第二百二十一幕 実践練習・ティーナ班とディーネ班
「ルーチェちゃん。牽制お願い。準備しておくから!」
「分かりましたわ! “光球”!」
「仕掛けてきた……!」
「質量のある物質なら、塞き止められますの! “土壁”!」
光球が放たれ、土魔術からなる壁で防がれる。
光の爆発が巻き起こり、砂塵が舞い上がる。そこから植物が差し迫り、ディーネちゃんとベルちゃんを襲撃。
でも当たらなかったみたいだね。その証拠に正面から土と水が流れ込んできた。
「“防災樹林”!」
それについては植物からなる森で防御。ディーネちゃんの魔力からなる水魔術はとてつもないけど、それ以上に力を込めれば問題無いよね。魔力コントロールと総量はまだ私の方が少し上みたい。
牽制を兼ねてルーチェちゃんが光球を撃ち込み、光の爆発が再び。そこにゴーレムとビーストを嗾ける。
「一度見つかってはティーナ先輩の兵力が攻めてきますわね……!」
「一つ一つは破壊出来るけど、キリがないや……!」
光や粉塵で悪い視界。二人も対処に手間取っているみたい。
あらゆる事に気を取られていたら他が疎かになる。そこを突いて仕掛けるよ!
「“森波”!」
「「……!」」
波打つ森を正面に仕掛け、二人の体を飲み込む。
二人はベルちゃんの土魔術で空へと上がり、そこにルーチェちゃんが狙いを定めた。
光魔法による遠隔攻撃って言うのはこういう事!
「“光球”!」
「「……っ」」
少ない土で防御を試みるも着弾と同時に爆発が巻き起こる。
薄い壁しかなかったから光魔法の熱と衝撃は伝わった筈。少しずつでもダメージを蓄積していくのは大事だもんね。
二人は──
「危なかったね~。まんまと狙い易い場所に炙り出されちゃった感じかな?」
「あ、ありがとうございます……」
「助かりましたわ……」
「……! メリア先輩……!」
「あの光の爆発より速く……光速ではありませんが、流石ですわね」
割って入ったメリア先輩に救出されちゃった。
箒の操作力と速度。味方だと頼もしいけど敵になるとかなり厄介。結局は単純に速くて強いのが一番強いのかもしれないね。
「さて、反撃と行くよ二人とも!」
「「はい!」」
「メリア先輩が来た。仕掛けるよ! ルーチェちゃん!」
「ええ! 当然ですわ!」
メリア先輩の指示と共にディーネちゃんとベルちゃんは箒から飛び降り、土と空間で足場を作って空中停止。
私達は透かさず植物を送り込み、三人は魔力を込めていた。
「“空間掌握・抜”!」
「“震動漏無”!」
「“トルネード”!」
植物が刳り貫かれ、震動で破壊され、竜巻で抉られる。
空間魔術と風魔法の二人は兎も角、土魔術から震動を作り出す事も出来たんだ。災害魔術の専売特許と思っていたけど、多分揺れが生じる鉱物か何かを作り出したのかな。
確実にベルちゃんも成長しているみたい。そこに魔力を込めていたルーチェちゃんが切り込む。
「“光球連弾”!」
「“空間掌握・止”!」
光魔法からなる光球を乱射し、それが全て空中で停止する。
こんな感じで防御する事も出来たんだね。ディーネちゃんは防御が疎かになってるって認識を改めた方が良いかも。作戦は成功か失敗か……。
「“空間掌握・弾”!」
「カウンター技……!」
そして彼女はあろう事か停止させた光球を私達の方へ打ち返してきた。
ディーネちゃんもしっかり成長しているみたい。まさかこんな風なカウンター技を持っていたなんてね。練習はちゃんと見てるけど知らなかった。
跳ね返された光球は次々と着弾して爆発。食らう側はこんな景色を見ていたんだ。
「“槍樹”!」
「“ウィンドスピア”!」
無数の木々を向こうへ放ち、風の槍で受け止められる。
二つの魔法はぶつかり合って衝撃波を散らし、周りの森がその余波で大きく揺れた。
「相変わらずの破壊力……!」
「お互いにね……!」
樹に乗ってその場を離れ、距離を空ける。
メリア先輩の考えも同じらしく、改めて箒に乗って加速した。
「私も新技をお披露目ですわ! “光鞭”」
光魔法が繋ぎ合わされ、樹を焼き切る温度を持つ光の鞭を形成して薙ぎ払った。
木々は倒れ、ディーネちゃんとベルちゃんも互いに離れる。そこへ更なる追撃を嗾けた。
「“樹拳”!」
「「……!」」
避けた先の着地ポイントは明確な隙となる。
そこ目掛けて樹の拳を打ち込み、二人を更に引き離す。直撃はしなかったけど十分な戦果かな。
だってそこには──
「貰いましたわ! “旋回光球”!」
「……!?」
既にルーチェちゃんが回り込ませていた光球が来ていたから。
初撃を含めて何度も使っていた光魔法からなる光球。ルーチェちゃんはさながらルミエル先輩みたいに体から離れた魔力を操作し、大きく旋回させて背後から回り込ませた。
この技は第三者からの観測があったら成立しない。なので空から全体を見渡せるメリア先輩がディーネちゃん達と合流した時点で考えたの。
メリア先輩との合流後、ルーチェちゃんがディーネちゃん達に放った“光球連弾”。それは全て止められた。そう──彼女達を狙った物は。
勿論当てる気では居たと思うけど、■角に回り込ませる事でより確実な一撃を当てるつもりで居たという事。
ディーネちゃんの使ったカウンター技は本当に想定外。でも旋回させた方に影響が及ばなくて良かった。
「そんな……私が……!」
光球に飲み込まれ、ベルちゃんの体も光となって転移。これで相手の数は私達と同じになった。
ゴーレム達で埋められるとしても、質はどうしても実力のあるプレイヤーには劣っちゃう。相手の戦力を一つ削れたのは大金星だね。
そして向こうは即座に仕掛けてきた。当たり前だよね。既に相手と向き合っている以上、驚いていたり嘆く暇は無いから。
「ベルちゃんの仇! “水砲弾”!」
「エンチャント! “風纏”!」
「合わせ技……!」
「いつの間にこの様な力を……!」
巨大な水球が放たれ、それに風魔法でコーティング。より破壊力と速度が増した水球は地表を抉りながら迫り、多重の木々の護りも意に介さず吹き飛ばした。
これを正面から受けるのは愚作。私とルーチェちゃんは素直に回避する。
「“樹捕縛”!」
「……っ。“空間掌握・纏”!」
「だったらこっちも大技ですわ! “巨光球”!」
「負けないよー! “台風逸轟”!」
避けるや否や、私はディーネちゃんを植物魔法で引き離す。拘束自体は自分の周りに貼った空間の壁で防がれちゃったけどね。
そんな一人になったメリア先輩へルーチェちゃんが仕掛けており、対する先輩も迎撃態勢に入る。
巨大な光球と超大型台風は激突し、森の広範囲を吹き飛ばす。同時に二つが光の粒子になって転移したのを確認した。
「相討ち……!」
「立て続けに二人も……!」
少なくともこの場に残ったのは私達だけ。どちらが先に仕掛け、先に倒すか。それが命運を左右すると言っても過言じゃない……と思う。
お互いに魔力を込め、最後の攻防へと移る。
「“樹海行進”!」
「“大水進行”!」
樹海と湖がぶつかり合って辺りに飛び散り、キラキラ輝いて丸い虹が出る。直後に弾き消し去り、更なる魔力を込め直した。
「“樹拳”!」
「“空間掌握・固”!」
無数な植物を合わせた巨大な拳を打ち付け、固められた空間にて受け止められる。
だけど衝撃波は逃げ、森林ステージを大きく揺らした。
「“樹木怪々”!」
「“水お化け”!」
木々をヒノモトの絵巻で見た妖怪さん達みたいにして放ち、水魔術の海坊主が迎え撃つ。衝突によって再び水と植物が散った。
「“フォレストゴーレム”!」
『ウオオオォォォォッ!!』
「“水魔神”!」
『……コポ……コポ……』
巨大なゴーレムを作り出して拳を放ち、向こうは水魔術で謎のモンスターを作り出す。
巨腕は木々の隙間で風を切る事によって生じる重低音を鳴らしながら直進し、水の魔神も拳のような物を握る。だけど固さでは圧倒的にゴーレムに軍配が上がると思うけど……そんな思考は束の間、ディーネちゃんの考えは分かった。
「“空間掌握・固”!」
『……コポ……ゴポ……』
「成る程ねぇ……!」
水を氷とはまた違う感じに固め、固形としてゴーレムの巨腕にぶつける。
二つの力は重い音を鳴らして響き渡り、双方瓦解した。
「一気に仕掛けるよ! “山戦草木”!」
「私もそうしますっ! “水場空間”!」
山の質量を魔力で作って放ち、向こうも空間魔術と水魔術を組み合わせて巨大な力とする。
策略も何もないただの力のぶつかり合い。お互いの力は拮抗し、私は更に力を込めた。
「これが……植物の力ァ!」
「……っ……!」
魔導の熟練度は、経験の差で私が上回った。
魔導の使用期間で言えばディーネちゃんの方が長いけど、私はルミエル先輩を筆頭に世界各国の強者と戦ったからね。その差が出たのかな……あれ、でも思ったより世界中の人達とは戦ってないかも……。
と、取り敢えずダイバースでの練度の差。それが決め手となり、ディーネちゃんの体を山で吹き飛ばし、光となって転移した。
「これで私達の勝ち……! あくまでこの場所ではね……!」
まだボルカちゃん達が残っているけど、一先ず私達の戦闘は私とルーチェちゃんの班が勝利を収めた。
二年生vs一年生feat.メリア先輩のチームによる実践練習。それは終劇へと向かうのだった。




