第二百十八幕 別荘での休日
──“夕食”。
クラーケン騒動から数時間後、色々あってこんな時間になり、私達は夕食を摂る事にした。
今夜のメニューは戦闘で切れたクラーケンの脚。本物を見てるからちょっと思うところはあるけど、料理にされちゃえば大した問題じゃない……かな?
「しかし、良いのか? 私まで頂いてしまって。面子を見るに、“魔専アステリア女学院”の合宿のようなものではないか」
「全然問題無いよー。レモンさん。私達は本当に遊びに来ただけでそんな大仰な事じゃないからさ。名目で言えば勉強合宿だけどねぇ~」
「フム、そうか。ではお言葉に甘え、頂くとしよう」
そして今回は折角だからとレモンさんもお呼びした。
ボルカちゃんとメリア先輩を助けてくれたし、クラーケンが帰る切っ掛けになったのも多分彼女のお陰だからね! それとちゃんと衣服は持ってきてたみたい。暑いとは言え、流石にずっと褌とサラシスタイルって訳にはいかないもんね。
そんな感じでルーチェちゃんの別荘にて食卓を囲む。大きな脚からなる料理の量はとてつもないね。
「美味しい~。見た目は不気味だけど、食感とかが癖になる感じ!」
「あまり食さぬのか。クラーケンではないが、タコやイカは我が日の下ではよく食されるぞ」
「そうなんだ~」
「噛み応えのある生き物だぜ……!」
「私専属のシェフなれば食べやすい料理に早変わりですわ!」
「そうね。美味しいわ」
「昼間のタコがこんな感じになっちゃうなんてね~。フフン、私を絡め取ったこの脚を今度は私が食べてやる!」
「魔力とか精力とか色々付きそうですねぇ~」
「海の怪物からなる料理。確かに力は付くかもしれない」
「ねー! ディーネが切り取ってくれたから分けれたんだもんねー!」
「私は先輩達が集めた束に空間魔術を放っただけだから何もしてないよ」
「いやいや、そんな事無いぞ。ディーネはもっと自分に自信を持つべきだ」
「そうですわ! 貴女は自分を低く見積もり過ぎですの!」
私とレモンさん。ボルカちゃんにルーチェちゃんにウラノちゃん。先輩方三人と後輩達四人。みんなで行う賑やかで楽しい食事の時間は過ぎていく。
──“大浴場”。
「此処が一個人が所有する湯殿か。銭湯が如き広さがあるな」
「フフン! 当然ですわ! 私の所持する別荘なのですもの! 自宅となるお屋敷は更に広いんですの! 機会があればレモンさんも是非!」
「考えておこう。代表戦後なれば多少は暇も出来ようものだからな」
「けど代表戦の後って取材とかが多いよなー。レモンはどんな風に対処してんだ?」
「特に何もせぬぞ。淡々と応えればササッと帰ってくれるからの」
「成る程なー。確かにレモンの態度ならあまり質問はされないかも。あ、勿論良い意味での態度なー。アタシなんか最初のインタビューである程度知られてるから向こうの望むキャラで行かなきゃならなくて大変だぜ」
「そうか。ボルカ殿も苦労しておられるのだな」
「だけどボルカちゃんって表裏無いからあまり変わらない気がするよー。インタビューにもいつも通りの態度で応えてるし!」
「そうか? アタシなりには割と真面目路線で行ってんだけどなー」
「うーん、確かに普段よりは少し落ち着いてるかも」
「少しかよー」
雑談をしながら脱衣場にて衣服を脱ぐ。
ボルカちゃんとメリア先輩の体を見ると昼間のクラーケンによる吸盤の痕が。傷って程深い物じゃないけど、中々消えないかもね。
「あー、痕が付いちまったなー。吸盤で乳首が増えたみたいになっちまったぜ。犬とか確かこんな感じだよな~」
「ボ、ボルカちゃん!? 何言ってるの!?」
「だって見てみろよ吸盤の穴とかその辺りが丁度胸の──」
「わー! わー! ストップストップ! 見せなくて良いから~!」
なんかこれ以上はダメな気がする……! 何故かは分からないけどなんか!
そんなボルカちゃんを止め、私達は改めてお風呂の方に向かう。この別荘では去年以来だね。
「そう言えばボルカちゃん。痕はヒドいけど痛くないの?」
「うーん、ちょっとヒリヒリするくらいだな。常に魔力でガードしてたのもあるけど、向こうも全身の骨をバキボキにしようって感じじゃなかったみたいだ」
「そうなんだ~」
クラーケン側は力を抜いていたみたい。多分戦う気もなく、本当にただ降り掛かる火の粉を払うみたいな感覚だったのかもね。
私達が防衛していたとは言えあくまで砂浜にしがみつくだけだったし、戦う気になったのはレモンさんが駆け付けてからだったのかも。
思えば私達は殆ど無傷だったし、神話になってるクラーケンに勝てるかも分からないもんね~。でもそのお陰でボルカちゃんもメリア先輩も無事だったからホントに良かった~。
「いや~。貴重な体験出来たぜ。多分この世界でも上澄みの怪物と戦ったんだ。代表戦への良い糧になる」
「うん。代表戦も頑張ろうね!」
体を洗ってお風呂に入り、ゆっくりと寛ぐ。ルーチェちゃんの別荘は日程的にも一泊二日。明日にはもう帰る事になるけど、今回はレモンさんも来てくれたし満喫しちゃおう!
「レモンさんは今日お泊まりになるんですわよね? お部屋なら沢山空いてますので!」
「ルーチェ殿が良いと申すならまたお言葉に甘えさせて貰うが、誠に宜しいのか?」
「勿論ですわ! お泊まりするお友達は多ければ多い程に楽しいですもの!」
「そう言って貰えると有り難い。元より泳ぎ帰るか近場で宿屋を探そうと思っていたからな」
「どちらも危険ですわ。海はともかく、この辺りの治安は良いですけど、日中にティーナさんとディーネさんがナンパされたらしいんですもの。並大抵の殿方より強き貴女であったとしても、齢を申せば中等部二年生の女性。色々と問題しかありません!」
「そうか。肝に命じておこう」
今日はレモンさんも一緒にお泊まりする事になった……けど、元々はそのまま帰るつもりだったとか。
なんと言うバイタリティ。でもそれは危険だとルーチェちゃんに指摘される。そりゃそうだよ。私達ってまだ大人じゃないんだから。大人でも女性の一人歩きは危険かも。
ルミエル先輩やイェラ先輩クラスなら一人で世界一周旅行しても大丈夫だと思うけどねー。
「……して、これは何をする為に寝間着姿で集まっているのだ?」
「勿論ガールズトーク! 女の子同士でしか話せない事ってあるよねー!」
「っても、アタシ達は女子校だから普段からしてるようなもんですけどね~」
「いつも話してるよねぇ」
「何人かは見当たらないが」
「ウラノさん、レヴィア先輩にリタル先輩は勉強。一年生の子達は彼女達で過ごしてますわ!」
お風呂上がり、冷たい飲み物を持ってきてルーチェちゃんの部屋で私、ボルカちゃん、ルーチェちゃんにメリア先輩。そしてレモンさんが集まった。
ガールズトークって題材だけど、特に変わった話しはしない。なぜならいつもしてるから。
そんな感じで夜の時間を過ごす。
「レモンさんの学校は男女の共学ですわよね? 気になる殿方とかおりますの!?」
「急にテンションが上がるな。……うーむ、特に思い当たる者は居ない。容姿が整っていると話題になっている者や強き者も居るが、私の琴線には触れぬな」
「レモンはガード高そうだもんな~」
「だよねー。私はもし付き合うなら箒関連の話で気が合う人が良いな~」
「メリア先輩らしいですね。アタシは今のところ居ません」
「私も特にはないかも……まだ男の子を見てそう言う感情にならないからね~」
「ティーナさんにボルカさん。分かりますわ。まだまだ私達の年齢ですものね。しかし、既に中等部の一年生で他校の方とお付き合いしてらっしゃる人も居るとか噂はありますわ」
「マジかよ。進んでんな~。もしかしてサラ達の誰かとか?」
「うーん、それはないんじゃないかな? そう言った話も聞かないし」
「だよなー。やっぱ一部だけかー。だって“魔専アステリア女学院”だし。他校の男子生徒が来るからって文化祭とかでは普段よりお淑やかな奴も増えるくらいだもんな」
「出会いがないもんねー。私も初等部から中等部三年生の現在まで数年間浮いた話が無いし、ルミエル先輩やイェラ先輩も彼氏とか出来ずに卒業しちゃったからねー。あの二人は高嶺の花過ぎて近付き難い感じだからかもしれないけど!」
「それは絶対にありますね。ガードが緩い訳じゃありませんけど、世界的に有名なあの先輩二人に告白する度胸から試されますもん」
「フッ、確かにそうよの。あのお二方に近付ける者だけで何人に絞られるか」
「私にも浮いた話が欲しいですわ」
そんな感じでガールズトークは進んでいく。結局私達から浮いた話しは出ず、特に欲しいとも思わないからナアナアで進んでいく。
ルーチェちゃんは違うみたいだけど、ルーチェちゃん自身も一般的に見たら高嶺の花だもんね。やっぱり近付き難い雰囲気は漂っているのかも。
何はともあれ、そこから普通の雑談になったり読んでる本の話になったりオススメの商品とかお菓子の話になったりダイバース関連となったり、二転三転と転がり続けて数時間。頃合いとなり、私達は自室で就寝するのだった。
*****
──“翌日”。
「──それでは、私は此れにて御免蒙る」
「うん、じゃあね。レモンさん」
「折角ですので今日行く予定の私のお屋敷にも来てくださればよろしかったのに……」
「すまぬな。ベル殿。一応鍛練の途中。十分に休めたので再開とするのだ」
次の日、まずはレモンさんとの別れから。とは言っても数週間後には同じ人間の国の代表として行動する事になるから本当に短い別れだね。
レモンさんを見送り、私達の前には絨毯が現れた。
「それでは皆様。先輩方。私のお屋敷へ案内致しますわ。絨毯にお乗りくださいまし!」
「お邪魔しまーす!」
「その言葉はまだ早いんじゃないかな?」
この絨毯はベルちゃんの、ノーム家所有の物。内部は広く、魔力の膜が貼られて外から中の様子は見えないようになっていた。
内装はソファーにテーブルにカウンター。飲食物保管用の魔道具等々。ちょっとした部屋並みのスペースがあるね。私達全員が乗ってもまだまだ余裕がある。
流石だね~。私の家では馬車を使ってるから絨毯移動は新鮮かも。遠出する時に大衆向けの絨毯に乗ったくらいじゃないかな。
「それでは、お次は長期休暇最後の休日。私のお屋敷ですわ!」
「長期休暇なのに最後の休日ってのも変な話だなー」
「でも実際そうだもんね~。今後は午前中で部活動が終わりだったり、たまに休みがあるくらいかな」
長期休暇なのに休日が少ないと言う矛盾はさておき、その少ない日を目一杯楽しむ為に次の場所へ移動。
魔力によって絨毯が浮き、私達はベルちゃんのお家に向かうのだった。




