているけど、直撃してたら間違いなく意識なんて簡単に失っちゃう攻撃。
レナーさん相手に長期戦はマズイかも。隙は少ないけど、上手く見極めて終わらせなきゃ……!
「周りの植物が厄介だ。一気に決めるとしよう」
「……!(これなら……!)」
一通り攻撃し、水と風によって細切れになった植物へ対して完全焼却を目的に放たれる炎魔法。私は逆にこれを好機と取る。
この魔法を利用して、レナーさんを倒す……!
「はあ!」
「──“ススキ”……!」
「……? より炎を?」
放たれた炎に向け、ススキ畑を形成。火はより大きく燃え広がり、辺り一帯が大火事となる。
炎と煙で周りが見えなくなり、レナーさんは口を開く。
「炎に紛れて不意を突くつもりか? 残念ながらそれは無意味だ。私の反応速度の方が君より遥かに高い。窒息による失神を狙っていたとしても私の周りに空気の膜くらいは貼れる」
そう、仮にこの炎に紛れて仕掛けたとしても反応され、カウンターを受けるのが関の山。自在の魔法があるから環境による気絶も見込めない。
でも違う。私には私の考えがあるの。
それは──
「“スナバコノキ”……!」
「……!」
植物による加速の付与。
時速二〇〇キロ以上で実を飛ばすこの植物を改造し、より速く私の体に作用させて炎の中から飛び出すやり方。
その際に受ける付加は魔力のコーティングと纏った頑丈な植物で抑え込み、自分自身でも周りの動きが分からなくなるから後は勘と気配でレナーさんの居場所を特定。
時速一二〇〇キロ以上の速度で突撃し、ソニックブームと共にその体を吹き飛ばした。
「この力は……!」
「やあああァ━━ッ!」
射出されたら飛んでいくだけ。なので呪文も叫び声も意味がない。だけど何となく気合いを入れ、強固な植物を纏って突進する。それにより、遠方に粉塵が上がった。
速さでクラクラしながらそちらを見やり、光の粒子が転移した様を見届けた。
「や、やった~……ウプッ……」
喜ぼうとしても吐き気がし、取り敢えず私の体をそのまま植物で包んで保護。周りのジャングルに同化する。数分は横になっていたいかな……。
それから少し経て試合に復帰。続けて多くの相手を倒し、私達“魔専アステリア女学院”は好成績を収める事が出来た。
そして──
*****
《──集計の結果、一位は“魔専アステリア女学院”となります!》
「「「どわああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!!!!」」」
「ウオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォッッッッッ!!!!!!!!」
『グギャアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァッッッッッ!!!!!!!!』
『キュオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォンンンンンンンッッッッッ!!!!!!!!』
私達は無事一位でこのブロックを通過する事が出来た。
それにより、一先ずの目的を達成する。
《さあ! さあさあさあ!! これによって三日目の総合得点が決まりました!! 明日のブロック分けはこちらァ!!》
モニターに映し出された“魔専アステリア女学院”。“神魔物エマテュポヌス”の文字。
そう、私達は明日行われるダイバース代表戦最終日、見事最優秀ブロックへと進出する事が決まったのだ。
「やったな。ティーナ殿ら。私達は残念ながら人間の国で二位。しかし、最終的には国の総合得点が優勝を決める事となる。誠心誠意、恥にならぬよう試みるさ」
「レモンさん! ありがとー!」
最優秀ブロックへの進出を祝福してくれるレモンさん。けれど本番は寧ろ明日。“神魔物エマテュポヌス”のみならず、魔族の国、幻獣の国にも置ける最優秀成績を収めた人達が出場する訳だもんね。
これまで以上に一筋縄じゃいかない試合になる筈。より一層気合いを入れていかなきゃ……!
これによって三日目の全行程が終了。私達は好成績で明日に臨む。
その後みんなで祝勝会、及び明日へ向けての決起会を行い、英気を養う。明日への準備も万全に、三日目が終わりを迎えるのだった。




