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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部二年生
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第二百五幕 思わぬ強敵

『クワッパッパッパァーッ! ボルカ・フレム! この僕が君の相手をしてやろう!』

「どんな笑い方だよそれ……」


 既に至る所で戦いが始まっているだろうステージの散策途中、アタシは妙な奴と当たった。

 全身がタイツでも着ているんじゃないかと思う程の黄緑色であり、頭には水の貯まった謎の物を乗せている。顔にもなんかクチバシみたいなのがあるな。

 人型って以外は完全に人間から掛け離れた見た目だけど、まあ何かしらのハーフなんだろうな。

 そしてコイツ、こんなふざけた姿をしているけど……。


『“妖術・水塵崩波弾”!』

「……っ」


 なんつー馬鹿げた威力の技を使ってきやがる。“日の下(ヒノモト)”特有の技、妖術だっけか。

 口から吐いた水弾で山の一角が吹き飛んだ。あんなの当たったら即KOだ。

 あそこの山は元々結構デカかったけど、あの低さなら初等部の遠足にピッタリサイズの山になったな。

 軽いジャブみたいな攻撃であの威力。凄まじい魔力……じゃなくて妖力だ。


『上手くかわしたみたいだね。そうでなくちゃ面白くない。さあ、ドンドン仕掛けて行くよ! “水刃操斬”!』

「次は水の刃か……!」


 遠隔操作が可能になっている水の刃。樹でも岩でもスパッと斬れる。

 多分鉄。なんならダイヤモンドすら斬っちまうかもな。

 でも避けられない速度じゃなく、よく見ればかわせる。とは言え掠るだけで手痛い。水飛沫が散って視認している所より効果範囲は広く、結構距離を取らなきゃいけなくなるぜ。


「でもこれくらいの水量なら……“ファイアウォール”!」


 水の刃へ火炎をぶつけて蒸発させる。

 切れ味は抜群だけど、薄いからな。圧倒的熱量で押し切れば消し去る事も可能。

 消したところで相手は体勢を低くし、次の行動へと移ろうとしていた。

 なんだか妙な体勢だな。


『“発斬酔はっきよい”』

「……!」


 力むだけで地面が割れ、土塊が巻き上がる。

 妖力だけじゃなくて当然のように身体能力も高めか。迎撃するか、避けるか。

 相手の出方をうかがい、次の瞬間に全身に力を込めて突き出した。


鋸弾のこった!』

「……っ。余波だけで……!」


 単純な直進。しかし、それによって周りの空気が裂け、アタシの衣服に頬や肌まで切り裂かれた。

 あの力や妖力を目の当たりにしたから回避を選んだけど、正解だったみたいだ。

 片手に炎を込め加速して直撃は避け、距離も数十メートルは空けた。その上でこの状態だもんな。マジで危なかった。

 けど、民衆にアタシのサービスショットをお披露目しちまったぜ。衣服の下にある肌が少し露出した程度だけど、アタシの希少価値はかなりの物だと自負してるからなー。

 とまあ冗談はさておき、マジで一撃一撃が必殺レベル。攻撃には一撃も当たる訳にはいかねえぜ。


「“フレイム・アクセル”……!」


 んなもんで、火炎にて加速。相手はアタシ一人ではあるけど狙いを絞らせない。

 ユピテルやエメがしていた加速による翻弄。あの二人には到底及ばないけど、やれる範囲でやってやるぜ!


『へえ。速いじゃん』

(しっかり目で追ってんな~。こりゃ予想以上。でも少し視線が遅れてる事からして完全に追い付いている訳じゃない。人は見た目に寄らないって言うけど、この見た目で最強格ってアリかよ……)


 巧みに炎を扱い、更に更に加速して翻弄。

 とは言えども、ある程度鍛えているにしてもアタシはティーナほど魔力量がある訳じゃない。あくまで平均より少し高いくらいだ。

 だから潤沢な魔力を使える訳でもなく、加速も炎を小出しにして調整しているだけ。このままじゃ魔力の無駄だし、仕掛けるしかないな。

 頻繁に攻めてた相手がずっと様子を窺っているのも不気味。見た目も不気味だけど、そういう意味じゃない。

 何はともあれ、やるか。


「“ファイアネット”!」

『移動しながら炎の網を……でも、これじゃ僕の水は消せないよ。“妖術・水源生成”!』


 罠に嵌めようと炎の網を張ったが、水妖術によって簡単に消されてしまった。

 でも問題無い。狙い通りだ。まだまだ仕掛けるのみ。


「“飛翔炎拳”!」

『炎の拳を飛ばして? でも何処を狙っているのやら。下手な鉄砲も数打ちゃ当たる理論かな』


 拳の形にした炎魔術を至るところに放出。ま、数打ちゃ当たるってのはあながち間違ってない。

 相手の水は高水準。だから此処を少しでもアタシ寄りのフィールドにするのが目的だしな。

 放たれた炎の拳は木々や岩を熔解させ、グツグツと煮えたぎる。


『これくらいなら、僕の水で簡単に消せるよ!』


 両手に水を貯め、力を込める。

 アタシは好機と踏んで更に加速し、滑り込むように相手の懐へと入り込んだ。


「貰い! “ファイアショット”!」

『熱っ! 大技を使う一瞬を狙って……!?』

「どんな力も、大技の時はそこそこ溜める必要があるからな!」


 懐で速い炎の弾丸を複数撃ち付ける。

 熱い物を触った程度の反応だけど、地味な嫌がらせにはなるだろ。

 その間に確実な隙を突き、一気にトドメを刺す。


『“水鉄砲”!』

「文字通りか!」


 相手も速い水弾を射出。でも既にアタシは片手から出した炎で加速してその場から離れてんぜ。

 攻撃魔術を放ったのは片手だけ。加速に使ったもう片方の手はフリーだ。だから一撃だけ与えてヒット&アウェイの戦法でダメージを蓄積させる。

 本来は一気に終わらせたいたちだけど、コイツ相手には念を入れなきゃな。


「“フレイムレイン”!」

『火の雨を降らせたところで、関係無いよね! “噴水”!』


 降り注ぐ火炎に向け、手から水を放出して迎撃。

 火と水がぶつかり合って水蒸気を出し、それに紛れて一気に下方へ降り立つ。同時に加速し、炎剣を生成して振り抜いた。


『視界が悪くても、僕には見えるんだ!』

「気配くらいは簡単に読めるか……!」


 炎剣に対して水を片手に集め、水の盾で防御。ジュウと蒸発する音が響き、もう片方の手がアタシの懐へ。


『“水飴”!』

「……っ危な……!」


 水の弾丸か何かが放たれ、アタシは紙一重でかわす。そこへ回し蹴りが差し迫っていた。


『“円月水面蹴り”!』

「……ッ!」


 なんつー脚力。見た目はスゴく痩せ細ってんのに、ミシミシと骨が軋む音が直に伝わる。

 一応言っとくけど、当然魔力で全身は強化してんだかんな。


『飛んでけー!』

「……!」


 力負けし、アタシの体は木々を粉砕しながら遠方へ吹き飛ぶ。

 これじゃ折角アタシ向けのフィールドにした意味がない。すぐにでも態勢を立て直して仕掛けなきゃな。


「……!」


 そう思った瞬間、無数の水弾が撃ち込まれた。

 大きな水妖術ではなく、分散させて避け切れなくする作戦か。全身が撃ち抜かれて出血。我ながら大丈夫かこれ? 試合を見ている小さなお子様には刺激が強いぜ。

 でもまだアタシに意識はある。細かい水妖術なら大きな炎で掻き消せる。


「“フレイムバーン”!」


 轟炎を放ち、正面の木々ごと水弾を蒸発。相手に準備をさせない為、即座に魔力を込めて炎で加速。

 多少のダメージは仕方無い。こうなりゃ一点突破だ。

 もう調整の必要も無い。出せる限りの炎を噴出し、第二宇宙速度くらいには到達したかもしれない。ーかこれがアタシの最高限界点。


「“超速爆炎掌底”!」

『流石に目で追えないけど……正面から来そうな気配。“妖術・水神龍皇裂破”!』


 アタシ達の言葉がお互いに届いたのは衝突の後。気配でアタシの存在を掴まれていたのかよ。

 お互いの腕に込められた炎と水は大きく衝突を起こし、森林や近隣の山々を粉砕する。河川の増加と減少が繰り返され、アタシは更に力を込めた。


「“狂炎犠衝波”ァ!!」

『自分ごと……!? 技名通り、本当にイカれてるね……!』


 アドリブで行った初めての技。

 魔法使いや魔術師は全身に魔力が流れてるからな。それを全て炎に変換。相手を一気に焼き尽くす!

 アタシの体も燃えるけど、自分の魔力だけあって相手よりは耐えられる。心配なのは衣服くらいだ。アタシの性質上、熱耐性高めなのを着てるけど、裸を大衆の面前に晒されたら流石に恥ずいな。

 そんな事を思いながら、お互いの体が轟炎に包まれた。


──

───


「……はぁ……なんとか……アタシの服は完全に焼失しなかった。アンタの水妖術のお陰か」

『クワッパッパッ……ぜぇ……なんとか……耐えたよ……』


 膝を着き、話すのもやっとなアタシ。立ち上がり、余力の残してある相手。

 こりゃ参った。とんでもない強さだ。妖術に腕力に耐久力。流石は全世界屈指の名門校。去年レギュラーじゃないのがおかしいくらいの実力者を抱えていやがる。

 早くもアタシの脱落か。大分弱らせたからティーナ達ならなんとかするっしょ。


『これで……終わ──』

「──……! ……?」


 すると、攻撃が来なかった。

 さて、なんだろうか。もう万策尽きて何もしていないけど。

 相手はフラつき、前のめりに倒れた。その間際に放たれた言葉。


『あ……頭の皿が……乾……いちゃった……』

「……え?」


 そう言えば頭の物に貯まってた水が蒸発してる。まあアタシの魔術とか、そもそも周りにメチャクチャ火が散ってるもんな。ちょっとした山火事より凄惨な状況になってる。

 そりゃあんな浅い物の上に貯まってる水なんか蒸発しちまうよ。

 次の瞬間、アタシの相手は光の粒子となって転移した。


「……あれ……? か……勝った……のか?」


 頭の物……皿って言ってたっけ。それが乾いたら気絶って……。最強格の実力に対して不便な体だな……。

 けど、それが功を奏したようだ。大技の水妖術を使われてたらこの環境にならずアタシは負けてたけど、ダメージ蓄積を狙った大技待ちのスタイルが好影響を及ぼしたらしい。

 あれによって相手は大技を使うに使えなくなってたしな。


「……はぁ……疲れた……」


 熱魔術で体を癒す。ルーチェ辺りと合流してもっと丁寧に回復させたいな。アタシのやれる回復術は精々応急処置が関の山だ。

 何はともあれ、アタシと奇妙な生物の戦闘。それはアタシの勝ちで幕を降ろすのだった。

 っても、ゆっくり休んでも居られない。街の方で植物が大量に見えたし、少し先では明らかに人為的な天候が広がってる。雷と風。暴風雨って感じだ。

 少しだけ休憩し、アタシは次の相手を探しに進むのだった。

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