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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部二年生
210/457

第二百九幕 二年目の決勝戦・佳境

 途中でボルカちゃんと出会い、駆け付けるや否やウラノちゃんが転移しちゃった。

 来るのが少しだけ遅くなったけど、私とボルカちゃんが一人ずつ倒しているから相手の数は着実に減っている。

 レモンさんを倒せれば一気に戦況は有利になるよね。

 加えてレモンさんは私達よりも間隔の短い連戦。体力的な余裕は私達の方が上かも……!


「参る!」

「そのまま参ってくれ!」

「断る!」


 踏み込み駆け出し眼前へ。

 ボルカちゃんは見切って炎剣で受け止め、その間に植物魔法の波を横から撃ち込む。

 レモンさんは植物の波を跳躍してかわし、植物から植物へと駆け移る。

 やっぱり単純な範囲技は効かないね。もっと的確な隙を突かなきゃならなそうで、その役割を担うのがボルカちゃん。


「よっと!」

「フム……」


 炎剣振り下ろし、木刀で防ぐ。長時間押し合っていると木刀の方が燃えちゃうのでレモンさんは引き離し、間合いへ入って突きを放った。

 その突きは植物魔法でガード。私は主にサポートを中心として行う。倒せそうな場面があれば容赦なく大樹を打ち込んだりするけど、基本的にはそう言った事を行うつもり。


「しかと役割分担をしているようだ。だが、それが私の敗れる理由にはならないぞ!」

「役割分担だけで勝てると思う程アンタを舐めてねえぜ、レモン! その上で更に細かく動いて上回るのさ!」

「そうでなくては面白くない!」


 レモンさんも私達の行動から狙いを理解したみたい。流石に頭が回るね。

 だけど、分かったところでやる事は変わらない。まさにボルカちゃんの言う通り。調整しながら細かく動く。そしてレモンさんを上回らなくちゃ勝てない。


「そんな訳で、正々堂々1vs2だ!」

「構わぬ!」


 炎剣をもちいて斬り伏せ、木刀でいなされてがら空きの胴体に蹴りが。しかし蹴ったのは植物。私のサポートに抜かりなし。

 周りへ更に植物を張り巡らせ、ボルカちゃんはそれを足場に駆け抜ける。

 空中にも木々や枝は張り巡らせるよ。なんならボルカちゃんの着地点を読んでステージの全てを彼女の足場にするつもり!


「よっと!」

「ふっ!」


 上から降下突きをし、飛び退いてかわす。そんな彼女の体を植物で縛り上げるよう試みるけど、直ぐ様木刀で振り払われた。

 その影からボルカちゃんが差し迫り、炎剣を振り下ろす。紙一重でかわされるも植物で追撃。縦、横、斜めとあらゆる方向から質量でけしかけ、バックステップを踏むように全てが避けられた。


「“夜薙樹”!」

「柳のように垂れる木々か。ちと大きいな」


 無数の枝を上から落とし、隙間無く埋め尽くす。しかしそれすらをも完璧に回避し、一部を木刀で振り払って仕掛けていたボルカちゃんとの距離を詰めた。


「囮も陽動も防御も攻撃も、全てを行えるとは主の仲間であるティーナ殿は凄まじいな」

「へへ、そうだろ。アタシの親友だ。そしてアタシも割とやる方だぜ!」

「去年手合わせをしているからな。心得ている」


 打ち合い、弾き、突き、弾き、斬り伏せ、弾き、せめぎ合う。

 今のところボルカちゃんは攻め続けているけど、レモンさんは防御の一辺倒。何度かは攻撃してるけど、明らかに頻度は低いよね。

 何かを狙っているのかもしれないし、ボルカちゃんのサポート。サポート!


「“上昇樹林”!」

「足元から鋭利な木々が。これは難儀な」

「そう言いながら全部躱かわしてんな!」


 足場を全て埋め尽くす植物。それすら当たらない。

 これこそがレモンさんの真髄かもね。力も速さもそうだけど、圧倒的な動体視力と先読みの力。回避性能にけている。

 どんな攻撃も魔法も当たらなければ意味がない。木刀で近距離戦闘がメインのレモンさんだからこそそれを理解しており、実行に移しているんだ。


「だったら……!」

「フム、足場が全て領域となったか」


 隙間無く足元全てを植物で覆い尽くす。

 これならどんなに速くても関係無い。避けた先も全部私達の領地だからね!


「それ!」

「からの植物による強襲。悪くないではないか」

「……!」


 足元の変化。全てを埋め尽くす植物の嵐。にも関わらずレモンさんは木刀で的確に打ち砕き、植物が生えるよりも速く移動していなしていく。

 しかもその間にボルカちゃんの相手もしながら……!


「化け物かよ!」

「化け物ではない。侍だ」

「サムライってのはどんな種族の総称だ!?」

「誇り高き武士道を胸に日々を精進する素晴らしき者達だ。……中には謀反を起こす不届き者も居るが、其奴はその時点で侍ではなくなる」

「そうかよ!」


 炎剣を薙ぎ、木刀で弾かれる。その勢いを利用して火炎で加速させた回し蹴りを放ち、木刀の側面で受け止められる。

 押されはしたのでレモンさんの体は背後に行くけど、むしえて跳ぶ事で威力を弱めたね。

 その距離をボルカちゃんは詰め寄ると同時に刺突を繰り出し、上下左右と背後から植物で仕掛ける。

 レモンさんは体に力を込め、回転して勢いを増加させた木刀で蹴散らした。


「確実な隙を突く!」

「これが狙いかよ……!」


 ボルカちゃんも植物も同時に吹き飛ばす事で防御のタイミングを消し去る。それにより、不可避の攻撃を実現させた。


「はっ!」

「……っ!」

「ボルカちゃん!」


 突きが打ち込まれ、ボルカちゃんの体は木々を粉砕しながら背後へ吹き飛ぶ。

 いくつかはそのままだったけど、途中から柔らかい植物に変えたからダメージは抑えられた筈。そんな私の眼前にもレモンさんが。


(速い……けど……!)

「……! そうだったな。此処等一帯は主のテリトリーだった」


 左右から挟み込むように植物で迎撃。

 薙ぎ払われ、余波で私も打たれたけど直撃よりはダメージも少ない。

 体勢を立て直し、ボルカちゃんが戻ってくるまでの間に時間を稼ぐ。


「“フォレストゴーレム”&“フォレストアニマル”!」

『『『…………』』』

『『『…………』』』


「有象無象の兵力で時間稼ぎか。まあ、この一体一体はそれなりの力を有しているがな」


 顕現させてレモンさんへけしかける。

 フォレストゴーレムの巨腕を打ち付け、足場の樹木が粉砕。左右からは樹を巧みに使った樹猫が飛び掛かる。


「確かに樹に囲まれたこの場では犬より猫の方が小回りが利くが、私には無意味ぞ」

「一瞬で……!」


 爪を立てた樹猫は木刀の薙ぎ払いと同時に粉微塵に粉砕される。掠りもしなかった。

 けどそれは当たり前かな。動体視力に感心したばかりだもん。大前提。

 ゴーレムの巨体が迫り、レモンさんは跳躍で回避。背面から斬り伏せて粉砕。

 他のゴーレムや動物達も流れるように破壊されていくけど、ボルカちゃんが戦線復帰するまで待つだけ!


「私自身も……! “樹腕”!」

「片手に樹を集め、巨大な拳を振り下ろすか」


 片手を樹で巨大化させ、レモンさんへ打ち込む。威力と引き換えに動きは鈍くなり、隙だらけになるのですぐに剥離。置いた巨腕から無数の木々を放ってけしかける。


「置き土産がそのまま攻撃へと転ずるか。器用な事をする」

「あくまで全体に繋がった植物を操ってるだけだから、ルミエル先輩みたいな事は出来ないけどね……!」


 木々や枝は粉砕。全てを木刀一本で破壊してる……。

 って、呆気に取られちゃダメダメ。私も戦えるからね!


「“日の下(ヒノモト)”リスペクトで……“千樹観音”!」

「ほう、観音様を御造りになったか」


 フォレストゴーレムの要領でブツゾー……的な物を生成。

 本物は千本無いらしいけど、造り上げたのはちゃんと千本あるよ! とは言え、やる事はそれをもちいた張り手くらい。


「“千樹張手”!」

「全てをいなすのも一苦労だな」

「全然そう見えない……!」


 口ではこう言ってるけど、余裕を持っていなしていく。

 けれどまだまだ仕掛け続ける! 打って打って打って打って打ちまくる! 連打! 連撃! 連発!

 ドドドドドドドド! と粉塵を巻き上げながら千本の樹が降り注ぎ、徐々にステージが低くなる。砂場で手を押し付けると手跡が付くもんね。それがちょっと大きくなった感じ。

 レモンさんの居場所が変わった形跡は無し。だったらとその千本を一纏めにして──


「“千重掌底”!」

「……!」


 ズドォン! と重い一撃を落とし、その場所に巨大なクレーターを造り出した。

 粉塵が起こり、土塊や瓦礫が舞い上がる。遅れて降り注ぎ、その全ては植物で受け止めた。直撃していたなら確実に意識は奪えたと思うけど、転移の光は見えないね。


「──はっ!」

「だよね……!」


 でも掠り傷……よりは大きなダメージを与えたかな。ウラノちゃんと戦った疲労も考えれば私達が有利になった。

 だって、


「まだまだァ!」

「戻ってきたか」


 ボルカちゃんも戻ってきたから。

 周りを再び植物で覆い尽くし、ボルカちゃんの炎が広がる。

 レモンさんは一呼吸だけして構え直し、炎剣へ対処。足場が沈み、上からはさっきの土塊。左右からの植物で押し潰す。身をひるがえしてそれを避け、植物を足場にその上でボルカちゃんと剣戟けんげきを繰り広げる。


「大分疲れてるみたいだな! 少し休んだらどうだレモン!」

「そうしたい気持ちもあるが、させてくれないだろう?」

「そうだな。別に万全でも勝てっけど、ビブリーが作ってくれたチャンスを無下にする訳にはいかないからな!」

「それが言い訳にならなければ良いな」

「するつもりはねぇぜ!」


 振り下ろし、受け止め、弾き、突き、剣尖同士の衝突。木刀と炎剣は逸れ、ボルカちゃんの顔とレモンさんの顔が息の掛かる距離まで接近する。

 成長途中の胸同士が当たり、ボルカちゃんはフッと笑った。


「ちゃんと口臭のケアはしてんだな」

「主もな。乙女の務めであろう」

「そりゃそうだ。振り向かせたい男は今のところ居ねえけど」

「奇遇だな。私もだ。いずれは私を貰ってくれる殿方が現れるだろうか」

「いつか出来るさ。多分な」


 内容は他愛ない雑談。

 互いに刀剣を横に薙ぎ、しゃがんでかわす。同時に蹴りを打ち付け片手で跳躍して立ち上がる。

 そこへ植物を差し向け、レモンさんは一定の距離を置く。そこへボルカちゃんは魔力を込めていた。


「ナイスアシスト。ティーナ! “ファイアボール”!」

「刀剣同士の立ち合いをもう少し楽しみたかったが、残念だ」

「あくまで牽制だ。もっとやろーぜ!」


 火球を見切ってかわし、炎で加速したボルカちゃんが眼前に迫る。

 炎剣を突き、紙一重で回避。背後の植物が燃え上がり、それをそのまま操って叩き付ける。

 レモンさんはそれも避け、植物を散らしながら距離を置いて呼吸を整えた。


「良いぞ。更に愉快となってきた。存分に楽しもうぞ!」

「なんかキャラ変わってねぇか?」

「レモンさんもテンション上がるんだね」


 木刀を振り、剣圧で植物を吹き飛ばす。

 こんなにハイテンションなレモンさんは見た事無いけど、多分疲労やダメージが蓄積してこんな風になってるんだと思う。

 だって私も勉強とか練習で疲れた時はあんな感じになるもん。つまり、かなり追い込めているという事。


「さあ、決着と行こうぞ!」

「そうだな。っても、まだまだ元気っぽいけどな」

「そうだね……!」


 木刀を振り抜いて駆け出し、炎剣を携えたボルカちゃんもダッシュ。植物でその後を追って一斉攻撃。

 私達とレモンさんの戦闘。“魔専アステリア女学院”vs“神妖百鬼天照学園”。決着はもうすぐ……!

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