第百九十四幕 二年目の都市大会・決着
『…………』
「本当に速い……!」
湖から飛び出し、高速で移動して私達を翻弄する。
一瞬で姿を見切る事は出来ないけど、あの鱗に速さの理由があるみたい。粘液みたいな物でより滑らかにしており、高速移動を可能にしていた。
通った先が濡れているのがその証拠。大変な相手。
「だったら追い付いて仕掛けるよ! “ウィンドバレット”!」
風を撃ち込み、水棲モンスターはうねりながら避ける。
回り込む形として水が集まり、メリア先輩に直撃した。
「先輩!」
「やられ……てないね。痛いけど、攻撃力はそんなに高くないみたい」
直撃したにも関わらず、大したダメージを負っていないメリア先輩。
スピードはあるけど攻撃力は無い。本当に時間稼ぎを目的にしたモンスターみたい。
「だったら要領はさっきと同じ!」
植物を至るところに張り巡らせ、水棲モンスターの動きを抑制する。
湖の中にも当然仕掛けているけど、もうしばらく時間が掛かるかな。
「動きを絞りますわ! “光球雨”!」
光の魔力を集め、広範囲に光の雨を降らせる。
水飛沫と共に光の爆発が起こり、水棲モンスターは飛び出した。
「“樹拳”!」
『……!』
そこ目掛け、まとめた樹からなる拳を打ち付け吹き飛ばす。
どれくらい食らったのかは分からないけど、確かな一撃は入った。
水棲モンスターは水の中に飛び込み、ディーネちゃんがその一角へ手を翳した。
「“空間掌握・上”!」
『……!』
周りの水を持ち上げ、水棲モンスターを空中へ。ウラノちゃんは本から召喚の準備を終えていた。
「物語──“雷神”」
『……』
『……!』
雷様を召喚し、水棲モンスターの体を感電させる。
水で濡れてるその体。電気の通りは良く、強固な鱗に覆われていたとしても大ダメージは確実。
苦痛に呻き、ザパーン! と水の中へ沈んだ。
手応えはあったけど、どうだろう。
『キュオオオォォォォッ!!』
「まだ戦えるみたい……!」
「攻撃力は低く、速度と耐久が高いモンスターみたいね。時間稼ぎ目的なのは分かっていたけれど、思った以上に厄介。軟体生物の特徴もあるから物理的な技も余程の威力が無ければ通じないと思うわ」
「確かに……たくさんの樹で攻撃してもあまり動きに変化は無かったもんね」
水飛沫を上げて飛び出し、水柱を正面へ撃ち込んで嗾けた。
威力は低いけど連続して受けたら疲弊はする。衣服も重くなって不利益は色々と生じちゃうよね。
このモンスターを倒してもまだ残り一体が居るからあまり攻撃を食らわないに越した事はないんだけど、如何せんこの速度と防御力。耐えられたらジリ貧だ。
「そうなると、やっぱり電気とか炎とかそちら方面の攻撃が中心になりそう」
「ボルカちゃんが居てくれれば……」
「ですわね……」
頑丈な鎧に囲まれていても、体がとても柔らかくても、炎や電気は無効化出来る事なく通じる筈。
本当にボルカちゃんの存在が悔やまれる。炎魔法なんて……。
「……! そうだ。炎魔法は使えるんだった」
「私もそれを思っていたわ。頼めるかしら?」
「うん。やってみる……!」
思えば、ボルカちゃんが居なくてもボルカちゃんが居る。だから今回の相手も問題は無い。
ママやティナと同じ原理で動けるボルカちゃん。じゃあ本物の彼女は……ううん。みんな本物。偽物なんて居る訳ない。ママもティナもボルカちゃんもちゃんと本物。だから話はこれでおしまい。
余計な事は考えず、今は目の前の水棲モンスターに備えるだけ。
「じゃあまずは確実な攻撃を与える為に捕獲しなきゃ!」
「そうね。物語──“大きな蔦”」
ウラノちゃんがパラパラと“魔導書”を開き、植物魔法と遜色無い大きな蔦を召喚。
それが水棲モンスターに迫るけど向こうは躱す。なのでメリア先輩、ルーチェちゃん、ディーネちゃんがその対策に出る。
「やる事はさっきのモンスターと同じだね! “カマイタチ”!」
「そうですわね! “光球連弾”!」
モンスターを狙い、風の凶器が迫る。
相手はそれを躱し、予測先に仕掛けるルーチェちゃんの光球で動きを誘導。
通り道にはディーネちゃんが待機していた。
「“空間掌握・止”!」
『……!』
ピキィィィン! と空間に遮られ、その動きが止まる。
そこから透かさずウラノちゃんが蔦を放ち、水棲モンスターを完全に停止させた。
蔦の役割は動きを止めるだけじゃない。湿った体表に炎をよく通す為にはこうしなくちゃならないからね!
「“ファイアウォール”!」
『キュガアアア!!!?』
乾燥した蔦に炎が燃え移り、発火。蔦が水分を拭き取った事で湿って熱が通りにくい体が焼き尽くされ、水棲モンスターの丸焼きとなる。
次の瞬間には光の粒子となり、私達の体に宿った。
これで四体を倒した事になる。
「じゃあ次はいよいよ最後。五体目のモンスターだね!」
「それなりに時間が掛かってしまったものね。急ぎましょうか」
相手は既に決まっている。なので私達はステージを急いで進み、次のエリアへと踏み込んだ。
──“闘技場”。
「如何にもって感じ……」
「戦いに特化したエリアね」
やって来たのは闘技場。
今までの森林、草原、町、湖のように決まったコンセプトは無く、前方には閉まった門がある様子からもここで最終決戦が行われるんだろうなという事がハッキリ分かるエリアだった。
入るや否や、逃げ道も退路も塞がれる。本当に決着が付くまで戦うみたい。
『……』
「あれが今回の相手……!」
「人型のモンスターみたいね」
「コンセプトはなんですの?」
「そりゃもう最後まで待ち構えているんだから」
「いるのだから……?」
聞き返したディーネちゃんの言葉に口を開き、そのタイミングでモンスターも踏み込み仕掛けてきた。
メリア先輩は言葉を続ける。
「“器用万能”!」
次の瞬間には大地が拉げ、陥没してクレーターが形成。粉塵が舞い上がる。
あくまで都市大会レベルの強さだから見切れない程じゃないけど、一撃一撃はかなり重そうな雰囲気が漂っていた。
「全てのジャンルを扱えるという事ですか……!」
「そんな感じだね!」
『………』
私達は距離を置き、人型モンスターは狙いを定めて魔力の塊を放出。
空中で破裂して爆発を起こし、私達は逃れて着地した。瞬間に眼前へいつの間にかナイフを持っていた相手が迫り来る。
「対応も早い……!」
「納得の強さですわ!」
見れば色々な武器種を持ってるみたい。速度に破壊力に技に魔導に武器。多分防御力も高いから手強い相手になると思う。
でも倒さなくちゃゲームクリアにはならない。だから私達は戦う!
「“樹海生成”!」
取り敢えずこの闘技場は今から私のフィールド。如何に自分達有利に事を運べるかが勝利の鍵。
他のみんなもそれぞれで行動に移っていた。流石に手際が良いね。
「“光球連弾”!」
『……』
無数の光球を撃ち込み、人型モンスターは駆け抜けるように躱す。
光の爆発が至るところから起き、辺り一帯を包み込んだ。
そこへメリア先輩も嗾ける。
「“カマイタチ”!」
『……』
風の凶器が放たれ、相手は立ち止まって紙一重で躱して行く。
メリア先輩の方へと狙いを定めて跳躍したのを見計らい、ディーネちゃんが魔力を込めた。
「“水球”!」
『……!』
水の球が放たれ、全身を飲み込む。
あの力で撃ち出された水の威力は砲弾以上。耐久力は高いだろうけど、確かなダメージにはなってる筈。
その相手の周りには本の鳥達が囲んでいた。
「突撃なさい」
『……』
無数の本が人型モンスターに突進してダメージを与え、リズミカルに吹き飛ばす。
吹き飛んだ所で植物魔法が捕らえ、質量を一気に叩き込んだ。
結構な攻撃は与えたと思うけど、どうだろう。
『……』
「まだ動く……!」
「でも少し鈍くなってるわね」
戦闘は続行。しかし動きに鈍りが見える。
都市大会の準決勝の試練。レベルが高くても代表決定戦程にはならないので私達なら結構余裕を持って倒せるかも。
そう思った瞬間、相手は魔力を込め、巨大な球体として作り出した。
「あれ全部魔力のエネルギー……」
「この闘技場が簡単に吹き飛ぶ破壊力は秘めてるわね」
やっぱり今までのモンスターよりは遥かに強い事を思い知らされるエネルギー体。
魔力の気配を少しずつ掴めるようになってきた私だから分かってきた。
だったらあれは絶対に阻止しないといけない。
「一気に畳み掛けよう!」
「ええ。そうね。避ける気力は無いかもしれないもの」
「分かりましたわ!」
「任せてー!」
「はい……!」
今一度気合いを入れ直し、全員が一気に仕掛ける。
ルーチェちゃんが両手で光球を作り出し、眼前に迫って近距離でぶつける。人型モンスターは怯みを見せ、メリア先輩が竜巻を放って吹き飛ばす。
空中に舞い上がった所で魔物を召喚したウラノちゃんは打撃を与えて叩き落とし、植物魔法の中に絡め取った。
「“空間掌握・鋭”!」
『……!』
そこへ槍のように形を変えた空間が突き刺さり、魔力のエネルギー体は消え去る。
最後に私は魔力を込めた。
「“フォレストゴーレム”! やっちゃって!」
『ブオオオォォォォッ!!!』
『──』
フォレストゴーレムの巨腕を打ち付け、人型モンスターを押し潰す。
連撃を受けた相手は耐え切れずに消滅し、魔力の粒子が私達へ取り込まれる。
前方の門が開き、私達は顔を見合わせて一気に駆け抜けた。
隣には門を飛び越えた相手チームの一人が……!
「“魔専アステリア女学院”……!」
「あれは私達の対戦相手……!」
居るのは一人だけ。でも向こうの方が少し早い。
メリア先輩に託して先輩が箒で進むけど、相手の方が一歩先にゴールの扉に触れた。
ダメ……間に合わない……!
「なっ……開かない……!?」
「……え?」
そして、向こうの扉は開かなかった。
一瞬困惑するけど、向こうは一人。一人を一体のモンスターに当てたのなら、何故そうなったのかは理解した。
「そうか……相手は配置された全部のモンスターを倒してないんだ……!」
「そう言えば門も飛び越えて来たわね。ルール説明は聞いていた筈だけど、認識が少し違ったのかも」
そう、相手は一人。つまり他の仲間達はまだモンスターと戦っているという事。
仮に五体目のモンスターを倒していたとしても他の四体がそのままなら意味がない。加え、ほぼ確実に五体目のモンスターは倒していないのが分かる。
一直線に行った方が早いのに、わざわざ闘技場の扉を飛び越えたんだもんね。
それにより、メリア先輩が先に扉を開け、私達は会場に居た。
《勝者、“魔専アステリア女学院”ンンンーッ!!! ちゃんと全てのモンスターを倒した事が勝因となりましたァァァッ!! と言うか、ルールはちゃんと守ってくださーい!!》
「「「どぅわあああぁぁぁぁぁっっっ━━ッ!!!」」」
司会者さんの声と共に大歓声が巻き上がる。
やった。これで都市大会の決勝戦進出! 後はボルカちゃんとエメちゃんが心配だけど……大丈夫かな。
すると、私達に一つの声が掛かる。
「やったな! ティーナ! みんな! 無事準決勝突破だ!」
「……! ボルカちゃん!?」
「オッス! 遅くなって悪ぃ! なんかゴタゴタに巻き込まれてさ! ルミエ……先輩が助けてくれたお陰で戻って来れたぜ!」
「そうなんだ! 良かったよー!」
観客席の方からボルカちゃんの姿が。
少し汚れてるけど、傷とかダイバースの後遺症は無い様子。ルミエル先輩がちゃんと助けてくれたんだ!
先輩は信用し切ってたけどね! でもやっぱり心配はあったから本当に良かったー!
それとルミエル先輩は忙しい身。なのでもう帰っちゃったみたい。連絡の魔道具越しの声しか聞いてなかったからちょっと残念。本当の本当にとてもとても忙しいから仕方無いんたけどねー。
「決勝戦はアタシも復活だ。代表決定戦、絶対行こうぜ!」
「うん! ボルカちゃん!」
ボルカちゃんとエメちゃんも無事戻って来る事が出来、私達“魔専アステリア女学院”も都市大会の決勝進出が決定。
今はまさしく昇り調子!
──それから後日の都市大会決勝戦。
ボルカちゃんが戻ってきた事で勢いが出た私達はそのままストレート勝ちを収め、数日後に行われる代表決定戦の切符を掴むのだった。




