第二百二十九幕 新入生の奮闘
「──さあ、仕掛けろ。テメェらァ!」
『『『…………!』』』
「……っ」
召喚された幻獣や魔物達が駆け抜け、私へ突進をする。
私ことディーネ・スパシオの対戦相手、魔族の“召喚師”であるジュヌーさん。
相手は本物の幻獣や魔物ではなく、あくまで魔力からなる存在。近いのはティーナ先輩の植物獣やウラノ先輩の本魔法かな。
勿論強敵であり、私の水魔術や空間魔術じゃイマイチ決定打に欠ける。
『『『…………』』』
「“空間掌握・固”!」
幻獣と魔物の突進は空間を空中に固定した足場として躱し、三匹の体も停止させる。
片手に魔力を込め、固定した三匹へと撃ち込んだ。
「“水弾”!」
『『『──!』』』
動きを止めた先から水魔術で粉砕。魔力の欠片となって散り行く。
これで終わった訳じゃない。既にこの行為は何度もしているから。またすぐに召喚されるのがオチ。と言うか進行形でそれの繰り返し。
早いところ終わらせるには本体を狙うのが一番手っ取り早いのですけど……。
「“水砲”!」
「“操獣壁”」
『『『───』』』
「……っ」
召喚した動物達をそのまま守護壁として集め、防御した。
確かに意思も感情も持たない召喚獣だけど、心が痛んだりしないのかな……。それとも魔力の塊に感情移入する私が変なのかな……。やってる事は私が水魔術で壁を作るのと同じだもんね……。
でも、やっぱり気になります。
「動物達を盾に……。本物ではないとは言え、召喚師としてそれはどうなんですか……?」
「何を甘い事を言っている。お前達が魔力で壁を作るのと同義。お前自身もそれを理解しているだろう。見た目が生き物ってだけで特別扱いするのか?」
「それは……」
私自身が思っていた事と同じですね。
そう、言ってしまえばただの魔力でしかない。その事を指摘されたとしても言い返す事は出来ません。
「人間の国には些か甘い奴が多い。もっと真剣に戦いに向き合ってない。その甘さが利点と宣う奴も居るが、反吐が出る! 血湧き肉躍り、砕き合ってこそのバトルだろォがァッ!!」
「……っ」
怒号と共により強い魔力が込められ、無数の召喚獣達が溢れ出た。
この全てを処理するのも一苦労。次の瞬間、上空から暴風が吹き抜けた。
「今度はなんですか……!?」
「どうやら近場で風使い同士が争ってるみてェだな。まァ関係無い! 今は俺達の殺し合いだァ!!」
「そんな物騒じゃありませんよ!?」
殺し合いとかではありませんが、こちらの試合に集中せねばならないのは事実。
ジュヌーさんの言葉に心の内で同意し、呼吸を整えて向き直る。
「“多獣召喚”!」
『『『ガルルガァァァ!!!』』』
「更に……!」
多数の召喚獣は現れた瞬間に猛々しく吠え、一気に私の方へと迫り来る。
魔力の質からしてさっきの数倍は強い筈。種類も人型獣型獣人型と多種多様。様々な力を使って攻め立てる。
『グオオオォォォッ!!』
「“ウォーター”!」
獣型のモンスターによって火炎が吐かれ、私は水で消し去る。水蒸気の霧が辺りを埋め尽くし、何処かの戦闘の余波である風によって吹き払われる。
その僅かな時間のうちに人型のモンスターが迫り、巨腕を振り下ろして地割れを起こした。
その背後から獣人型のモンスターが持ち前の身体能力で迫り、長い腕から鋭い爪を薙ぎ払う。それをしゃがんで躱すや否や、獣人型のモンスターを貫くように拳が迫り私の体を吹き飛ばす。
……ッ! スゴく痛いです……!
「やれェ!」
『『『ガァ!!』』』
「味方ごと……!」
ジュヌーさんの指示により、召喚獣が炎を吐き、味方ごと焼き払う。
モンスターを召喚したりして戦う人はウラノ先輩が居たりするけど、先輩と違って魔力が溜まるまでのクールタイムが無いからどんどん使い捨てるんだ。
そう考えているうちに複数体のモンスターが来ており、咄嗟に私は空間を固定して踏み越え、樹の上に乗った。そこへ嗾けられる鳥型のモンスター。
息つく暇がありません……!
『ギャア!』
「“空間掌握・刺”!」
空間を鋭利な形で固定し、襲い掛かってきた鳥型モンスターを貫く。
一先ず私の周りを固めたから少しの間は休まる。本体を討ちたいけど、近付いては来ないね。魔族だけあって生身で戦っても強いのか、生身はそれ程でもないから距離を置くのか。
何れにしてもやらなきゃならないですよね……!
「“水砲”!」
「同じ事の繰り返しだ!」
水魔術を放ち、召喚獣達で防御。これによって視界が悪くなる。向こうは気配を読めるかもしれませんが、視覚情報が変えられて隙が作られる筈。
それを突き、先程貫いた鳥型モンスターを水飛沫へ向ける。
「“空間掌握・弾”!」
私もジュヌーさんに言えないかな。このモンスターに対する扱いの悪さ。
だけど手段は選んでいられない。本体への直接攻撃。それが私の勝てる唯一の方法。
「ハッ、召喚獣を使うか。まんまと利用されちまったぜ」
「そうですね……!」
「お前も近寄らせちまったしな」
水による加速でジュヌーさんの傍へ。私も近接戦は得意な訳じゃないけど、やるだけやってみる。
「“水衝波”……!」
「……!」
近距離からなる水の衝撃波を撃ち込み、ジュヌーさんの体を吹き飛ばす。
周りに寄ってきた召喚獣達は固定し、追撃するように弾丸とする。
ジュヌーさんは吹き飛びながら召喚獣を生み出して相殺し、滑るように止まった。その眼前へ私が行く。
「“空間掌握・斬”!」
「……ッ! 斬撃か……! だが薄皮一枚程度。ルール上殺せねェからな!」
「こうなれば相討ち覚悟です……!」
「悪くねェ度胸だ!」
周りの空間を性質変化。斬撃として切り刻む。でもジュヌーさんの言う通り薄皮を斬る程度。多少の出血とダメージくらいで大した効果は得られない。
でも、私も“魔専アステリア女学院”の一員として相手の戦力は少しでも削ってみせます……!
「だが、お前は判断を誤った! 俺は別に肉弾戦が出来ないとは言ってない!」
「ですよね……! 素の身体能力なら人間以上です……!」
召喚獣を集め、棒状の得物として振り回す。
確かに召喚獣は魔力からなる存在。使い方次第では姿形を変化させられるけど、本来の召喚師の在り方と全然違う。
「ハッ!」
「……ッ」
打ち込まれ、魔力でガード。距離を置けば透かさず召喚獣が放たれ、また引き離される。
それでも行くしかありません……!
「“空間掌握・弾”!」
空間ごと召喚獣を吹き飛ばし、
「“噴水出”!」
水魔術で加速。詰め寄り、魔力を込めて迫り行く。
「“水──」
「させるかよ!」
一瞬の差で無数の召喚獣を嗾けられ、また私の体は離れる。
生み出された存在はそのまま私へ攻撃を仕掛け、周りの空間を固定して止める。数の差も空間魔術で埋めます……!
「“水爆発”!」
「空間魔術と水魔術の合わせ技か。召喚獣共がゴミのように散らしていく。悪くねェ!」
近距離で水魔術の爆発を。
ジュヌーさんは片手に魔力を込め、その魔力が形を成した。
「獣共の力は俺にも宿せる。俺はそう言った召喚師だ! “召獣纏”!」
「……!」
片腕に蹄と爪と牙が生え、肥大化。まさに異形と言った容姿となる。
召喚師はあくまでモンスターを召喚するだけ。それを纏う事が出来るなんて……! 確かに魔力の獣だから理論上は可能だけど……。
「さて、この近距離でこの一撃。避けられねェよな? 受けるしかない。どう受ける?」
「……ッ!」
問答かと思いきや、間髪入れずその巨腕は振り下ろされた。
だったらジュヌーさんの言う通り受けるしかない。そして私は、受け切る自信がある。
「オラァ!」
「“空間掌握・受”」
「……!」
空間に阻まれ、その巨腕は止まった。
空間魔術以外で空間を破壊出来るような強者は限られる。そもそも居るかすら怪しい。
ルミエル・セイブ・アステリアさん辺りで可能性が見出だせるレベル。いくら強化しても空間その物は壊せない。
そしてこの空間を更に変化させれば……!
「ハッ、想定内だ!」
「……ッ!?」
瞬間、私の背後から何かが振り下ろされ、背中が切れた。
痛い……何が起こったのか……他の選手は居ないし、考えられる線は一つ。
「既に召喚獣を……!」
「ご名答。片腕の強化に見惚れて疎かになってたろ。そもそもで考えろ。片腕だけを強化するメリットをな」
「……っ。確かに……」
様々な力によって強化された腕。それは防がれる前提の囮。
本命はもう片方の腕でモンスターを召喚し、背後へと忍ばせていた事。
私は背後のモンスターを水魔術で消し去り、ジュヌーさんは力を込める。
「空間魔術による防御や攻撃じゃない。という事はある程度の集中力が無きゃ使えないと言う訳だ。それでも通常の召喚獣は簡単に消されちまう。……クク、なら……一気に撃ち抜けば済む話」
「……っ」
周りの召喚獣を含めて一点に集め、力が込められるのを感じる。
私に気配を読む力は無いけど、それでも分かるくらいの程。
「残りの魔力を使い果たす訳にはいかねェ。だが、山河を吹き飛ばす威力くらいは込められている。名は……“超獣砲”とでも言っとくか」
「長いですね……」
呪文名はさておき、とてつもない威力なのは明白。
だけどチャンスがあるとも言える。ジュヌーさんは余力を残しておく為に全力じゃない。それなら私はもう尽きても構わない威力を込めれば……!
「名は……無銘としましょうか。後で考えます」
「つまりアドリブの何かか。ハッ、魔導はイメージ。名の無い魔導はイメージが拙くなり、威力も半減だ」
初めての試み。名前を考える暇はない。
私とジュヌーさんはお互いに片手を翳し、ありったけの魔力が放たれた。
「終わりだ!」
「終わります……!」
──超獣砲と無銘の水魔術が正面から衝突。辺りが魔力の波に飲み込まれ、ステージが吹き飛ぶ光景を最後に視界は白く染まった。
私は此処まで。後は先輩達に任せましょう。
意識が遠退き、体は光に包まれた。
「……ッ!? なんだ……この威力……! 無銘……半減で俺の七割とほぼ互角……いや、それ以上……! ならば全力を……!(──ダメ……だと? 俺の全力ですら半分の威力しかない水魔術に押される……? 生まれながら人間よりも筋力も魔力も高い……魔族の俺が……!?)」
水と獣。ステージ全体を大きく揺らす程の衝突が起こった後、二つの光が転移した。




