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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部二年生
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第百九十八幕 炎と雷と植物

 ──“四回戦・謎解きゲーム”。


【かつて世界には国を統べる四人の王が居た。王に準ずる階級の者達が居た。誠の王を探し出し、従者と共に王座に就け】


 これが今回の謎となる文章。

 英雄達の時代の世界情勢がモチーフになっている問題だね。

 キーポイントは王と準ずる階級の者達……多分従者。それを見つけてステージにある王座とやらに持っていけば良いのかな。

 今までの謎解きルール通り、一目見ただけじゃ完全には把握できない。

 今回が決闘とかじゃなくて良かったかもね。ユピテルさん達よりも早くゴールすれば“魔専アステリア女学院”が勝つ事が出来るもん。


「それじゃ、早速謎を解いて行きましょうか。まず四人の王とはあるけど、王座に就かせる王の人数指定は無いわね」

「あ、確かに。そしたら王位に就けるのは一人だけなのかな?」

「いや、普通に全員の可能性もあるぜ。人数指定が無いって事は、数が自由な訳だからな」

「そうなると誰一人として就かない可能性もありますね……。“従者と共に王座に就け”とは、あくまで“従者と共に”であって、“王と従者と共に”……ではありませんから」

「私達が王様になるという事ですの? その可能性もなきにしもあらずですけれど」


 今回のメンバーは私とボルカちゃん、ウラノちゃんにルーチェちゃん。そしてディーネちゃん。

 みんなも“魔専アステリア女学院”に居る以上頭は良いんだけど、学年のトップ4である私達。そして頭脳もることながら、勘も鋭いディーネちゃんが選ばれた。

 一年分のノウハウが私達よりあるメリア先輩も入れたかったけど、五人制限だから仕方無いね。

 取り敢えず今は出た意見をまとめて今回の謎を──


「──さあ! 始めようぞ! “魔専アステリア女学院”!」

「ユピテルさん……!」

「む? 雷が逸れた……既に避雷針的な物は何処かに用意していたか」


 謎を解こうとした瞬間、ユピテルさんが雷鳴と共に姿を現して仕掛けてきた。

 今回は戦闘を避けられると思ったけれど、そう上手くはいかないよね。

 雷は既に対策済み。まあこの近辺だけなんだけど。ユピテルさんがやって来た場合の対処法も考えてある。


「それじゃ、作戦通り!」

「分かったわ。謎の方は任せて頂戴」


「ほう?」


 ウラノちゃんと数言だけ交わし、足元に忍ばせていた龍に乗ってウラノちゃん、ルーチェちゃん、ディーネちゃんがこの場を去る。

 三人が行った瞬間に植物を張り巡らせ、ユピテルさんと私達をドーム状の植物に閉じ込めた。


「成る程な。“魔専アステリア女学院”の最高戦力であるティーナ・ロスト・ルミナスとボルカ・フレム。君達だけを残してゲームクリアを目指す魂胆か」


「そんなところかな。このドーム自体は簡単に壊されちゃうと思うけど、私達を相手にしながら進んだウラノちゃん達を追うのは難しいよね!」


「そうだな。確かにそうだ。……だが、去年は全員でほぼ互角。二人だけで我に敵うのか?」


「敵うのは大前提だろ。それに、仮に勝負が着かなくてもビブリー達が謎を解いてアタシ達の勝利は確定だぜ!」


「あくまでも決着が付かない場合での事柄……つまり敗北するとは微塵も思っていないのだな」


「そういう事!」

「もち!」


 ウラノちゃんならきっと謎は解き明かす。私達はそれのサポートを兼ねて、向こうの最高戦力であるユピテルさんを足止めするのが目的。

 倒せればそれが良いけど、一筋縄じゃいかない相手。油断せず取り組む。代表決定戦になってから油断した事は一度も無いけどね!


「面白い! それでこそやり甲斐がある! 始めるぞ!」

「一瞬で……」

「アタシらの中に土魔法得意な人は居なくてビブリーの本から取り出した簡易的な避雷針だったけど、ユピテル相手にゃあまり意味を成さなかったか。最初の一撃を防げただけでMVPレベルの成果だけどな」


 雷撃を放出し、植物のドームと避雷針を消し飛ばす。

 遠方にまだ小さくウラノちゃん達の姿は見えるけど、あの距離なら私達がユピテルさんを見失わなければ追い付かれる心配は無い。

 私達の戦いが始まった。


「まずは小手調べだ」

「だよね!」


 バチッ……と一瞬だけ火花が散り、一気に広がり辺りが雷に包み込まれる。

 電流は周りを覆い、植物達を炎上させた。

 私とボルカちゃんは電気を通しにくい植物を遮蔽に移動し、ユピテルさんの左右から攻め立てる。


「流石だ。大半は終わる一撃を容易くかわすとは!」

「小手調べでそんな攻撃を放てるユピテルさんの方こそ流石だよ!」

「だが、アタシ達はその上を行くぜ!」


 バリバリと迸り、ボルカちゃんの炎剣を回避。植物で囲むように押し潰し、雷鳴と共に移動して避けた。


「雷速くらいは出てんのか? ユピテルさんよォ!」

「出そうと思えば出せるが、まだ完全には制御出来んのでな。目には止まらぬがある程度落としている」

「そうか。ならまだやりようはある」


 凄まじい速度ではあるけど、雷速には到達していないとの事。

 本人曰くそれも可能だけど制御が難しいとか。エメちゃんもそんな感じで大分速度を落として、その上で体を慣らしてようやく攻撃に転じていたもんね。

 速過ぎるのも結構大変なんだね~。


「“炎上壁”!」

「……! 全方位を炎で……」

「それだけじゃないよ! 炎の威力はより高く、熱く、燃え盛る!」

「成る程な。我の動きを抑制するか……!」


 燃えやすい植物で網を張り、更に発火させてユピテルさんの移動範囲を狭めた。

 ダメージ覚悟で突破するのも良いけど、壁の範囲はそれなりに広大。意識を失うまでいかなくともかなりの効果を期待出来る。


「だが、その程度で止まる我ではないぞ!」

「でも少し動きが小さくなってるよね!」


 範囲は狭まった。それでもあのスピードを捉え切るのは至難の技。それは承知の上でより包囲網を広げる。

 この速度で狭い空間。動きにくいよね。炎だけじゃなくて植物も覆っているから闇雲なら引っ掛かると思う。


「フッ。狭めたとて、周りを破壊すれば関係無かろう!」

「それはそう……!」


 放電し、植物を焼き払う。

 実は有効なやり方。既に周りは炎で覆われてるけど、植物が無くなればこれ以上燃え広がる事も無くなる。破壊するだけで意味を成さなくなっちゃうね。

 けれどダメージは蓄積している筈。ここからが本格スタート!


「んじゃ、ティーナはサポート頼むぜ!」

「うん!」

「やはり近接戦はボルカ・フレムが担うか」


 ボルカちゃんが炎で加速し、ユピテルさんの後を追う。二人の動きはもはや私には認識出来ない領域まで来てるけど、張り巡らせた植物達の動きから観測。破壊された場所へ意識を向け、そこから更に先の動きを予測して行動。

 なんとか感覚で動かしてるけど、脳がスゴく疲れてるのが分かる。


(フム……的確だな。ティーナ・ロスト・ルミナス。我の動きが視認出来ていないにも関わらず予測と推測による勘だけで上手くサポートをしている。だがその集中力、長くは持たなかろう)


(ティーナへの負担が大きくなっちまってるな。大量の魔力消費に魔力操作。亜雷速に追い付くだけの予測。見た目以上に疲弊している)


 炎と稲妻が軌跡を描き、囲う植物の中に幾何学的な模様が浮かび上がる。

 見る分には綺麗だけど、数百から数千度の熱に数億ボルト、数十万アンペアの電流がほとばしってるって考えたら見た目に反してとても危険。魔力で防御してなきゃすぐにやられちゃう威力。

 その中で戦闘を続行している二人がスゴいんだけどね。


「ボルカ・フレムよ。主の戦い方、参考にさせて貰ったぞ!」

「んあ? 攻撃してから話てんじゃねーよ!」

「返答が随分と遅いな」

「うわっ。アタシの声が今聞こえてきた!」


 二人の会話が遅れながら行われて炎剣。そして参考にしたと言う雷からなる雷剣がせめぎ合う。

 斬られた瞬間に内部から発火して焼き尽くす剣と斬られた瞬間に内部に電流が走る剣。一撃でも受けたら致命的な威力を誇る二人の二つ。

 模様は更に更に緻密に描かれ、炎と雷が弾けたところで二人は距離を置いた。


「この速度では追い付かれてしまうか。炎と言うのも侮れんな」

「当たり前ぇよ。宇宙へ飛び立つ時にも炎は使われてるからな。今のアタシにはまだ無理だけど、理論上は第二宇宙速度くらいなら出せるんだよ!」

「肉体が釣り合ってないだろう。生身ではそれに耐えうる体ではない。我の場合は体内に流れる魔力ごと一部を雷その物に変えているから耐えられるが、主には無理だろう」

「魔導師はその体に流れる半分以上が魔力なんだ。同じような事はアタシにも出来る。それに、単純に肉体を魔力強化すれば負荷くらいは耐えられる体になんだろ」


 魔導師には多くの魔力が流れている。それは血液とかと同じ、あくまでも身体能力の一種。

 だから無理すれば体にガタが来るけど、それまではある程度自由に動ける……らしいよ。最近保健体育の授業でやったんだ~。

 世の中には“無効化”の能力を持つ人も居るらしいけど、だからと言って魔導師が触れられたら消え去る訳じゃない。それ系はあくまで放たれた魔力に作用する中和剤みたいなもので……まあ説明は難しいけど根本的に違うとか。

 ボルカちゃんとユピテルさんはそれを応用して体の一部を火や雷に変えて負荷を抑えているとの事。エメちゃんもそうしていたね。

 もしかしたら私も文字通りの植物人間になれるのかもしれないけど、今はアドリブにチャレンジする余裕は無い。あくまでボルカちゃんのサポート優先!


「“樹木掌底”!」

「休む暇を与えぬな」

「ハッ、ナイス。ティーナ!」


 纏めた植物を上から叩き込み、ユピテルさんの体を押し潰す。

 飛び退くようにかわされちゃったけど隙は生まれた。私とボルカちゃんの近くに果実と薬草を生み出し、僅かでも体力を回復させる。


「植物魔法によって生まれた“実”による回復術か。便利であり、我からしたら厄介なものだな」


 そう告げ、自身の周りにバチバチと電流を迸らせる。それはユピテルさんが生み出した物じゃなく、空気中に点在する物であり、そのまま魔力のような元素に変換させて体内へ吸収。これも回復術の一種みたいだね。所謂いわゆる充電かな。

 お互いに疲労はそれなり。多少は補充したけど、まだ疲れてる感覚がある。

 改めて向き合い、雷と炎が周りを飲み込み、植物で覆い尽くす。


「気配はまだ読み切れてないようだが、外的要因による自己回復は使えるようだ。長期戦も出来そうだな」


「ハハ、そりゃ勘弁。足止めが目的だから我が儘は言っちゃダメなんだけど、体力や傷を回復出来ても精神的にも削られるからなー」

「うん。なるべく長期戦は避けたいかも。ウラノちゃん達を信じ切ってるけど、一応今回のルールは“謎解きゲーム”だからね」


「そう言えばそうであったな。我も仲間達を信じているが、仮に主らを倒したとしてまだ解いてなかったら我が謎を解かなくてはならないな」


 今回のルール。“謎解きゲーム”。全然そんな風じゃないし今現在の私達にとっては二の次にならざるを得ないけど、主体はそれ。

 足止め目的とは言え、倒せたら上々。予想以上に精神面や集中力がり減ってるし、決着が付かなくても良いとは言ってられない状況になってきたかも。

 なるべく早くユピテルさんを倒し、体を休めたい願望が全面に出てきちゃう。


「先に謎を解かれては意味がないからな。決着くらいは付けておきたいところだ」

「それについては賛成かな……!」

「ビブリー達が解くまで辛抱するつもりだったけど、マジで洒落にならないくらい疲れてっからな……!」


 展開した雷と炎&植物が正面衝突を起こす。それによって辺りの地形や気候は変わり果て、天空の雲も蒸発して消え去った。

 中等部の二年生でこのレベル。控え目に言って異常。盤面を覆うだけの植物魔法じゃ力不足かも……。そ、そんな事無い……よね?

 何はともあれ、私達とユピテルさん達の勝負。名目上は“魔専アステリア女学院”vs“ゼウサロス学院”なんだけど、本筋そっちのけで文字通り白熱していた。

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