第二百四十九幕 点取り合戦
「──“樹木大行進”!」
『くっ……!』
植物魔法による制圧、及び質量の進行。
それによって残り一匹となる幻獣さんを倒し、私達は三日目の第一試合を終えた。
今回の試合は昨日の第一試合より楽……って程じゃないけど、比較的余裕を持って勝てたね。昨日は本当に満身創痍だったから。この調子なら第二試合も私が出る事が出来るけど、今回の主体はそこじゃないと思える。
会場に戻り、ボルカちゃん達と一緒に舞台へ。司会者さんの話が終わり、段下でおそらく三日目で一番の目玉と言える二人が準備をしていた。
「見事であったぞ。ティーナ殿。良い勝利だった」
「フッ、迷いのようなものが消えている。戦う機会があれば手強そうだ。ティーナ・ロスト・ルミナスよ」
「レモンさん。シュティルさん」
現在、中等部での人間の国最強と魔物の国最強。その二人。和やかなムードであり、気さくに私へ話し掛けてくれた。
でも意外だね。
「一緒に行動してるんだ。二人とも」
「まあな。シュティル殿はライバルだが、友と言える間柄。試合が始まれば手を抜かず全力で叩くが、試合前の休戦の最中は共に行動した方が楽しかろう」
「そう言う事だ。君だって試合前の相手と親しく話したりするだろう?」
「アハハ、確かにそうかも。お友達だと事前まで普通に対戦相手でも喋っちゃうや」
「試合前が為、敢えて話さず辛辣な態度を取る者も居る。情を湧かせぬ為の行為として否定はしないが、直ぐ様切り替えられる私やシュティル殿はその必要もないのだ」
「そうだな。今後に要らぬ亀裂が入ってしまう可能性もある。私達は基本的に平和主義者だ」
との事。
二人の意見には同意だね。これから戦う相手。手を抜く方が失礼だと判断し、わざとギスギスさせる事を言う人も居るかもしれないけど、私も二人みたいにライバルであっても仲良くしたい側の人間だから気持ちが分かる。
あくまで試合って事も認識してるし、不仲を演出する必要もないよね。
そしてボルカちゃんもそこに入ってくる。
「んで、そんな仲良しの二人に質問だけど、どっちが勝つつもりだ?」
「フッ、ボルカ殿。それは愚問というもの」
「ああ、その様な事は既に決まっているからな。無論」
「「──私が勝つ……む?」」
ボルカちゃんの質問に対して口を揃えて話す二人。こうして見ると本当に仲良しだねぇ。
そんな頻繁には会ってないと思うけど、なんか雰囲気も似てるし気の合うところが多いのかな。
レモンさんとシュティルさんは言葉を続けた。
「その心意気は結構だが、あまり大口を叩くと恥となりうるぞ? シュティル殿」
「その言葉はそっくりそのまま返しておこう。しまったな。あまりに分かりやすい挑発が為、もう何も言う言葉が思い付かない」
「…………」
「…………」
「「ふっ、ハハハ! なんてな!」」
ギスギス演出。まさにこんな感じ。私もやった事あるかも……。親しい仲だから成立するなんちゃって挑発だね。
一頻り笑い飛ばし、レモンさんとシュティルさんは壇上へと足を踏み入れた。
「元より勝利はするつもり。歪み合っても致し方あるまい」
「そうだな。互いに悔いを残さぬ試合とする。それのみを心掛ければ問題無いさ」
「では、良い試合に。シュティル・ローゼ殿」
「ああ。ルーナ=アマラール・麗衛門よ」
「やっぱ似てんなー。あの二人。堅物っぽいところとか」
「アハハ……そんな事無いよ。ボルカちゃん」
強敵との試合を楽しみにしている様子の二人。ルールは今までと変わらないポイント制。司会者さんのチーム紹介が終わり、レモンさん達は今回のステージへと転移した。
*****
──“混合居住区ステージ”。
「フム、今回のステージは此処か」
転移し、降り立った場所は私達の国“日の下”とティーナ殿達の国にある平均的な居住区が合わさったようなステージ。
木造建築と煉瓦造りの建築が並んでいるのは少々違和感があるな。元より建物という物は住む場所によって変わる。私達の国は自然災害が多い為、それに耐えうる造りが主体。
対して世界的に広く位置する街は煉瓦が多く、ビジュアルなどを優先した様相。無論、耐熱や耐寒など理由は様々。
故に、継ぎ接ぎにも等しき組み合わせによって違和感のある街並みとなっておる。雲行きもどんよりとした曇天の空模様。今回のステージはどっち付かずの物であるな。
「……さて」
一言呟くように告げ、周りへの気配を探る。
此度の本命はシュティル殿だが、初手に彼女と相対し、疲弊しては元も子も無い。一先ずは最低限のポイントを獲得し、存分に戦えるようになってから挑むが吉。何れのチームも此処まで最高得点を得たところ。油断は出来ぬな。
「……では参るか」
幾つかの気配を探り、そちらへと赴く。
吸血鬼はその雰囲気から気配も掴み難く見つけにくいので早々に当たる事は無さそうだが、その性質から常に片隅に留めて置かねばなるまい。いつ何処で襲撃があるやも分からぬ。
「……見つけたな。──やあやあやあ! 我こそはルーナ=アマラール・麗衛門! 貴様らを討ち、我がチームの糧としてしんぜよう!」
「ルーナ=アマラール・麗衛門……!」
「相手にとって不足は無ェ……やっぞ!」
見つけたのは私達と然して変わらぬ容姿。即ち魔族の者達であろう。
様々な魔導を操り、人間よりも高い身体能力を有する人間の上位互換とも言える相手。
不足はない。
「“炎”!」
「“風”!」
「ふむ……」
炎魔術と風魔術の同時展開。先ずは様子見と言ったところか。
だが、私は電光石火の速度で討ち仕留める。今までの試合を見ていながらそれに気付かないのか、気付いた上で温存しているのか。
何れにせよ初手が初級術なのは有り難いな。
「貰い受ける……!」
「「………!」」
更に踏み込み、威力の上がった炎を回避。刹那に懐へと入り、木刀を振るって二人を吹き飛ばした。
しかし流石は此処まで残った強者。それだけでは意識を失わず、即座に立て直して私の方へと嗾ける。
先程の比にはならぬ威力の魔導が放たれ、私の体は包み込まれる。自らの視界を奪うとは愚かな者よ。
気配に探りを入れて場所を特定し、先よりも強い力で二人を打ち抜く。それによって二人は光となりて転移し、私に二得点が入った。
「…………」
討ち取ったのを確認した後、次なる地の標的に狙いを定め、そちらへと赴く。
幻獣や魔物の者達は種類の多さも相まり、肉体構造からして急所などにも違いがあるからな。戦いやすいのは魔族の者達。気配も掴みやすく、良き相手だ。
本命の前になるべく点を取る。私情も良いが、チームを勝たせるのが最も重要だからな。
「……! ルーナ=アマラール・麗衛門!」
「気付いたか。元々名乗るつもりではあったが、丁度良い。お相手願い申す」
「上等。やってやらァ!」
何より魔族の者達は逃げも隠れもせず正面から向き合う精神性を有している。
今大会のルールに置いて好ましい相手だ。
「オラァ!」
「中々の速度だが、私の方が速い」
「……!」
放たれた拳を紙一重で躱し、身を翻して裏拳が如く木刀を叩き付ける。
首元を狙ったが魔族の強度でまだ意識には届いていない。
即座に動きを変え、更なる連撃を叩き込んだ。
「……ッ」
「これで終わりだ」
鳩尾を一突き。その体を吹き飛ばす。複数の建物を貫通した後、光となって転移したのを確認。
さて、他には……。
『カァ──!』
「向こうから来てくれたか」
幻獣か魔物か、一目で見分けを付けるのが難しいな。向こうからしたら人間と魔族もそうなのだろう。
何はともあれ、来てくれたのなら好都合。急所は分かりにくいが、鼻先と首元辺りは大抵弱点となるだろう。
吐かれたと思しき炎を避け、踏み込んで眼前へと迫り行く。
『ガァ!』
「この凶暴性……魔物殿か」
なればシュティル殿の仲間。
向こうの戦力を削ると言う意味でも誠に都合良き事よ。
巨腕と爪を避け、身を合わせて首筋に木刀を打ち付ける。魔族よりも耐久力が高き魔物。図体がそのまま防御へと直結するので当然よの。
その分補う攻撃を放てば良いだけ。
「一瞬で討ち仕留める」
『……!』
図体が大きければ的も広がる。私の剣速ならこの間隔で数十回は当てられる事だろう。
それでも足りないのなら更に嗾けるのみ。簡単な事よ。
「はっ!」
『……ッ!』
身を低くし、突き抜ける。顎を打ち上げ、頬を叩き、腹部を突いて体を舞わせ、頭上から振り下ろして地面に叩き付けた。
バウンドして揺れ、空中に浮かんだところで回転斬り。身が揺らぎ、今一度力を込めて抜き、リラックス状態から一気に斬り込んだ。
「終幕よ」
『──!』
一瞬にして数十回の攻撃。魔物殿は揺らいで倒れ、動かなくなる。そのまま光となって転移した。
これで4ポイントか。まだ足りない気がするな。
(向こうでも幾つかの気配がほぼ同時に消えている。シュティル殿はそこに居るようだ)
このまま行けば彼女と当たる。しかし気配が一つ通り道にあるな。
なればその気配を打ち消し、5ポイントを所持した上で挑むか。
『……! ルーナ=アマラール・麗衛門さん!』
「第一声はほぼ同じよの」
丁寧な言葉遣い。加えて人から離れた見た目。幻獣の者か。既に私にも気付いた。いざ参る。
『はぁ!』
「幻獣殿は相変わらず変わったエネルギーを有している」
『私達からすれば世間一般に広く伝わっている魔力の方こそ不思議に思いますがね。同じ幻獣の分類であってもエルフの皆様は使いますし。それに、それすら有していない貴女がそれを言えますかね』
「そうか。思えば私の方が周りからしたら奇っ怪な存在だ」
エネルギーを躱し、木刀で逸らして反射。向こうへ返し、眼前へと詰め寄って複数回の剣撃を打ち込んだ。
『……!』
幻獣殿は怯みを見せ、その体が揺らぐ。
魔物殿に比べれば耐久力は低い。一度怯みを見せれば容易に勝利を収められる。
「出会って早々悪いが、終わりだ」
『……っ』
怯んだ一瞬のうちに急所を見定め、その箇所へ複数回の攻撃を与える。それによって幻獣殿の意識は遠退き、力を込めた一撃を打ち込み意識を消し去った。
光となって消え去り、静まり返った街中に一つの足音が響き渡る。
「……主なれば音を立てずに首筋を狙えたろうに、律儀な者よの」
「そうでもない。仮に気配を消したとしても君ならば見つけてしまうだろう。だから堂々と正面から現れたのさ」
シュティル・ローゼ殿。
気配も消さず音も立てる。彼女らしからぬ目立ち方。私を侮っているのか、彼女なりの敬意か。
何はともあれ、出会ったのならやるべき事は一つ。
「主の所得ポイントは?」
「5ポイント。知っているのに態々聞くとはな。短い間隔で消えた気配からして君も同じだろう。レモン。さて、果たして君は私の不死性を突破して意識を奪えるのか」
「吸血鬼の弱点は日光に銀に十字架等々。多いは多いが、このステージでそれらが用意出来る保証も無い。難儀な相手になる事しか分からんよ」
「まあ、あくまで意識を奪えば勝利だ。殺し合いではない。乱世はかつての英雄達が鎮め、終わりを告げた。その事に感謝の意を示し、子孫である私達が純粋なゲームを楽しむとしようではないか」
「そうよの。去年の無念。此処で晴らすとしようか」
「王者として、此処で引く訳にはいかないさ」
去年の代表新人戦にて敗退を喫している私。その雪辱戦を今此処、同じ代表戦の舞台で執り行う事となるのは何の因果か。お天道様の指し示す道がそれなら受けて立つ。
私達による代表戦、本選。私とシュティル殿の戦闘が始まった。




