第二百七幕 互角のゲーム
『“狐火”』
「先程の……!」
「威力は上がってるみたい!」
四つの火球が四つの尾から放たれ、私達を追尾する。
火球の数は尾の数に比例していたようですわね。獣形態となり、妖力が増して威力が上昇していますわ。
先程ですら防げなかったので躱し、追尾弾を誘導してヨーコさんへとぶつける。
『そんな小細工は通じない』
火球は尾で払われて消え去り、また私達へ狙いを定めた。
このままメリア先輩の箒に乗せられているのは悪いですわね。文字通りおんぶに抱っこですわ。
私自身でなんとかしなければ迷惑しか掛けていませんの!
「“光球連弾”!」
『またそれ。飽きないね』
空から無数の光球を投擲。派手な爆発で辺りが白く染まり、次の瞬間には尾で払われて火球が撃ち込まれた。
それに対し、私は光の壁を生成。わざわざ防ぐ必要はありませんわよね。故に、逸らせば良いのです!
「名付けまして、“軌変光壁”!」
『へえ……』
壁に当たった火球は逸れ、そのまま上方向へ。
火“球”ですものね。形は丸い為、壁の貼る向きによって当たらずに済むのですわ!
見事に火球を防いだ私はそのまま力を込め、光球を連射。今まで通り全て防がれてしまいましたが、メリア先輩が回り込む時間は稼げましてよ!
「“風球”!」
『横文字オンリーと思ってたけど、こう言う呪文も使えたんだ』
死角からはメリア先輩の風。正面からは私の光。作戦通り挟み撃ちで仕掛ける。
ヨーコさんは四つの尾を用いて、厳密に言えば二本ずつの尾で光と風を打ち払う。今のところ尾しか使っておりませんわね。その程度で十分と判断されているのか、それが一番効率的なのか。
何れにせよ押し切る事しか打開策はありませんわ!
『“妖弾”』
「単なる妖力の塊……!」
「それでこの威力って反則ー!」
火球ではなく妖力の塊が撃ち出された。
お城の瓦礫が更に掻き消え、私達は何とか堪える。
メリア先輩は巧みな箒捌きで。私は“軌変光壁”で。耐えられるなら勝算はあると言う事ですわ!
「“変則光球”!」
『複雑な光球ね』
そうなると何より厄介なのは攻守を両立させている四本の尾。故に私はまずあれを何とかしますの。
手から離れた魔力を操作する技。ルミエル先輩の見様見真似ですけど、練習は沢山しましたものね。執り行えます!
「あれってルミエル先輩の……ふふ、後輩が頑張ってるもんね。私も全力で行っくよー!」
『……!』
箒を加速させ、ヨーコさんの周りを高速移動。私の狙いが分かったようですわね。流石は“魔専アステリア女学院”で私達より一年長く活動していた先輩。今年で15なので箒が本格解禁されて益々磨きが掛かってますの。
光の球とメリア先輩。二つを追う四本の尾は複雑な軌道を描き、遂にチャンスが訪れましたわ!
『……! 絡まった……!』
「今ですの!」
「やるよー!」
絡み合う事で尻尾の動きが鈍くなり、範囲が狭まる。そこを突き、私とメリア先輩は力を込めた。
「呪文はシンプルに。“特大光球”!」
「“トルネードブロー”!」
『……!』
巨大な光球が下方へ落ち、光の爆発を引き起こす。そこへ正面に進む竜巻が放たれ、瓦礫ごとヨーコさんを飲み込んだ。
先程のお城倒壊と違って尻尾によるガードも間に合わず、確かに直撃した筈ですわ!
まだ転移の光は無いのでリタイアはしていませんが、大きなダメージにはなった筈。
『面倒……なんて面倒なの。さっさと倒そう!』
「……!」
「感情を露にしたねー」
四本の尾が荒ぶって解け、粉塵を消し去り妖力の球が複数放たれる。
先程までの美しい毛並みは汚れてボロボロに。間違いなく影響は与えられたようですけれど、当然お怒りになりますわよね。
『“大火妖輪”!』
「炎の輪……!」
「範囲は広大だ!」
爆炎の輪が一瞬で広がり、聖なるバリアを貼ってなんとかやり過ごす。
だけれど押し負け、体が焼かれてしまいましたわね。とても熱く、火傷も負ってしまいましたわ。
『まだまだ! “狐魂討罪”!』
「もはや呪文名だけでは何を仰有ってるのか分かりませんわ!」
「とにかくスゴい攻撃ではあるよね!」
妖力が周囲に散り、全方位から差し迫る。
単なる妖力操作ではなく、繊細な破壊の付与。既に光の爆発で瓦礫は消し飛んでいますけれど、地表その物を抉り取っておりますわ!
先程の攻撃、かなりのダメージを与えた代わりに怒らせてしまったようですわね。……好都合ですわ!
「メリア先輩! 頭に血が上っている今こそ一気に畳み掛けましょう!」
「そうだね! 私達ならやれる!」
冷静さを欠いては隙が生まれる。隙もない強敵相手ならこれは大きなチャンス。
精密だった尻尾の動きは乱雑になり、ある意味隙は無いですけど狙いも雑になっているので比較的楽に接近出来ましたわ!
「食らいなさい!」
『……! この距離まで……!』
近距離で光を込めて相手の懐に撃ち込む。
直で破裂し、光の爆発に飲み込まれましたわ。
妖力の守護は纏っているようですけれど、連続で仕掛けている今、既にそれは薄くなっておりますわね。
ルミエル先輩じゃ無いんですもの。削れば消耗するに決まっていますわ!
「ほらほら! 更に仕掛けるよ! 後輩ちゃん!」
『あまり舐めないで……!』
光の爆発の中をメリア先輩は突き抜け、暴風でヨーコさんの体を巻き上げる。
彼女は尾を伸ばして届く範囲の物に縛り付けますけど、それがまた大きな隙になりますの。
「“光球地雷”!」
『……!』
周りに留まる光球を設置し、気付くと同時に爆裂。更におまけでもう一発撃ち込み、連鎖するような光の爆発が広がりましたわ!
『煩わしい……!』
「頑丈ですわね……!」
妖力の守りはほぼ手薄。しかしながら持ち前の力で耐えておりますわね。妖怪は耐久力の高い方々が多く、ヨーコさんもその性質をある程度受け継いでいると考えて良さそうですの。
そこへメリア先輩が突撃。
「“ウィンドスピア”!」
『……ッ!』
確かな一撃が突き刺さり、大きく怯みを見せる。
尾が払われ、火球が放たれ、妖力の爆発が発生。私達を引き離したい気持ちは分かりますが、実は私、前衛よりかは後衛やサポートにも向いておりますの。
光の壁でいなし、聖なるバリアで更に防御。自分で行ったそれを見、ハッとする。
……そうですわね。私、今まで積極的に仕掛けていましたけれど、聖魔法も光魔法もどちらかと言えば防御や回復と言った役割を担う事の方が多いんですわ。
そして他人に回復などの付与が出来るのなら……。
「……メリア先輩! 今のまま仕掛け続けてもよろしいですけど、このままでは勝てたとしても消耗の方が大きくなりますの! なので! 次はもう最大級の魔法を放ってください!」
「……え? うん! 分かった!」
『……勝てたとしても……? 私、舐められてる。ムカつく……!』
今の言葉が更なる挑発となり、妖力が大きく増しましたわ。
相手も最大級の攻撃をしてくるかもしれませんわね。そうであっても、打ち勝てるかもしれませんわ!
メリア先輩とヨーコさんはお互いにお互いの力を込めた。少し経て、その力は解放される。
「“ストームブラスト”!」
『“天狐”!』
放たれた暴風と轟炎……いえ、流星。
上から落ちる風に上昇する流星。二つの力は空中にて衝突し合い、大きな衝撃波を散らす。
既に数百メートル範囲は更地ですけれど、更なる範囲が衝撃波で消し飛びますの。
今のところメリア先輩が押し負けており、既に眼前へ。此処からが私、聖魔法と光魔法の真髄。見せ場ですわ!
「“聖天譲与”!」
「……! 魔力の質が……!」
『上がった……!?』
天から授ける聖なる魔力。
それによってメリア先輩の魔力は向上し、眼前まで迫っていた流星を押し返しましたわ!
ヨーコさんは信じられないような表情で見やり、妖力を更に倍増させて威力を高める。
まだ余力を残していましたの……しかし、
「力は強くとも精神面は未熟ですわ。新入生らしいですけれどね」
『たった一年の差で何を……!』
「ふふん。ダイバースでの一年差は凄まじいものですわよ。貴女が参加しなかった練習試合。あれさえも貴重な経験でしたのに……惜しい事をしましたわね」
『……っ』
「なまじ才能があるが為にサボってしまう部分がある。私も才能がありますのでその気持ちは分かりますが、そうであってもその一回の差が今という現実に繋がってしまいますの」
『偉そうな事を……! 私はまだ負けてない……!』
「先輩としてのワンポイントアドバイスですわ。実体験に基づいた事柄ですの」
『……!』
拮抗しているのはメリア先輩の魔法ですので、あまり上から物は言えませんわね。
とは言え、私も私情で練習に参加出来ない事がチラホラありましたもの。それにより、“魔専アステリア女学院”中等部二年生の選手では……認めたくありませんが最弱。この方も才能があります故、二の足は踏んで欲しくないのですわ。
『まだ……終わって……!』
「終わりですわ。“特大光球”!」
『……! 味方にバフを掛けた上で……更に……!』
「メリア先輩への魔法は魔力の譲与に近しいもの。回復魔法などと同じですわ。ある程度時間が経てば私はフリーですのよ」
暴風と流星が衝突する横に光球を撃ち込む。
流石のヨーコさんもこれには耐え切れず沈み行く。然れどこの破壊力。私達もタダでは済みませんわね。
念を込めて更なるバリアを貼り、三つの力による衝撃波に巻き込まれた。
─
──
───
「だ、大丈夫ですの……? メリア先輩……」
「私は大丈ー夫……はぁ……ルーチェちゃんは?」
「かなり疲れましたが、なんとか大丈夫ですわ」
お互いにボロボロとなり、光の転移を確認。まだ意識がありましたの。末恐ろしい方でしたわね。
しかし、今回の勝負は貰い受けました事よ。
「やりましたわね。メリア先輩」
「だねぇ……でもヘトヘト~」
「うっ……そう言えば私も……流石に魔力を使い過ぎましたわ。回復しましょう」
「お互いの治癒魔法だね~……」
とは言え私達もボロボロ。早く治療せねば、また別の相手が来た場合に対処出来ませんもの。
私とメリア先輩は聖魔法。風魔法による治癒を──
「──漁夫の利みたいで恐縮だけど、これで君達も終わりだね」
「「………!?」」
その瞬間、何処からともなく誰かが現れ、木刀にて私達の意識を奪い去る。
い、一体……。
「何者……ですの……」
「覚えられてないか。去年も参加していたんだけどな。まあ、僕にとってはそれが好都合。ただ淡々と、ぬらりくらりと相手を打ち仕留めるだけだよ」
男性なのか女性なのか、それすらも掴み所の無い、本人も仰有るぬらりくらりとした性格。
去年も参加していたならば私達は見ている筈。試合で会わずとも映像で。
なのに存在が認識出来ない……かなりの強者ですわ……!
「……っ。“光……球……”……!」
「意識を失う直前までこの気概……流石は此処まで勝ち残った強豪校、“魔専アステリア女学院”だ。……でも、今年も僕達“神妖百鬼天照学園”が貰うよ」
光球を放ち、ぬらりと躱され背後が爆発。
それを最後に私の意識が途切れ、目の前が暗転する。
その一瞬前、その方は呟いた。
「僕達が三人。相手が二人……そろそろ“魔専アステリア女学院”のもう一人も落ちるかな。試合は互角だ」
「──」
それは気になっていた残り人数。彼か彼女か、この方が示す二人は私達。“神妖百鬼天照学園”のメンバーは先程のヨーコさんを含めて三人落としていたようですの。
戦況は有利でしたが、そろそろもう一人が落ちるという発言……。……それが誰かは分かりませんが……皆さん……頑張って……くださいまし……。
それを機に意識が完全に消え去り、私とメリア先輩は控え室へと転移するのでした。




