第二百二十二幕 実戦練習・ボルカ班とサラ班
ティーナ達と分かれたアタシとビブリー。取り敢えず最初はサラ達を探す事から始める訳だけど、中々見つからないな~。
代表戦のステージに比べたら狭めであり、アタシも炎からなる探知をしている。でも変化は無し。
「相手を探し出すのが大変だな」
「そうね。ティーナさんのお人形や私達の誰かが向こうの気配を探れたら簡単なのだけれど」
「そうだよなぁ~。炎の探知機も便利だけど、やっぱり限りがあるっ言ーか。アタシもさぁ、もう少しで気配を掴めるような気がするんだよな~。そこに何かが居るのは分かりそうだし、ある程度魔法も魔術も鍛えたから今度はそっち方面のスキルアップを狙おうかな」
「良いんじゃないかしら? ティーナさんも魔力の気配が少しずつ掴めるようになってきたと言っているし、貴女は人の気配。ティーナさんは魔力の気配で上手く分ければグッと戦略の幅が広がるわ。代表戦出場チームで相手の気配が誰も掴めないのは私達くらいですもの」
「そうだよなー。じゃ、今度からそっちを伸ばしてみるよ」
「そうね」
こんな時向こうの気配を掴めたら先に仕掛ける事も出来るようになり、戦況も有利に運ぶ。
アタシの得意分野もある程度分かってるし、そろそろ次の段階に進んだ方が良さそうだ。
「ま、今はサラ達を探さなきゃだけどな。サラ達じゃなくて他の誰かが来る可能性もあるけど」
「メリア先輩辺りならすぐに見つけてしまいそうね。何とか先手は打ちたいところだけど」
「案外近くに居たりしてな~」
「そんな簡単に──」
──その瞬間、炎の探知機が燃え盛り、人が居る方向を指し示した。
「居たみたいだ」
「諦め掛けた方が案外思い通りに行くのかもね」
アタシとビブリーは警戒を高め、炎の指し示す方向を見る。
次の刹那に仕掛けてきたのはそちらとは逆方向だった。
「貰いー!」
「こっちかよ!」
サラが炎で加速して迫り、炎を込めた杖で殴り掛かる。
魔術師じゃないから炎からなる炎剣は使えないみたいだ。それは練度の差だからいつかはやれるかもしれないけどな。
取り敢えずアタシは炎剣でガードし、振り抜いて距離を置く。
「“下降風流”」
「上か……!」
その瞬間に上から風が落ち、アタシ達を吹き飛ばす。
それも何とか防いだけど、完全に先手は取られたな。
「本来なら人の居る方向に揺らめく筈なんだけど、おかしな話だ」
「リゼさんの風の影響じゃないかしら。彼女は上から仕掛け、サラさんは逆方向から攻めてきた。あり得る線はリゼさんが既に上に潜み、微かな風で炎を揺らしたと考えるのが妥当だわ」
「ま、そんなところだよな。炎が探知するのは人の動きからなる微かな空気の変化。それを意図的に出されたら対処が遅れちまうぜ。やっぱ早急に気配を探る能力を鍛えなきゃな。こんなんじゃ代表戦で惨敗しちまうぜ」
「その向上心は流石ね。ボルカさん」
「どうやら向こうは私達を二の次に考えているようだな」
「ムキーッ! あり得ないんだけどー! 確かに隙を作った割にはダメージにもならなかったけど、少しは褒めて欲しいんですけどー!」
「ま、先輩方からすればこんな状況は茶飯事。気を落とすな」
「分かってっし! 落ち込んでないし! 最初からウチはボルカ先輩を振り向かせるつもりで来てるっ言ーの!」
「なら良い。期待してるぞ。サラ」
「リゼもね!」
お互いに仲間との会話を終え、向き直る。
サラとリゼだけみたいだけど、何処かに他の誰かが潜んでいる可能性も0じゃない。さっきの炎の探知機がそうだったように、見えてる全てを信じ過ぎるのは愚作だったな。
疑い過ぎるのも問題だけど、その辺の判断能力も高めなきゃだ。
「取り敢えず振り向かせる! “炎確双裂”!」
遠距離からの炎が放たれ、アタシ達は飛び退くように避ける。
基本的に向こうは遠距離主体。と言うかアタシが特例で大抵の炎使いは遠距離攻撃がメインだ。
だからと言ってどうって事は無いが、距離を置きながら仕掛けられるのはちょっと面倒。属性的にも同じだし、アタシがサラの相手を努めるか。
「“ファイア”!」
初級魔法で防御。向こうも牽制だしそんなものだ。
炎同士がぶつかり合って焔を立たせ、辺りが赤く染まる。生じた炎幕を抜け、アタシはサラとの距離を詰め寄った。
「ご所望通り、アタシがやってやるぜ。サラ!」
「マジ!? じゃなくて、マジですかボルカ先輩! ウチ張り切っちゃいますよー!」
アタシと戦う事になって見ての通り大はしゃぎのサラ。喜んでくれたなら何よりだ。
でも一切手加減するつもりは無いから心が折れなきゃ良いな。いや、サラそんなに柔じゃねえか。
「そらっ!」
「“炎上防壁”!」
炎剣を刺し込み、サラは炎の壁で防御。これくらいなら簡単に切り裂ける。
防壁を断ち斬り、そのまま刺突。けど既にそこにサラは居なかった。
「あくまで隠れ蓑か」
「もち! “火炎渦”!」
アタシの全身を覆い尽くす大火の渦。逃げ場を無くす作戦と言ったところか。
サラも結構器用だ。まあそれぞれ得意分野はあるんだけど、それにしても細かい魔力操作を上手くやってる。
炎の渦から抜け出し、炎剣を払う。またもやサラの姿は見えずとも、既に対策はしてある。
「この距離なら流石に狂わないぜ!」
「炎の探知……! リゼが居なきゃ誤魔化せないか……!」
ビブリーの予想通り探知を狂わせたのはリゼだったみたいだ。今はサラ一人だからそれも叶わず居場所を特定出来る。
炎の加速による回し蹴りを放ち、相手の体を吹き飛ばす。でもガードは間に合ったみたいだな。反射神経は大したものだ。
「そら、追撃!」
「……っ」
引き離し、距離は空く。けれどそれなりに重い攻撃だから怯みは見せた。
なのでその一瞬の隙を突いて更に仕掛ければ確実なダメージになるって訳だ。
頭を使う戦いも嫌いじゃないけど、やっぱり単純な肉弾戦は好みだ。先輩がアタシへのアドバイスで遠距離中心から近距離にするように言った意味が分かる。単純に合う合わないの問題だったみたいだ。
「“火球”!」
「それくらいなら突っ切る!」
「猪突猛進……!」
複数の火球が放たれ、それは正面から打破。遠距離中心の戦い方は距離があれば基本的に有利に運べるけど、詰め寄られたら割と大変。
魔法や魔術を放つのにも溜めは必要だし、近接戦への切り替えも必要になるからな。
つまり現状、切り替えようとしているサラと既に万端のアタシならアタシの方が有利って訳だ。
「一気に仕掛けるぜ!」
「……っ。だったら……!」
炎剣を突き、炎がサラに直撃。向こうは炎剣を掴み、魔力を込めた。
「一緒に行きましょう。ボルカ先輩……!」
「ハッ、勝てないと判断してからの切り替え……良いやり方だ……!」
避ける事も可能だけど、受けて立つ。後輩の意思を汲むのは先輩の役割だからな。
サラはアタシに抱き付き、込めた魔力を解放した。
「──“自爆炎”!」
「……ッ!」
カッ! と瞬き、火炎が放たれ大きな爆発を引き起こす。
これは効くな……! けど、火の質ならアタシが上。負けないぜ。サラ!
アタシとサラを中心に、巨大な炎の爆発が巻き起こった。
─
──
───
「物語──“ミノタウロス”」
『ブモオオオォォォォッ!!!』
「初手はミノタウロス率が高い。想定内ですよ。ウラノ先輩!」
本魔法でミノタウロスを召喚し、リゼさんへと嗾ける。
ミノタウロスは戦斧を振り下ろし、大地を粉砕した。
けれど向こうは風の使い手。空中移動の性能は高いわね。炎と風は空域を取れるから便利。
「“本の鳥”」
『『『…………』』』
「空中には飛行する本による体当たり。改めると珍妙な魔法ですね」
「そうね。植物魔法や聖魔法に並ぶ特殊魔法だもの。逆に貴女達は単純に基礎分野での上澄みって感じがするわ」
「褒め言葉として受け取っておきます!」
本の鳥達はリゼさんへ羽ばたいて突撃。彼女は風によって自由に移動し、幾つかを振り落としながら回避していた。
これではミノタウロスの出る幕は無いわね。本の鳥達が相手取ってくれているし、空中用の召喚としましょうか。
魔導書を開き、魔力を込める。次を召喚するまでの余裕はあるわね。
「物語──“雷神”」
『ウオオオォォォォッ!!』
「……! これはマズイ……!」
雷神を召喚し、その瞬間に天雷を迸らせる。
空を飛んでいる彼女にとって雷は不都合極まりないわよね。戦闘の余波で高い木々は減ってきているし、必然的に彼女へ当たる事になる。
即ち降りて来ざるを得ない状況となった。
「まあいい。近距離や中距離の戦闘も苦手ではありませんからね!」
「でしょうね。遠距離型や近距離型の得意分野に違いはあれど、特化型と言うのはあまり居ないもの」
火、水、風、土。基本となるエレメントの魔導。それは何れもあらゆる事柄へ対処出来るようになっている。
なので遠距離主体であっても構わず近接戦をやれる人は多いわ。そもそも特化型ではどうしても綻びが出てしまって生き残れないのがダイバース。
「“風神加速拳”!」
「単純な風による加速技に大層な名前を付けたわね」
「魔導にはイメージが大事ですから!」
風によって加速したリゼさんの拳を躱し、私は剣を振り抜く。
彼女は距離を置き、そこへ雷が降下。風の加速で避ける。
魔導の呪文によるイメージの付与。確かにそれは重要な事柄。基本的に思った事を何でも出来るようになるのが魔導。飛びたいと思えば飛ぶ事が出来、回復したいと思えば回復出来る。
それは常識的な理論の問題ではなく、魔力をどの様に作用させるかによるイメージ。想像力が高ければ高い程にやれる範囲が増え、より戦略の幅が広がる。
私にも言える事ね。
「私もイメージして行おうかしら」
「……!」
本の鳥達を周りに集め、雷神がその中心へ。
因みにこの本達。素材は紙に近くしてあるけれど、全貌は魔力。そして同じ魔法からなる魔力は伝達する。リゼさんも気付いたかしら。
「そう来ましたか……!」
「ええ。呪文名は……保留にしておきましょう」
雷神が雷を落とし、本の鳥達に伝達。本から本へと移り変わり、稲光が迸る。
リゼさんは力を込めていた。
「“風輪狩斬”!」
「風の刃による全方位防御&攻撃。どちらが決まるかしらね」
伝来した雷はリゼさんに当たり、私には風の刃が降り注ぐ。
雷と風の衝突。それと同時に遠方では炎の爆発が起こり、少し前には植物と水の鬩ぎ合いが見えたわね。
最終的な決着は──
*****
「……!」
──ハッとし、私達は元居た場所に戻っていた。
集まっているのは私とボルカちゃんにウラノちゃん。二人とも傷だらけ。
「二人とも!」
「ティーナ! そしてアタシと行動していたビブリーって事は、残念ながらルーチェは脱落か~」
「相手がメリア先輩だったもん。仕方無いよ」
「そうね。メリア先輩が相手では私達でもそうなっていた可能性はあるわ」
ここに二人が居るという事は、サラちゃんとリゼちゃんに勝利したって事だね。
でも前述したように傷だらけ。すぐに治療魔法を施し、私達ダイバース部メンバーは全員が揃った。
「うぅ……また負けた~!」
「やっぱり先輩達はスゴいね~」
「まだ体が痺れる」
「残念ですわ……」
「先輩として負けちゃうなんて~」
「ベルさんとメリア先輩を落とせたのですもの。悔いはありませんわ!」
少し休憩を兼ね、みんなで集まって話す。反省点だったり改善点の話し合いが主かな。
今日一日はこのステージを借りられるから、今度はチームを変えてする感じになるね。
「ま、全員が確実に強くなってんだ。代表戦までのラストスパート。頑張ろうぜ」
「「「「はい(ですわ)!」」」」
「「おー!」」
「ですわ!」
「そうね」
ボルカちゃんが仕切り、これで一回目の試合は終わり。
残り時間的に二、三試合出来るかどうかかな。練習詰めは問題だから代表戦までに休日も挟むとして、より一層鍛え上げていかなきゃね!
私達の部活動。それは代表戦まで行われ、いよいよ本番当日となるのだった。




