第百九十六幕 二年目の代表決定戦・一回戦終了
牽制を交えた一撃を放ってから移動し、ティナを先行させる。
少しは気配が読めるようになったからそれを用いてみるよ。私はまだまだ未熟だけど、なんとか辛うじて読み取った微かな気配の方向に向かわせ、相手の姿を探る。
(居た……一人が北側で……二人ずつ左右に回り込むような動き……)
やっぱり誰一人として倒せなかったみたいだけど、プレッシャーは与えられたかな。考え無しに動かす事に成功した。
これだけ見て成功かどうかどう判断したのかと言うと、
「ディーネ・スパシオの水魔術によって分断されてしまったか」
「三手に分かれるつもりは無かったのだがな」
普通にそう話していたから。
ティナは感覚共有が出来る。その解釈を広げて聞こえるようにしたのだ。
実はと言うと、この感覚共有は魔力によって範囲が更に広がる事が分かったのである。なので範囲を調整し、より遠くの声を拾えるようにしたの。
思えば植物魔法の解釈は広げて強化したけど、ティナは本当に感覚共有しかしていなかった。植物魔法の拡張が様々な種類や属性の付与なら、感覚共有の拡張は範囲の拡大って訳だね。
それもあって気配が薄っすらとしか分からなくても掴みやすくなったんだ。
そして真髄はここから。
『相手はここから北側に一人と残りは左右に分かれたよ!』
「お、そっか。サンキュー。ティーナ!」
「それじゃ、一番遠くに居る一人はボルカさんに頼んで良いかしら? 私達は左右の相手をするわ」
「オッケー。やってやるぜ!」
ティナの音声伝達。
魔道具を見ていて思い付いた事柄。魔力に変換する事で声を伝える事が出来ると分かったの。
元々ティナは話せるけど、お人形さんのフリしてるから私の声を伝えたよ。
ボルカちゃんは北側の一人を相手に向かい、ウラノちゃんとルーチェちゃんも左右に分かれる。
距離はそんなに遠くないし、私とディーネちゃんもどちらかと合流しよっか。
それを伝え、私達は各々で行動を開始した。
──“左サイド”。
「相手の位置は掴めたか?」
「さあ、どうだろうね。もう軌跡の上には居ないだろうから、向こうから来るのを待つか此方から仕掛けるか」
「先手は打ちたいところだ。相手のペースに飲まれる」
「それじゃああの人形に気を付けよう。多分既にどこからか監視されてる筈だ」
「だろうな。……だって……」
光球を撃ち込み、連鎖するような爆発が巻き起こった。
それによって相手二人は飛び退き、植物魔法がその体を絡め取る。
「既に見つかってる」
「惜しいな。先手を取られた」
既に私達は回り込んでいた。
先手を打たれても動じないのは流石の代表決定戦って感じかな。都市大会を勝ち抜いた実力者が成せる技。
この左サイドに来たのは私とルーチェちゃん。遠距離も近距離も攻撃もサポートも対応した布陣。って、誰とペアでも兼ね備えられるね。みんな優秀だもん。
「何処からだ?」
「分からないが、数百メートル以内には居るだろう」
私達を探る二人。距離は強ち間違っていない。洞察力も鋭いね。ここまで勝ち上がってきただけある。
後はどんな戦い方をするのか。再び牽制を兼ねて一本の植物を打ち付ける。
「映像では何度も見たが、厄介な魔法だ」
「これで一つ一つが脆いならまだ楽だったが、頑丈と来た」
一人は剣で切り伏せるように受け止め、もう一人が魔力を込めた銃弾で破壊。
魔力は纏っているけど、魔法は使わないタイプの人達みたい。珍しい相手だね。
ルール上本物は使えないから模擬刀とエアガンだけど、魔力による強化で本物と遜色無い、もしくはそれ以上の威力になっている。
魔力操作が出来てるから主体がそれってだけで多分普通の魔法や魔術も使えるよね。
「“光球”!」
「そこか!」
ルーチェちゃんが光球を放ち、それを銃弾で撃ち抜いて破壊。目映い光の爆発が辺りに広がる。
その光の中から植物を放ち、もう一人が剣で切り伏せた。
「感覚共有の人形の姿は見当たらないな」
「しかしこの狙い。的確に死角を突いて来る事から間違いなく近くに居る」
単純な攻めじゃ代表決定戦には通じない。背中合わせに構えるあの二人の隙を突いて意識を奪わなくちゃね。
出し惜しみはしていられない。確実に攻め落とす!
「“フォレストビースト”!」
『『『…………!』』』
「植物の犬や鳥……!」
「撹乱が狙いか?」
植物魔法からなる動物達を嗾け、一気に攻め入る。
銃弾を撃ち込み剣で切り伏せ、一つ一つを破壊していく。その側から即座に再生。植物は魔力が尽きない限りし続けるからね。
そう、どんな更地にも何年か経てば植物は芽生える。砂漠にさえ生るもんね。山岳地帯の全域は植物魔法に覆い尽くされている。既にここは私達の領域!
「“フォレストゴーレム”!」
『『『…………』』』
「そして天を覆うゴーレム……!」
「盤面が全て相手のものに……!」
植物獣とゴーレム達が囲い込む。
私達だけじゃなく、山岳ステージ全体を覆ってるからボルカちゃん達の助けにもなると思うよ。
後は一気に仕掛けるだけ!
「くっ……! これらに比べたらつまようじと豆鉄砲だな……!」
「一応破壊は出来るが、その瞬間に再生するから意味がない……!」
獣とゴーレムが次々と向かい、剣と銃で対処するけど本人達が言うように瞬間的に再生。私自身が姿を見せなければ安全に戦う事が出来るみたい。
でもそれは魔力や気配を掴む力が無い人に限る。レモンさんやユピテルさん相手ならすぐに見つけちゃうもんね。
今の相手だからこそ成せる技。
「今ですわ! “巨光球”!」
「「……!」」
手間取る間にルーチェちゃんが大きな光球を形成。付与する魔力量を増やした事で威力と範囲を大幅アップ。
そう、私だけじゃなくてみんなが成長している。相手もそれはそうなんだけど、私達の師範はあのルミエル先輩だったからね。成長速度は他の人達を凌駕する。
言うなれば早熟タイプの晩成型。成長速度が早くて長く行える。矛盾しているけど、そうとしか言い様がない。
光球に飲まれた二人は大ダメージを負い、そこ目掛けてフォレストゴーレムの巨腕が降下。大きな地響きと共に転移の魔道具で移動し、私達が勝利を収めた。
「やったね。ルーチェちゃん」
「ふふん。こんなもんですわ。後はボルカさん達ですわね」
「うん。でもあの三人なら大丈夫!」
姿を現し、私達はハイタッチ。
後はボルカちゃん達待ち。負ける事はないと思うけど、いつでも出動できるように準備はしておくよ。
剣と銃を扱う二人のプレイヤー。私達はその勝負に勝った。
*****
──“北側”。
「ハッ、アンタが孤立した相手だな!」
「ボルカ・フレム……」
ティーナに情報を貰ったアタシは北側に向かい、一人だけのやつと会った。
第一印象は寡黙な人って感じ。ま、アタシの周りにはアタシを含めて初対面でバリバリ話す人が多いだけで普通はこんなもんか。寡黙かどうかは分からないや。
「てな訳で、倒す!」
「やるしかないか」
互いに臨戦態勢に入り、双方の出方を窺う。
結構強そうな相手だ。そもそも、ディーネの水魔術の進行方向にある北側に居た時点であれをどうにかしたって訳だもんな。
強敵の匂いがプンプンするぜ。
「ほんじゃ早速──」
「……!」
火炎で加速し、相手の眼前に蹴りを打ち込む。
相手は躱し、アタシの脚を掴みに掛かる。
「アタシの美脚にはそう簡単に触らせないぜ!」
「何を言ってる」
脚を引き、火炎を踵から放出して回し蹴り。
それは防がれ、魔力の塊がアタシの眼前に放たれた。紙一重で躱して距離を置く。
今のところ属性付与はしていないな。ま、その隙を与えていないだけなんだけど。
攻撃自体は防がれてるし、実力があるのも明白だからなるべく一方的に仕掛けたい気持ちだ。隙を見せれば一気にやられちまうからな。
「そら!」
「素早いな」
「速さには自信があるからな!」
距離を置いた瞬間に詰め、作り出した炎剣を用いて嗾ける。それは魔力の込めた腕で防御。
脚を掴もうとしたのを鑑みるとそのまま振り回して放り投げるのが目的だったかもな。防御も魔法や魔術は使わずに行ってる。肉弾戦が中心の戦い方って考えるのが良さそうだ。
「よっと!」
「……」
炎剣を引き、回転を加えて死角から斬り込む。
触れた箇所が発火して怯ませ、そのまま剣尖を突いた。が、また腕に防がれる。
「魔力で強化してるとは言え、頑丈な体だな」
「そちらこそ。全く隙が無く、攻撃が出来ない」
互いに互いを評価し、飛び退いて距離を置く。
バロン先輩タイプの存在。流石にあの先輩には及ばないけど、かなりの実力者。水魔術は己の肉体で防いだって考えるのが良さそうだ。
この硬さ、天国と地獄ステージに居た鬼を思い出す。ルミエル先輩は本当にスゴかったぜ。
「そこだ」
「……っと」
思い出してる暇は無かったな。
拳が迫り、アタシの体が殴り飛ばされる。なんつー重さ。ガードは間に合ったけど、殆ど貫通したようなものだ。
こんなんじゃまだまだ。あの天国と地獄ステージを経て少しは成長したかもしれない。ルミエル先輩の魔術を目の当たりにした。魔力の総量は地道に鍛えなきゃだが、先輩の技術力は身に付けられるかもしれない。
「ふっ」
「おっと……!」
横蹴りが放たれ、しゃがんで躱す。背後の樹が砕けて倒れ、粉塵を巻き上げた。
スゲェ破壊力。でも、なんとかなりそうだ。
魔力をより洗練させ、より練り込む。力の無駄を無くし、一点に集中。
「はっ」
「……!」
拳が迫り、地面が陥没。
この砂塵、利用させて貰おうか!
「仕掛ける!」
「……」
踏み込み、加速。樹から樹へ。周りを飛び回り、相手を翻弄。
エメがやっていた事。一定の間隔で魔力を放つ事で感覚が研ぎ澄まされ、魔力が洗練される。より上澄みの魔力が残り、威力の倍増が見込める。
数百年前は詠唱をする事でより極めてたらしいけど、今のアタシにそんな事をしている余裕は無い。だから動きで魔力を練る。
「そら!」
「速いな」
炎剣を突き、体を掠める。
その傍らから発火して燃え広がり、自身を仰いで消し去った。
段々と感覚は掴めてきたな。後は確実な隙を生むだけ。
「“炎幕”!」
「……!」
辺りに広範囲の炎を展開。土煙と相まってより視界が悪くなる。一種の粉塵爆発だ。
これだとアタシも見えないけど、あのステージから少し相手の気配を掴めるようになった。あの時はマジでピンチだったからな。窮地を経験すると人は成長するんだと理解したよ。
相手は即座に掌を払って炎と煙を消し去る。凄まじい身体能力だけど、準備は完了している。
「“フレイムバーン”!」
「なんと……!」
アタシの出せる大きな炎魔術。それで飲み込み、焼き尽くす。
直後に魔道具で転移し、周りの木々も消え去った。
意識を失ったかな。炎を消し去り、周りは更地となる。ルミエル先輩には及ばないけど、上出来なんじゃないか?
「っし。完了!」
ガッツポーズを取り、体を解す。
ほぼ同じタイミングで遠方に現れた森のゴーレムが腕を振り下ろして二つの光も飛ぶ様が映り、向こうも終わったんだなと分かった。
それから更に少し後、水の爆発が見えて決着が付き、アタシ達“魔専アステリア女学院”は無事勝利を収めるのだった。




