第二百四十六幕 支離滅裂
「……っし、多少は体が軽くなったな。なんか周りの植物が増えたり減ったりしたけど……ティーナは大丈夫か? 一つの気配も消えちまった。早く向かわなきゃな」
衣服の代わりになる物を身に付け、魔力の出力も確認。既に簡易的な治癒魔術で回復はしたし、動く分には問題無い。
後は……。
「中ボスを倒さなきゃか」
「中ボスってそりゃ無いよー。確かにダクさんよりは弱いと思うけど、今の弱っている貴女よりは強いと思うな~。私」
アタシの前に現れたのは去年ティーナが戦ったリテ。万全なら余裕……って程じゃないけど、まあ勝てる範疇。けれど今の状態で戦うのは少し億劫だ。
でもどうせこの思考もテレパシー的なので読まれてるだろうし、回復し切るまで待ってはくれないか。
「よく分かってんじゃん。弱っている今の貴女なら余裕を持って勝てそう」
「そりゃどうかな。少しは時間経ってると思うけど、数十分程度でディーネと戦った疲労が完治するとも思えないぜ」
「対戦相手も分かっちゃうんだ。貴女の気配読み、かなりスゴいね。昨日まで上手く使えなかった存在とは思えないや」
「アタシは天才であり秀才だからな。コツさえ掴めば大抵の事は何でも出来るんだ。ま、現時点での無理難題はいくつかあるけどな」
「無理難題?」
「ルミエル先輩に勝てとかイェラ先輩に勝てとか、今のアタシじゃ難しいな」
「それは今この世に生きとし生ける全生物がそうだよ」
取り敢えず、やる事は変わらない。回復の超能力もあるだろうけど、使えば使うだけ消費するのは魔力も超能力も変わらない。と言うか常人の体力とかもそうだ。“力”って付く物は大体そうだな。
見た感じ常に超能力で移動や捜索もしていたみたいだし、そこそこ疲れてんだろ。
「条件は五分と言ったところだ」
「それは無いと思うけど。だって貴女、ボロボロだもの」
「ボロボロボルカって訳だ」
「何それ……なんで妙にドヤってんの……何も上手くないんだけど……」
「いいんだよ」
「何が!?」
刹那、アタシは炎で加速し、リテとの距離を詰め寄る。
同時に炎剣を生成し、振り抜いて薙ぎ払った。リテは紙一重で避け、片手に力を込める。次の瞬間にアタシの周りは陥没して粉砕していた。
「会話で気を逸らして仕掛けたのね。でも、私の前で不意討ちは無力。殆ど意味を成さないよ?」
「ああ、そうみたいだな。けど、少しはたじろいだろ」
「貴女の突拍子も無い発言にはね。完全に反射的に話してるから思考が読めようと関係無かったもの」
そんな感じで、テレパシーにも弱点はある。思考を読めたところで意味を成さない程の質量や速さで攻め立てたり、不慮の事故や反射的な事柄等々。
ティーナは質量を用いて攻略したけど、アタシは得意の速さも今はまだ万全じゃないから雀の涙。ひたすらに仕掛けまくって不慮の事故狙いが最適解だ。
「“ファイア”!」
「遠距離から攻めたとして……」
「そら!」
「炎に紛れて仕掛けて来ても無駄だよ」
現状、消費を少なく使える初級魔術で牽制して死角から仕掛けてみたけど無意味。
だったらと次のやり方だ。
(右斬り!)
「……! 左から……」
思考と体の動きを逆にする。予め脳内でプロセスを組んでおけばやれない事じゃないしな。
とは言え、アタシから見た右は向こうからしたら左だからあまり惑わせず割と余裕を持って避けられる可能性はあるけど、より多くの思考をしながら仕掛け続ければ問題無い。
更に言えばリテは常に動きを読んで行動するのが癖になってる。常人の感覚で左右の判断をするより正確だろうし、逆手に取れて上手く誤魔化せる。
因みにこの思考も敢えて分かりにくくしている。少しでも相手を混乱させるのが目的だからな。左右がゲシュタルト崩壊すると良いな。
(振り下ろし、下段斬り、左袈裟斬り、薙ぎ払い)
「斬り上げ……上段突き……右……あ、ちゃんと左だ……それに……もう! 訳が分からないよ!」
本音も交えてより混乱させる。アタシも混乱しそうだけど、一通りやりゃ反射的に動かして上手くやれるさ。
もっともっと混乱させてやるぜ!
(~前回のあらすじ~byボルカside魔族のゾルを倒すために炎と雷がぶつかって怪我してしまって回復して体力が戻らず不完全な状態で魔族のリテと戦う事になった)
「なんか急に始まった!? 要領を得ず拙い支離滅裂な紹介文! 回復したのにしてないの!? ゾルを倒したかも不明!」
(違うな回復はしたけど体力は回復しなかったんだけどゾルを倒したアタシは次なる強敵のリテと相対したけど傷も癒えないけど三回戦へ持ち込む事になる)
「えーと、ゾルは倒したんだよね。と言うか倒されちゃったんだ。気配は無くなったよね。うん。って、それは既に知ってる事だよ! 私も理解力が……!? ……あれ、でもやっぱり回復はしてなくて、それにゾルと私で二人だけなのに三回戦って」
(その前にラームと戦ってそれに回復はしたが完全じゃなくてゾルの後に回復したけどラーム戦の後には回復してなくてゾル相手に苦戦して回復してリテと相対して今に至る)
「あー! もう分からないよー!?」
アタシも途中で何を思ってるか分からなくなったけど、混乱している今がチャンス。
少量の炎で加速し、リテの懐に炎剣を振り抜いた。
「しまっ……!」
「炎剣なら、魔力を抑えつつ確かなダメージを与えられる!」
打ち付け、吹き飛ばす。あくまで炎だから刃とはまた別だしな。
しかし熱による直接的なダメージ。それはキツいものがあるだろう。ゾルと違って炎に耐性も無いし、それなりに効果的な筈だ。
「へへ、やりぃ! 思考を読む事に集中し過ぎるとこうなんだよ! 超能力者!」
「くっ……仕方無い。こうなったらテレパシーをオフにしなきゃ……!」
「本当にオフにしたのかー? わざわざ言葉に出して言うなんて怪しいぜ」
「確かめてみたら!」
「そうだな」
改めて複雑な思考をしつつ攻めてみる。しかしその攻撃は簡単に回避された。
動きをちゃんと見てんな。複雑な思考をするとアタシの動きも短絡的になっちまうし、避けやすいモノではあるけど、さっきの取り乱し方から考えて今の対応はテレパシーを切ってると認識して良さそうだな。
でも選択肢には入れている。思考を読まれるのはそれだけで大変だからな。完全に消し去る訳にはいかないぜ。
「よっと!」
「魔力が少ないから近接戦メインになってるけど、超能力者は身体強化も出来るんだよ!」
剣を薙ぎ払い、リテは紙一重で躱す。
サイコキネシスで身体能力を高めてんな。具体的に言えば軽くしたりして可動域や速度を高めたりと色々だ。
念動力自体が内部に直接働き掛けたりするし、全部分を補える便利な力。
とは言え、魔力による身体能力強化とそう変わらないからこう言う相手には慣れている。問題は他の能力だな。
「それ!」
「……ッ! 衝撃波……!?」
「ちょっと違うかな~。さて、何でしょう~?」
「ハッ、体内を抜けてるし、“フォノンキネシス”か“エアロキネシス”辺りだろ!」
「うーん、流石はボルカ・フレムちゃん。すぐに見破ってくる。でも、確かな一撃は効くよね~」
「全然!」
「強がり~!」
基本的な攻撃方法は“フェノメナキネシス”って言われる物の類い。
ま、要するに“サイコキネシス”の派生だ。アタシのやる事は変わらない。身体能力強化に炎の加速を少し交え、リテへと嗾ける。
「弱ってるのに速いね~」
「まあな!」
振り、払い、突く。いくつかは躱され、いくつかは防がれる。
流石にゾル戦のダメージが響いているけど、そのくらいの限界は越えなきゃな。じゃなきゃ既に控えメンバーと交代している。
更に踏み込んで加速し、リテの眼前へ手を向けた。
「“ファイア”!」
「またそれ?」
「ああ!」
炎を放ち、念動力のバリアでガードされる。そこから炎剣を打ち込んで弾き、魔力を込めて一点に突きを放った。
「……っ」
「硬いけど、今のアタシにもギリギリ貫けるくらいのバリアで良かったぜ!」
「これでも鉄の強度は優に越えてるんだけど……!」
バリアは貫いたけど、当たりはしなかったな。狙いが少し逸れちまった。念動力の中ってのは思ったよりグニグニしてんなー。
一点集中の一撃なら通る事が分かったのは収穫。剣尖に僅かな魔力を込める事で可能だから魔力の減っているアタシにも勝機はある。
「もう! 厄介だなぁ!」
「……!」
次の瞬間にアタシの体は吹き飛ばされ、数百メートル先の更地となった地面に転がる。
樹への衝突ダメージが無いのはいいとして、単純に飛ばされるだけでもキツい。でも楽しいぜ!
「これでおしまい!」
「……! “テレポート”か!」
「ご名答! そして倒す!」
「……っ」
“テレポート”を用いて一瞬で距離を詰め、アタシを空中から見下ろす形として“サイコキネシス”の重力波を押し付ける。近いのは“アースキネシス”とかか?
どちらにしてもこの重圧はヤバい。既にある程度のダメージを負っているのもあり、アタシの意識は途切れ途切れになる。あれだ、授業中メチャクチャ眠くて辛うじて起きている時の印象。気付いたらヘニャヘニャの文字がノートを埋め尽くしてるんだ。
何はともあれ、この状況はマズイ。何とか抜け出さなくちゃ。
「“打ち上げ花火”!」
「……!」
地面に炎魔術を放ち、打ち上げられるように跳躍。サイコキネシスの重圧から抜け出す。
向こうも意識を奪うしか出来ないから脱出するくらいの猶予はあったぜ。
魔力はそこそこ消費するけど、まだ大丈夫な範疇。残りの魔力量を数値化するなら15%ってところかな。そろそろ切れると思いきや割と持ちこたえる感じ。1%になったらそこからの粘りはすげェぞ。
とは言え、大量に使う訳にはいかないから節約しながら行動に移す。
「空中は私のテリトリーだよ!」
「アタシも空中戦は苦手じゃない!」
ボルトキネシスからなる雷撃が迫り、それは手から放った炎で横に逸れて避ける。
空気中の物質をサイコキネシスで操って電気を作り出すこの超能力。触れてから伝わる速さは雷速でも、単純に進む力はそうじゃない。サイコキネシスと同じくらいだ。決して遅くは無いけどな。
炎を小出しにして微調整をし、その勢いで移動してリテへ迫る。
「そこ!」
「今なら……!」
「……! テレパシーの復活か」
「え、もうバレた!? あ、消さなきゃ!」
ある程度時間を置いた後ならテレパシーも使ってくる。当たり前だよな。基本的には出し得なんだから使わない理由がない。
けど回避とかの動きが明らかに変わるから読み取るのは簡単。即座に複雑な思考に切り替えたけど、相手も直ぐ様切断したから伝わらなかったか。
んでも、対処法は見つけた。そして今はテレパシーを使ってねえみたいだから行動に移せる。
「“ファイアランス”!」
「“パイロキネシス”!」
「アンタも呪文名とか言うのか」
「なんか気分が上がるでしょ?」
二つの炎が正面衝突。リテはすぐにテレポートで死角へと回り込み、アタシは周りに薄い炎の膜を貼って防御。
魔力量から強度も範囲も全然だけど、気休め程度にはなる。
「地味に厄介。“アースキネシス”!」
「土塊や礫での攻撃か!」
鉱物を操り、それらを投擲して嗾ける。
サイコキネシスでもやれそうなもんだけど、多分普通に土や石を投げるのとは威力が違うんだろうな。まず間違いなくアースキネシスの方が上だろう。
石類は炎剣で弾き、足から炎を放出して加速。リテの前に攻め入った。
「これくらいなら……!」
(刺突からの斬り上げ!)
「……! 思考と動きが……! もう対策されたの!?」
薙ぎ払い、斬り付けた後で至近距離の炎。リテの体に確かなダメージが入る。
テレパシーの対処法、それはさっきと同じ。思考と行動を逆、もしくは全くの別物とする。
相手は宣言してないけど、前述したようにどのタイミングで使うかは分かる。そこに合わせて仕掛けただけ。
そしてもう、二度目は通じないだろうから次の対策を練らなきゃな。
「これがボルカ・フレムちゃん。現“魔専アステリア女学院”のトップ層の実力……! ティーナちゃんとは戦った事があるけど、君は別ベクトルでの強さだね」
「まあそうかもな。と言うか差別化する為にそうしてるって言ったところだ。ティーナが遠距離や盤面の制圧を担ってくれるからこそ、アタシはその領域で自由に飛び回れる強さを身に付けたって訳だ。とは言え、アタシとティーナは互いの実力から二手に分かれる事が多いからあまり手は組めないんだけどな」
「そうなんだ。それでも、弱っている今の貴女なら勝てる……! 思考が乱されたけど、私の方が体力は残っているから!」
「ハッ、それが敗因だ。思考を読み過ぎて必要無い攻撃まで食らってんだろ」
「……!」
「……今とかな?」
言葉で動揺を誘い、一瞬の隙を突いて炎剣で急所を打ち抜く。
手応えあり。大きなダメージとなり、リテの体は揺らぐ。次の瞬間に強い念力が解放され、周りの大地が浮き上がり空に複数の島が作られた。
「確かにそうだった……ちょっと油断し過ぎたね。万能に近い超能力の過信ってところかな……だから……これでケリを付ける……!」
「フゥ……そうか。んじゃ、さっさと終わらせようぜ」
意識を辛うじて保ち、ゆっくりと呼吸を整えて向き直る。それはアタシの方かリテの方か。
アタシ達のダイバース。二日目第一試合。終わりに向けてのカウントダウンが始まった。




