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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部二年生
240/457

第二百三十九幕 今回の相手

「“ウィンドブロー”!」

「“風の一撃(リヤーフ・ヤンフク)”!」


「“樹拳”!」

「よっと」


 風魔法と風魔術が衝突して暴風を巻き起こし、大木からなる拳と拳がぶつかり合う。

 私達は魔法や魔術。魔導をもちいて攻撃しているけど、ダクさんは生身。それでこの質量に対抗するんだからスゴいよね。


「メリア先輩!」

「オッケー! ティーナちゃん!」


 先輩と一言交わし、植物で周囲を覆う。メリア先輩はそこ目掛けて風を放ち、内部を暴風で埋め尽くす。

 さながら空気の爆弾。充満した風はダクさんとスクロさんを囲み、風の流れに合わせて植物を叩き込む。


「面倒だな」

「厄介ッスね……!」


 しかしダクさんはその身一つで対処していく。この暴風の中でもこんな動きが出来るなんて、どんな体幹しているんだろう。

 同じ魔族のスクロさんが翻弄されているのを見るに、魔族だからじゃなくてダクさんだから可能になってるみたい。


「取り敢えずスクロ。面倒なメリア・ブリーズを何とかして来い」

「……え? ウッス……ってわあ!?」


「「………!?」」


 スクロさんの腕を引き、一回転して放り投げる。

 そのまま風を突き抜け一直線に私達の方へ到達し、両手に魔力を込めているのが分かった。


ー事で、空中戦を申し込むッスよ! お二人方!」

「と言いつつ、ご指名は私だけかな……!」

「メリア先輩!」


 スクロさんは至近距離で風魔術を放ち、メリア先輩を押し出す。

 先輩は風魔法で受け止め、植物ドームの風が止む。そのままの流れでほうきに乗り込み、高速で移動して上空で風の衝突が起こった。


「大丈夫! ティーナちゃんも気を付けてね! 多分今回のブロックで一番の強敵がダクさん達だから!」

「は、はい! 先輩もお気をつけて!」


 いなし、対処。メリア先輩なら大丈夫。その言葉を信じ、今大会でも最上位に入るダクさんの相手をする。


「“樹突”!」

「俺に物理的な攻撃で攻めるのは違うんじゃねェか?」


 無数の樹を纏めた一撃を打ち込み、それは腕力で防がれる。

 正面から打ち込まれた拳で粉砕され、ダクさんは踏み込み私の眼前へと迫り来る。


「……!」

「良い反応だ。相手からしたら面倒だがな」


 咄嗟に植物によるアーマーを形成して己の身を包み、拳が一撃叩き込まれる。

 その拳はアーマーを意図も容易く貫き、私の体は木々を粉砕しながら吹き飛んだ。

 スゴく痛い……。植物のアーマーだけじゃなくて二重にも三重にも防御は仕込んでいたけど、それすら貫かれる激痛。

 だけど防御込みでこれだったら、通常なら一撃で気絶もあり得た事態。意識があって痛みを感じられるだけまだマシなんだよね。


「よっ」

「もう来た……!」


 吹き飛んだ先で着地した瞬間、側頭部を狙った回し蹴りが炸裂……はせず、なんとか紙一重で回避。

 風圧で木が切り倒され、辺りに砂塵を巻き上げた。


「“上昇樹林”!」

「足元から来たか」

「……!」


 足元に魔力を張り巡らせ、植物を打ち上げて急襲……のつもりだったんだけど、ダクさんは足元を踏む事でクレーターを造り出し、地面を陥没させて木々の成長を阻止。腰を低くし、再び回し蹴り。それによって周囲は薙ぎ払われた。

 私はなんとか仰け反って避け、近くに樹を生やしてツタを伸ばし、ダクさんから距離を置いた。……けど、


「そのくらいなら瞬きする必要が無いくらいに追い付ける」

「と言うか追い越してます……!」


 蔦が枝に巻き付くよりも前に追い越し、待機。なんとか反応が間に合ったので途中で蔦を離して降り、周囲に木々を生やして遮蔽とする。その木々は次の瞬間に全て切り倒された。

 ……っ。後手後手に回って反撃する暇がない……! 眼前には拳が迫っており、植物でガード。それごと吹き飛び、湖を水切りのように飛んで森林を倒壊させた。

 激痛はともかく、ようやく一息吐けるかもしれない……。


「そら」

「……!」


 訳が無かった。

 思考する暇すら与えられず、反射神経で回避と防御を繰り返すだけ。

 思ったけど私って、身体能力が魔力で少し強化出来る程度だからガチガチの肉弾戦相手だと不利なんだ……。

 肉弾戦主体でも反応出来るくらいの相手ならともかく、レモンさんやダクさん。強化中のエメちゃんにユピテルさん。そしてほとんど会ってないけどバロンさんとか、そのレベルになるとたちまち対応出来なくなっちゃう。


「よっ」

「……ッ!」


 そして思考の間にも反射と勘頼りに攻撃をいなしていた。

 もうちょっと身体能力を高めるのが今後の課題として、今はダクさん相手に集中しなきゃ。

 今までも何度か植物を放ったりして牽制はしてたけど、全ては容易く防がれる。数分だけ、一分でいいから対処法を考える時間が欲しいかも……。


「……“樹海生成”!」

「……!」


 魔力の無駄なのもあって使わなかったこの魔法。これは圧倒的な範囲を埋め尽くし、意のままに操る事が出来る。

 樹海達に数分任せ、私は休息と思考に集中する。


(植物魔法による香料効果でリフレッシュ。薬草や果実による回復と補給。そしてダクさんを相手取るには……)


 体勢を立て直し、最適な行動を取っていく。

 主な傷は打撲だけど、軽傷なら和らげる事に成功した。主体は生身。あらゆる方法を模索してみる。

 圧倒的な質量による攻撃→筋力で粉砕。

 刃や槍のような近接攻撃→筋力で粉砕。

 催眠や洗脳のような搦手→筋力で粉砕。

 ダメだ。全部が自分に拒否される。だってもう全部試したもんね。……現在進行形で。


 ──“圧倒的な質量”。


「この程度なら容易く防げる」


 質量目掛けて拳を放ち、粉砕。崩壊させられる。


 ──“刃や槍”。


「そう簡単に斬られる訳にゃいかねェ」


 鋭利な槍。鋭い刃。それらを物理的に破壊する。多少は傷付いたけど、本当に掠り傷。


 ──“催眠や洗脳”。


「……。……っと、こりゃ周りの植物が原因か。……喝ッ!」


 私達の使う催眠魔法は花粉とか毒による物理的な物。なので一呼吸と共に驚異的な肺活量で吹き飛ばされて防がれた。

 ただ樹海を広げるだけじゃなく、様々な手法を交えていたけど物の見事に全部防がれちゃった。

 魔力を込めるのに集中する時間があればもっと強大な一撃を放てるけど、ちょっと厳しいかな。そんな事をしたら事前に阻止されるのは目に見えているもん。

 そうなると、掠り傷は付けられた刃や槍による攻撃が一番現実的な方法かな。

 少しでも思考の猶予があったお陰で効果的な技は思い付いた。確かに生身が主体なら、直接触れるだけで傷を負う攻撃は特効性があるよね。


「“ドリルプラント”!」

「植物……もはや植物かこれ?」


 高速回転する樹を押し付け、ダクさんは紙一重でかわす。

 けれどこの回転によって及ぶ影響は多大なもの。周りの植物や土塊を巻き上げてつぶてとし、躱した先にも追撃が行われた。

 でもダクさんの強靭な肉体は傷一つ付かないよね。あくまで目眩ましが目的だから達成しているよ!


「“圧縮樹林”!」

「……成る程な。周りに仕込んでいたか」


 破壊された植物は既に再生を終えており、急激な成長を遂げて面積を覆っていく。

 そのままダクさんの体を囲み、成長によって押し潰した。

 表面的な傷はあまり受けずとも、圧縮すれば呼吸困難とか様々な要因でダメージになる筈。今回はそれを狙っての攻撃。

 成果はと言うと、


「悪くない考えだが、まずは植物の強度を上げた方が良い」

「……っ。まあ、おおむね予想通りかな……」


 内部から破壊し、普通に脱出して姿を見せた。

 まだ集中力を高める時間はないもんね。本来ならより強度を上げる事も可能だけど、それをするまでの暇は与えてくれない。

 だから妥協せざるを得なかったけど、やっぱり無理だったみたい。何とかして確実な隙を作らなきゃならないかも。

 私とダクさんの戦闘。相手はやっぱりスゴい強敵だ。



*****



「……あ、貴女と会ってしまいましたか……」

「ねー。なんでそんな嫌そうな表情なのー? 私は会えて嬉しいよ♪」

「会えてと言うか……多分テレパシーか何かの超能力で私を探してわざわざ会いに来ましたよね……」

「あー。流石に私の情報は伝わってるか~。今までの試合映像もしっかり残ってるもんね~」


 試合が始まって数分後、私の前には“レイル街立暗黒学園”のリテさんが現れました。

 超能力の情報は知っています。去年の時点で“魔専アステリア女学院”の試合は全部見ていたので。

 つまり強敵であるという事も知っている。それを踏まえて対処しなくてはなりませんね。


「……戦うんですよね」

「勿論! そう言うルールだもんね。結果的に可愛い子を傷付ける形になるのは心が痛むけど、やっぱり勝負は勝ちたいじゃん?」

「では、遠慮無く仕掛けます!」

「……!」


 片手に魔力を込め、呪文を言わず魔術を放出。水の塊がリテさんにぶつかり、大きな水飛沫を上げた。

 最初は軽い牽制。向こうがどう出るかは分からない。でもすぐに反撃は来る筈。


「いきなりだなぁ~。確かに了承はしたけど、まだ話したい事があったのに~」

「すみません……。けど、私も勝ちたいので……!」

「ふふん、良い気概だねぇ~。血の気が多い後輩にはうんざりしてるけど、ディーネちゃんみたいな子は好きだよ♪ あ、別に私の後輩が嫌いって訳じゃないから!」

「そ、そうですか……」


 取り敢えずほぼノーダメージのようですね。流石に初級魔術……にも及ばない無詠唱の水魔術は効果が薄いみたいです。

 そんなリテさんは力を込めるような素振りを見せ、頭上から無数の土塊が降ってきました。


「“水天幕”!」


 水魔術でテントを作り土塊を弾く。更にカウンターをするように、テントから無数の水槍へと変化させてけしかけます。


「これくらいじゃ大した影響は及ばないかぁ~。主な力が水魔術なら、これは効果的かな!」

「……ッ!」

「人間は体が弱いから威力を下げたけど、効果絶大でしょう?」

「そう……ですね……」


 テントの周りを電流が伝い、私の体が感電しました。おそらくこれはボルトキネシス。リテさんは全てのエレメントを超能力として使えるのかもしれませんね……。

 威力がもっと高かったら気絶していました。向こうも探り探りなのが幸いして意識を失わずに済んだようです。


「“空間掌握・抜”!」

「空間その物を飛ばして……ふふ、変わった力」

「貴女には言われたくありませんよ……」


 まだ若干の痺れがありますが、周りの空間を切り抜いて投擲とうてき。リテさんはそれらを舞ってかわし、片手を薙いで音が私の方へ。

 これは……!


「“フォノンキネシス”ですか……!」

「詳しいねぇ。映像で確認していたとは言え、特徴だけで見抜くなんて」


 今放たれたのは音による振動が放つソニックブーム。当たると鼓膜が破れたり目や鼻から血が出たりする危険な超能力。

 当然意識は容易く奪われます。私は切り抜いた空間の中に居たので影響は受けませんでしたが、もし攻撃の直後でなければと思うと……。


「あちゃー。空間が無くなったばかりだからまだ穴が埋まってなかったか~。音すら通さない空間。なのに会話が可能。不思議だねぇ。空間魔術」


「念動力一つで此処まで多種多様な方が不思議です……」


「超能力はまだ理屈があるよ。念動力で空気中の分子に摩擦を起こして炎を使ったり、擦り合わせて静電気を起こしたり。基本的には周りにある物質の効果だから魔導の方が私にとっては不思議かな~」


「お互い様ですね」


 今のところ牽制の応酬。私の方が少し多めにダメージを負ってしまっていますね。

 相手は多種多様の力を扱う超能力者。去年とは言えティーナ先輩を苦戦させた実績から……おそらく今の私では勝てません。

 だったら何をするか。先輩達が多くのポイントを獲得するまで持ちこたえる。上手くすればこちらの救援にも間に合い、リテさんを倒せるかもしれません。それが私のやり方。

 相手は全員強敵ですけど、きっと勝てると信じてますから。

 私達の代表戦。波乱の幕開けです。

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