第二百十五幕 夏祭り
──“次の日”。
その日は朝から勉強をしていた。
朝食を摂ってからすぐに取り掛かる。理由は昨日話した通り今日の午後までに終わらせ、後は遊ぼうって魂胆。
流石のボルカちゃんとサラちゃんであり、既にほぼほぼ終わっているよ。
私達も勉強を進めている。でも朝から暑いね~。風は入ってくるけど、若干温かい風であまり意味がないかも。
自然に囲まれたこの場所でこの暑さと考えれば街の方はもっと暑いかもね。
「っし、これで課題は終わり~。後はテキトーに自習してサラを待つか~」
「流石の速さ……! けど、ウチも負けてないからね~!」
二時間程で残りの課題を終わらせたボルカちゃんに触発され、サラちゃんの速度も上がっていく。
順調に進んでいってるね~。サラちゃんももうすぐ終わりそうだし、お昼も近付いてきているから丁度良い頃合いだね。
「終わった~! ウチの勝利~!」
「誰と戦ってんだー? ま、お疲れさん!」
そしてサラちゃんの課題も終了。お昼前に終わり、昼食の時間までのんびりと過ごす。
「っしゃー! 昼まで宴だー!」
「イエーイ!」
のんびり……と。
サラちゃんとボルカちゃんはちょっとしたお祭り騒ぎ。でもまあ楽しそうだから良っか。
「お昼前だからあまり食べないようにね~」
「「おう!」」
「なんだか貴女こそが保護者みたいよ。ティーナさん」
「アハハ……」
お昼ご飯の前だからお菓子とかはあまりなく、取り敢えず飲み物を含む二人。この時期の水分補給は大事だもんね~。ちゃんと理に適ってる。
そして少し経て昼食に。昨日みたいに賑やかな時間が過ぎ、摂り終えて午後の落ち着いた時間が過ぎていく。
「此処の商品オススメだぜ。合う合わないはあるかもしんないけど、普通の奴より艶が良くなるんだ」
「へえ~。私も使ってみようかな~」
「私も最近髪の巻き具合に違和感ありますものね」
「そ、そうか? それと二人ならもっと良い奴も買えると思うけどなー。あくまでアタシは庶民の知恵でオススメって感じだ」
「先輩のオススメならウチも使ってみますよー!」
ボルカちゃんと私とルーチェちゃんにサラちゃんは私の自室で談笑。ボルカちゃんはすぐにお菓子を食べてる。この暑さでも食用旺盛なのは良い事だね~。
「落ち着きますねぇ~……すぴー……」
「ええ、そうですね」
「たまにはのんびり過ごすのも良いですね」
「気持ちいい~……ZZZ……」
リタル先輩、ウラノちゃん、リゼちゃんにメリア先輩は影になっていて風通しの良い所で本を読んだりお昼寝したりしてのんびりと。
「レヴィア先輩はダイバースでの心掛けとかありますか? あのルミエルさんとチームを組んだ事のある実績。参考にしたいです」
「基本的にはルミエル先輩やイェラ先輩が殆ど終わらせてくれたからそんなにないけど……そうだな。強いて言うなら──」
「成る程……参考になりますわ」
「うん……!」
レヴィア先輩、ディーネちゃんとベルちゃんの三人はダイバースについての話し合い。
確かにルミエル先輩達と一番長くチームを組んでいたレヴィア先輩の意見は参考になるかもしれないね。特にルミエル先輩と直接会った事の無い一年生達はね~。
各々で自由な時間を過ごし、勉強の疲れをゆっくりと癒す事が出来た。
気付けば夕方。そろそろ帰る時間になりそうな頃合い、街の方で何かが光、直後にドーン! と言う大きな音が聞こえてきた。
「これって……」
「そう言や、今日は夏祭りの日だな。課題に夢中で忘れてた」
「あ、そう言えばそんなチラシを見たかも。そっか。今日だったんだ」
今日は縁日。つまりお祭り。
この季節だからチラホラそう言った所が出てくる頃合いだね。
そしてそんな日になると、ボルカちゃん達が動かない訳が無かった。
「そうと決まれば、祭りに行こうぜティーナ!」
「そうと決まればって……何も決めてな……わあ!?」
「あ……ティーナ先輩……!」
手を引かれ、話す間もなくボルカちゃんに連れられる。そんな私をディーネちゃんが追い掛けてくれた。
その後ろからはメリア先輩やサラちゃんのような賑やか代表って感じの二人が続く。
「祭りと決まれば行かない訳にはいかないっしょ!」
「お祭りは私の独壇場だよー!」
駆け出し、加速するサラちゃん。そして箒で一気に置き去りにするメリア先輩。
その後ろからウラノちゃん達も歩いてきていた。
「全く、子供みたいにはしゃいでいるわね」
「ウラノさん! 中等部はまだまだ子供ですわよ! まだまだ楽しまなきゃ損ですわ!」
「しかしですね。誇り高き“魔専アステリア女学院”の生徒としてあるべき姿は……」
「もう! リゼさんは堅苦し過ぎですわ。私はルーチェ先輩の意見に賛成ですもの」
ウラノちゃんとリゼちゃん。ルーチェちゃんとベルちゃん。見事に二つに分かれてるね~。
その後からレヴィア先輩とリタル先輩がのんびりと歩いてく。
「元気が有り余っていて良いですねぇ~。何よりです~」
「君は一体いくつなんだ? 私よりも落ち着いているように見えるぞ」
そこは流石の高等部。スゴく落ち着いている。だけどボルカちゃんやメリア先輩、サラちゃんが高等部になっても落ち着く事は無さそうだよねぇ~。そこが良いところなんだけど。
そんな光景を後目に、私達はお祭りの会場にやって来た。
──“お祭り場”。
「到着ー! 祭りだァーッ!」
「スゴく全速力で来ちゃったよ……」
元気なボルカちゃんと少し疲れた私。家から街まで結構遠いからその距離を全速力は部活動で鍛えているとしても疲れるよ……。
既に街は賑わいを見せており、人々の楽しそうな声や音楽。様々な音が鼓膜を揺らし、色鮮やかな屋台や浮かぶ風船で目から見ても賑わいを感じられる空間にあった。
他国の人達も結構居るね。今の時間帯的にヴァンパイア族とかも過ごしやすいから来てくれてるんだ。
「早速屋台飯食おうぜー!」
「あ、そう言えば夕飯まだだったね……考えてみれば今の時間なのに夕食の準備はされてなかったかも……」
「流石、優秀な使用人さん達だ。アタシ達が出掛けるのは想定内だったみたいだな!」
お屋敷に昔から仕えている人達だけど、本当に流石だね。趣向を完全に理解しているや……。
そんな気遣いもあり、丁度お腹も空き始めた頃合い。早速近くの屋台に入る。周りの賑やかな声に紛れて他のみんなの声も聞こえるから、一緒に来たメンバーとそのまま行動する事になりそうだね。
「おっちゃん! これ二つ!」
「はい毎度ー! お、アンタら“魔専アステリア女学院”のボルカ・フレムとティーナ・ロスト・ルミナスじゃねえか! 代表戦おめっとさん! サービスしてやる!」
「マジスか! あざーす!」
「相変わらずスゴい馴染み易さ……」
初対面のおじさんとすぐ意気投合し、おまけに数本貰って屋台を出る。
購入したのは鶏肉を焼いて串に刺した物。よくこれと一緒にお酒を飲んでる人達を見るよね。単品でも美味しいよ!
「っし! 次は甘味だ!」
「わ! もう食べ終わったの!?」
串の根本近くまでかぶり付き、一気に全部のお肉を食べるボルカちゃん。
真っ直ぐじゃなくて横向きで食べてるけど、タレとか頬に付いちゃうよね……。あまり気にしないみたい。
「もうボルカちゃんったら。汚れちゃってるよ」
「お、流石ティーナ。用意周到だ」
持ってきていた布を渡してボルカちゃんは顔を拭く。使い捨てタイプだからちゃんとゴミ箱へ。
そして目を付けていた甘味を手に取る。
「わたあめは定番だよな~!」
「フワフワで甘くて美味しいね~」
「言っちまえば引き伸ばした砂糖の塊なんだけど、なんでこんなに美味いんだろうなー」
「お祭りの雰囲気もあるからじゃないかな」
「そうかもしれないぜ」
何度か言ったと思うけど、私達の住んでいる国は“日の下”の近く。なのでそこの文化も色々と入ってきている。
この国特有の物だったりヒノモト特有の物だったりとお祭りの種類はその時で様々だけど、今回の祭りの装いはヒノモト寄りであり、食べ物以外の屋台も沢山置いてあった。
「これくださーい!」
「はいよ!」
「あ、可愛い!」
「だろう? ヒノモトはキャラクター文化は此処でもフル活用されてるからな!」
キャラのお面を頭に乗せ、わたあめ片手にお祭りの道を行く。
ボルカちゃんの姿形や赤い髪の毛がアクセントになり、とても絵になるね。
私達は更にお祭りを満喫する。
──“魔導射的”。
「そら!」
「おお! 流石のボルカ・フレム。百発百中だ! 持ってけドロボー!」
魔力を込めた弾丸を撃ち込み、景品を落としてゲット。ボルカちゃんのコントロールはプロ並みだよ!
──“コンサート”。
「あ。あの人知ってるかも」
「へえ。よく呼べたなぁ」
見て回ってる中、有名アーティストがコンサートを開いていた。
胸に響くような歌唱力が会場に響き渡る。このお祭りには力を入れてるんだね~。賑わいにも負けない力強い歌声だった。
──“パレード”。
「お、どんどん来るぞー!」
「楽しいねー!」
ヒノモトの文化もあるとは言え、この国の文化ももちろん残してある。軽快な音楽と共に箒や絨毯に乗せられた大きなお人形とかが通り、乗ってる人はペイントとかそう言った物を撒き散らしていた。
私はあまり汚したくないから離れて見てるけどね~。
──“小高い丘”。
「ふう……少し休憩~」
「いや~、やっぱり祭りは楽しいな~」
「うん。そうだね♪ ボルカちゃん!」
二時間程満喫した後、賑わいを見せる会場から少し離れた私とボルカちゃんは近くの静かな丘で休憩していた。
ここからでも祭りの光は見えるし音も聞こえる。空には箒や絨毯で飛び回る人々。メリア先輩も居るかもね。
そんな感じでのんびりと過ごす。
「ほら、ティーナ。まだ食えるか?」
「うん。デザートは別腹だからね!」
ボルカちゃんが果実からなるお菓子を渡し、私は一口齧る。噛んだ瞬間に果汁が広がり、甘くて美味しい味わいが覆う。
美味しい物を食べてお祭りを遠目から眺めているだけって言うのも悪くない。
「課題も終わったし、後は代表戦までこの季節を満喫するだけだ。付き合って貰うぞ、ティーナ!」
「ふふ、遊び疲れちゃうよ。でも、望むところ!」
「その意気だ!」
長期休暇だけど、休みの実質的な期間は一週間も無いくらい。代表戦があるからね。それについても不満はない。私はやれる事をやるだけ。ちゃんと視野には入れてるんだから!
……けど、折角の楽しい一時はそれに集中したい。なのでそれは一旦置いておこうかな。
軽く歓談し、ボルカちゃんは空を見上げた。
「そろそろ始まるぞ。この祭りのメインだ」
「そうだね。ちゃんと目に焼き付けておこうね♪」
その会話が終わった瞬間、ドーン! と大きな花火が打ち上がった。
色鮮やかに空中へ花を描き、舞い散るように落ちていく。
一つが終わると次の花が咲き乱れ、花吹雪のように火の粉が散っていく。
とても綺麗で大きな花火。けれど何処か切なさを感じ、その光景に息を飲む。時を止めたかのような錯覚に陥らせる時間の花は満点の星が覆う闇夜に咲き誇る。
「来年もその次も。少なくとも高等部卒業までは一緒に来ようぜ。ティーナ!」
「うん。ボルカちゃん。大学に入ったり仕事に就いたり、必ずいつかは離れちゃうけど……それでもたまには集まろうね」
「ああ。約束だ」
咲いては散り、散っては開く鮮やかな焔の花は暫く続く。
私とボルカちゃんはその花を視界に収め、今日と言う日が降ろす幕を静かな小高い壇上でゆっくりと眺めるのだった。




