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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部二年生
226/457

第二百二十五幕 1ポイント

『さて、やりましょうか』

「ハッ、炎のぶつかり合いと言ったところか」

「え……炎じゃなきゃダメですか?」


 ニクスさんの周りに渦巻く炎が漂い、ゼルさんの両手から燃え盛る火が溢れ出る。

 私もボルカちゃんに魔力を込め、周りに合わせて炎を使う事にした。


『“火礫”!』

「“火炎弾ショーラ・ラサーサ”!」

「“ファイアボール”!」


 固形の炎が放たれ、火の弾丸が撃ち込まれる。対する私は単純な火球。

 だけど見た感じ全員が初級魔導相当。それでこのレベルの威力が出るなんて、本当にみんな強い。今のところママの植物魔法以外で特筆する部分がないもんね、私。

 だから、その分野で勝負するしかない!

 互いに炎が打ち消し合った所で魔力を込め直す。


「張り合いは終わり! “樹術進行”!」

「さっきと微妙に違うな!」

『樹は樹。火の相手ではありません。アナタもね!』


 植物じゃなく、硬い樹のみの行進。

 確かに水分量が少なくなっているから燃えやすいけど、燃え尽きるまで時間は掛かる。その間にぶつかれば万々歳!

 火炎を物ともせず、燃えながらも樹は迫る。空中に居る二人は離れるように避け、更に魔力を込めた。


「私に空は飛べないけど、空に到達する事は出来る!」


「一瞬でジャングルに! 元々樹海だったけどな!」


『その樹海もティーナ・ロスト・ルミナスの魔法からなる物。ステージその物を一つ作り出す程の魔力量。記録映像で何度か見ているけど、目の当たりにすると凄まじいわね』


 更なる植物を増やし、空のゼルさんとニクスさんへ迫る。

 背後には追加の植物を集め、全方位へ広げる。私の視界も悪くなっちゃうけど、更に上には既にティナを配置しているから確保は出来てるよ。


「焼き尽くしゃ良いだけだァ!」

『アナタ達全員をね!』


 向こうも更なる業火が燃え広がっている。空中で植物と炎がぶつかり合って散らし、海岸ステージ全体を目映く照らした。

 そう言えば、ここが海岸ステージだって事忘れちゃってたね。


「更に! 更に更に更に更に追加!」

「マジで無尽蔵の魔力か!? 俺達魔族の中でもそんな魔力量を有する存在は限られるぞ!」

『操作技術は兎も角、単純な魔力量だけで言えばあのルミエル・セイブ・アステリアを上回るんじゃないかしら……?』


 生やす度に植物は焼き払われるけど、その更に倍の植物を放って埋め合わせ。

 ゼルさんは巧みに魔力を操って避け、ニクスさんは優雅に羽ばたきながらも華麗にかわす。

 両方とも簡単には捕まらないみたい。でもそれは当たり前。だったらもっと場所を工夫すれば良いだけ!


「“神域樹林”!」

「……!」

『全方位が……!』


 植物をドーム状に囲い、ミルフィーユのように積み重ねる。

 これでちょっとやそっとの火炎じゃ消えない樹の牢獄が完成。あ、呪文名は神域って事にしたからもっと神聖な場所だよね。

 イメージ通りキラキラと輝く綺麗な場所になったよ。


『耐熱性も勿論高めてある様子。さながら植物の監獄。または棺と言ったところでしょうか』

「そんな物騒じゃないですよ! 神域です神域! だってほら、光ってます!」

「ハッハッハ! そりゃいい! 呪文からなるイメージ通りの闘技場が作られたみてェだが……狙いはなんだ?」

「閉じ込めた時点で私の勝ちが決まった。とだけ言っておきます」

「クク、そりゃ大きく出やがった!」


 ここは全て私達の魔力の集合体。

 地形も攻撃も防御も自由自在。これが植物の力!


「“マジカルパレード”!」

『『『…………』』』

『『『…………』』』


「植物魔法からなる存在。さっきも見たが、さっきより力が込められてるな」

『周りの木々も変化して……これの何処が神域なのでしょうか』

「とっても楽しそうでしょ!」


 ゴーレムやビーストに加え、周りの植物類が槍や剣となる。

 葉っぱって結構切れ味あるもんね。小さい頃に手を切って薬を塗って貰った記憶があるもん。謂わば思い出の反映。フォレスト達にとっては側面すら道になる。全方位から攻め立てれば流石の二人……今は一人と一匹が適正かな? も一堪ひとたまりも無い筈!


「やっちゃえ!」

「厄介だな! 面白ェ!」

『何を呑気に……! これだから魔族は……!』


 私の仲間は相手にとっての敵。敵を見た一人と一匹は、片や楽しそうに。片や大変そうにしていた。

 更なる魔法の拡張。より攻撃のイメージを鮮明にする!


「……っと」


 左右から植物の槍が迫り、ゼルさんは柔軟な動きでかわす。同時に焼き払い、天井から降ってきたビースト達も魔力で吹き飛ばす。

 だけど無尽蔵に湧かせるから実質的にはノーダメージ!


『なんと面倒な……!』


 特にニクスさんはフェニックスだけあってそれなりの大きさ。ビーストや武器は炎で消し炭にしているけど、物量で攻め込められる事に関しては焦りを見せていた。

 私の神域で徐々に一人と一匹を徹底的に追い詰める。私達が今度こそ勝つ為、ポイントは一点でも多く取らなきゃね……!


「厄介となると、狙いは本体だよなァ!」

「そうなりますね……!」


 周りの兵を蹴散らしながら、ゼルさんは私の方へと迫り来る。

 これも正しい判断。私の意識が失われたら植物も機能停止しちゃうからね。

 それに対する策も当然考えてある。お互いにとっても逃げ場が無いこの場所。攻めて攻めて攻めまくる事が勝利の鍵!


「“群像芸樹”!」

「こんな群像劇があるかァ!」


 一直線にやって来るゼルさんへ無数の植物をけしかける。

 弱点でもある私自身(本体)の近くにはより多くの植物を配置してあるからね。その全てを破壊するのは代表戦クラスの実力者でも至難の技。だって倒すたびに増える性質は変わらないもん。この場所に居る限りね!


『先に狙うは……! 貴女ですね!』

「ニクスさんも来た!」


 一回羽ばたき、それと同時に加速して木々の隙間を抜け、一気に肉薄する。

 正面から真っ直ぐ来るしか無いよね。私の体も全方位を囲んでいるんだもん。


『……!? これは……ツタ……!?』


 だから簡単に罠にまっちゃう。

 そう、これは紛れもない策略。開始すぐの時点で植物は囮や陽動も担うって言ったよね。

 私に狙いを定めたばかりに、せばまったルートからなる選択肢はこの場所。

 そこにツタの拘束を仕掛けておけば自然と捕まるって訳。

 私に夢中で周りの事は対戦相手のゼルさんくらいしか目が行ってない筈だもんね。

 これでニクスさんは捕らえた。後は意識を奪うだけ。ゼルさんにも同じ感じで……!


「成る程な! 一連の流れで状況の把握は終わったァ! だったら単純に、全方位を燃やし尽くしながら迫りゃ良いだけだ!」

「結局力業……私も言えた事じゃないけど、一番厄介かも……!」


 流石の代表選手。罠の存在は何となく感じ取っているみたい。

 罠は対象者に巻き付くまで細くなったりして身を潜めているから本来なら気付き難いけど、観察眼のある相手はここが厄介。的確に焼き消している。

 でも、だったらだったで私に出来る事をやるのみ!


「どちらにせよ、逃げ場は0だよ!」

「そうみてェだ!」


 無闇に突っ込まないなら突っ込まないで張り巡らせた植物で追い掛けるだけ。

 触れる前に燃やされたり破壊されるけど、それすら利用して勝利を掴む!


「はあ!」

「ハッハァ!」


 数多の植物をゼルさんの周りへ。

 植物ドームの壁が薄くなっちゃうけど、背に腹は代えられない。

 罠は全身に纏った炎で燃やされる。じゃあその倍。それがダメなら更に倍。魔力が尽きるまでただひたすらに──


「──……ッ!」

「──……!?」


 仕掛けようとした瞬間、空いた隙間から何かが通り抜け、ゼルさんの側頭部を撃ち抜いた。

 銃弾や弓矢とも違う別の何か。おそらく他の選手の攻撃。それが確かに直撃した。


「……なんだ……? 今の攻撃……は……ァア……? 意識が……遠退く……」

「……っ」


 フラフラになり、次第に力が抜けるゼルさん。

 ……やられた……! 戦いに夢中でお互いに隙を見せちゃったみたい。今狙ってきた人……人かは分からないけど、外で待機していて横取りが狙いだったんだ……!


「チッ……ここまでか……」


 そのまま意識を失い、光となって転移。

 ここまで追い詰めたのは私だけど、最終的に点を取った方が勝ちになる。この失点は痛い。

 それにこのままじゃ多分私も狙われる。


「……!」


 そう思って移動した瞬間、私の肩に液体のような何かが掠った。

 危なかった……。早い判断が功を奏したみたい。

 あれ……でも肩に痺れみたいな感覚が走る……と思ったら感覚が消えた……これって……!


「……毒……!」


 マズイ。非常にマズイ。もしこれが毒で、掠っただけで全身を巡る物だったらすぐに解毒しないと。ゼルさんも食らったのと同じ種類。ルール上、流石に()んじゃう程の毒は使わないみたいだけど、意識をすぐに奪う程の威力は秘められているんだ。

 ニクスさんはまだ縛ったまま。でも私の意識が遠退いたらそれも緩くなって抜け出されちゃう。


「“薬草”……!」


 取り敢えず回復用の薬草を勉強した中から思い出し、植物魔法で作り出す。

 今回は傷の治癒じゃなくて解毒がメイン。思い出してるうちに毒が回り始めた……一瞬意識が遠退く。


『他のプレイヤーからなる攻撃ですか。貴女にとっては不運でしたけど、私にとっては幸運でした。見た感じ毒。これなら私には効きませんから』


「そっか……フェニックスの特性で……」


 一瞬の隙を突き、植物を焼き払ってニクスさんに脱出される。

 目の前に焔が迫り、樹のドームの隙間からは毒が。絶体絶命のピンチ。ピンチなんだけど……。


「……ふ……ふふふ……あはは!」

『……!? 如何どうしましたか?』


 何だか知らない高揚感に包まれた。

 多分これも毒の影響。人体についても色々勉強してるけど、いよいよマズイという時に人は幸福を感じるホルモンを出し、肉体への負担を和らげるらしいから。

 だから()くなる時も最大の絶頂を味わうらしい。多分私のこれは初期症状みたいなもの。


「何だか楽しくなっちゃって……♪ 妙に頭が冴えるんだ!」

『正気を失いましたか……』

「ううん。今回は違うよ~」


 そう、今回は違う……あれ? 今回は(・・・)……? 我ながら変な言い回し。まるで今までにそんな事があったような感覚。

 でもいいや。それは今必要ない情報。頭が冴えてるのは本当。なんか気持ちいいけど、自分でも驚くくらい思考が回る。

 解毒の薬はこの薬草から。それを作り出して含み、両手を広げて辺りに力を込めた。


「今の私は絶好調!」

『……!? 速……!』


 彼女の目に止まる事なく無数の植物が打ち抜き、再生するならその都度つど破壊し、ニクスさんの体をさっきよりも更にキツく締め付ける。

 意識を奪い去るのにそう時間は掛からず、倒すと同時にドームが決壊した。


「……勝てちゃった」


 さて、次は私から横取りした悪い子さん。感覚共有で上空から今さっきの居場所を特定し、そこから推測される移動範囲を割り出す。

 多分彼処(あそこ)かな。なんか他とは違う魔力の気配を感じる。

 植物を指定場所に伸ばし、私はそこへ駆け出した。


「アナタがさっき私から横取りした人……人じゃないみたいだね。けど、お陰でアナタの場所は分かったよ」

『……そうか。上手く狙ったつもりだったのだが、逆に自分の首を絞めたか』

「どの首を?」


 複数の長い首に九つの足。種族的には龍の仲間で……多分ヒュドラーって言われる魔物さんかな。

 ヒュドラーの猛毒ならあの強靭なゼルさんが一瞬でやられたのにも納得だね。致死性の高い毒。神話では英雄が毒に侵されて死んじゃったんだっけ。


「だから次はアナタの番」

『あの位置から此処まで一瞬で到達した主……私に逃げる術は無いようだ。では迎え撃たせて貰う』

「うん。分かった」


 解毒はしたけど、高揚感はまだ消えない。時間がそんなに経ってないもんね。

 毒による一時的な覚醒みたいな物という事も分かってる。ドーピングは不正だけど、相手の倒すつもりの毒からなる今の状況はルールに反してない。

 ちゃんとルールは把握してるからね。もしもこれが不正なパワーアップだったら素直に棄権するもん。だって私、今までに無いくらい冴え渡ってるから。


『私の名はヒドラ。効率が良いが為にこの様なやり方をしたが、正面からの戦闘も苦手ではない。逃げるならば見逃してやらん事もないぞ』


「逃げたら逃げたで態勢を立て直して私達の仲間にも仕掛けるでしょ? あの正確さ。今此処で終わらせなきゃ」


 複数の首から毒を垂らし、開始直後に広げた樹海の一部が侵食される。

 この強力な毒。野放しにした方が圧倒的に危険。だから此処で終わらせる。

 私達の代表戦、対戦相手だった一人と一匹はリタイアし、私とヒドラさんに1ポイントずつ入る。

 そして向き合い、相対するのだった。

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