第二百四十幕 魔族の強敵達
「──へえ。アンタがアタシの相手か。なんか気配の感じからして、“魔専アステリア女学院”は全員が魔族と戦闘しているみたいだ。と言うか幻獣と魔物の気配少なくね?」
「そうだな。ダクさん辺りが雑魚共は一蹴したんだろ。多分現状の一位は俺達魔族だ」
「口が悪いな。代表選手に雑魚は無いだろザコは」
「フン。やられた奴は漏れ無く雑魚だ。それ以上でも以下でもねェ」
「んじゃ、アンタやアンタの仲間がやられても雑魚なのか?」
「ああ。そうなる。仮にダクさんが俺よりも先にやられたとして、ダクさんは雑魚って事になっちまうが実力は俺より上な事実は変わらねェ。俺がやられりゃ当然俺は雑魚。雑魚ってのは俺達の教訓だよ」
「雑魚がゲシュタルト崩壊起こすな~。生意気な初等部の女子でもそんなに雑魚ザコざぁこ♡ とは言わないぞ~」
「何の話だ? ってか、なんだその言い方!?」
相手を探して湖畔の森を彷徨っていたアタシは、魔族の国の剣士と出会っていた。
剣士ってのは見た感じから。腰に剣が差し込まれてるし、多分そうだろう。模擬刀だけどな~。
今のところ見立て以外の情報は無いし、後は戦って詳しく調べてみるとすっか。
「取り敢えず、戦うんだろ?」
「無論だ」
その言葉を皮切りに踏み出し、炎魔術で炎剣を作り出して振り下ろした。
向こうは予想通り腰の剣を抜いて受け、炎と模擬刀が拮抗して鬩ぎ合う。
まずは挨拶代わりの一太刀。アタシは別に剣士って訳じゃないけど、剣での会話は鍔迫り合いからだ。
炎剣を滑らせて嗾け、向こうも剣で対応。互いに弾き、地面を擦って距離を置く。
最初の一撃では互角ってところだな。
「孅い人間の女の子のアタシ相手に魔族のアンタが互角ってのはどうなんだ?」
「まだ互いに様子見だろ。言ーか、テメェが孅いって点には疑問符が浮かばずには要られない」
「オイオイ、失礼だな。女の子に対する扱いがなってないぞ」
「テメェは丁重に扱うタイプの女じゃねェ」
数言交わし、距離を詰めて攻防を繰り広げる。
鋭い剣捌き。やっぱ戦いやすいからって理由だけで剣術を齧ってるアタシとは違うな。でも、イェラ先輩とかレモンとか、世界最高峰の剣士とは戦ってきた。今じゃ本職にも比毛を取らない実力が付いたって思ってるぜ。
突きからの薙ぎ払いによる攻勢。それらを躱し、切り上げ切り払う。剣によって防がれ、弾かれると同時に刺突が迫った。
「貰ったァ!」
「あげるかよ!」
「……!」
片手を地面に向け、炎魔術で跳躍。相手の剣尖は空を斬り、アタシは剣身に乗る。この距離なら当たるっしょ。
即座に体勢を整え、炎で加速した蹴りを打ち込んだ。
「……ッ!」
「喧嘩は武器だけでやるもんじゃないしな」
蹴られた相手は吹き飛び、次々と周りの木々を倒壊させる。
多分この程度じゃやられてないし、あくまで炎で加速した蹴りだから飛距離もそんなに出ていない。
なので後を追い、追撃を嗾ける。
「……ッ!」
「俺のこだわりみたいなもんで、俺は剣でしか喧嘩はしねェんだ」
次の瞬間に剣尖が伸び、アタシの体を吹き飛ばした。
あの気配からして剣に付与した魔力を伸ばし、中距離や遠距離への攻撃を可能にしたみたいだ。
伸びる瞬間に魔力の気配を察知したからガードは間に合ったものの、衝撃は殺し切れず手痛い攻撃を食らっちまった。
相手は剣を短くし、踏み込んで仕掛ける。炎剣ならぬ遠剣での連続攻撃はしてこないのか。
「そらよっと!」
「なんの!」
振り下ろされ、炎剣でガード。そのまま逸らして下ろし、切り上げるように薙ぎ払った。
相手は飛び退くように距離を置き、その距離を詰め寄る。
「……ッ!」
「“ロングファイアソード”……なんてな?」
アタシじゃなくて炎剣で。
炎剣に至っては全てが魔力からなる物。なので伸縮自在で範囲も自由だ。
剣の自由度は負けてないぜ。
「クク、だが、ちょっとした火傷程度の負傷。造作もない」
「いやいや、火傷って後に響くし色々辛くないか? ちょっとした水膨れで激痛が走るのなんのって。まだ魔導が未熟だった頃はアタシもしょっちゅう火傷してしょっちゅう泣いてたんだぜ?」
「よくもまあ、そんなに話せる。俺は雑魚だったガキの頃の話は封印してんだ」
「かつての弱さを乗り越えて強くなるってのも確かな成長だと思うけどな」
「それで敗れたら話にならないだろう。常に強くなければな……!」
「強さに囚われてんな~。ま、人それぞれ。特に魔族の種族柄アンタみたいなのは少なくない。否定はしないさ」
「アンタではない。ラーム。それが俺の名だ」
「そっか。アタシはボルカ・フレム。よろしく」
「知っている」
コイツはラームって言うらしい。確かに名乗る機会はなかったな。
ま、二人称呼びってのも訳が分からなくなるし丁度良いか。
そろそろ決着も付きそうな雰囲気だしな。強さの一点にこだわっているラーム。付け入る隙は多い。
「参る!」
「参っとけ!」
「参らん!」
「どっちだよ!」
「どちらでも良い!」
剣を握って踏み込み、刺突を放つ。炎剣で受け止め、その傍から剣尖が伸びて掠る。
一度見せた技は定期的に使っていく方針か。別に構わないけどな。
剣を滑りながら迫り、ラームは仰け反って躱す。剣を持ち替え、逆手斬りを放った。アタシはそれも防ぎ、炎を放出する。
「……!」
「アンタの動きは気配で読める!」
「速い……!」
気配を読む力。それは探す為じゃなく、戦闘へ流用する事も可能。
気配が分かれば次の動きを読む事も出来、相手よりも少しだけ速く動ける。
そしてその差は一瞬が分け目の戦闘に置いて大きなアドバンテージとなる。
「気配なら俺も読めるが、この動きは……!」
「そうか。あくまで気配を読む段階に留めちゃそこで止まっちまうのか」
「……!」
どうやらラームも気配を読む事は可能みたいだけど、気配による推測の行動は出来ないらしい。
だったらそれは好都合。一気にケリを付ける。
「“アクセルフレイム”!」
「……!」
炎による加速で音を抜き去り、ラームの死角へ回り込む。
確かこういう時、レモン達の国じゃこう言うんだっけ。アタシも言ってみよっと。
「切り捨て御免……! ……なんてな!」
「……ッ!」
炎剣で切り裂き、ラームの意識を奪い去る。それによって光となって転移し、アタシの勝利が確定した。
これで1ポイント。まだまだだな。“レイル街立暗黒学園”。その実力を思えば全然足りない。
他のメンバーは大丈夫そうか? 取り敢えずアタシは次の獲物を探しに向かう。……あれ? 仲間の気配が……。
*****
「──あら、待っていたの。魔族の方かしら?」
「ァあ。そうだな。俺ァゾル。なんか全員戦ってっし、俺もやるべきとは思っていたんだが……横槍入れんのもアレだしどうすっかな~って思ってた所にテメェの気配を感じたんで待ってた。ウラノ・ビブロス。本魔法の使い手」
「不意討ちとかはしないのね。寛いでる」
「必要無ェんでな。俺の方が強い」
「そう」
周辺を歩いていると、木の上に座って足をだらーんとしている魔族の人が居た。名前はゾルさん。
特に行動は起こさず待っていたとの事だけど、謙虚な方と言う訳でもないみたい。その瞳から野心のような物は感じるわ。
そして向こうの方が強い。否定はしないわ。私は多分、代表戦クラスだと下から数えた方が早い位置に居るもの。
でもタダでやられる訳にはいかない。パラパラと魔導書を開き、仕掛けた。
「先手必勝と行きましょう。物語──“ミノタウロス”」
『ブモオオオォォォォッ!!!』
「別に構わねェよ。攻撃の準備くらい待ってやる。俺の方が圧倒的に強いんだからな」
初手は基本的にミノタウロス。戦い方も強さも相手の実力を測るのと消耗させるのに丁度良いから。
その辺はとっくに分析されていたけど、今回の相手は召喚を待ってくれるのね。それがブラフの可能性も考慮しつつ、お言葉に甘えましょうか。
更に本の鳥達を並べ、護身用の武器を取り出して準備完了。今回は遠距離から安全性を重視して拳銃にしたわ。弾は魔力の数だけ。連続で弾を撃ち込むから剣より消耗しちゃうけれどね。
『ブモオオオォォォォッ!!!』
「ハッ、猪突猛進。いや、牛だからちと違ェか!」
突進して戦斧を振り下ろし、ゾルさんは紙一重で回避。地面に叩き付けられた斧は大地を引き裂き、放射状の亀裂を作り出して粉砕。
ミノタウロスに土塊を物ともせず次なる攻撃を仕掛けさせる。
『ブモォ!』
「ハッ、遅い遅い」
縦斬り、横斬り、振り回し、暴れ回る。
その全てを紙一重で避けているけど、余裕があるからこその紙一重ね。
なので私もミノタウロスのサポートをする。
「……」
『『『………』』』
「ハッ、役者が増えたな!」
狙いを定めてタン、タタン。リズミカルに銃弾を撃ち込み、それらは躱される。音速以上の弾丸を容易く躱すのね。流石は代表戦の選手。
本の鳥達も突撃し、ゾルさんはミノタウロスの猛攻。本の鳥達の猛進。弾丸全てを相手取る。
「しょっぺェ攻撃だ! 身体能力だけで対処可能だぜ!」
蹴りで本の鳥達を散らし、弾丸を掴む。掴んだ弾を撃ち込んだ弾にぶつけて相殺し、振り下ろされたミノタウロスの戦斧を逸らす。
「テメェで食らってろ!」
『……!』
ミノタウロスの間接を曲げ、自身の戦斧にて首を刎ねる。
それによって魔力となり、本の物語に戻る。基本的にミノタウロスで倒せる事は少ない。様子見にしても実力の半分も引き出す事が出来なかったわね。
「さあ、次来いよ。なんなら魔力尽きるまで召喚獣共を倒してもいいんだぜ?」
「それは困るわね。物語──“風雷神”」
『『…………!』』
本の鳥達も消されたので風雷神を召喚。辺りが暴風雷雨に晒される。雨は完全に追加効果ね。
だけど二体居るから少しは時間が稼げるかしら。
「風雷神。俺の情報だとウラノ・ビブロスの召喚獣の中でもNo.2だったか。悪くねェ!」
「意外と情報通なのね。そんなに使っていないのだけれど」
「確実に勝利する為に必要なのは情報だからな。案外インテリなんだよ。俺ァな」
「そう。本を読むなら気が合いそう」
「クク、どちらかと言えば肉体言語の方が得意なんだけどな」
「でしょうね。その血の気の多さ。魔族らしいわ」
たまたま会った相手、ゾルさん。風雷神を出したけど、勝てる保証は無い。相手はまだまだ余力を残しているし、苦戦は必至。敗北の可能性も十分にあり得る。
実力で言えばダクさんと並び立つくらいはあるかもしれないわね。私は気配とか読めないけど、様々な本を読んでるから何となく動きや感覚で分かる。ミノタウロスへの対処からしてそうかもしれないわ。
何はともあれ、勝てないなら勝てないなりに仲間達の手助けになるような事柄を残すのが最優先。やるだけやるしかないわね。
私達のダイバース代表戦。手強い相手の予感。




