第二百三十四幕 窮地
「“ファイアキャノン”!」
「“ウィンドブレード”!」
「“樹木大生成”!」
【「【その全てが無駄だァ!】」】
炎、風、樹。それら全てが薙ぎ払われ、私達の体は瘴気に包まれる。
ボルカちゃんは直前に炎を用いてそれを防ぎ、自身が踏み込んでバハさんの前へと差し迫った。
「そら!」
【「【速ェな。流石だぜ。ボルカ・フレム】」】
炎の噴出による加速。その速度で炎剣を斬り付け、バハさんは見切って生身で対抗。受け止めた側から瘴気の気配が辺りへ充満する。
ボルカちゃんは即座に離脱。炎で瘴気を掻き消し、バハさんはまた私の視界から消えた。
これは本当に消えてるんじゃなく、私には追えないくらいの速度で移動しているだけ。だからボルカちゃんならきっと……!
【「【ほう? 目で追ったか】」】
「今までの相手が相手なんでな!」
予想通り、バハさんの一撃を炎剣に魔力の壁でガード。剣だけじゃ防げない事を判断して複数の防御網を用いたんだね。流石ボルカちゃん!
そのまま魔力を炎へと変換。至近距離で撃ち込み、熱と衝撃でバハさんの体を吹き飛ばした。
「“トルネードブロー”!」
【「【…………!】」】
そこ目掛け、こちらも目が良いメリア先輩が竜巻を正面に放出。バハさんの体を更に吹き飛ばした。
ここは私も続かなきゃ二人に面目無い!
「“樹木連打”!」
【「【こりゃ……キチィな……!】」】
吹き飛ぶ事で身動きには制限がされる。なのでそこを突き、複数の植物を打ち込む。
反撃の隙を与えずに叩き、更なる魔力を込めて仕掛けた。
「“フォーリングジャングル”!」
【「【森その物か……!】」】
空中で森を作り、その全質量を降下。
ズズーン! と轟音と共に震動が響き渡り、大きな粉塵が舞い上がった。
あの質量。強化されているバハさんとは言え、それなりに効果的なんじゃないかな。
次の瞬間、落とした森は黒い物に薙ぎ払われ、その中から軽傷を負ったバハさんが姿を現した。
これでも概ね予想通り。軽傷でも負わせる事が出来ただけ前進だよ。
【「【やっぱ第一試合の最大級の強敵は“魔専アステリア女学院”だな。この状態の俺にもダメージを与えて来やがる】」】
流石に遠過ぎて声は聞こえないけど、何かしようとしているのは分かる。
そう思ったのも束の間、バハさんは纏った力を伸ばし、手のように扱う。そして近くの山を切り裂いて絡み付かせ、持ち上げて私達の方へと投擲した。
山その物を放り投げる腕力。これも魂纏いの賜物なのかな。
「でも山なら……! “樹木纏撃”!」
「“爆炎”!」
「“ラージトルネードブロー”!」
何にしても私達に向かって飛んでくる山は放置出来ない。そもそもあの範囲を避けるのは至難の技だもんね。
だから各々で上級魔法相当の攻撃を放つ。それにより、迫っていた山は粉砕した。
そして眼前にはバハさん。ボルカちゃんは炎剣で迎撃に移る。私も段々目は慣れてきたかもしれないけど、まだまだ追い付けそうにはない。だからボルカちゃんが食い下がってる間に私がサポートしなきゃ!
「“割樹”!」
ボルカちゃんとバハさんが鬩ぎ合う中、植物魔法が割って入りバハさんの動きを一瞬止める。その間にボルカちゃんは■角へと回り込み、炎剣を振り抜いてまたその体を吹き飛ばした。
しかし今度は上手く着地し、伸びる腕が迫り来る。……あれ、これって……。
「“葉断斬”!」
【「【…………!】」】
伸び切った黒い腕を葉っぱで切り裂き、引き離す。それによって余裕のあったバハさんの表情が変わり、魔力の気配も少し弱まった気がした。
やっぱり……!
「今のバハさんは魂さん達を纏ってる状態なんだ! だから攻撃の度に引き離して行けば弱る!」
「魂? そう言やアイツ、さっきも死霊とか言ってたな。もしかしてネクロマンサー的なアレか?」
「うん!」
そう言えばボルカちゃん達と情報伝達をしてなかった。そんな余裕が無かったからなんだけど、それが分かるだけで打開策に直接繋がる!
バハさんも魂さんを切り離したばかりですぐに仕掛ける余裕も無いみたいだし、伝えるには丁度良いタイミングだったね。
【「【ハッ、バレちまったか。やっぱ情報漏洩は命取りだ。これも全て俺の慢心の所為。反省しなくちゃな】」】
向こうも立て直したかな。まだほんのちょっぴりしか削っていない。そもそも攻撃する事が出来ないくらいの強さだからね。なのに早い段階で気付けたのは私達にとって大きな貢献になる。
バハさんは再び力を込め、黒い影の腕が複数本。
「来るよ……!」
「だな!」
「対処法分かって良かったね~!」
私達が警戒を高めた瞬間に無数の腕が迫り来る。でもこれは攻撃のチャンス。辛うじて避け、その隙に魂の方を狙う。
【「【今の死霊達は変幻自在だ!】」】
「「「…………!?」」」
伸びた腕が更に枝分かれし、私達の体を薙ぎ払った。
勢いよく三方に飛び、それぞれ森林、海岸、水辺へ……って、これは大変! 三人でなんとか相手に出来る強さのバハさん。孤立が一番の弱点になる。
私にはママ達が居るけど、ボルカちゃんとメリア先輩。一人でも食い下がれるボルカちゃんはともかく、メリア先輩が危ない……!
「させない! “樹海進行”!」
その場で樹海を生み出し、先程の場所に一斉放射。
周りを樹海で埋め尽くす。だけどそれだけじゃ足りない。まだまだまだまだやらなきゃ! バハさんが拮抗出来るボルカちゃんを先に狙う可能性もあるし、残った仲間達を危険に晒す訳にはいかない!
「ママ。もっと……もっともっともっとやらなくちゃ……!」
『ええ、そうね。じゃあこのステージ全てをまた埋め尽くしちゃいましょう』
「うん。そうだね!」
ママの言葉に返答し、魔力を込める。ボルカちゃん達の吹き飛んだ方向は理解している。そこだけに気を付けて、この海岸ステージを崩壊させれば結果的に残った私達の勝──
【「【──ところでお前……たまに話す独り言はなんだ?】」】
「……。……え?」
私の背後に居たのはバハさん。そっか。狙いは私だったんだ。ちょっと安心。ステージを崩壊させないで済みそう。
即座に周りへ植物を張り巡らせ、バハさんへ攻撃。彼は飛び退くように避け、言葉を続ける。
【「【いやな。ステージ全体を破壊する暴挙に出るんじゃないかと懸念して狙ったが、それは正解だったみてェだ】」】
「そう……ですか」
いつ仕掛けて来るか分からない。だから警戒は緩めない。それどころか会話の途中に仕掛けてみるけど、効果は薄い。
やっぱり手強い相手。バハさんは淡々と言葉を続ける。
【「【それは良いんだが……やっぱり気になる。精霊的な何かか、魂的な何かか。お前が話していると思われる相手はそのどちらにも該当しねェんだ】」】
「なんの事ですか……?」
言ってる意味がよく分からない。ママとティナはお人形のフリをしているだけ。だから精霊でも魂……でも……な……い……。
取り敢えず両方に該当しないのは当然の事。バハさんは更に言葉を──
【「【お前……多分ずっと自分独りで存在しな──】」】
「ストォォォォッッップゥゥゥゥ━━━━ッ!!! その話、一旦無しで頼む!!」
【「【……! ボルカ・フレム……?】」】
「ボルカちゃん!」
何かを言おうとしたバハさんへ大声を出し、炎の加速と共に最速で突撃するボルカちゃん。
その勢いにバハさんは吹き飛ばされ、更には上空から魔力の気配を感じた。
「ちょっと訳アリなの! 了承して! “フォーリングトルネード”!」
【「【…………!】」】
続いてメリア先輩が現れ、竜巻を落として爆風を起こす。近くの海面まで揺れ、辺りは砂塵に包まれた。
バハさんは立ち上がる。
【「痛ェな……なんだこの連携。今までで一番の……あ! 死霊が少し剥がれちまってる!」】
「そ、そうなの?」
【「ああ。ったく、何だよこの威力。マジで最強クラスじゃねェか」】
よく分からないけど、バハさんが少しは弱体化したみたい。それは良かった。
ボルカちゃんは私を守るように前に立ち、メリア先輩も着地する。やっぱり二人は頼もしいなぁ~。
「てな訳で、さっき言った通りだ。見た事聞いた事については内密に頼む」
【「見れば周りを炎で覆って風で音を立てて観客席からも見えず聞こえないようにしてんな。……分かった。取り敢えず言及はしねェでおく。死霊をしょっちゅう使わせて貰ってる俺。感情は他人より分かる。必死さも伝わる」】
「助かる」
何の話をしているのかも分からないけど、取り敢えず丸く収まったのかな? 私に関係あるのかないのか、私の名前は出てなかったから関係無いのかもね。
一先ず今は集中し直そうっと。
【「だがま、割かし手痛いダメージを負っちまった。さっきよりは劣るが……ちと本気を出させて貰う」】
「ああ。構わないぜ。出来れば全力のアンタに正面から勝ちたかったけどな」
【「これでも本気だ。そもそも、強化倍率が高いからこそ長時間は維持出来ねェんだ。だから後半戦に差し掛かった、且つ強敵であるティーナ・ロスト・ルミナス相手の時に使用した」】
「そうかい。んじゃ、そろそろ此方としても終わらせるか」
【「それは助かるぜ」】
お互いに魔力を込め、高め合う。私とメリア先輩も魔力を高めて向き直る。
ダイバース代表戦、第一試合。それは終わりに近付こうとしていた。




