表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部二年生
227/457

第二百二十六幕 冷静

『カッ──』

「基本的には毒……見切れる」


 複数の頭から複数の毒が吐き出され、私は紙一重でかわす。毒は周りに侵食して腐らせた。

 掠るだけでも致命的。さっきは余裕があったけど、本来は戦っている間に解毒薬を飲む暇なんて無いもんね。

 だから最小限の動きで当たらないように気を付けつつ、魔力の効率をより良くして最速最大の一撃を通常攻撃とするのが今の目標。


「“木槌”」

『速いな……』


 槌は尾によって逸らされて外れた。

 あの図体であの反応速度。やっぱり代表戦の選手はスゴいや。

 でも今の私は強い。毒が一周回って冷静で的確な判断が出来ているから。今までは闇雲な魔力の放出で対処していたけど、思えばかなり無駄な事だったんだね。魔力の消費が激しく、そのまま威力も弱める結果になっちゃってたんだ。寧ろ一点集中型が本来の魔力の使い方なのかもね。

 ボルカちゃん達の助けになるかもしれないから兵力を配置するのは良いとして、樹海を作り出す必要は無かったかも。

 なので樹海は消し去り、ゴーレムやビースト達のみを残す。そして目の前のヒドラさんには幾つかの植物を射出。


『……! なんと正確な狙い』

「普通に狙っただけだよ」

『……!』


 かわした先に植物を配置しており、複数の足の幾つかを絡めてつまずかせる。

 バランスが崩れた所で無数の植物をけしかけ、ヒドラさんは毒で溶かして防ぐ。

 この溶解力。酸性の猛毒みたいだね。生き物に降り掛かったら確実に溶けて死んじゃうけど、ルール的にそうはしない。ダイバースのルールだとヒドラさんは本領発揮出来ないね。と言っても全員何かしらの制限はされてるからヒドラさんだけの事じゃないけど。


『凄まじい魔力総量。拝見した映像からなるデータでは、威力は兎も角ガサツで杜撰ずさんな代物だったが、此処まで精密な物となるとは』


「間接的とは言えアナタのお陰ですよ。毒を受け、それを治療したらなんか覚醒しました」


『覚醒か。あながち間違っていないかもしれぬな。試合のルール上、私は致死性の毒を使わぬが、それでも人体には有害な物。生存本能が刺激され、生き延びる方向に魔力が活性化。巡りが良くなり、思考が回るようになったのだろう』


「うん。私もそう思ってる。結局のところ魔力を動かすのはイメージ。つまり“脳”だから魔力の巡りが良くなればそれだけで効率化するんだろうね。ドーピングみたいなものだけど、ルール違反ではないよ」


『心得ている。己の首を自分で締めただけだ』

「だからどの首を?」


 理由の無い覚醒は稀。今回みたいに必ず何かしらの理由は付けられる。

 そしてそれを私自身も理解している。そもそもの理論として人は無意識のうちに脳を抑制し、力を抑えているって言うもんね。流石にそれの全解放とまではいかないけど、近い状態にはなっている。ゾーンとも言えるかな。

 会話を区切り、また私は魔力を込めた。


「“樹突”!」

『ハァ!』


 樹を放ち、ヒドラさんは毒などではなく自身の力で受け止めた。

 逸らしたり毒で打ち消したり受け止めたり、基本的に回避ではなく攻撃を受ける方面で防御しているね。

 だったら単純な破壊力を上げるのが得策かな。


「“樹拳”!」

『……!』

「あ、流石に食らったら危ないって判断した物は避けるんだ」


 魔力を一点に込めて樹の拳を放ったけど、それは避けられた。

 理由は今言った通り。ちゃんと魔力の質を見極めて回避か防御かを選んでるね。それくらい出来なきゃ代表戦では勝ち残れないか。


「それじゃあこうしよっか」

『文字通り枝分かれしたか』


 魔力を一点に込め、威力を上げたのは変わらない。しかし今度は一本から複数本に分裂させ、ヒドラさんの全身を狙った。数自体は一本で変わらないけどね。

 あの図体で素早い動きをするけど、行動範囲は限られている。と言うかそうなるように私が仕組んだ。


(成る程。強い魔力の一本に気を取られたが、既に此処はティーナ・ロスト・ルミナスのてのひらの上だったという事か)


 向こうも気付いたかな。流石に分かるか。

 強い一本に意識を集中させ、既に地面から他の植物を張り巡らせておいた。

 繋がっていれば後から魔力で強化する事も可能であり、それも終えている。

 強いのは逆に囮として使い、弱く広範囲に広げた物を後から強化する。それによって形成された逃げ場の無い牢獄。

 力を集中した樹はヒドラさんの巨体を打ち抜き、海岸の方へと吹き飛ばした。

 でもまだ転移の光は見えていない。私はその後を追う。


『凄まじい破壊力……! だが、これしきの事で……!』

「だから追撃は忘れないよ」

『……!』


 吹き飛ぶヒドラさんに追い付き、片手に魔力を込めて巨体な樹の拳を形成。これにも一点物の魔力を込めており、次の瞬間には振り下ろして海底へと沈めた。

 大きな水飛沫が上がり、辺りを波が覆う。手応えはあるけど魔物は耐久力も高いからね。トドメを刺す為に私も海底へと飛び込んだ。


『……っ。これが植物魔法の力……! 私も本気を出さざるを得ないか……!』

「最初からそうしてよ。代表戦なんだからさ」

『……!』


 やっぱり力は温存していた。私は疲れにくいから良いけど、それは普通の選択。

 存分に力を振るえる分私が有利かな。

 ヒドラさんは複数の首を向け、ガパッと口を開く。


『“毒霧”』

(毒の霧……それが海で広がって毒の海になってる)


 地上で使えば霧が全部毒になる感じなんだろうけど、海の中だと更なる広範囲に浸透してより厳しい環境になってるね。


『“毒空間”!』

「……っ」


 更に猛毒が追加された。これはマズイかも。

 私は周りに植物魔法の防壁を作り出して耐える。本物の海じゃないから呼吸の心配は無いけど、毒の侵食による被害はその比じゃない。

 早いところヒドラさんを倒さなくちゃならないね。私にやれる事は限られてるけど。


「“樹直”」

『単純な正面からの攻撃……大した事はないが……』


 ヒドラさんへ樹を差し向け、紙一重でかわされる。

 でも大丈夫。“直”って言うのは“直角”の意味もあるから。


『……ッ!?』


 避けた先から直角に方向転換し、樹はヒドラさんの頭を打つ。

 さっきの枝分かれの応用。更に正確なバージョンって言ったところ。威力に大きな変化はないけど、正確な分より多くの植物が当たるからダメージの総量は多くなる。


「“樹木連打”」

『グヌゥ……!』


 ドドドドドドッ! と連続して曲がりくねった樹木が頭や体。全身を打ち付け、攻撃する隙を与えない程の連撃が放たれる。

 避けられたり耐えられるなら、避けられないように耐え切れない程の猛攻をすれば良いだけ。簡単だね。

 水によってふやけたりもするけど、常に魔力で強化された植物魔法の樹だから柔らかくなって威力が下がる事もない。

 後は毒の侵食が先かヒドラさんの意識が失われるのが先かの持久戦。総合的な時間は10分にも満たないと思うけどね。


「“雨降花”」

『……っ』


 追加呪文で威力の上昇。

 モチーフは実在する花だけど、どちらかと言えば“雨降”の部分が主かな。

 無数の植物が雨のように降り注ぎ、一方では紆曲うきょくした木々が的確に複数の頭と胴体を打ち抜く。反撃の隙は与えず仕掛け続け、更に魔力を込める。


「これでおしまい。“抜突樹炎”」

『……!』


 体に鋭利な植物を刺し込み、そこから炎を込めて植物の茎を熱が通り体内から炎上させた。

 此処がギミックからなる海じゃなくてもこの攻撃なら直接体内に熱を打ち込める。

 後は意識を失うのを待つだけであり、その時は訪れた。


『カハッ……』

「勝った」


 息を吐き、ヒドラさんの体が揺らぐ。

 これは意識を失う前の状態。まだ辛うじて残っているけど数秒も無い。私の勝利は確実……だけどその直前、ヒドラさんは口を開いた。


『カァ!』

「……!」


 毒が吐かれ、私の体が包まれる。

 一体……意識を奪う訳でもない。それは魔力の気配で分かるから。それじゃあ何をしたのかと言えば──


「──……っ。成るほど……ね。体へのデバフ……」


 肉体的な機能が著しく低下。意識を失う程じゃないけど、ちょっとツラい。ヒドラさんは光となって転移した。

 これは少しの間どこかに身を潜めて居ないとかな。ボルカちゃんや他のみんなはどうだろう。

 ヒドラさんに勝利を収めた私は最後に毒を食らい、不調をきたす。リタイアまではしないけど、少し休もっか。

 何はともあれ、これで私は2ポイント獲得。“魔専アステリア女学院”、ちょっとはリードする事が出来たかな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ