第二百四十二幕 火炎と雷
「行くぜ……!」
「来ォい……!」
片手から炎を放ち、加速。相手との距離を埋め、眼前に迫って炎剣を振り抜いた。
向こうは雷で受け止めるように防ぎ、炎と雷の発熱で周囲の気温が上昇する。成る程、手強い相手だな。ビブリーが負けたのも納得が行く。
だからこそアタシは負けらんねえ!
「そうだ。自己紹介くらいしとくか。多分俺の事知らねェだろ? “魔専アステリア女学院”は実力者揃いの割には情報に疎いって聞くしな。俺ァゾルだ」
「そうかい。アタシの名前は知ってたな」
「全チームの情報は入ってる!」
「その見た目で意外だな」
「見た目は関係無ェだろ!」
少し離れ、炎剣を消し去って炎で加速を付けた回し蹴りを放つ。ゾルは雷を付与して能力を高め、交差するように足が重なった。文字通りビリビリすんなぁ。
まだ雷速にも亜雷速にも到達していない。そのレベルだったらアタシもギリギリ反応出来るかどうかで目で追えないしな。反応ってのも攻撃の来る箇所を予測して対応するくらいだ。
取り敢えず、現段階では対処可能な範疇に留まっている。
「そこォ!」
「アンタの素行は悪そうだな」
「なんの話だ!?」
アッパーのように雷を纏った腕を上げ、眼前に電力が通る。
近くってだけで静電気がヤバいな。掠ったらそれだけで意識が飛びそうだ。
触れるだけで熱い炎も相手からしたら大変だと思うけど、触れるだけで意識が無くなる危険性のある雷はもっとヤバい。
まあ、アタシが負ける道理は無いけどな。
「“フレイムショック”!」
「……ッ! 熱と衝撃波……!」
死角から片手を突き出し、衝撃波混じりの炎を放出。ゾルに命中。距離が開く。
流石にビブリー相手の後だもんな。動きが若干鈍くなってら。
ゾルは更に飛び退いて離れ、アタシはまた片手を突き出した。
「遠距離対応型だ! “ファイアショット”!」
「ファイアなのかフレイムなのかどっちだよ……!」
「気分でニュアンスが変わるぜ!」
「いい加減だな!」
細かな火炎を連続して放ち、ゾルの体を撃ち抜く。
炎でくらいならビブリーも攻撃してるだろうけど、確実に蓄積しているダメージは後々に響く。
小さくても当てていくのが一番だぜ。
「ハッ、チマチマと鬱陶しいぜッ……! もっと堂々仕掛けて来いやァ!」
「……!」
瞬き、閃光と共にアタシの眼前へ。
一瞬の間が置かれ、バチバチと破裂音が響き渡った。
狙いを定める為の間。これなら間に合う。
「“雷の一撃”!」
「“フレイムブロー”!」
霆が放たれ、アタシは炎でガードと攻撃を担う。
二つのエネルギーによる目映い光が迸り、周りの空気は焼け焦げたような匂いとなる。
一撃一撃は互角みたいだ。しかも前述したように狙う時は一瞬置かれる。無闇に突っ込んでも意味無いけど、この一瞬の猶予は助かるぜ。直撃を避けられる。
「“火柱”!」
「……っと、仕込んでやがったか」
地面から炎を放出。仕込んでいたも何も、単純に足から炎を出しただけなんだけどな。掌から出せるんだし足からも可能だろうよ。
けど、それによって要らない警戒までしてくれるなら好都合。集中力を削いでアタシの有利に運べる。
「“プレス!”」
「左右からか……!」
その火柱を移動させ、潰すような形にして嗾ける。
とは言え質量は無いんで全体を高熱で焼くって感じだ。本来なら窒息からの意識喪失コンボが決まるが、そう上手くはいかないらしい。
「悪くねェ! だが、俺にはまだまだ届かねェぜ!」
「その様だ。でもこの火耐性、ちょっと変だな。ビブリー相手に戦って消耗しているのは間違いない。なのにまあまあ元気がある。アンタ……」
「御託はいい! 次は俺の番だ!」
訊ねようとするよりも前に自身に雷を付与。ま、会話している暇があったら仕掛けるのは間違っちゃいない。なんならアタシが攻撃した後だしな。
でもほぼ確定みたいだ。このゾル、雷魔術だけじゃないな。引き出してやるよ。
周囲へ炎を放って防壁を作り、雷速にも対応出来るように向き直る。
追い付きはしないけど経験上、雷速移動の相手は基本的に自分自身が速さに付いて行けてない。ルミエル先輩とかそのレベルなら余裕で付いて行けるんだろうけど、流石に中等部でそのクラスは居ない。
てな訳で、次に揺らいだ場所に奴は来る。
「貰──」
「──っていないな」
「……ッ!」
死角からバチバチと放電させて迫ったゾルへ、炎で加速した体を回転させて吹き飛ばす。
相手は地面を擦って止まり、そこ目掛けて新たに形成した炎剣を振り抜いた。
「……っ。テメェばっかり攻撃してズリィぞ……!」
「なに。今回はターン制バトルのルールではないだろう。仕掛けられる時に仕掛けた方が勝ちなんだよ」
「ぐっ……正論で言い返せねェ……!」
実際問題、ゾルはまあまあ耐久力も高い。その理由も大凡検討が付いてる。なので連続で攻撃を叩き込み、確実に討つ他方法も無いだろう。
だからアタシはそれを遂行するまで。
「“クロスフレイム”!」
「……!」
交差する炎で体を焼き、怯みを見せているうちに懐へと迫る。更に炎で加速し、勢いそのまま蹴りを叩き込んだ。
一瞬止まり、弾かれるように吹き飛ぶ。木々はビブリーとの戦闘で既に無いから遮蔽にも当たらず行き、アタシは炎で加速して追い付いた。そのまま上空へと昇り行く。
「炎が効きにくいなら、物理的に仕掛けるしかないよな!」
「……ッ!」
急上昇からの炎噴射で急降下。体への負担は半端無いけど、確かな威力となる。
炎加速急降下重撃踵落としを腹部に打ち込み、ゾルは吐血。やり過ぎたか? 次いで地面へと沈み、深いクレーターを造って落下した。
「“追撃の炎”!」
ちょっとやり過ぎかと思うけど、更に追撃として穴の中へ炎を放出。暗い深淵は赤く染まった。
勢いのある踵落としに炎の追撃。それでもまだ意識を失った形跡は無い。転移の光が見えていないから。
直後、バチバチと底から雷が舞い上がり、天空へと放出。遅れ、炎が噴火のように吹き出した。
「ヤバかった……今のはマジでヤバかった……物理技だけでもヤベェのに炎の追撃とか正気か!? 俺が炎に耐性無かったら気絶どころか絶命すらあり得たぞ!?」
「……いや、既にそれは知っていたからな。明らかに何かを隠すような動き。雷だけじゃなく、炎も高水準で使えるんだろ?」
「チッ、バレてたか。代表戦なんであまり手の内は晒したくなかったんだが、ウラノ・ビブロスに続いてボルカ・フレムとの連戦とあっちゃ……仕方無ェよな」
ゾルの使える魔術。それは雷と炎。
だから炎にも耐性があるし、耐久力も高い。
雷魔術は風からの派生で水のエレメントとかを加えた物だし、炎も使えるとあれば土以外のエレメントは制覇しているという事だからだ。
と言うのも、肉体は己の魔術に適応して自然と耐久力も高まる。加えて魔族のセンスと素の機能が備わりゃこの耐久力にも納得がいくってもの。
ま、その辺は魔族でも個人差があるし、ゾルは平均的魔族よりも元々諸々が高かったんだろうぜ。ダクにゾル。“レイル街立暗黒学園”は改めて上澄みも上澄みのチームみたいだ。
「クク、だが、こうなっちゃ俺を止められる者は限られている。単純に実力で俺を上回らなきゃならねェからな。炎と雷。相容れない能力だが、殺傷力は人一倍だ……!」
「だろうな。得意分野だけで言えば炎単一のアタシの上位互換。苦戦は必至だ」
「ハッ、だろうな。複数のエレメントはそれだけで大きなアドバンテージとなる……んだが、如何せん代表戦クラスだと当たり前に存在するからな。エレメントを二つに絞って鍛え上げるのも大変だったんだぜ? 俺は天才だからなんとかなったが」
「そう言う話ならアタシも負けてないな。アタシも天才だ。んで、アンタがリソースを片方に振った分、アタシの方が炎の熟練度は上。つまり、一つを磨き上げたアタシの方がアンタより強いって事になる」
「どんな理屈だ。リソースったって二つと一つじゃそんなに差も開かねェ。つまり、二つ持ちの俺の方が数倍強い!」
「それを決める為には……」
「ああ。やるしかねェ……」
炎雷と炎が更地に広がり、既に崩壊した大地を更に粉砕して巻き上げる。
炎単体か炎と雷か。この勝負でどっちが上か決まる。
アタシとゾルの試合。向こうはようやく本領を発揮し、互いに向き直るのだった。
……そう言えば、ティーナ達他のメンバーは大丈夫か?




