第二百四十三幕 削り合い
「“樹木乱打”!」
「相変わらず面倒な攻撃を仕掛けてくる」
大量の樹木を嗾け、ダクさんへと打ち込む。
質量と数の合わせ技。ダクさんは自分に降り掛かる物を殴り飛ばして防ぎ、更に押し込むけどダメージにはならなかった。
やっぱり強いね。生身の力だけで植物魔法の質量を粉砕するなんて。単純に魔族の中でも身体能力が高く、魔力操作にも長けているから物理を伸ばしてこのレベルに到達した相手。
私もこの試合で更なる成長を見せなきゃ……勝てない……!
(この技なら時間は稼げる……!)
更に更に追加し、そのまま仕掛け続ける。
元々ダクさん相手には戦略を練る時間すら取れなかったからね。魔力は常に消費するけど、考えるにはピッタリの在り方。
と言っても現状数と質量で相手が消耗するまでただひたすらに攻めなくちゃならないんだけどね~。
でも、それに紛れて仕掛ける方法も色々とある。
「追加!」
「面倒だな。全方位から攻めてきたか」
正面だけじゃ当然防がれる。だから左右や背後からも仕掛ける作戦。
周りには植物を沢山張り巡らせたからね。どの方向からも攻め立てる事が可能だよ!
「流石に堪えますよね!」
「ああ。面倒臭さ加減に拍車が掛かる」
正面の植物を殴って砕き、足を薙ぎ払って左右の植物も粉砕。主軸である背後の植物もそのまま回し蹴りとなって破壊された。
だけど樹の届く範囲は地上だけじゃない。本命はいくつも用意しておくのが定石。
「“夜薙樹”!」
「……! 上か」
枝を伸ばし、上空から降下。ダクさん目掛け柳の葉が降り注ぐ。本来の葉っぱよりちょっと大きくて重いけどね。
ダクさんは腕を交差させて防御。ドドドドド! と降り注いで砂塵が舞い上がる。
本命が決まると良いんだけど……。
「……これくらいか。骨に響く」
「……耐えるんですね……」
一通り降り注ぎ、砂塵が晴れた辺りで少しはダメージを負った様子のダクさんが姿を現した。
今までなんの手応えも無かった事を思えば大きな収穫。だけど倒し切るにはまだ掛かりそうかな。
その瞬間に背後へ忍ばせていた植物をゆっくりと伸ばし、会話しているうちに頭上から打ち込んだ。
「それくらいの攻撃なら見抜ける。不意を突いたつもりか?」
「……はい。そのつもりです……!」
「……!」
一つの植物はバレて防がれ、周りから植物は無くなった。
だからまた、新たに生やして嗾ける!
「足元への注意は薄れてましたよね……!」
「……っ。ああ、そうだな」
全方位から仕掛けた樹木。及び終わったと思わせて放った植物。それら全てが防がれ、連撃だったのもあって少し一息吐きたかった筈。
そして、徹底的に上方面に意識を向かせていたから意識外である足元からの攻撃には気付かなかったみたい。
普通に戦っていたならそれも簡単に見つかると思うけど、絶えず放っていた攻撃によって少なからず疲労も蓄積。樹を消し去った事での微かな油断。それらを組み合わせてようやくまともな一撃を与える事が出来た。
植物によって突き上げられ、更に一つに纏めた攻撃を打ち込んだ。
「“集中樹拳”!」
「……ッ!」
身動きの取れない状態で魔力を一点に込めた樹の拳を打ち付ける。
当たれば代表決定戦レベルの相手なら倒せる一撃。他の魔族さん達よりも遥かに強靭なダクさんにも確かなダメージを与えられる筈。
その体は吹き飛び、土を抉り木々を粉砕して遠方へ。大きな水飛沫を上げて澄んだ湖に着水した。
「……周りでも激しい戦いが起こってるみたい」
着水確認と同時に遠方でドーム状の大爆発が起こったのを確認。別方向では水と魔力とも違う別の力が鬩ぎ合っているみたい。
上空でも二つの風がぶつかり合っている。
「“ウィンドスラッシュ”!」
「“風の刃”!」
単なる風ではなく、刃のような風。風同士が打ち消されては単なるそよ風になるけど、時折木々が切断される程の余波が散っていた。
*****
「ほらほら~! 君の風弱いんじゃないの~」
「くっ……! 流石に強いッスね!」
風同士をぶつけ、辺りに暴風が吹き荒れる。だけどさっきウラノちゃんのものと思しき風雷神が居たら私の風はあまり目立ってないね~。
現在地は空。今回の戦い、全体的には私の方が上。更に言えば箒による移動効果で機動力もある。
スクロ君だっけ。向こうも魔術を用いて空を飛んでいるけど、彼には余裕を持って勝てるかもしれない。そうなったらティーナちゃん達の元に手助けに戻れるね。
「でも、まだまだ負けてないッスよ! “風の一撃”!」
「良い気概だね~。“ウィンドブロー”!」
使える魔術のバリエーションも少なめ。ダクさんは私と同年代だけど、スクロ君は多分新入生かな。
荒削りだけど代表戦でレギュラーを任されている実力者。将来的に有望だね。ウチのディーネちゃん達とはライバル関係になりそう。
取り敢えず、一番の先輩である私がちゃんと指導してあげよっか。手取り足取りね♪
「“ウィンドネット”!」
「……! 体が絡め取られて魔術が……!」
「魔術師は手足がそのまま触媒になるもんね。手が使えないと力が出せないのは魔法使いも同じだけど、杖が封じられてなければ辛うじて使えるからね。手の方向を変えるだけで成す術無くなるのはある意味不便かな?」
「まだまだァ……!」
「ふふ、がんばれ。がんばれ~」
魔力を込め、風を放出して藻掻く。
私の拘束は風からなる物。同ランクの力なら相殺されて抜け出される可能性はある。
だけどそれまで待つ程優しくないかもしれないよ。
「“ウィンドバレット”!」
「……!」
風を撃ち込み、空気が抜けてスクロ君の肺から息が漏れる。
風も強い力で押し出せば相応の威力になる。それが撃ち込まれたなら結構痛いよね。
杖を向け、先端に魔力を込めた。
「“ウィンドマシンガン”!」
「……ッ!」
連続して空気の弾丸を撃ち、スクロ君の体を貫いていく。
貫通しても出血とかをする訳じゃないけど、体内に衝撃が伝わって内部ダメージが大きいの。
更に魔力を込め、狙いを定めた。
「“ウィンドキャノン”!」
「──っ!」
ドンッ! と大きな空気の塊を放ち、貫通したそれは呼吸困難へと導く。
これだけで意識を失う可能性もあるけど、その辺は流石の魔族かな。耐久力は高めになってる。
フラつきながらも不敵に笑い、スクロ君は風の拘束を解いた。
「効いたァ! が、まだまだァ!」
暴風を吹き荒らげ、周りの雲が渦巻く曇天と化す。
潜在能力はかなり高いね。中等部の一年生で空を操るレベルの風魔術を使えるなんて。
だけど私も、ルミエル先輩やティーナちゃん達。とても強い先輩後輩の元で鍛練を積んだんだもん。魔力総量が少なくとも、この箒操術と洗練された風魔法があれば十分に上位へ通じる力になる。
「“暴風域”!」
「“トルネード”!」
とてつもない暴風が突き進み、私は竜巻で対抗。何れも上級魔法相当。天候その物を操る力だからね。分類はそうなっている。
荒れ狂う風は互いに打ち消し合い、混ざり合って片方を飲み込む。実際の台風とかも重なり合う時、小さな物は消されたりしちゃうもんね。一つの暴風の勢力は変わらず進む。
だけど今回は相殺し、双方共に消滅を喫した。実際の天候と魔導はまた別物。当たり前だよね。あくまで干渉する魔力の鬩ぎ合いになるもん。
「まだまだまだまだァ!!」
「さっきからずっとまだまだ言ってるね~。私も更に本気出しちゃうよ~!」
「上等ッス!」
一応今回の相手だけど、ちゃんと素直に返答してくれるね。リテちゃんが違うような事を言ってたけど、良い後輩だと思うな~。
勿論、ティーナちゃん達を除いての話ね。みんなこそが一番可愛い後輩達だもん!
そんな事を考えているうちに更なる魔力が込められる。勝負を決めようって魂胆かな。じゃあ私もそれに応えるのが礼儀。年下でも対戦相手には敬意を払わなくちゃね!
「これで決めます! ──“超強い風”!!」
「シンプルだね。でも、嫌いじゃないよ! ──“スーパーセル”!」
今までで一番の暴風が放たれ、私は正面に自然現象を顕現。
暴風と天候は正面衝突を起こし、双方が互いに押し合い風が風を飲み込む。
うん。とても強いね。だけど彼の風は、まだまだ粗がある。
「周りに余分な風が散っちゃっているよ。なるべく一つに纏めた方が無駄が無くなって強くなるかな」
「……! くぅ……ッ! 俺の……風が……!」
この暴風の中じゃ言葉は聞こえないかな。必死に押し返そうとしているからそれに集中しているかも。
だったら消し去り、近くでアドバイスでもしよっか。
「はあ!」
「……!」
スーパーセルを押し付け、相手の暴風を完全に消し去る。
その瞬間に箒で迫り、片手に魔力を込めた。
「無駄な魔力の消費は厳禁。一点集中の方が強いでしょ?」
「……! ……ウッス……!」
「“ウィンドインパクト”!」
返答と同時に頭上へ風を放ち、杖を押し付け衝撃波で空から叩き落とす。
勢いよく地面へと落下し、大きな砂塵を巻き上げる。そしてその中から光の粒子が控え室へ転移したのを見届けた。
「まだまだ強くなるね~。スクロ君。ディーネちゃん達にも頑張って貰わなきゃ!」
同年代の強力なライバルは高め合う励みになる。ディーネちゃんもセンスがピカイチだし、どんどん鍛えて行かなきゃね。
私とスクロ君の勝負は私の勝利。他の子達の助っ人に行かなきゃね!
─
──
───
「ハァ……ハァ……」
「ふふ、息を切らしちゃって。やっぱり可愛いよ♪」
「……っ」
私とリテさんの試合。それは既にギリギリ。と言うより、私が完全に押されていた。
理由は大きく分けて二つ。
「“空間掌握・斬”!」
「狙ってから放っても……私には付いて来れないよね♪」
空間魔術も水魔術も、リテさんのテレポートによって躱され、攻撃が当たらない。
「えい♪」
「……ッ!」
そして距離を詰められるとフォノンキネシスやエアロキネシスなど、何れかの超能力で避けようの無い痛恨の一撃を受けてしまう。
それらの要因により、私の勝負は……。
「これで終わりかな。とても強かったよ♪」
「───」
私の敗北で幕を下ろした。
念力による脳への直接攻撃で意識を奪う……去年リテさんに勝てたティーナ先輩のスゴさを理解し、私は意識を失うのだった。




