第二百三十六幕 圧倒
「見事な勝利だったな。“魔専アステリア女学院”の者達。お陰で人間の国がポイントを少しリードしたぞ」
「レモンさん!」
会場に戻り、試合を見学しようとしたところでレモンさんと会った。
ほんの数十分振りだけど、なんだか久し振りな気がするのは試合が白熱したからかな。現在の人間の国は良い調子みたい。
一応いくつかの試合は平行して行われるから、総合ポイントでリードしているのは大きな成果だね。このまま調子をキープしよう!
「レモンさんの試合はもうすぐだっけ?」
「ああ。君達が紡いだ人間の国のリードを死守……いや、更に広げるとしよう」
次の試合はレモンさん達“神妖百鬼天照学園”。代表戦である以上相手も強敵揃いだけど、中等部までの人間の国最強はレモンさん達。きっと勝利を収めて来る筈。
私達はしっかりと応援しなきゃね。
そしてレモンさん達の試合が始まる。
《さあさあさあ!! さあさあさあ!! さあさあさあさあ! さあさあさあ!! 全ての試合がかなり大盛り上がりを見せております今現在この時!!! 白熱し続け、世界を焼き尽くす大火となる多様の戦術による対抗戦!!! まだまだ序章も序章!! 更に白熱し、太陽すら蒸発させましょう!!!》
「「「わあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!!!」」」
「「「ドワアアアアアアアアァァァァァァァァァッッッ!!!!!!」」」
『『『ウオオオオオオオオオォォォォォォォォォッッッ!!!!!!』』』
『『『キュオオオオオオオオォォォォォォンンンッッッ!!!!!!』』』
《今回の出場チーム!! 降臨だァァァ━━━━ッッッ!!!!》
その言葉と同時にレモンさん達。及び今回の対戦相手が舞台へ。
チームの紹介が入った後、レモンさん達は転移。モニターには会場の様子が映し出され、出場選手達は同時に行動を開始した。
──“農村ステージ”。
今回のステージは農村。畑が主流の田舎の村って感じかな。
モニターにはそれぞれの選手達が映っているけど、私はレモンさんが居る所を中心に見てみる。
「さて、行くか」
一言呟き、レモンさんは踏み込んで加速。田畑を駆け巡り、相手の居場所を即座に特定して到達した。
「最初の相手は君だ」
『ルーナ=アマラール・麗衛門……!』
レモンさんの相手は半人半獣の存在。幻獣さんか魔物さんかな。武器は持っていないようだけど、身体能力は高そうだし魔力による更なる身体強化も当然してくるよね。
更に幻獣や魔物が魔導を使えない訳がないから強敵であるのは間違いない筈。なんてったって代表戦だもん。
『ハッ!』
「遅い」
拳を放ち、レモンさんは紙一重で躱す。風圧で畑が耕され、農作物が宙に舞った。
「勿体無い事をする。まだ青いではないか」
『魔力からなる再現された物だろう』
続いて回し蹴りが放たれ、作物が粉砕。それも避けたレモンさんは木刀を用いて嗾ける。
「はっ!」
『なんの……!』
振り抜き、避けられる。向こうも代表選手。実力は間違いないよね。
けれどレモンさんの強さは相手の全てを上回る。
「やはり、遅いな」
『……ッ!』
頬を打ち抜き、即座に胴を突く。相手の口から空気が漏れ、脳天に振り下ろす。
それによって地面へと頭突きする形となってヒビが割れる。掬い上げるように木刀を振り抜き、今一度突いて吹き飛ばした。
『カハッ……!』
「フム、頑丈だな」
吹き飛んだ相手は木へ衝突。複数砕き、その上で立ち上がる。
本当に頑丈だね。都市大会や代表決定戦でも初戦辺りの人はやられるレベルの攻撃だったけど、その上で耐えるんだもん。
『まだまだァ……!』
「牙……爪も鋭くなったな」
『俺達の種族はそう言う種族だ……!』
レモンさんが述べた通りの状態変化。言うなら本気モードってところかな。
筋力も増し、とても強そうな見た目になった。この感じは魔物さんみたいだね。
『最高最速の一撃を食らうが良い!』
「ああ。来るが良い」
踏み込み、踏み砕き、相手は加速。一瞬にして距離を詰め寄り、鋭い爪を振り下ろした。
「最高最速の一撃は……そのまま自分に返って来るものだ」
『…………』
「もう聞こえていないか」
振り下ろした瞬間に軌道を変え、自身へぶつけてダメージを与えた。
それによって魔物さんは意識を失い、レモンさんの説明が入る。あまりの速さに全てが終わった後じゃないと話せなかったんだね。
相手は転移し、レモンさんは既に次の相手を探す為に移動していた。
一番最初に敵を倒したのは彼女だね。他の選手達も戦い始めてるけど、まだ殆ど当たってない。気配が読めても見つからなきゃ意味がないもんね~。そう言う意味でもレモンさんは速い。
「次の相手は二人……いや、一人と一匹か」
「現れて早々なんだ? ってか、ルーナ=アマラール・麗衛門じゃねェか!」
『私達の戦いに割って入る……ではなく不意討ちでもなく正々堂々宣言するのですか。律儀ですね。サムライと言う存在は』
言動からして魔族さんと幻獣さんかな。既に一人と一匹は戦っていたみたいだけど、正々堂々と姿を見せたレモンさんには若干の呆れも見せていた。
「まァ、堂々と現れてんなら堂々と戦うまで。丁度良い」
『そうですね。二人とも倒せば良いだけです』
「その意見には賛成だ。フッ、気が合うじゃないか」
数言だけ交わし、木刀と魔力。不思議な力が解放される。
次の瞬間には二人と一匹が衝突しており、田畑が吹き飛んだ。
「ううむ。私の故郷が故郷なので田畑を散らすのは思うところがある。プログラムなのは分かっているんだがな」
「ハッ、そう言や“日の下”は米の産地だったな。なら場所を変えるか? 森の中辺りにでも……」
『創られたステージとは言え、自然を破壊するのは思うところがありますよ』
「あー、幻獣の国は全体で植物を大事にしてるんだったな。んじゃ、どうしようもねェや」
魔族の人は魔力を込め、魔弾を連射。一つ一つによってクレーターが造られ、レモンさんはその距離を詰め寄った。
「元より魔族の魔力操作は心底厄介だからな」
「高評価と受け取っておくぜ」
木刀を振り抜き、魔力の壁でガード。弾かれ、至近距離で風が放たれた。
「風魔術か……!」
直撃は避け、レモンさんは滑るように停止。そこへ炎が横切った。
「炎もか」
「魔族は基本的に二つ以上の魔法や魔術が使える。その手の分野は人間より優れてるんだぜ? ま、人間にゃ想像力と創造力があるからお前達の作る物には世話になってる。便利だ」
「そうか。それは私ではないが、ダイバースを見ている者達は多い。製作者にも届くだろう」
風と炎で挟み込み、威力が増して爆発。それが連鎖して起こる。流石の魔族さんだけど、ちゃんと人類へのフォローとかもあって礼儀正しいね。
そこへ幻獣さんが踏み込んだ。
『二人だけで盛り上がるのはジェラシーですね。元々戦っていた相手は私と言うのに』
「ハッ、オイオイ。なんだ? モテモテじゃねェか。ハーレムってやつか?」
『私はオスですよ』
「え゛? マジで?」
「フッ、ならば私の逆ハーレムだな。主らはタイプではないが」
「オイオイ」
『私もメスには興味ありませんよ』
「え?」「え?」
不思議な力で分断し、雑談を行いながら鬩ぎ合う。
流石の代表戦。1vs1ならレモンさんが優位に戦えるけど、一人増えるだけで苦戦を強いられる。
でも、レモンさんにはそれを打開するだけの確かな実力がある!
「兎も角、私が主役の乙女シュミレーターは需要が無いのでな。バトルアクションに切り替えようぞ」
「古風な感じかと思いきや。横文字バンバン使いやがんな。だったら俺ァ無双と行こうか!」
『では私は育成シュミレーターで』
「「今の状況で?」」
踏み込み、土を蹴り上げて加速。木刀が振り下ろされ、魔力と不思議な力が正面衝突を引き起こす。
それによって辺りは吹き飛び、更地と化して三者は行動に移る。
「まずは……一人!」
「俺か? ハッ、舐めんな!」
砂塵によって悪い視界。木刀が振り下ろされ、その軌跡で一瞬映り込む。だけど会場からじゃ見えにくいね。
けれども影から辛うじて認識は可能。ぶつかり合う度に砂塵が晴れ、木刀によって魔族の選手が吹き飛んだのを確認。
その■角から幻獣の選手が踏み込み、不思議な力で晴らす。
既にレモンさんは木刀を突き立てており、一気に突き刺して幻獣さんも吹き飛ばした。
一人と一匹は複数の遮蔽や障害物に当たって更なるダメージを負い、意識が消え去り転移した。
「スゴい……レモンさん」
「流石だよなぁ。開始5分で早くも3ポイント獲得だ」
そう、始まってから時間は全然経過していない。その上でこの圧倒的な強さ。
先祖帰りとは言え、魔力も何も関係無い素の力でこれ。私達ってよく良い勝負まで持ち込めたね~。
そんな感じで一騎当千の実力を遺憾無く発揮。他国の選手を蹴散らしていく。
他の選手達も圧倒し、なんと全ポイントを“神妖百鬼天照学園”の選手だけで獲得し、ぶっちぎりの一位で第一試合を終えるのだった。
《試合終了ォォォ!!! とてつもなく凄まじい実力だァァァ━━━━━ッッッ!!! これがルミエル・セイブ・アステリアを除いても世界最強を謳われる人間の国の実力なのかァ━━ッ!? そのうちの一つ、“神妖百鬼天照学園”も例外無し!! 圧倒的な実力の差を見せつけ! 順当に突破したァ━━ッ!!!》
「「「わあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!!!!!」」」
「「「ドワアアアアアアアアァァァァァァァァァッッッ…………!!!!!!」」」
『『『ウオオオオオオオオオォォォォォォォォォッッッ…………!!!!!!』』』
『『『キュオオオオオオオオォォォォォォンンンッッッ…………!!!!!!』』』
試合が終わり、司会者さんの言葉と同時に広がる大歓声。しかし他国はちょっと覇気が無い様子。この結果だもんね。それは仕方無いこと。
何はともあれ、見事レモンさん達も第一試合を突破。とは言え総当たりだからそのブロックで試合は行われて、厳密に言えば一回戦とも違うんだよね。
取り敢えず今のポイント最上位は紛れもなく“神妖百鬼天照学園”。上位通過は確定だね。
私達も総合的に見ると上の方。ここから更にポイントを取れば晴れて上位グループとして次の試合へ行く事が出来る。
今日の試合は残り二つ。勝ち進むぞー!




