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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部二年生
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第百九十九幕 高速戦闘

「“雷槍”!」

「“フレイムスピア”!」


 雷の槍と炎の槍が衝突し、更なる魔力を迸らせる。

 二人の体が弾かれたところで植物をけしかけ、ユピテルさんは跳躍して回避。再び加速し、軌跡を描きながら突き抜ける。

 即座にボルカちゃんも後を追い、幾度目となるせめぎ合い。二人の移動によって渦巻く炎と霆が森を焼き払う。

 もちいてる武器は炎剣と雷剣。けど今みたいな槍も使い、目にも止まらぬ攻防が繰り広げられた。


「“フレイム──”」

「“雷鳴──”」


「「“──バーン(衝波)”!」」


 炎と電気がぶつかり、膨大なエネルギーが発生して飲み込まれる。違う雷だけど、これが都市大会では転移の魔道具に不具合を誘発させちゃったんだっけ。

 私もしっかりとサポートをしなきゃ!


「“樹海進行”!」

「森その物が動き出したか」

「この森は全部ティーナの仲間だぜ!」


 大量の木々が押し寄せ、雷で焼き払われる。

 燃え盛る隙間をボルカちゃんが突き抜け、眼前に炎剣を放った。

 ユピテルさんは紙一重でかわし、頬に掠って発火。即座に火を消し、電撃を散らして距離を置く。

 その間に更なる植物を打ち付けるけど、雷で切り裂かれて突破される。


「順序を間違えたかもな。なんだかんだ盤面が包まれる現状の方が厄介だ」

「間違えたんじゃなくてアタシ達でそうなるように誘導したんだよ。アタシが積極的に仕掛けてたろ?」

「……考えてみたらそうだったな。戦闘意欲が先行し、君達の思う壺だったか」


 ボルカちゃんが派手に動く事で意識を向ける。だからこそ私が自由に行動出来ていた。

 でも気付かれちゃったかな。既に狙いを私の方に移そうとしていたし、遅かれ早かれだね。

 そしてそれを簡単に遂行させないのがボルカちゃん。


「とは言え、ボルカ・フレムに妨害されながら大量の植物の中からティーナ・ロスト・ルミナスを探るのは至難の技。我の動きを大きく変化させる必要は無いか」


「それはアタシとしても有り難いな。アンタに集中出来る!」


 雷と炎がぶつかり合い、今一度大きく燃え上がった。

 植物がうねり、無数の樹がユピテルさんに迫る。次の瞬間には煤になり、周りが灰色に染まった。その色を赤と白が即座に埋め尽くす。

 基本的には同じ事の繰り返し。一向に決着が付く気配は無い。

 さっきも言ったように足止めが目的ではあるけど、こうも膠着状態が続くと気が滅入る。しかもただの拮抗じゃなくて必■(ひっし)に食らい付く形だもんね。集中力の維持とか本当に大変……!


「私ももっと上手くすれば……!」

「……。植物の動きが変わったな」


 さっきから行っているのは質量によるゴリ押し。テクニックの一つも無い。

 ユピテルさんを捉えるのが大変だからそれはより鮮明に分かり、自分でも違うなぁとは思う。

 他の試合を見てそう言った部分も鍛えなきゃならないって思ったばかりなのに不甲斐ない。だからもっと、やれるところまでやってみる!


「“変幻植物”!」

「何かしらの変化があるのか?」


 植物の構造を思い出し、魔力操作によってより緻密な品種改良を行う。普通に育てる分には改悪だけど、この試合に置いてはプラスに働くかもしれないから改良。

 形や細部を魔力で操り、少しずつ改造してユピテルさんへ仕掛けて行く。


「一目見ただけじゃ分からぬが、襲い来る全てを焼き払えば問題無かろう」


 一応の警戒はしているみたいだけど、自分に降り掛かる分の植物は焼き払っている。

 ちゃんと想定通りの動き。何か仕掛けられてる可能性を踏まえれば闇雲に払う訳にはいかない。だからと言って対処しなければ襲い続ける。

 丁度中間の塩梅で自分に悪影響の及ぼす物だけを壊そうって魂胆。正しい判断だね。

 そしてボルカちゃんも仕掛けつつ、それをいなしながらユピテルさんは私の方へと迫っていた。

 戦闘スタイルに大きな変化はさせずとも、少しの変化分で私の方を狙っている感じかな。スゴい精密な動き。


「……!」


 バチッ! と小さな破裂音が聞こえた。

 こういう事だよね。即座にその場から移動し、直後にバリバリと雷撃がほとばしる。

 一瞬でも判断が遅れていたらやられていた。予備動作があるのは良いかもね。厳密に言えば音じゃなくて感覚なんだけど。

 電流は音より遥かに速い。静電気とかでも音が聞こえた瞬間には既に痛みが走ってるもんね。

 だからバチッという音ではなく、全身にゾワッと来た瞬間に動いたよ。お陰でやられずに済み、ユピテルさんの動きをより正確に掴む方法を見つけた。


(ユピテルさんが動くと静電気でちょっとピリピリする。それが自分に影響を及ぼした時、その時が来る合図……!)


 雷を操るだけあり、前兆は直に来るので分かりやすい。髪の毛が逆立ったりするのがそれ。

 当然それはユピテルさん自身も把握しているので対策はしているし、そもそも本来は反応も出来ないくらいの速度だもんね。今はなんだか集中力が高まっているからやれるだけで、普通は前兆があっても無理。コンマ1秒以下のタイミングで来るんだもん。

 何はともあれ、絶賛成長進行中の今の私は大丈夫。上手く雷のユピテルさんをいなし、策を遂行する。


(動きが鋭くなったな。我の速度に目が慣れたか)


 バチッと音を鳴らし、縦横無尽に飛び交う。

 それは更に更に速度を上げ、気付いた時には私の眼前に居た。


「さっきより……速……!」

「“疾雷”」


 大丈夫と思っていたけど、甘かった。ユピテルさんはその更に先に居る。

 より洗練された速さで通り抜け、全身が感電。何が起こったのか分からず、一気に意識が遠退いた。

 これが本来の雷速……あ、ダメかも……。


「“ヒーリングフレイム”!」

「……!」


 すると、暖かい炎に包まれ、体の痺れが取れる感覚になった。

 熱によって行う回復魔術。だけどこの距離じゃユピテルさんにも効果が及んじゃうのに治してくれた。


「ボルカちゃん……」

「あんましユピテルは削れてないし、誤差の範囲だ。ティーナが無事で良かった」

「ありがとう……」


「フッ、美しい友情だな。しかし、お陰で更に体が軽くなった。一撃が致命傷となるいかづち。その真髄を君達に見せてやろう!」


 ユピテルさんの周り……のみならず、広範囲に立ち込める雷雲。

 ステージ全体が黒く染まり、一つ一つ稲光が地に落ちる。その数は徐々に増して行き、更なる雷光瞬かせ雷鳴響き、一筋の降雷で山河を粉砕するレベルの天雷が轟いた。


「“激雷”!」


 一瞬のうちに数十は軽く越える雷が落ち、地形を大きく粉砕。その中にユピテルさんも紛れ込む。

 無数の雷に光の軌跡。どれが本物でどれがユピテルさんかは検討が付かない。

 でも大丈夫。炎が燃え広がれば燃え広がる程、私達に有利な環境が──


「何かを目論んでいるのはお見通しだ! ティーナ・ロスト・ルミナス!」


 言葉が聞こえた瞬間に既に体には電流が走っていた。

 でも大丈夫。土魔法成分を少し多めに、金属に近い物質を織り混じえた植物を生やして流動させたから。本物の鉄魔法とかに比べると歪で似ても似つかないくらいなんだけどね。雷を少し逸らせるのに使えるかな程度。

 だけどそれもあって耐えた。ボルカちゃんへ言葉を発する。


「……っ。それも知ってるよ! ボルカちゃん! 更に燃やしちゃって! もうメラメラに! ただし、自分の周りだけ!!」

「よく分かんねぇけど、何か案があるんだな? 任せとけ! もっともっと燃やしてやるぜ!」


 更に魔力を込め、ボルカちゃんの周辺を大きく燃やす。

 それによって植物魔法もどんどん成長し、ユピテルさんを囲んでいく。

 いくつかは壊されちゃうけど、半数以上残っているならまだ作戦は遂行出来る! より多くの魔力を込め、消し去られた分の植物を生やした。


「炎に植物。一体何を……いや、思考の時間の方が勿体無いな。ティーナ・ロスト・ルミナス。君を倒す!」


「……っ。それは最適解……! でも、もう問題無い!」


 雷速で差し迫り、雷剣をもちいて私の体を貫く。

 この速度ではボルカちゃんの援護は間に合わなかったけど、ユピテルさんが側に来てくれたのは嬉しい!


「“樹海包囲網”!」

「我の周りを? しかし、この程度なればすぐに焼き払──……!?」


 気付いたみたい。自分を襲う異変に……!

 ユピテルさんの動きが鈍くなり、ほとばしる稲光が次第に弱まり地面に落ちる。

 膝を着き、呼吸は乱れ、流れてきた血を拭って目を見開いた。


「まさか……高めたのか……“酸素濃度”を……!」

「ふふ……ご名……答……」


 感電した私もユピテルさんの近くに落ちる。

 そう、高めたのは酸素濃度。植物を改良し、より濃い酸素を放出するような種類とした。

 えへへ……これは相討ちって言ったところかな……。


「解釈の拡大に伴い……酸素を増やす性質を更に高めた……常に高速で動く我はその運動量から君達よりも早く取り込んでしまう……と言ったところか……」


「そう……だね……」


「しかし……ならば何故我と等速までとは行かずとも、加速していたボルカ・フレムが──……!」


 そこまで言い、ユピテルさんはハッとする。

 話すのも大変な状況なのによく口が回るなぁ……私なんてもう意識も飛び飛び。なんとか相槌を打つだけで関の山なのに……。スゴいやユピテルさん。

 そんな私に代わり、彼女は説明してくれた。


「自分の周りの炎を……! 炎は酸素を燃料に燃え広がる……初等部の下級生でも分かるこの方法に……まさか我が気付かぬとは……!」


 ボルカちゃんには、火を更に炎上させるよう指示を出した。

 何をするかを言う余裕は無かったけど、私を信じてそうしてくれたらボルカちゃん周りの酸素はむしろ一定を保っている。

 結果、私が感電。ユピテルさんが酸素中毒。それによってダウンとなった。


「フッ……してやられた……なれば、我の仲間達が謎を解き明かし、試合に勝てるのを祈るしかないか」


「それは……私も……同じ……」


 互いに意識を失い、光の粒子となって転移。

 起きる頃には決着が付いている筈。その結果がどうであろうと、受け入れなくてはならない。

 何はともあれ、私達による謎解きとは無関係の勝負は耐え切ったボルカちゃんの勝利となるのだった。

 後は頼んだよ。ウラノちゃん達。ボルカちゃん……!

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