第二百二十七幕 それぞれの対戦相手
「さてと~。他の選手は何処かな~?」
試合が始まり、いつも通り私、メリア・ブリーズは空から箒で策適していた。
まずは仲間達と合流するか、敵と戦うか。その二択だよね。他の子達もそれについて考えてるかも。
とは言え、今回のルールはポイント制。一人でも多く倒して点を取った方が有利に運ぶ。相手も激戦区を勝ち抜いてきたチームだからそう簡単にはいかないと思うけどね~。
「お!」
そこそこの速度で飛んでいると、下方が樹海に包まれた。ティーナちゃんが動いたみたい。相変わらずの魔力出力だね。一瞬にして得意フィールドに早変わりだよ。
遠方に見える海とか海岸ステージの面影はまだ残っているけど、途中から試合を見始めた人に今回はジャングルステージだよって教えたら信じそうなくらいの範囲が森になった。
上空から見たら方角が分かりやすいや。向こうから伸びてきたし、ティーナちゃんは砂浜の方に居るみたい。
今のところ誰とも会ってないし、一旦ティーナちゃんと合流するのもありかもしれないね。
「あ!」
すると今度は真逆の方向で水の爆発みたいな物が起こった。
代表戦だし他のチームにもあのレベルの水使いは居るかもしれないけど、もしかしたらディーネちゃんが誰かと戦っているのかも。
ティーナちゃんとは真逆の位置であり、少なく見積もっても数キロは離れてるや。範囲は広大だけど、お互いの位置から確認は出来なさそうだね。
「うーん……」
さて、此処に来てクエスチョン。どちらかと合流するのは作戦的に良いとして、どっちに行くべきか。
水の主がもしディーネちゃんなら絶賛誰かと戦闘中。助けに行くのが先輩の役目。ディーネちゃんじゃなかった場合はそのまま戦闘に突入する事になっちゃうね。
とは言えども、ティーナちゃんの所に行くのも良いかもしれない。単純に戦略の幅が広がるからね。
「むむむ~」
しばらく箒で空をクルクル回り、私は悩む。
ディーネちゃんかティーナちゃんか。どちらの方に行くか。
他のメリットやデメリットを考え、行動に移ってみる。
「やっぱり水の方かな。まず確実に誰かは居るもんね」
決めた答えはディーネちゃんの方。
ちゃんと理由もあるよ。端的に言えばティーナちゃんは多分まだ誰とも会っておらず、下準備の段階だったから。
それなら確実に戦闘が起こっており、誰かと誰かが戦っている最中の向こう側の方が今回のポイント奪取ルールには適している。
ティーナちゃんの方もすぐに敵を見つけると思うけど、此処はディーネちゃん優先だね。
敵が居るなら共闘して戦えるし、ディーネちゃんと一緒に2vs1の環境が作れる可能性が高い。
ディーネちゃんじゃなかったとしても、確実に相手チームの誰かなんだからポイントを得るには必須だね。
そんな感じで水の見えた方へ向かう。
「まさかもう見つかってしまうとは……」
「気配を読むのは定石だ。しかし、今までの索敵方法を思うに今の“魔専アステリア女学院”は気配を読める者が少ないようだな。他のチームも多いと言う訳ではないが」
到達するや否や、そこに居たのはちゃんとディーネちゃん。
既にいくつかの破壊痕があり、激しい戦闘が継続中って感じみたい。
戦っている相手は見たところ魔族かな。見た目や特徴がそんな感じ。周りに居る幻獣や魔物っぽいのは選手じゃなくて操っている何か。多分あの魔族は“召喚師”なのかも。
何はともあれ手助けへ行こう!
私は箒に魔力を込め、更に加速を──
『──“風砲”!』
「ありゃ?」
した瞬間、眼前を通り抜ける風の球に阻まれた。
当たらなかったから良いけど、風の球は一直線に樹海に変わった海岸ステージを突き抜けた。
「他のプレイヤーだ。あの人の仲間?」
『いえ、そうではありませんが見掛けたので攻撃しました』
「治安悪くない!?」
『そう言うルールでしょう。なんなら貴女も不意を突いて仕掛けるつもりだったのでしょう? 人間の国にてトップクラスの箒の操作力を有するメリア・ブリーズさん』
「えー!? 私ってそんなに有名になってたんだ~。照れるな~♪」
『ええ。風の噂で聞きました』
「ふふ、文字通りね」
私が有名になったのは嬉しい。基本的にはティーナちゃんとかボルカちゃんの影に隠れちゃってるからね~。ルミエル先輩が居た時からそんな感じだで慣れてるし別に良いんだけど、やっぱり注目されるのは嬉しいよ。
私自身も“魔専アステリア女学院”で箒乗りの才能は唯一無二と思っている。今回はその才覚を遺憾無く発揮しちゃうよ~!
「アナタは風を司る鳥型の魔物か幻獣さんかな? その分野なら負けないよ!」
『そんなところです』
白い鳥の幻獣か魔物。周りには渦巻く風が漂い、森をザワザワと揺らす。
ディーネちゃんの手助けの前にやるべき事はこの子との戦い。中等部最後のダイバース、やるぞー!
*****
「盛り上がってんな~」
開始早々樹海が生え、遠方では水飛沫みたいな物が上がってその付近では風の流れが変わったのを感じる。更に心無しか寒くなったような……。
早速試合が始まったなって感じの印象。取り敢えず普通に歩いているアタシだけど、いつエンカウントしてもおかしくない状況だぜ。数分間何も無いけど。
アタシは最近練習中の他者の気配を掴み取るやり方を試しつつ、炎の探知機でより鮮明に探る。片方だけじゃ不安定だけど、両方を使えば精度を八割くらいに引き上げられるぜ。
なんの八割かって? 十割で完全に気配を読み取れるようになるなら、それの八割って事だ。
「……おっ。反応あり。何か潜んでるな」
炎の探知機が揺らぎ、アタシ自身の感覚も何かを掴む。
二つの反応から大凡の位置を特定……ってか、二つだな。
「“サイドフレア”!」
『「…………!」』
探知した瞬間、両サイドへ火炎を放出した。
感じた気配は二つ。わざわざ様子を窺ったりするのもまどろっこしいし、だったらさっさと嗾けてやろうって魂胆だ。
飛び出したのは人型と爬虫類っぽい二つ。魔族と魔物かな。
「アンタらか。アタシの後を付けていたのは」
「少し違うな。俺もアンタとそいつの気配に感付き、同時にぶっ倒そうとしていた」
『奇遇だなァ。俺もそのつもりだった。数秒後には仕掛けるつもりだったんだがな~』
「フッ、ならアタシの勝ちだな。先に仕掛けたのはアタシだ」
「ハッ、オイオイ。倒せてねェんだから関係ねェだろ?」
『その意見には同意だらァ!』
魔族の方は黒髪黒目の何処にでも居そうな見た目。と言うか魔族での平均的な感じだ。
んで魔物の方は多分リザードマン。長い舌を出しながら話してら。
お互いに相手を狙うつもりであり、アタシが先制した。それについて意見する二人だが、やる事は決まってる。
「どの道アタシがアンタらを倒すんだ。遅かれ早かれの単純な問題だろ?」
「上等だァ!」
『やってやぅるらァ』
舌を出しながらだからか、リザードマンの方はなんか呂律に違和感。
そんでもって魔族の方は割と挑発に乗りやすいタイプ。まあそもそも魔族自体が種族全体でそんな感じだしな。
ま、コイツらを倒して2ポイントゲットすれば一気に有利に運ぶっしょ!
「取り敢えず自己紹介でもしよっか。アタシは“ボルカ”だ」
「そうだな。テメェらが打ち倒された時、その相手である俺の名くらいは知っておかなければならない。俺ァ“キアー”だ」
『ケヘヘ、倒されんはアンタらァ方だ。俺ャァ“ザード”。ぶっ潰してやるるァ!!』
自己紹介を終えると共に臨戦態勢に入り、辺りへ炎を散らす。
キアーは周りにある物を遮蔽にして回り込み、ザードは模擬刀の剣を持って飛び掛かった。
『ヒャアッ!』
「ほえー。流石の魔物パワーだ」
剣が振り下ろされ、アタシは身を翻して躱す。背後の樹がそれによって倒壊した。
一振りでこの威力。代表戦で考えれば平均以下だけど、人体には有効だな。
「はっ!」
『ケヒャア!』
「回り込んでたのは見え透いてるよ!」
樹を軸に飛び掛かり、キアーの蹴りが地面を砕く。アタシもザードも飛び退き、アタシは込めていた魔力を二人に放った。
火炎が広がり、二人は距離を置いてそれを避ける。
「肉弾戦二人に魔導一人か。アタシが少し有利かもな」
「ハッ、どうだか。魔導なんざ込めてる時間が勿体無ェだろ」
『力を込める一瞬の隙に斬り伏せりゃあお仕舞ェだりゃぁ~!』
「どっちもアタシを仕留められてなかったろ」
「そりゃそうだな」
『んだらぁ!? オメェ!』
思ったよりキアーの方は挑発に乗ってこないな。ザードの方はメチャクチャ乗せられてんのに。
ま、肉弾戦が主体なだけで隠し球が無いとは言い切れない。イェラ先輩が特別最強格だっただけで、基本的に肉弾戦一本で行く存在は限られてるしな。バロンさんも投擲くらいはしてた。
何はともあれ、口では挑発的な事言ってるけど、実際問題油断大敵。やるだけやってやるさ。
*****
海岸ステージへと転移し、今回は先鋒を任された私ベル・ノーム。今までと違って最初から仲間がいらっしゃらないのは不安ですわね。
けれど役割を全うする為にもやりますわ! と力を込める。
「あら、これはティーナ先輩の」
すると足元と周りには植物達が。
ティーナ先輩の植物魔法からなる領域ですわね。
既に試合は始まっている。気配等を読む事が出来ない分、応用で頑張らなくては!
(一先ず待機していた方が良さそうですわね。実力で言っても今回のメンバーでは下の方。無闇に動き、的になる方が問題ですわ)
認めたくありませんけど、私はまだまだ実力不足。ですので足手纏いにならぬよう、じっと息を潜め、ゆっくりと仲間達と合流してサポートに回った方が良さそう。おそらく抜擢理由もその為ですの。
なのでティーナ先輩の植物魔法の中に隠れ、ある程度をやり過ご──
『“氷弾”!』
「……!」
──そうとした瞬間、上部から氷の弾丸が。
もう見つかってしまいましたの……! あの方は氷のような羽毛にキラキラと輝く姿。氷の鳥類的な幻獣さんですわね。
いくらなんでも速過ぎますわ。まだ開始してから五分くらいですのに!
「やるしかありませんの……! “土壌上昇”!」
『遠隔を狙える土魔術。基本的なものですね』
「ええ。基礎はみっちり鍛え上げておりますから」
『そうですか。しかし、私の氷の前で土は無力』
「……!」
土を盛り上げ、お相手へ仕掛けましたが氷による質量に押されて敗れ、そのまま辺りの温度が氷点下に。私の息も白くなる。
今の時期は夏。それでいて会場も海岸ステージなので熱いくらいですけど、その環境を変えてしまうとは。これが代表戦のレベルですの……!
(これは正面から戦うのは愚策ですわね)
『おや、力量の差は弁えているようで』
土魔術にて壁を作り、一先ず物陰へ。
逃げたのではなく、改めて策を練る時間ですわ。
お相手は見たところ一匹。安全圏からの氷による質量攻撃が主体。おそらく先程の弾丸のように、槍や剣なども作れそうですわね。
それを踏まえて土魔術での対抗手段は……。
「お、思い付きませんの……」
おそらくじっくりと考えれば何かしらの策が思い付く事でしょう。しかし向こうには居場所もバレており、土魔術による防御で手一杯なので思考に回す余念がありませんわ。
取り敢えずこちらも劣るとは言え牽制を兼ねて時間を稼ぎましょうか。
「私自身の魔力が足りずとも、この崖を使えば……!」
『……! ギミックを用いた土の操作。成る程。既にある物を使ってきましたか』
幸いにしてこの場所は海岸ステージの端、山岳方面。幅は少ないですけど、設置されている崖や山は十分な力を発揮出来ますの。
とは言え操れるのは私の魔力が通る一部だけでティーナ先輩みたいに関連する物全てを操れる訳ではありませんが、水増しは出来る事でしょう。私は土ですけれどね。
相手が怯みを見せたのなら、更に追撃をするのみ。
「“土流弾”!」
『細かな土を複数。無意味です』
土魔術を弾丸のように放ち、氷の壁に阻まれる。
これも想定内。私は抑えつつ、相手を消耗させてチャンスを掴むやり方が適正ですわ。
私と氷の幻獣さんによる戦闘。代表戦の実力、この経験を糧にしてみせますわ!




