第百九十七幕 二年目の代表決定戦・波乱の幕開け
「やったな。ティーナ!」
「うん。ボルカちゃん!」
一回戦が終わり、私達は一息吐く。
第一試合だったから他の試合もまだ残っているとして、参考になる事は多いからしっかり見学しよーっと。
屋台で食べ物や飲み物を購入し、魔力の回復に勤しみつつ試合を観戦する。
「今の試合スゴかったね~」
「魔法自体は向こうの方が格上だったけど、まさか地形をあんな風に利用して生かすとはな~」
私達の戦い方は、言ってしまえば圧倒的な魔力に物を言わせての力押しが主体となってしまっている。
それが一番効率的なのはそうなんだけど、やっぱりそれじゃ味気無い部分もある。
なので他のチームを見、平均並みの魔力でどう行動しているのかを確かめるのはスゴく勉強になった。
「あ、次はユピテルさんだよ!」
「お。やっぱ知った顔が居ると観戦もより楽しめるぜ」
そして知り合いや友人の試合も行われる。
一回戦の第一試合はいくつかのチームが併用して行うもんね~。既に試合が終わっている身だとより集中して知り合いの試合を見れるのは特権だね!
「ハハ、やっぱり一回戦は圧倒的だな~」
「本当にね~」
試合観戦。ユピテルさんの雷がステージ全体を包み込み、出会い頭に相手を倒していく。
このチームによる戦闘。ルール的にもユピテルさんがかなり有利だよね~。
気配を掴んでその場に移動。電撃で意識を奪い去る。それだけで勝てちゃう。
勿論ユピテルさんの実力は大前提だけど、改めてとんでもない強敵。
代表戦まで行けば頼もしい味方に早変わりなんだけど、戦うかもしれないとなると大変。
それから数分後、最後の一人を感電させて気絶。ユピテルさん達“ゼウサロス学院”が勝利を収めた。
「圧勝だったね~」
「だな~。相変わらずスゲェ強さ」
終始圧倒していたユピテルさん達“ゼウサロス学院”の試合。
流石の実力。私達もあんな風に圧倒出来る試合をしてみたいかも。
都市大会までなら序盤の方は割と圧勝するけど、代表決定戦まで来るとヒーヒー言いながらやっと勝てる試合が大半。
向こうも都市大会を突破している強豪や名門だから当たり前なんだけど、その上であんな風に戦えるユピテルさん達はスゴいや。
「お、次はレモン達が出るぜ」
「この試合も楽しみ~」
お次はレモンさん達“神妖百鬼天照学園”。一つの試合に付き数チームだからテンポが早いね。
私達はこのまま観戦を続ける。
「うーむ、気配を探る早さが段違いだ。ユピテルより遥かに早いぞ」
「本当にそうだね。転移した瞬間に相手の位置を見定めて迅速に進んでいるや」
レモンさんのスゴさは、剣術もそうなんだけれど相手の探知速度が半端じゃない。
ステージへの転移と同時に相手の位置を把握して樹や建物を物ともせず駆け抜けていく。
魔力を使っていないとは思えない程の身体能力を用いて数秒で到達。木刀を抜き、相手へ急襲する。
「さあ、私が参ったぞ! いざ尋常に勝負!」
「なにっ!?」
「ルーナ=アマラール・麗衛門……!」
そして本人の性格上、不意討ちしたらより確実なのにも関わらず名乗ってから挑む武士道精神。
その上で確実に打ち倒し、瞬く間に意識を刈り取って行く。
まさに辻斬り。的確に急所を突いて切り捨てる。一つの勝負が終われば迅速に次へ行き、また同じように倒す。
私達、よく去年はあれに耐えたね……。去年より成長しているとは言え、我ながらスゴいや。
「この試合も圧倒だったな~」
「みんな流石だよね~」
試合の行方は予想通り“神妖百鬼天照学園”の圧勝で終わった。
何度も言うけど相手も都市大会を勝ち抜いた強豪。それがこんなにあっさりやられるなんて、戦う可能性があったら怖いなぁ。
そしてユピテルさん、レモンさんはプレイヤー用観客席の方へ戻ってきた。
「やっぱりスゴいね。二人とも。簡単に一回戦を突破しちゃった」
「フッ、当然よ。我こそがルミエル・セイブ・アステリアを越える者だからな」
「高みを目指すのは良い事だ。何事もチャレンジ精神は必要だからな。斯く言うティーナ殿らも一回戦を無事突破したではないか」
「アハハ……私はまだまだだよ。余裕でクリア~って感じでもなかったからね」
「いやいや。傍から見れば君達も割と余裕のある勝利に見えたぞ」
お互いに一回戦の突破を称え合う。
そんなに余裕は無かったけど、そう思われたのはちょっと嬉しい。認められてる感じがするから。
だけど相手チームは本当に強かったし、その人達からしたら不本意だよね。
何はともあれ一回戦を終え、続いて二回戦へ。次も強敵なのは変わらないけど勝ち進みたいところ。
二回戦が始まった。
──“二回戦”。
「そちらに向かったぜ。ティーナ」
「うん。ボルカちゃん!」
二回戦は“魔導シューティング”。
予め武器を渡され、それに魔力を込めて撃ち合うもの。
魔力を使えない人用の専用武器もあり、先に相手を減らした方が勝ちのルール。
一回戦のチーム戦に近い部分もあるけど、武器が指定されているのが差違点。倒し方はそれだけに限るので魔導とかとは違うプレイヤースキルが要求される。
ティナを通じて場所などの情報伝達を行える私達が少し有利かな。
『メリア先輩。上から奇襲お願いします』
「任せて~」
今回の参加者は私とボルカちゃんにメリア先輩。リゼちゃんにサラちゃん。
メンバーを見ての通り炎や風の使い手が中心。速攻で仕掛けて決めるのが目的だね。
「貰った!」
「なっ……! メリア・ブリーズ!」
「私達の居場所が……何処かにティーナ・ロスト・ルミナスの人形が居るのか……!」
倒す方法が指定武器と言うだけで、移動や探知に自分達の魔導を使うのはOK。
メリア先輩は箒に乗って空から仕掛け、魔弾を乱射。相手は物陰に隠れ、ボルカちゃんが更なる奇襲を仕掛けた。
「よっと」
「ナイフ……!」
「銃の付属品か……!」
「こっちの方が慣れてるんで!」
銃をブラフに使い、隙を突いてナイフで仕掛ける。
相手の二人は反応する間もなく打ち倒され、光の粒子となって転移した。
私達の方も決着は付きそう。
「そこだ!」
「待て! それは……!」
「……!」
相手が植物魔法からなるデコイに狙撃。魔力を込める分の隙が生まれる。
リゼちゃんとサラちゃんは風と炎で相手の目眩まし。植物に銃を持たせ、全方位から撃ち込んだ。
「……!」
それによって二人もリタイア。
これは気絶じゃなくて一定数当たったらリタイアのルールだから、威力はそんなに必要無いの。
残るは一人だけど、その顛末はティナが見届けていた。
「そら!」
「……!」
もう一人の方にも向かったボルカちゃんが銃を撃ち、相手の武器を弾き飛ばす。
そのまま流れるようにナイフを振るってダメージを与え、予備の武器を取り出す間に切り返して逸らす。
最後にもう片方の手に持っていた銃を撃ち込み、ゲーム終了となる。
《勝者、“魔専アステリア女学院”ンンン━━━ッ!!!》
「「「わあああああぁぁぁぁぁッッッ!!!!」」」
これで二回戦も突破。単純な魔法や魔術による撃ち合いじゃないこのゲーム、新鮮なルールで面白かった~。
他の所でも決着が付き、レモンさんとユピテルさんも二回戦を突破していた。
友達が順調に勝ち進んでいるのは嬉しいね。私達も頑張ろうって気持ちになれるもん!
このままの調子で三回戦も突破して初日を終わらせよう!
──“三回戦”。
「そちらはどうですか……ティーナ先輩……」
「大丈~夫……」
三回戦、“透過レース”。
名前みたいに透明になってる訳じゃなく、周りの“鬼”に姿を見つからないように進み、いち早くゴールを目指すゲーム。
対戦相手と当たったら戦わざるを得ない状況が訪れるかもしれないけど、なるべくそれも避けたいところだね。
今回の参加者は私とディーネちゃんにウラノちゃん、リゼちゃんの四人だけ。
ルール上数は少ない方が有利だからこの人数にしており、静かなメンバーを集めた感じ。
それなら一人の方が良いんじゃないかって思われるかもしれない。でもゴールまでの道のりは遠く、様々なギミックが仕掛けられているからそちらの対処もした方が良い為、一人減らした四人編成で行っている。
「鬼の視線は逸らしたわ。数人は進んで頂戴」
「うん。ありがとー。ウラノちゃん」
「お先に失礼します……」
本魔法を用いて鬼の方向を変え、そのうちに進む。かなり神経が削られるね。見つかったらその時点でリタイア。肉体的なダメージは無いけど、精神面が中々大変。
ボルカちゃんやメリア先輩、サラちゃんは本人がこのゲームは無理と否定していたくらい。あの性格なら納得だよね~。とても良い性格なんだけど、このゲームには不向きみたい。
ルーチェちゃんとベルちゃんもじっとしているのは苦手らしく、人数を減らしたいのもあったからこのメンバー。
「うわあ!」
「……!」
悲鳴が聞こえた……。相手チームの誰かが見つかっちゃったみたい。
この悲鳴でビクッ! って体が反応しちゃうけど、集中力が無くなったら元も子も無いから気を付けよう……。
「“空間掌握・止”」
『……』
「……今です……ティーナ先輩……」
「ありがと。ディーネちゃん」
ディーネちゃんが鬼の動きを空間魔術で止め、私はそこを抜ける。
ゴールは目前。まだ誰も到達していないみたいだけど、すぐ近くにほんのりと気配を感じる。
急がなきゃならない……こうなったら一か八かの賭けに出ようかな……!
「そーっと……」
音を立てるのも避けたいから呪文は言わず、無詠唱で植物魔法を使う。
威力は下がるけど今回のルールに威力は要らない。ゴールの柱に植物魔法を引っ掻けるのが目的。
「させるか……!」
「……!(相手チームの……!)」
そこへ一番近くの相手が仕掛ける。
鬼に魔法を放ち、視線の方向を私の方へ向けさせた。
これじゃ進むに進めない。既に植物は張っちゃったし……。
(今だ……!)
(相手が……!)
その間に相手が移動。
向こうが妨害してくるなら、こっちも仕掛けちゃうよ。
大地に魔力を込め、私は植物の中に体を沈める。そして周りの植物も操り、こちらもお返し。
(やっちゃえ!)
「……!」
相手の道を支配し、物音を立てて大きく動かす。
これには鬼の視線もそちらを向き、更には別の植物で鬼の体を絡み取り、相手の方へと引っ張った。
「まさか……!」
『……発見』
「うわあ!?」
腕力によって押し潰され、転移。その隙を突いて私は植物を引き、一気にゴールまで加速。
それにより、三回戦も無事に突破した。
「やったな。ティーナ!」
「やったよ! ボルカちゃん!」
控え室に戻ってハイタッチ。
レモンさんやユピテルさんも無事に三回戦を突破したみたい。
今回のゲーム、今までみたいな戦闘は行われなかったけど一番緊張したかも~。
「これで初日は突破だね! お疲れ様!」
「そうですね! メリア先輩!」
先輩や他のみんなも喜ぶ。
代表決定戦の三回戦は突破。後は明日。それが終われば上位チームに選出される為、代表要りはほぼ確定となる。
このまま行ける所までレッツゴー!
──“ダイバース・代表決定戦・二日目”。
《二日目の第一試合!! “魔専アステリア女学院”vs“ゼウサロス学院”ンンン━━━ッッッ!!!》
「「「どわあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!!」」」
「……うそ……」
「残念ながら、誠のようだな。ティーナ・ロスト・ルミナスよ」
昨日のテンションが落ちる気配があった。
まさか二日目。しかも第一試合の相手がユピテルさん率いる“ゼウサロス学院”なんて……。今までも強敵揃いだったけど、次元が変わったかのような感覚。
「君達と戦うのは去年の新人戦、チームの部以来だな。楽しみにしてるぞ」
「お、お手柔らかにね……」
去年の新人戦、チームの部では今とほとんど変わらないメンバーでユピテルさん達“ゼウサロス学院”に敗れ去った。
去年は去年。私達も成長しているけど、向こうも成長している。新入生達もどちらも優秀。これは勝負が分からないや。
《ルールは“謎解きゲーム”! スタァァァトォォォ━━ッ!!!》
ルールが発表され、私達は転移の魔道具で移動。
ダイバース代表決定戦。二日目。順調だったそれは大きな波乱の幕開けを告げていた。




