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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部二年生
245/457

第二百四十四幕 佳境へ

『どうやら此処までのようですね』

『その様だな。しかし、消耗しているのはそちらも同じ』

『決着と行きましょうか……!』

『受けて立つ……!』


 幻獣と魔物が向き直り、互いに力を込める。この一撃でどちらが倒れ、どちらが残るのかは神のみぞ知る。

 両者は睨み合い、その力を一気に放つ。


『カァ──』

『ハァ──』


 体内のエネルギーが押し出され、その余波によって地表が抉られる。

 勝利の女神が導くのはどちらの存在か、その決着が今。


「“フレイムバーン”!」

「“雷霆サエイクァ”!」


『『──!?』』


 ──神は見放した。

 

 ボルカとゾルの上級魔術が衝突を起こし、巨大な爆発を引き起こす。

 既に消耗していた幻獣と魔物が耐えられる訳も無く、炎に焼かれ雷に打たれ二匹は仲良く意識を失い二人にそれぞれ1ポイントが入る。


───

──


「ん? 今なんか当たったような……」

「さあな! 余所見てると火傷すんぜ!」

「火傷させるのはアタシの専売特許だ!」

「俺もだよ!」


 炎で高速移動しつつ、アタシ達は両者共に魔力を込める。

 何かあった気もするけど、相手が相手。そんな余裕もない。


「そらよっと!」

「オラァ!」


 アタシの炎とゾルの炎雷がぶつかり合って衝撃波を散らし、更地を更に削った。

 さっきそれなりの大技を使ったんで互いに節約も兼ねて無詠唱の魔術。威力は抑え気味だけど、余波で周りが破壊されちゃうくらいはあった訳だ。

 衝撃に弾かれてお互いに距離が置かれ、瞬時に詰め寄る。炎に雷。アタシ達の中で行われる戦闘に使う属性はこの二つだけど、性質的に近接戦主体ってのは多分違う気もする。

 ま、今さら変えるつもりも無いんだけどさ。


「“加速拳”!」

「“電磁バリアアルカフルマグナティシュ・ハジズ”!」


 炎で加速させた拳を打ち付け、それは電気からなるバリアで防がれる。

 攻撃したら逆に痺れちまうな。雷ってのはこの辺が厄介だ。常人に魔力強化が無かったら数千ボルトで死ぬ可能性がある訳だしな。

 まあ、アタシは耐えられるから問題無いんだけどね。


「“フレイムインパクト”!」

「至近距離で……!」


 電磁バリアごと炎で焼き払い、焼き尽くす。

 ゾルはなんとか脱出するけど、こういう時咄嗟に逃げる方向も心理学的なやつで分かるんだ。多分!


「“火柱フレイムピラー”!」

「呪文の言葉や長さが変わるのは何でだ!?」

「さっきも言ったように気紛れだぜ!」


 避けた先へ火柱を立て、下方からゾルを焼く。火耐性はあるから一筋縄じゃいかねぇぜ。

 炎からも抜け出し、そこへ炎剣を構えて斬り掛かる。


「そらよ!」

「……ッ!」


 斬り裂き、発火。ゾルは炎と雷を込めて体勢を立て直し、アタシの炎を自分の炎で掻き消した。

 次いでバチッと小さな破裂音が響き、アタシの背後へと回り込んでいた。


「“ゼロ距離雷撃ソフィルマサーファ・ラアド”!」

「させっかよ!」


 バリバリと激しく瞬き、背面を炎で護って防ぐ。

 炎と雷はぶつかり合い、目映い光を放ち周囲を飲み込む。互いに眩しくて熱い存在。見た目はかなり派手だな。


「“フレイムスピア”!」

「防御をそのまま攻撃に……!」


 炎の壁を槍へと変化させ、相手へと放つ。

 ゾルは紙一重でかわし、掠ったが軽傷。回転を加えた雷が放たれ、飛び退いて回避。足元の地面が割れる。

 向き合う形となり、二つの炎を同時に撃ち合い巨大な爆炎と共に火柱が築かれた。

 その爆炎の中を突き抜け、アタシとゾルは互いに距離を詰めて魔力を込めた。


「“ファイア”!」

「“ショーラ”!」


 至近距離で放たれた二つの炎。爆炎を更に大きく盛り上げ、周囲に大きな熱風が吹き荒れた。


「フッ、どうした~? 炎と雷を使えるからアタシよりも強いんじゃなかったのか?」

「抜かせ。テメェこそ単一に特化しているから俺以上なんじゃなかったのか?」


 ゾルは炎を解禁したものの、別段戦況に大きな転機が訪れた訳でもない。

 そしてまあ、アタシとしても決定的な一撃を与えたりしている訳でもなく拮抗している。見た目はとても派手なんだがな。

 悔しいけど双方の実力は同程度。耐久力は多分向こうが上。アタシも一戦交えた後に来ているけど、ゾルはビブリー戦後の状態でこれだもんな。とは言え総合的なダメージは向こうの方が多い筈。決定打を与えられればアタシの勝ちが決まると言っても過言じゃない。


「取り敢えず、此処からは使用魔導の大多数を七割以上にして相手にすっか」

「全力は出さねェのかよ。ケチだな」

「オイオイ。それは違うような気がするけど。まあ、アンタにとっちゃ体力温存がケチ扱いは分かるかもな。そう言う性格だし」

「そう言う事だ。っても、俺も全力は出してなかった。此方も少しずつ上げてくか」


 互いに力を解放していく方針。手強さを思えば妥当な判断。全体的に数の気配も減ってってるし、少しくらい消耗したって問題無い筈だ。

 アタシ達は魔力を強め、それを叩き込む。


「“フレイムフィスト”!」

「“火炎の拳(ショーラ・カブダ)”!」


 二つの炎からなる拳が正面衝突を起こし、燃え盛る炎陣が形成された。

 まだまだ小手調べ。力を強めていく訳だからな。上級魔導に移行する。


「“ファイアストーム”!」

「“雷の嵐(ラアド・アーシファ)”!」


 吹き荒れる炎の嵐と雷の嵐がぶつかり合い、天候を大きく変化させる。

 地獄の乱気流って感じだけど、更に強めてくぜ。相手が倒れるまで!


「“フレイムランチャー”!」

「“雷の大砲(ラアド・ミドファウ)”!」


 特大の弾を撃ち込み、大きな爆炎が舞い上がる。その爆発の中を電力がほとばしり、周りの空気を焦がした。

 爆発か。だったら!


「“ファイアエクスプロージョン”!!」

「“炎の爆発ショーラ・インフィジャール”!!」


 今度は相手もアタシに合わせた爆発魔術。前にも言った気がするけど、爆発ってのは衝撃波が主体の無属性だからな。属性を付与する事で多様性は広がる。

 さっきの爆発よりも大きな影響が周囲を包んだんだろうけど、既に何も残っていないから分からない。だったらやっぱりこの技しかねえな!


「──“フレイムバーン”!!!」

「──“雷霆サエイクァ”!!!」


 互いに二回目の超大技を繰り出し、さっきよりも遥かに大きな範囲を飲み込む。でも、埒が明かない。そろそろトドメと行きたいところだけど、今現在のアタシが出せる最大の技でこの成果。もう一息とは言え期待は出来ないか……。


「……いや、違うな」

「……あ? 何言ってんだ?」


 今現在のアタシじゃゾルへの決定打にはならない。違う。それは本当に違う。根本的な考えが。

 そうだよ。今大会でアタシは割と上々に気配を読めるまで成長した。だったら次は今までの最大を越えるのが目標だ。

 そしてその目標は今達成させる……!


「これで終わらせるって意味さ」

「ハッ、強力な魔術の応酬。此処からが面白くなるんだが、もうおしまいか。残念だ……そして、上等だァ!」


 向こうも乗ってきてくれた。まあ、そう言う性格だし、自信もあるだろうからこうなるのは予想済み。

 仕掛けるとするさ。火炎……それを更に越えた一撃。呪文名はシンプルに行こう。複雑なのも強そうだけど、シンプルなのが最強ってのもロマンを揺さぶられるからな。

 アタシとゾルは現状で最大級の魔力を込めた。溜め時間はまあまあ長いけど、邪魔する相手もいないから無問題。

 込められた魔力は今──


「──“炎を越えた火炎(オーバーヒート)”!!!!」

「──“炎雷の悪魔バークアラハブ・シャイターン”!!!!」


 今までに無い熱を放ち、向こうは炎と雷の合わせ技。そう言や、同時に使用してくる事は少なかったな。

 二つの力は爆発的な正面衝突を起こし、ステージ全体を蒸発させる。強まる力はより強大になり、遠方で幾つかの気配が消えたのを感じた。

 多分これは幻獣と魔物だな。その二国代表は全滅につき此処でリタイア。残るはアタシ達人間の国代表と魔族の国代表。今回のゾル戦も前哨戦に過ぎない。向こうからしても同じだろうさ。

 強まる力は打ち消し合い、相殺し合い、更に強まり飲み込む。アタシ達の視界は白く染まった。


──

───


「……ハァ……ハァ……」


 視界が晴れ、辺りを見渡す。隠れる場所も何もなく、アタシの服もボロボロ。ダイバース用の服だから代えは利くけど、裸体を中継されるのは羞恥だ。それに煙いな。この煙で映像から隠れているうちに何か隠す物を身に付けておきたいけど……。


「まだ……まだァ……!」

「本当にタフな奴だなぁ……」

「テメェが言うなァ……! ゼェ……」


 煙の中からアタシと同じくさらけ出した姿となったゾルが飛び掛かる。

 アタシに対する意識もなし。ちょっと癪だが、それだけ戦いにのみ集中してるって事だろう。決してアタシの裸に魅力が無い訳じゃない。ちゃんと毎日お風呂入ってるし、肉付きも今後成長する。ティーナやルーチェに比べたら成長が遅い気がするけど、きっと大丈夫。

 とにかく、別にアタシも特に何も思わない。マジで。異性の裸体を見る機会なんて無いけど、そんな事より勝利への意欲の方が上だからだ。


「トドメだァ……!」

「……アンタがな……!」


 雷を纏い、炎を拳に宿して雷速で突進するつもりみたいだ。マジで玉砕覚悟。だが、アタシは此処で玉砕するつもりは無い……!

 移動されたら反応出来ないけど、今ならまだ間に合う。


「そーら……!」

「……? 枝の投擲なんか何の役に……。……!」


 無事だった棒を取り出し、槍のように相手へ投げる。ゾルはヒョイッとかわし、疑問符を浮かべた次の瞬間にはハッとした。

 バレたけど、大丈夫そうだ。


「気付いたみたいだな。情報通のアンタなら、アタシの狙いが分かった筈だ……!」

「んにゃろ……!」


 意図に気付いたゾルは踏み込んで回避と攻撃の体勢に入る。しかし、まだモタついて動くに動けなかった。

 当たり前だよな!


「ビブリー戦とアタシとのダメージを考えれば、そんな事は出来ないって分かるっしょ!」

「……体が……」

「今度こそトドメだ!」


 棒……もとい、杖に予め込めていた少量の魔力が反応を示し、炎“魔法”を放って火球がゾルの眼前へ。

 蓄積したダメージと無理が祟り、行動を起こす前に停止。

 アタシは魔法と魔術の両方を使える。散々魔術の方で攻撃してたんだ。その情報を知っていたとして、反応が一瞬遅れるのは必然。加えてこのダメージ。

 終わりだ……!


「──“ファイアボール”……!」

「くそがァァァ……!!!」


 直撃。既に火球は出ていたけど、やっぱり呪文は叫んでおきたい心情。

 裸体を隠す物を探しつつ少し休めば魔力も多少回復する筈。控えメンバーと交代しても良いけど、まだ試合は続くからな。第一試合はアタシだけで終わらせるのが得策だ。

 アタシとゾルの戦闘。それは周りの幻獣や魔物を巻き込みつつそれなりのポイントを得て勝利を収めた。


 現状ではアタシが4ポイントでゾルが2ポイント。多分お互いの力が1匹ずつ幻獣と魔物を倒しただろうからな。

 残りの気配からして……“魔専アステリア女学院”はビブリーとディーネがやられてアタシとティーナにメリア先輩の三人。“レイル街立暗黒学園”は……アタシが倒したのがラームとゾルで、一つの気配が無いから残り二人。

 数ではこちらが一人分有利だけど、アタシが少し休むから魔力が回復するまでは同じ人数だ。

 アタシ達のダイバース代表戦二日目、それは終盤へと差し掛かる。

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