第二百二十幕 お屋敷でお休み・実践練習
「戻って来たぜ~!」
「たっだいまー!」
「わ! サラさんにボルカ先輩!?」
山頂からそのまま降り立ち、砂塵を巻き上げるボルカちゃんとサラちゃん。
メリア先輩は箒で華麗に着地し、ディーネちゃんもちゃんと降り立つ事が出来た。
私も植物から降り、ベルちゃんのお屋敷に全員が戻ってくる。
「あ、ベルちゃん達も外に居たんだ~」
「え、ええ。少し外の空気を吸おうと言う話になりまして。自家用プールで涼んでおりますわ」
「ホントだー。私達は山頂で露天風呂に入ってきたばかりなんだ~」
「それは良い時間をお過ごしになりましたわね。ティーナ先輩」
ベルちゃん家では何人かがプールに入って過ごしていた。
ベルちゃんとルーチェちゃんはプールの中でボールを持っており、リタル先輩は日陰でのんびりと過ごしている。
ここに居るのは全員じゃないみたいだね。ウラノちゃん辺りは昨日海に行ったから今回はパスくらい言いそうかな。レヴィア先輩とリゼちゃんは勉強とかしてるのかも。
「えーと、お疲れ……ではないようですけど暑いので飲み物とか如何ですか?」
「うん。じゃあ貰うよ~」
「アタシも~」
「ウチもー!」
「わ、私も……」
「私もー!」
「では使用人に頼んで持ってきて貰いますのでリビングへ……それともプールにしますか?」
「そんじゃ折角だしプールで!」
「ウチもー!」
「私もー!」
「私はちょっと疲れちゃったからリビングかな~」
「私もそうします……」
ボルカちゃん、サラちゃん、メリア先輩がプール。私とディーネちゃんは室内で休む事にした。
あの三人の体力はスゴいね~。私も流石にもう体力は付いたし、インドア派から少し変わったかもしれないけど色々と疲れちゃうからね~。
そんな感じで各々で分かれ、自分達なりに休憩する。
「ふぅ~。落ち着くね~。ベルちゃんの家もスゴく寛げるよぉ~」
「そうですよね~。私もよく遊びに来てたんですが、やっぱり落ち着きます」
「よく遊びに……って事は元々ベルちゃんは寮じゃなかったんだ。この場所的にも頻繁に行ける距離じゃないもんね~。休日に遊ぶとして、本人のお出迎えが無くちゃちょっと遠いや」
「はい。初等部の時、ベルちゃんは寮じゃなくて自分の家から通学してたんです。特例ですけどね。初等部の四年生くらいまででした」
「特例? あ、そっか。小中高の一貫校の全寮制だもんね。だから特例扱いなんだ。中等部から入学した私とちょっと近いかも。ずっと通っていたのとそうじゃないので違いはあるけどね~」
「ティーナ先輩は元々この学院に入学する予定だったんですか?」
「そうだよぉ~。よく覚えてないけど、パ……お父さんがそれを推奨したの」
「お父様が……色々あるんですねぇ」
「そうだねぇ。最初は不安しかなかったけど、今はとても楽しいよ♪」
「私もティーナ先輩が居てくれて心強いです。皆様良い方ですけど、スゴくポジティブな方だったり何処か近付き難い雰囲気が漂っていたりで……ティーナ先輩が一番親しみやすいです」
「おー、嬉しい事言ってくれるね~」
和やかなムードで会話が弾む。
私達はどこか似たところがあるからお互いに話しやすいんだ~。
そんな感じでディーネちゃんと過ごして数時間。時折ボルカちゃんや他のみんながやって来ては軽くお話しして盛り上がり、また自分達の場所に戻る。
そして気付けば既に夕食の時間となっていた。
「ディナーの時間ですわ!」
ズラリと並ぶ料理の数々。張り切っているのがよく分かる量だね。
だけど食べ切れるかは不安なところ。本当に多いから。
今日は登山でエネルギーも体力も使ったけど、ロングテーブルに並べられたこれを完食出来るかどうか。
昔の貴族階級とか王族の人達は食べ物をよく残していたらしいけど、直後に戦争が起こったりして食料不足に陥ったりで見直され、なるべく食べ切る事が大事とされるようになったとか。
その意思は私達も継ぎ、食べ切って見せる……!
─
──
───
「ぷはぁ……もうお腹いっぱい……」
「張り切って用意し過ぎましたわ……使用人の皆様には苦労を御掛けしますの」
「でも何とか食べ切ったね~」
食事はいつも通りとても美味しくて楽しかったけど、食べ終わってからはあまり話す気力も無いくらい。食べるのって体力使うんだね~。
でも完食はし、みんなはリビングや自室でのんびりと。たっぷりの休憩を経てお風呂に入り、体の疲れを更に癒す。
「はぁ……気持ちいい……。癒されて落ち着く~」
「だな。お陰でもうクラーケンの時に付けられた痕も無くなったぜ!」
「あ、ホントだ。すっかりキレイだね」
「だろー?」
「あれ? でもまだ胸に……」
「……んあっ。……そ、そこは違う……」
「ご、ごめん……!」
間違えて胸を触っちゃった。昨日ボルカちゃんが痕が○○みたいって見せてくるから……。
取り敢えず、落ち着くけど長風呂しちゃうと逆に疲れちゃうからあまり長居は出来ないね。少しの間のんびりと過ごし、お風呂上がり。飲み物を貰って雑談。ベルちゃん家でのおもてなしもしっかり受け、今日も無事終わりを迎えるのだった。
──“翌日”。
「それじゃ、このまま“魔専アステリア女学院”に戻ってダイバースと行こうぜ。代表戦も近いし、休み気分も切り替えなきゃならないしな」
「そうだね。高等部であるレヴィア先輩とリタル先輩はどうしますか?」
「私達は明日からだな。だから今日はゆっくり休むとするよ」
「今年は代表戦までは行けませんでしたからねぇ~」
高等部と中等部。同じ部活動に入っているのは結構あるけど、ちょっと日程が変わったりする。
なのでレヴィア先輩とリタル先輩はあと一日休みがあり、私達とはここで分かれる事になった。
ベルちゃんの家から転移の魔道具が繋がっている訳じゃないので絨毯に送られて学院へ向かい、数時間後のお昼前くらいに今日の部活動が始まった。
*****
「よーし、それじゃあ今日からは全体的な総仕上げって感じのモノにするぞー。実践形式なのは今まで通り。より本気を出して行こう」
「「「はい(ですわ)」」」
「はーい!」
ボルカちゃんの言葉を聞き、ディーネちゃん達は返事をする。
今日の部活動は一年生vs二年生の実践練習。
だけど経験の浅さがあるので一年生チームにはメリア先輩が入り、4vs5の組分けで試合を行う事にする。
代表戦は殆どが純粋なチームによる戦闘。なので今回の試合もそんな感じとなる。
「そんじゃ、ステージは既に予約しているからそこへ向かおうぜ」
「流石。手際が良いね。ボルカちゃん」
ボルカちゃんは中等部のリーダーとして既にステージを手配済み。ちゃんとルミエル先輩の意思を受け継いでいると分かる手際の良さ。
今回借りたステージへと私達は転移の魔道具で移動した。
──“森林ステージ”。
「さて、早速行動に移るか。初動は肝心。向こうはメリア先輩が索敵に出るだろうし頭上に注意だな」
「うん、そうだね。木々が生い茂ってるけど、多分そんなステージにも慣れてる筈だもんね」
「絶対に注意深く観察しておりますわね」
「そうね。謂わばメリア先輩は歴戦の戦士だもの」
今回のステージは、ダイバースの本選でもよく抜擢される森林ステージ。
身を隠す場所や平坦だったり山河があったりの様々地形など、一つの場所であらゆる顔を見せる所。
最もポピュラーと言っても過言じゃないここを今回の実践練習の舞台とした。
それにつき、今一番警戒をする相手は天空の支配者メリア先輩。空からの索敵能力が高く、個人的にもかなりの実力者。
ディーネちゃんがメリア先輩を起点にした作戦を立てるとして、時と場合によっては一気に追い詰められる可能性もあるからね。
「アタシらは四人だ。単独行動は相手の思う壺。で、それを向こうも理解している筈。だとしても二人で行動した方がメリットが多いな」
「そうね。サポートと攻撃に長けたチームとしましょうか。ティーナさんとボルカさんが二年生チームの主力。貴女達を起点にするわ」
「分かった。それじゃあ──」
戦力を効率よく分担する為、私とボルカちゃんでチームを分ける。
数の有利は向こうにあるけど、四人パーティはチームを組みやすいね。それに単純な数の差はすぐに無くさせる事が出来る。
「“樹海生成”&“フォレストゴーレム”&“フォレストビースト”!」
ママに魔力を込め、私達のテリトリーとする。
同時にゴーレムや動物達を作り出して全体へ向かわせる。
チームを分けた私達も動き出し、二年生vs一年生feat.メリア先輩の試合が開始された。
「それでは行きましょう。ティーナさん」
「うん。ルーチェちゃん」
私の班はルーチェちゃんと。植物魔法による盤面の制圧に聖魔法のサポート力、光魔法の遠隔攻撃が決め手かな。
両方の性質上やり過ぎると視界が悪くなるのは欠点だけど、そこもティナの感覚共有でカバーしてるから問題無し。
一方でボルカちゃんとウラノちゃん。こちらも分かりやすいね。
主に近接メインのボルカちゃんが攻め込み、多様の力を使える本魔法でサポート。
私とルーチェちゃんもそうだけど、どちらが主体で行動しても大丈夫な陣形にしてあるよ。
「向こうはどう攻めて来ると思いますの?」
「多分メリア先輩は単独行動してるかも。基本的に空を行くのもあって、本番の時もそうする事が多いからね。そして向こうの班構成は……自由に飛び回れるメリア先輩はともかく、一人で行動するのは危険と判断してるんじゃないかな。組み合わせ的には私達と似たようなやり方で来るかも」
「私と同意見ですわね。それを踏まえた上で、おそらく主体はディーネさん。そのサポートとしては土魔術で防御を担えるベルさんが行っているのではないかと思いますわ」
「うん。可能性は高いね。水魔術も空間魔術も、ディーネちゃん自身の魔力も凄まじいけど、実は防御はあまり得意じゃないからね。水は液体だし、空間を選択して防がなきゃいけない空間魔術も次々盤面が切り替わる戦闘では使いにくいから」
「ですわね」
私とルーチェちゃんの考えは大体一緒だった。今までの行動を考えるとそう思うのが妥当な線。
そして、既にステージ全体を私の領域とした今、向こうが起こす行動は。
「来る……!」
「ええ……!」
どこかで魔力が強まった気配をほんのりと感じ、直後に巨大な水球が周りの木々を薙ぎ倒しながら進んできた。
今回はまだティナを先行させてないけど、居場所はすぐに分かった。お互いにね。
「“フォレストガード”!」
水球に対して無数の植物で守りを固め、弾き飛ばす。
水が無くなり、辺りが水浸しになったところで数百メートル先に片手を突き出したディーネちゃんの姿を確認する。
「“空間掌握・弾”!」
「これは避けた方が良いかな……!」
空間その物が飛ばされ、触れたら弾かれるポイントが訪れる。
空間魔術の防ぎ方はまだよく分からないから模索中だけど、視線の先が狙いだからまだ比較的分かるかもね。
「現れましたわね。お相手が」
「うん。そうみたいだね」
「現れましたわ。お相手が」
「うん……そうだね……!」
数百メートルの距離でお互いを確認。魔力が込められ、植物と空間が衝突した。
私達二年生と一年生+メリア先輩のチーム戦。代表戦前の実践練習が開幕する。




