第二百二十四幕 お手並み拝見
「さて、お手並み拝見だ!」
「……!」
今度はエレメントを付与せず、単純な魔力の塊を放ってきた。
それでも十分な威力。植物で防御するけど見事な風穴が空けられちゃっている。このままじゃ防戦一方。こっちも仕掛けなきゃね!
「“樹木行進”!」
「木々を嗾けたか! 悪くねェやり方だ!」
正面へ大木を放ち、魔弾を粉砕しながら直進。ゼルさんはそれを避け、私の背後へと回り込んで魔力を込めていた。
「ヒートアップしていくぜ! “炎”!」
「……っ」
属性を付与し、文字通りヒートアップする。
伸ばした大樹を壁として防ぎ、そこから枝を放つけど向こうは躱す。更なる魔力が込められていた。
「“水”!」
「今のところ初級魔術しか使っていないね……!」
水魔術。単純な威力で言えばディーネちゃんの方が高いけど、精密なコントロールが決め手になってそれなりに対処が難しい。
しかし周りに木で壁を作ればどうと言う事は無く、更なる枝や蔦で追撃。けれどまた躱される。
相手は避けるのも上手いね。
「“風”!」
「……!」
暴風を巻き上げ、植物でガード。しかし狙いは攻撃じゃなく、海岸の砂を巻き上げる事。
側面から回り込み、ゼルさんは大地に手を翳していた。
「“土”!」
「……足場を……!」
砂浜が盛り上がり、私の体が持ち上げられる。
ゼルさん以外居ないけど、これじゃ格好の的になっちゃうね。だったらこの盛り上がりをそのまま利用するだけ!
「“フォレストゴーレム”!」
「おお! 周りの樹を集めたか!」
巨大なゴーレムを生成し、そのままゼルさんへ狙いを定める。そこに向け、巨腕を振り下ろした。
「はあ!」
『ウオオオォォォォッ!!!』
「空洞を抜ける風の音がさながらゴーレムの雄叫びだな!」
ズドォン! と轟音を響かせ、砂が巻き上がり、近くの海も溢れる。
当たってはいないんだろうけど、視界不良にはなったかな。そこから更に畳み掛ける!
「“マジカルパレード”!」
周りの植物が独りでに動き出し、海岸全てを覆い尽くす。
ゴーレムにビースト。木々に花々に雑草まで。全ての植物は意思を持ち、中心の対象を蹂躙する。
流石にノーダメージでは済まないと思いたいけど、実際のところはどうか分からない。
次の瞬間、一ヶ所がポッと瞬いた気がした。刹那に燃え盛り、周りの植物が焼き払われていく。
「ハッハ! 良い魔法だ!」
「少しは効いたかな……」
少しだけボロボロになった様子のゼルさんが炎を纏いながら現れ、自分に降り掛かる植物は焼き尽くす。
一応耐火性能も上げているんだけど、迫っている海の波が蒸発しているのを見るにかなりの高温になってるみたい。一筋縄じゃいかないね。……でも、代表戦なんてこんな事の応酬だよね……!
「最初から全力で行かせて貰うよ……!」
「既に始まっていて今まで全力じゃなかったのに“最初から”とは変な言い回しだ。……だが、乗ったァ!」
ママに更なる魔力を込め、沈静化していた周りの植物達が蠢く。
様子見している場合なんかじゃなかったね。ゼルさんの指摘も納得する。
だからここからが本番!
「“樹海進行”!」
「まずは植物による質量と物量の押し付け! 悪くないが、さっきのパレードで対処済みだ!」
樹海による突進攻撃はまた炎魔術で焼き払われた。
でも大丈夫。焼き畑農業って言うのがあるように、燃えても燃えても種がある限り植物は蘇る。
うーん……焼き畑は違うかな。良い例えは見つからないけど、激しい戦地ですら数年後には植物が生い茂るんだもん。取り敢えずそんな感じで!
「“樹生流転”!」
「焼き払った植物が次々と再生して迫って来やがる! 面白い!」
植物で埋め尽くし、そこから脱出するように空へ。
全てのエレメントを高水準で扱えるゼルさん。飛行能力はお手の物ってところかな。
でも植物はどこまでも高く伸びる。ゼルさんに届かせる事も可能!
「行っけえええ!」
「良いな! それでこそ戦り甲斐がある!」
大量の植物を嗾け、ゼルさんは魔力を込める。
あの魔力の動き、大きな力が来るね。念には念を込め、更なる植物を放出した。
そして──
「「……!」」
別方向から火球が放たれ、私達を撃ち抜いた。
魔力……とは違うけど力の気配で何となくは分かった。なので避け、ゼルさんを警戒しながらそちらを見やる。
ボルカちゃんなら私を狙う訳がないし、ゼルさんのチームも余程仲が悪いとかじゃなきゃ味方を撃ちはしない筈だから魔物の国か幻獣の国の誰か……って事だよね。
姿は見せない様子。隙を突いて仕掛けようって魂胆かな。飛んできた方角は分かったし、炙り出すよ。
「フォレストゴーレム! 名付けて、“山熔戦蒸光線”!」
『…………』
ガパッと口を開き、ボルカちゃんの炎を込める。
次の瞬間に炎が光線となり、遠方に着弾。刹那にドーム状の爆発が起こり、周りの山々をドロドロに熔解させた。
「ハッハ! マジかよ! 複数の山が簡単に熔けちまった!」
別に必■技とかでもない通常攻撃。威力は思ったより出たね。
これを受けたらタダじゃ済まない筈。転移せずとも、大ダメージを負わせる事が出来たかな!
「全く……なんてムチャな……!」
「あ、出てき……た?」
現れたのは、半身に大火傷を負い、燃え盛る腕を動かしながら宙を舞う赤い髪の人。
なんの種族だろう。人型って事はヴァンパイアやエルフ? でもその二種族の特徴に何も当てはまらない。火傷が癒えつつあるのはヴァンパイアの特徴だけど、そんな雰囲気もないよね。
その人は加速して私達の方へと向かい、今一度大きく羽ばたいて火球を生成した。攻撃の主は彼女で当たってたみたい。
「やはりどちらも早めに倒さなくては私達の不利になる! “火鳥球”!」
「火球が鳥さんの形に!」
「鳥さんって……中等部二年生の言葉遣いか?」
周りの火球が変化し、鳥のような見た目となって迫り来る。
私は植物で覆って防ぎ、ゼルさんは魔力で防御。未だに燃えている女性は更に力を込めた……と言うか熱くないのかな? それともあの火……もしかして体の一部だったり……。
「“火鳥”!」
「また……! でもさっきより広範囲……!」
片手を突き出し、火炎を放射。その炎は巨大な火の鳥となって迫り、また植物で防御。火属性の使い手なのは明白。幻獣でも魔物でも、高水準の炎の力を扱えるって考えた方が良さそうだね。
そして勿論、ゼルさんが協力関係になる訳でもない。
「“ショーラ”!」
「しれっと火を向けてる……!」
「バレたか! 同じ炎を使ってヘイトを向こうに向けさせ、一気に畳み掛けようと思ったんだけどな」
「随分丁寧に説明してくれますね……! 流石に彼女の炎と貴方の炎魔術は魔力とか気配の差で分かります!」
「流石にそれくらいは出来るかァ!」
出来るようになったのは最近だけど、やっぱり代表戦じゃそう言ったスキルは標準装備みたい。去年も似たような事思ったかも。
多分植物を潜ませたりしても気付かれるのが関の山。そしたら質量で仕掛け続けるのが攻略の鍵かな。さっき辺り一帯を焼き払ったけど、誰も倒せなかったみたいだもんね。
「私がやらなきゃ! ──“フォーリングジャングル”!」
「マジか……クハッ! 森その物を落としてきやがったァ!」
「これは……今のままでは防ぎ切れない……!」
天空に魔力を込め、上で森林を生成。地面の無い空では支えがなくなり、重力に従って落下。
広範囲を巻き込む事になるけど、多分ボルカちゃん達なら大丈夫。そんな気がする。
今はこの二人を押し潰さなきゃ勝てない!
「更に追加!」
「更に追加すんのか! “大火放進”!」
「相変わらず魔族の国の呪文は複雑ね。“鳥火力”!」
複数の森を天から落とし、それらが炎魔術と炎の力で焼き払われる。
でもまだまだ。出し惜しみはしない。してる暇がない! 更に魔力を込め、砂浜から海底へと伸ばした。
「“樹掬海転”!」
「植物で海の水を……!」
「ステージギミック。焦る必要は無いけど……!」
植物を海底から生やし、海を掬い上げる。
木々には隙間があるからあまり長時間は持てないけど、この炎を消すには十分。
女性が言ったようにステージギミックとしての海に消火機能はない。そうしなきゃ火の魔導師が不利になっちゃうから。
けれどこの海も魔力であり、植物魔法にも水のエレメントが含まれている。これが意味する事はつまり──
「触れている間だけなら、そのままエレメントを付与して、水魔法として扱える!!」
「んなバカな!?」
「けど、炎は消されている……! “火鳥”」
「って、しれっと俺にも仕掛けるな!」
「貴方がティーナ・ロスト・ルミナスにした事よ」
「そりゃそうだ。じゃあしゃーねェ」
会話の最中にも水が広がり、辺りと木々は湿って燃えにくく。
ゼルさんに炎を放ち、防がれた女性は腕を広げ、自身を炎で包み込んだ。まるで繭みたい。
「……! これは……!」
徐々に人の形から変わり、燃え広がる炎がさながら翼のようになり、火の粉が羽毛のように舞い散る。
全身が燃え盛り、森の落下で巨大な砂塵と海が巻き上がると同時に全てを焼き尽くして消し去った。
『代表戦。第一試合とは言え、皆が優勝候補。侮っていたのは反省ですね。この姿でなければ勝てないのは明白でした』
「炎の……鳥さん?」
『ええ。私は火の鳥“フェニックス”。名をニクスと名乗っておりますので種族名ではなくそちらをお願いします』
「あ、はい」
凄まじい威力の炎を使っていた彼女は彼の有名な不死鳥、フェニックスだった。
様々な逸話があり、人間の国では繁栄や象徴としてエンブレムにもなっていたりするフェニックス。という事は、さっきフォレストゴーレムが放った炎、あれはちゃんと当たってたんだけど、その上で自動的に回復してたからずっと燃えっぱなしだったんだね。
フェニックスには悪魔としての側面もあるらしいけど、彼女の物言いから出身国は幻獣の国かな。
そんなニクスさんによって森は焼き払われ、私達二人と一匹は地上と空中、互いに向き合う形となった。
「良いじゃねェか! 盛り上がって来たァ!!」
「全員がとんでもない……!」
『一番とんでもないのは貴女のような気がしますけれどね。ティーナ・ロスト・ルミナスさん』
高レベルの四大エレメントを扱うゼルさんに不死鳥であるニクスさん。そしてちょっと多くの魔力を有するだけの私とママとティナにボルカちゃん。戦況はどっちに転んでもおかしくないよね。
代表戦、第一試合。まだまだ序盤の筈なのに、かなり苦戦しちゃっている……!




