第二百三十七幕 代表戦・初日終了
──“山岳ステージ”。
「“光球多連弾”!」
『「………!」』
ルーチェちゃんの光魔法がステージ全域に降り注ぎ、広範囲を巻き込んで大爆発を引き起こす。
一方では今回の選出選手、ウラノちゃん、サラちゃんにリゼちゃん。そして連続出場のボルカちゃんが蹂躙していた。
「物語──“龍”」
『ガギャア!』
『我は亜龍だが、同じ種族として負けるかァ!!』
ウラノちゃんの魔導書から生み出される龍は天候を変え、暴風雨と炎で攻撃。向こうも龍種だったみたいだけど押し負けて光となって転移した。
「行っくよー! リゼ!」
「ああ!」
『コイツ……!』
『高々一年生だろォ!!』
『我らが敗れる道理は無い!』
「「………ッ!」」
そしてサラちゃんとリゼちゃんは合流したものの、三匹を相手に苦戦。同じ数の二匹は倒し、相討ちの形となってリタイアした。
『くっ……中等部の一年生に此処までしてやられるとは。ルミエル・セイブ・アステリアの後進でもないが、やはり強豪校には強者が集うのだな』
残った一匹にも大ダメージを与えられたみたい。流石の二人だね!
そしてそんな場所に焔の気配が現れ、炎の軌跡と共に吹き飛ばした。
「間に合わなかったか……!」
『ボルカ・フレム……!』
ボルカちゃんが到達し、相手は立ち上がる。次の瞬間にボルカちゃんは炎剣にて斬り伏せた。
「これはアタシじゃない。後輩達の成果だ!」
『……カハッ……!』
それによって残った一匹の意識も無くなり転移。ボルカちゃんは再び炎で加速して相手を探す。
(少しずつ気配も読めるようになってきたな。大凡の位置の把握は可能になってる。それに伴って最適な動きを取る事も出来るし、確かに成長してんな。アタシ!)
「……!」
移動するボルカちゃんを見て思う。なんだか彼女の動きにキレが増したと言うか、かなり良くなっている気がする。
元々世界的に見ても上位に入る実力者なんだけど、更に磨きが掛かってるね。
「次々行くぜー!」
「ボルカ・フレム!」
そこからボルカちゃんは更に躍進。炎で加速しながら次のターゲットへ突撃。
すれ違い様に炎剣を振り抜き、魔族と思しき人に斬り掛かる。その人は魔力でガードし、弾いたところで懐へ。
何度か鬩ぎ合い、ボルカちゃんは攻撃をいなして至近距離で掌を向けた。
「ハハ、ホントに今のアタシは調子が良いぜー!」
「……! 第一試合より……強い……!?」
火炎を放ち、魔族の人を焼き尽くす。
本当にスゴく強くなってる……第一試合の時に手を抜いていたとは考えられないし、試合中にこのレベルになったんだ。
ボルカちゃんの成長力はとてつもないね。経験を経て更に上へ向かっている。
「っしゃあ! なんだか体が軽いぜ!」
調子良く二人目も倒し、ポイントを獲得。そのまま調子は崩さずにステージを飛び回り、次々と相手を倒して大量得点を得た。
「やりィ! レモン程じゃないけど、アタシもかなり強くなったな!」
そして試合終了。ボルカちゃんの活躍もあり“魔専アステリア女学院”はまたもや一位を取る事が出来た。
次はレモンさん達“神妖百鬼学園”の二試合目だね。それが終われば今日の残り試合は一つ。人間の国でのトップ2はその二校であり、その総得点でも他の国より高いから結果的に人間の国の総合順位も一位となっている。
レモンさん達の第二試合も始まった。
──“草原ステージ”。
(ボルカ殿の成長力は凄まじいな。私も負けていられん!)
転移するや否や草原を駆け抜ける。相変わらずスゴい速さ。もう相手の気配を見つけたみたい。
「ルーナ=アマラール・麗衛門!」
「ああ。勝負願おう!」
「受けて立つ!」
レモンさんは木刀を構え、相手は魔力からなる剣を持つ。
木刀と剣がぶつかって衝撃波を散らし、低草が舞う。そのまま相手を弾き、レモンさんは懐へと迫った。
「ハッ!」
「……ッ!」
木刀を振り上げ、魔力の剣を弾き飛ばす。相手は即座に体勢を立て直し、新たに魔力の槍を複数本生成。一斉に突く。
「……! 傷を負ってしまったな。流石だ」
「数十本の槍を至近距離で受けて掠り傷かよ!」
「第一試合は掠り傷も負わなかったんだ。誇りに思うが良い」
「だったら埃を付けてやるよ!」
「良い気概だ」
魔力の鞭が周囲を薙ぎ払って草原の一角を更地とし、レモンさんはそれらを見切って躱す。今一度踏み込み、木刀で勢い良く貫いた。
「はっ!」
「……ッ!」
的確に脳天に当たり、意識を失う。
それによって相手は転移。レモンさんは次の獲物を狙い、踏み出した。
『カッ!』
『ハァ!』
「ふっ!」
そして相対し、今まで通り正々堂々正面から挑む。幻獣さんと魔物さんは炎や毒を用いて嗾けるけど、それらを木刀の振りによって払い除けるレモンさん。
そこから踏み入り、二匹の体を木刀で吹き飛ばした。
『『………ッ!』』
「トドメだ!」
確実な隙を意図的に作り出し、急所を討つ。それによって二匹は意識を失い、控え室へと転移した。
このままの調子でレモンさん無双。またもや最高得点を取り、今回は他の選手達も苦戦があったみたいだけど大差で一位を取った。
「スゴいね! ボルカちゃんもレモンさんも! 二人の試合はまさに二人無双って感じ!」
「ハハ、なんか体が軽くってさ。今のアタシなら何でも出来そうだぜ!」
「フッ、私はいつも通り行動を起こしているだけ。だが受けるダメージも増えてきたし、次の試合は休憩とする」
「アタシもそうするよ。オーバーワークはかえって逆効果だしな。調子良いから勿体無いけど、無茶して疲労が残ったら元も子もないや」
「二人とも二試合連続で出場してたもんね~」
次の第三試合、ボルカちゃんとレモンさんは出場を見送るらしい。理由は今告げた通り。
体を壊しちゃったら意味がないもんね~。去年のユピテルさんみたいに全力を出し過ぎて後の試合に響くのも代表戦じゃ大変な事態。特にこの二人は戦闘スタイル的にも己の身でステージを飛び回ってる。蓄積疲労は思っているよりも多いかもしれない。
だから次の試合は私が頑張るよ! 私も第一試合の時、毒の影響で調子が良くなった。あの感覚を思い出せばレモンさんやボルカちゃんに追い付ける筈!
「私もやるよ! 二人だけで先に行くのは寂しいもん!」
「おう! 頑張れよティーナ!」
「ああ。楽しみにしているぞ。次の君の試合」
「うん!」
「ま、今回のブロックにはシュティルとかダクとか、有力選手は居ないしな。モニターで見たり体感した見立てで言えば多分一番強かったのは“イルム街立アスリー科学専門学校”だし、代表戦だから油断は出来ねえけど第一試合よりは気楽に行けると思うぜ」
「確かにそうかもしれないな。あの者達が私達のブロックに居たら今程点数を突き放せなかったかもしれない」
「アハハ……実際に私達のブロックで二位はそのチームだもんね。まさかの第一試合の相手が今日で言えば一番強敵だったパターンだ」
現在のブロックに居るチーム。それは総合得点が示すようにゼルさん達“イルム街立アスリー科学専門学校”が一番の強敵だったみたい。
一度戦ってるからこのブロック内では当たらないと思うけど、ポイント的にも順当に迫ってきてるから他の試合を取り零せないね。
そんな事を話しているうちに第三試合が始まろうとしていた。今回の出場選手は私、メリア先輩、ウラノちゃんにディーネちゃんとベルちゃん。頑張るぞー!
──“遺跡ステージ”。
今まで通り司会者さんの言葉を聞き終え、私達は今回のステージへと転移した。
神殿とか柱とか、全体的に石造りで植物類は少ないね。一応水辺や草原はあるけど、今までとは少し違うかも。
私も毒の影響を受けていた時の事を思い出して闇雲に樹海は作らない。感覚を研ぎ澄まして呼び戻すんだ。
(気配……動き……魔力……その全てを肌で感じて自分の動きもイメージする……)
深呼吸をし、集中力を高める。
私もそれなりに試合経験は積んでいる。ルミエル先輩から直々に教えも頂いている。そう、私がイメージする完璧な動きはルミエル先輩、イェラ先輩、ボルカちゃんにレモンさんにユピテルさんにシュティルさん。それらを合わせたもの。
完璧を目指すならルミエル先輩とイェラ先輩のイメージだけでも良いけど、私に合った動きを導き出さなきゃならないもんね。
(魔力の気配……感じる……ボルカちゃんは生き物の気配を感じやすいんだっけ……魔力が無い存在も居るから何れそれは行うようにするとして……今やるのは……)
息を吐き、ママに魔力を込める。
感じた気配の中でも一番近くの方へと狙いを定め、ボルカちゃんにも魔力を込めた。
広範囲を一掃するなら相応の攻撃が一番良いよね。
「“植伝熱射砲”……!」
植物で砲口を作り、その中に魔力を込める。込められた魔力はより洗練され、一気にその場所へと撃ち込んだ。
『なっ……!』
熱線の着弾確認。同時に炎のドームが広がり、広範囲の爆発を引き起こす。そこから現れた光が消え去るのを視界に映した。まずは1ポイントだね。
ボルカちゃんやレモンさんはあくまで近距離主体。だから私は遠距離攻撃による殲滅を担う。
この爆発で居場所は割り出されたかな。次の手は創造による兵力の増加。
「“フォレストゴーレム”」
『オオオォォォォ……』
いつものゴーレム。大きさは森をそのまま縦にしたくらい。
基本的には味方以外を打ち倒す自動操作にしてあるけど、少し手を加える事でより大きな戦力としてみせる。
(ティナの要領でゴーレムとの感覚を共有。私自身も乗り込み、安全圏からの一方的な攻撃)
『オオオォォォォ……!』
巨腕を振り下ろし、地面を粉砕。無数の土塊が舞い上がり、ゴーレムから蔦を伸ばして確保。それをボルカちゃんの炎で発火。
「あれは……!」
『ティーナ・ロスト・ルミナスの巨大ゴーレム……!』
「周りにある物って……」
『ま、まさか……!』
多くの気配を確認。既に戦っている最中だったのかな。この短時間でこの人数が揃っているという事は元々近い位置に転移しており、気配を読む力に優れている人達という事。
でも大丈夫。全部まとめて私が倒すから。
「“疑似隕石”!」
「降ってくるぞォーッ!!!」
『「『…………!?』」』
燃え上がった土塊を蔦による加速で落とす。それによって疑似隕石の完成。土魔導の上級レベルには及ばないけど、一掃するには持ってこい。
隕石はその場所へと落ちて熱と衝撃が広がる。でも上手く避けたみたい。流石だね。
「知っていたが、メチャクチャしやがる……!」
「何度も映像で見たけど、なにあの魔力出力! 私達より上じゃない!」
『……オイ、待てよ。今の地形……』
『……!? ま、まさか……!』
早くも気付かれちゃった。考察力も流石のもの。
だけどもう遅い。周りには隕石が落ち、そこから更に植物で覆っている。四方が囲まれており、地面を掘るか空を飛ぶしかないこの状況。
そしてその方法は、全てが無下になる。
「やって!」
『オオオォォォォッ……!』
「巨腕が降ってくるぞォーッ!!!」
「逃げ場がない……!?」
『飛んだら落とされ……潜ったとしても地面は大きく沈む……』
『ま、まさか……!』
ズドーン!! と轟音が鳴り響き、ステージ全体が大きく揺れる。
一ヶ所に纏めた上で一点に魔力を込めた巨腕が降ってくる。そこは深さ数十メートルはある巨大クレーターとなり、四つの光が転移した。
これで合計5ポイント。
(うん……やれる。第一試合の時の感覚とはまた違うけど、単なる力押しじゃなくて逃げ場を塞いだ上での力押し。これならまとめて倒せる……!)
巨大ゴーレムは進撃する。さながら相手を見つけたら打ち倒す巨大兵器。
私は魔力操作が杜撰だったもんね。その力を余す事無く使えばより確実な成果が得られる。
だけどこれだけに頼る訳にもいかないよね。いくら頑丈にしても、必ず破る相手は居ると思うから。
そのまま私達はステージを進行。植物と炎と質量をより効率的に使い、仲間達のサポートもしつつポイントを取っていく。
「うん……大丈夫。私もみんなに負けないくらい成長しているよね!」
そして見事総合ポイントでリードし、第三試合試合も勝利を飾った。
これで初日の結果は上位の成績を収める事が出来たね!




