第二百三十幕 先輩の威厳
「“ウィンドブロー”!」
『“暴風羽”』
私の風魔法と風鳥の羽がぶつかり合い、ステージの雲を吹き飛ばす衝突を引き起こす。
やるねー。でもまだまだ代表戦レベルの戦いじゃない。お互いに。
私は箒で加速し、風鳥も後を追い掛けてくる。
思えば私の箒に追い付ける存在なんて代表決定戦ですら居なかったもんね~。新鮮な体験!
『流石はメリア・ブリーズ。人間にしてこのレベルの速度を出せるとは』
「箒では三本の指に入ると思ってるよ! ルミエル先輩やイェラ先輩には生身で追い越されちゃうけど、箒のテクニックで負けるつもりはないもん!」
『ルミエル・セイブ・アステリアとイェラ・ミール。テクニックだけなら世界最強の二人に匹敵する存在と戦えるなど光栄ですね』
「誇りに思うが良い! なんてね!」
『ええ。そうしましょう』
私と風鳥の追いかけっこ。山を越え、雲を潜り、時には低空飛行で地面スレスレに移動。風を切って突き抜け、一瞬にしてステージを一周する。
私の目標は音速。まだまだ遠く及ばないけど、いつかは越えて見せるよ!
追いかけっこの最中にも衝突は行われる。風と風がぶつかっては散らし、地上を吹き飛ばす。
「お、海!」
『海岸ステージですからね』
ティーナちゃんの作った樹海エリアを抜け、海岸へと到達。水を浮かせながら箒は進み、私はそのまま海底へ。
此処じゃ海底でも息が出来るからね。普段は出来ない海底レース気分を味わえる!
『海の中。視界は悪いですよね。これが狙いですか?』
「それだけじゃないよ! 水はそのまま攻撃に転ずる事が出来るからね! “風水流撃”!」
竜巻を起こし、周りの水を風鳥にぶつける。呼吸が出来るだけで性質自体は本物の水と同じだもんね。炎魔法とかは使えるけどー。
水流をぶつければそれだけでダメージになる!
「目を回せー!」
『貴女は鳥類の視力と私の三半規管を侮ってますね』
「あ!」
縦横無尽に振り回したけど、目が回った様子は無く構わず突撃してきた。
風を纏って加速し、貫通力も高める。ドリルのように回転して突進を引き起こす。
「鳥類って三半規管は強いんだっけ? 私って生物は専門じゃないからさ~」
『個体差はありますね。単純に私が群を抜いて優れていると認識してくれれば構いませんよ』
「そっか!」
風鳥が色んな意味で特別ってだけみたいだね。
そうと分かれば対処するだけ。取り敢えず戦い続けるのは変わらないね。
ドリルを避け、また魔力を込める。
「“ウィンドブラスター”!」
『“風翼礫”!』
風による無数の連弾を撃ち合い、海中を激しく揺らす。
徐々に距離を詰め、至近距離で攻撃を放つ。
「“ウィンドインパクト”!」
『中級魔法ならば、生身で受けられます』
「生身ってか、羽毛は常に風で覆われてるじゃん!」
風と羽に自然発生している風がぶつかり合い、周りの水を打ち消した。
水が無くなっても浮力が感じなくなるだけで戦闘にはあまり関係無いよね。特に風を主体にする私達にとっては!
「“トルネード”!」
『竜巻なら私も起こせますよ』
魔法の竜巻。複数の羽を飛ばし、操って回転させた事で生み出した竜巻。二つのそれらがぶつかり合い、除けた海水が更に盛り上がる。
今頃海面では風によって盛り上がった水が柱みたいになってるかもね。幻想的な光景なんだろうなぁ~。此処からじゃ分からないけど。
「お互いの力はほぼ拮抗している感じかな!」
『その様で。何より私も貴女もまだ余力を残しておりますね?』
「そうだね。連戦に次ぐ連戦なのが今回のポイント制ルール。全力を使う場面は限られる」
お互いの力で言えば五割から六割ってくらいかな。その程度の力しか使ってないけど、理由は今述べた通り。圧倒的に不利な場面でようやく全力を使おうかなって思うくらいの戦い。
ティーナちゃんみたいに無尽蔵の魔力があればまた話は別なんだけどね。私は平均的かちょっと上程度だから仕方ない。
何はともあれ、このままじゃお互いに0ポイントのまま試合が終わっちゃう可能性もあるかもね。他の戦況がどうなっているかは分からないけど、海面に及んでいた植物も消えたみたい。ティーナちゃんが意図的に消したのかな。
取り敢えず、少しずつ体を慣らして仕掛けるしかないよね。
「ちょっと本気を出していくよ!」
『そうですね。キリがありませんもの』
相手も考えは同じ。いつまでも1vs1で戦っている訳にはいかないから。
風を込め、海水が渦巻き、私は片手を突き出した。
「“フロートウィンド”!」
『また水の渦巻きで?』
水を浮かせ、さっきにも仕掛けたみたいな海水の水流竜巻をぶつける。相手は疑問に思っているみたいだけど、私の狙いはそこじゃない。
「“ウィンズブレイド”!」
『……! 水流は目眩まし……!』
水流の影になった死角へと回り込み、風の刃を複数放つ。
風鳥は羽毛の風膜で防ぎ、箒による加速で防御の浅い所に狙いを付けた。
「“ウィンド──」
『させませんよ。“風翼”!』
魔法を放つよりも前に速度の早い技で弾かれる。けどこれくらいの風圧なら、普段箒を乗り塾している時に受ける方が強い。
風の隙間を見つけて通り抜け、また死角へと回り込んだ。
『この迅速な対応……流石ですね……!』
「どんどん加速していくよ!」
振り向けばその反対側へ付き、そちらを向けばそこの死角へ。
慣らした甲斐があったね。風鳥のみならず、鳥類は真後ろ以外の殆どを見る事が出来る。だから死角も限られていてとても探り難いんだけど、私の速さに翻弄されているのが窺えられた。
相手は咄嗟に周りへ羽毛を散らして風を引き起こすけど、私にとっては逆効果。その風に乗ってより速く、鋭く、加速する。
『これが……人間の国に置けるトップスピード……!』
「音速や雷速が居るんだよ! 私なんかまだまだ! だから現状の最高速度で突き抜ける!!」
『……!』
周りを回り、風を加えて更に加速。
真後ろへと回り込んで一瞬だけ力を込め、最速で突撃する。
名付けるなら……!
「“超速ウィンドアターック”!!」
『……!』
シンプル。シンプルに速いからこそ、魔導の肝となるイメージが鮮明に浮かびやすい。
単純でシンプルで分かりやすい呪文。それによって速さがプラスされ、風鳥の体を突き抜けた。
『──カハッ……!』
「いつも後輩に良いところを取られてたからね。たまには先輩としての威厳を見せなくちゃ!」
超速でぶつかった事によって相手の意識が遠退き、白目を向いて揺らぐ。
私は風の膜で覆っていたから衝撃はある程度抑えられたよ。それでもちょっとクラクラするけどね~。
『まさか……無得点とは……』
「……ッ。痛つ……1ポイントは取ったけど、締まらないなぁ……」
向こうは意識を失い転移。私は突進した時に食らったのか腕に突き刺さった羽を抜いて応急処置をする。
これじゃしばらく片手は使えないかな。それでも動かなきゃならないし、なんなら箒に乗って移動していた方が襲撃も受けにくいから移動はし続けた方が良さそう。
何はともあれ、最後の突進以外は七、八割くらいの力で倒す事が出来て良かったよ。私は再び箒へと跨がり、海底から移動。
何はともあれ1ポイント。少しは貢献したかな!
*****
『ぶった斬れるろぉぉぉ!!』
「舌を出しながら話すのはやめないかー? 聞き取りにくいぜ」
「それについては同感だな。声がデカいから耳に残る。はっきり言って耳障りだ」
『知るかるりょうオォォォ~ッ!』
リザードマンのザードが奇声を発しながら模擬刀的な剣を振り下ろし、アタシと魔族のキアーは躱す。また大地が割れて沈んだ。腕力はまあまあなんだよな~。
そんなアタシの横にキアーの蹴りが迫っており、仰け反って躱す。
そのまま滑り込むように火球を両者へ撃ち込んだ。
「なんだ。遠距離技も使うのか」
『意味無ぇけどぬならァ~!!』
「あくまで牽制だけどな~」
ヒョヒョイとキアーは避け、ザードは剣で斬り伏せる。
今のところ二人は近接オンリー。何か隠してる可能性も考慮しつつ、魔力を込めた。
「ま、アタシは遠距離も中距離も近距離も得意なんで、今の状況はアタシが有利と思うけどな! “フレイムスピア”!」
「それは心外だ。全距離の専売特許は俺にもあるんだけどな」
『遠くても近くてもぶっ潰せば同じだろうがよォ~!』
火の槍を撃ち込み、キアーは避けてザードは剣で防ぐいつもの流れ。
その間に炎魔術で加速し、二人との距離を詰め寄った。
「特にアタシの近接術はイェラ先輩直伝だぜ?」
「ほう? それは戦り甲斐がある」
『イェラ・ミールかァ! ルミエル・セイブ・アステリアと違い、純人間で世界最強と同等の存在! その弟子なら潰し甲斐があるるずぅェ~!!』
イェラ先輩は魔族の国でも魔物の国でも有名らしい。
ハハッ、当たり前か。社交的でもあるルミエル先輩の方が表に出る機会は多いけど、結局のところ有名になった切っ掛けはダイバース。イェラ先輩の知名度も世界的だ。
迫ってそのまま薙ぎ払い、二人は飛び退くように距離を置く。アタシは魔力を込め直した。
「そんな訳で、アンタらが近接戦に拘るなら受けて立つぜ?」
『ヒャッヒャァ! それは良い申し出どぅあああ!!!』
「別に俺はどちらでも良いんだけどな」
今一度詰め寄り、炎剣とザードの剣が衝突。火花を散らす。
キアーの後ろ回し蹴りが迫ったところでアタシらは拮抗したまましゃがんで躱し、アタシは体勢そのまま足の裏から火球を放出して牽制。そのままザードの剣を押し返し、キアーへ追撃の炎を。
それらも避けられ、ザードは距離を詰めて剣を振り下ろす。それを紙一重で見切って躱して受け流し、余波をキアーの方へ差し向ける。
二人は近付くとそのまま鬩ぎ合いを行い、アタシは魔力を込めた。
「“フレイムバーン”!」
「『……!』」
二人が並んだ所で上級魔術の炎を撃ち込み、一網打尽。ティーナが作った樹海を炎が通り抜けて焼け焦げた貫通痕を残した。
さて、まとめて吹き飛ばしたけど転移の光は確認出来ず。つまり決定的にはならなかったって訳だ。
『ヒャハハァ!! 今のは効いとぅあああ!!!』
「ああ。マジで危なかったぜ」
するとプスプスと少し焦げた二人が争いながら現れ、キアーはザードをアタシの方へと放り投げる。
『テメェ! キアーアッ!』
「“ファイアウォール”!」
投擲みたいなもんだな。炎の壁を張って防御し、剣で壁は貫かれる。
それは読んでたから屈み、炎の加速を加えた蹴り上げでザードの体を上空へと吹き飛ばした。
踏み込む音が聞こえ、アタシの眼前にはキアーの拳が。けど問題無い。避けられ──
「ほらよ。さっきから警戒してた“隠し玉”だ……!」
「……!? “銃”……!?」
「なんで俺ら魔族風の呼び方してんだよ」
タンッ! と軽快な音が鳴り響き、アタシの頬を銃弾が掠る。
見たところ銃はモデルガンで魔力の弾を撃ってるみたいだ。ルール違反じゃないな。
ギリギリで直撃は避けたけど、追撃は受けちまいそうだ。
「覚悟は決まっているようだ。話が早くて助かる」
「……ッ!」
懐から大砲を取り出し、魔力の弾が撃ち込まれる。寧ろこっちが本命か……!
本物ではなくアタシも魔力でガードしてたけど、ぶっちゃけ単純な威力は本物以上。意識が飛びそうになるぜ……!
「色んな武器を仕込んでいたんだな。キアーさんよォ……!」
「クク、なーんか話し方の気性が荒くなってんぞ。取り敢えず、俺は割と正々堂々を好むから説明しておくが、基本的な戦法は肉弾戦。そして現代兵器だ」
「ハッ、そうかい。まんまと食らっちまった。正々堂々を好む割にはギリギリまで隠してんな」
「それが一番効果的だからな。今現在で立証もされた。けど、マジで俺は堂々としてる方だぜ? 俺のチームメイトにジュヌーやバハってのが居るが、アイツら結構隠し事してんだ。特にジュヌーは騙し討ちと利用のエキスパートだぜ。気配はもう消えてるがな」
「へえ。アタシの相手がアンタらで良かったなー。そこそこ堂々としてる」
『テメェるらァ!! 俺のォ~扱い悪くねェくァ~!?』
吹き飛んだザードも駆け付ける。やっぱり魔物はタフだな~。リザードマンって種族上、体が鱗で覆われてるし、かなり頑丈だ。
なんなら魔族も生命力が高いし、時間食う戦いになりそうだな。
何はともあれ、キアーの戦闘方法も分かった。現代兵器。仕込み武器は全部レプリカだけど、魔力による強化で本物と遜色無い物になってる。
そんでもって一番単純で分かりやすいザード。単純な剣と肉体。言葉は一番分かりにくいけど。
「さて、戦闘続行だ」
「ああ、そうだな」
『ケヒヒ……まだまだ暴れ足りぬうェずェ……!』
情報も集まりつつあるし、ボチボチ反撃と行こうじゃないか。アタシも“魔専アステリア女学院”の主力だからな!
アタシ達の試合。別にピンチには陥ってないけど、時間はそこそこ掛かりそうだ。




