第百九十三幕 一人欠けた準決勝
──“ダイバース・準決勝”。
ボルカちゃんとエメちゃんの行方が分からないまま、ダイバースの準決勝が始まろうとしていた。
今回は主力の一人が欠けている状態。参加しない事自体は度々あったから戦えはするけど、二人が心配。
ルミエル先輩と連絡が付いたから問題は無いと思うけど、早く見つかると良いな。
そんな不安を抱えながら行われるダイバースの準決勝は、“モンスター討伐レース”。
ルールは簡単。ゴールまでの道筋に配置された魔力からなるモンスター達を倒せば良いだけ。バリバリの肉弾戦で、ボルカちゃんの得意分野だけど今回は居ない。なので他の戦闘が得意なメンバーで挑む事になった。
因みに私も抜擢されている。別に戦闘が得意って訳じゃないけど、攻撃力と防御力は高いもんね。
ステージへと転移し、そのゲームが始まった。
──“森林”。
「今回は各種に五体のモンスターが配置されてるんだっけ。それを倒して行かなきゃね」
「ボルカさんが居らっしゃらないのは若干の不安がありますけど、だからこそ勝ち上がらなくてはなりませんわ!」
「うん! ボルカちゃんの分も頑張って、明日の決勝戦まで残るんだ!」
今回のメンバーは前述したように私。そして聖と光で回復と攻撃を担えるルーチェちゃん。またもや器用と言う理由で選出されたウラノちゃん。
速度と経験からメリア先輩に、一年生からは唯一ディーネちゃんが選ばれた。
ボルカちゃんがおらず、戦闘主体のルールになったら必然的にこのメンバーが選ばれるね。一年生の中では本人達も理解しているようにディーネちゃんが頭一つ抜けた存在みたい。本人は謙遜するけどね~。
『グガァァァッ!!!』
「……! 早速現れた……!」
「早速始めよっか!」
現れたのは発達した筋力を携えるモンスター。鬼やミノタウロスをモチーフにした感じかな。
今回のルールでは一体を倒さなくては次に進めないようになっている。見た感じ通り抜けられそうだけど、全部を倒さなきゃ絶対にクリア出来ないと言うのを説明されてるの。
だから最速で倒して進む。一人に一体を当てて先に進むか全員で倒して先に進むか。選択肢で言えばこれくらいかな。
私達の選んだ道は──最速で倒して全員で進む!
『グモガァ!』
「振り下ろしてきた……!」
「筋肉の形からして防御と攻撃に特化した存在ね。見切るのは難しくないけど、判断を誤ったらやられてしまう」
「一番最初に配置するには打ってつけの存在ですわ!」
棍棒のような得物を振り下ろし、地面に激突して大地が割れる。
地響きが起き、大きな粉塵が舞い上がった。
見れば向こうの人達も同じような相手と戦ってるみたい。同じタイミングで粉塵が上がってるや。
「はあ!」
『……!』
取り敢えず相手を気にする余裕は無い。私はママの植物魔法で筋肉モンスターを打ち、その体を吹き飛ばす。
そこへルーチェちゃんが飛び出し、光球を複数個発射。光の爆発に飲み込まれて砂塵が消し去る。
モンスターは依然として行動が可能な様子。そこにウラノちゃんがミノタウロスで対抗。棍棒を砕き、戦斧を振り下ろして怯ませた。
『グガァ……!』
「畳み掛けるよ! “ウィンドカッター”!」
怯んだ所へ透かさずメリア先輩が風魔法からなる刃を放出。その体を切り刻む。
そこへ向け、ディーネちゃんも魔力を込めていた。
「“水球”……!」
『……!』
爆発的な魔力の放出と共に巨大な水の球が迫り、モンスターの体は飲み込まれた。
まだ動きがあり、近くの木を引き抜いて丸太を持ち、無くなった棍棒のように振り回して急襲。
かなり耐久力が高いね。私はママに魔力を込める。
「終わらせる! “樹拳”!」
『……!』
木々を一つの束とし、その体を押し潰す。
一際大きな粉塵が舞い上がり、モンスターは動かなくなった。
すると光の粒子となって消え去り、私の中へ入ってくる。魔力が追加されて少しパワーアップした感覚。
「なんだろう。これ……」
「さあ……けれど、モンスターを倒した証明という事ではないかしら」
「あ、そっか。順番にモンスターを倒していって、この力を集めればクリアになるんだ」
「そう考えるのが妥当な線ね」
今回のルールは単純だけど、主旨はようやく理解した。
多分モンスターを倒したこの証明が無ければゴールを抜けられない感じかも。一人vs一体でも全員vs一体でも倒すのは同じだけど、私達の攻撃を受けてもそれなりの時間活動していたこのモンスター。とても強かったから余程自信が無ければみんなで戦った方が良いかもね。
私達は次へと進んだ。
──“草原”。
『……』
「居た……!」
「こんな所で佇んで。いかにもって感じね」
「ローブを着ている様子から魔導師でしょうか」
草原エリアにて佇むローブを着たモンスター。
見た目はほとんど人間だけど、顔を隠しているから実態は分からない。
何にせよ、相手チームの誰かって可能性は無さそうだし相手取ろうっと。
『“ファイア”』
「来た……!」
「やはり魔導師……!」
「ですわ!」
「火が相手なら……!」
放たれた炎に対し、無詠唱で威力を上げていない水魔術を撃ち込み相■。
辺りに水蒸気が広がり、空中からメリア先輩が嗾ける。
「“ウィンドレイン”!」
『……』
風魔法を雨のように降り注がせ、魔導師へ撃ち込む。
魔導師は魔力の傘で防ぎ、上空へと力を込めていた。
『“逆雨”』
「わわ……!」
逆方向に放つ弾丸のような雨。
メリア先輩はその隙間を縫うように躱し、ルーチェちゃんが光球を放つ。
『……』
それを魔導師は防御。でもメリア先輩から意識は逸れたね。一番近くの脅威に対応するよう設定されてるのかな。
光の爆発は魔力で塞ぎ、横をウラノちゃんの本の鳥が通り抜ける。また意識が逸れ、植物をかき集めた。
「隙あり!」
『……』
大木で体を押し潰し、光の粒子となって私達に集まる。
魔力による防御はスゴかったけど、素の耐久力は低かったみたいだね。
これで二つ目のモンスターも討伐完了となった。
──“町”。
次に来たのは町エリア。“街”程大きな場所ではなく、“村”程じゃないけど“町”と言えるような所。あくまでニュアンスの問題だね。
そんな感じでやって来た町だけど、今度の相手は──
『……』
「今……!」
「居たわね」
「なんと言う速度……!」
認識するよりも前に仕掛けられ、私達は辛うじて躱した。
武器は小太刀みたいな物であり、目にも止まらない速度で仕掛けてくるタイプの敵。
力と耐久。魔力と速度。そして次の相手が速度と技。魔法や魔術みたいに呪文の間隔が空かない分こっちの方が手強いかも……!
「速さ勝負なら負けないよ!」
「はい。ここはメリア先輩頼みです……!」
素早いけど、メリア先輩なら追い付く事も可能なもの。ボルカちゃんが居たらもっと楽だったんだけど、無い物ねだりは仕方無い。
念の為周りに植物を張り巡らし、迎撃態勢には入った。
『……』
「待てー!」
影と影。残像と残像の鬩ぎ合い。
上下左右の縦横無尽。横に気配を感じれば上におり、そちらを向いたら背後に回り込まれる。
その技術力から一撃でも受ければ大変。上手くやらなきゃ……!
『……』
「……ッ!」
「ルーチェちゃん!」
「大丈夫ですわ! 単なる掠り傷。メリア先輩に追われながらの攻撃。急所はハズレ、致命傷にはなりません!」
仕掛けてきたね。
先輩のお陰で大したダメージは受けずにいられるけど、倒さなくちゃ意味がない。
……そうだ。
「メリア先輩! 相手を誘導出来ますでしょうか!?」
「え? 分かんないけど、ある程度の範囲ならやれるかも!」
「それではこっちの方にお願いします!」
「OK! 任せてよ!」
相手はあくまでも魔力からなるモンスター。なのでこちらの会話も、大凡は分かるだろうけど完全には把握出来ない筈。
その性質を利用して倒す!
「“ウィンドバレット”!」
『……』
タンッ! タタンッ! と空気弾が放たれる。
相手はそれを避け、メリア先輩の方へ。先輩は速い魔法を撃ち込みながら牽制し、距離を詰め寄られた所で地面から無数の植物を生やす。
「“植物の網”……!」
『……!』
プラントとネットでプラネットなんてね。これが作戦。虫のクモさんがよくやっている方法だね。誘導して、見えない網で捕らえる。
素早く、思考はそんなに回らない魔力モンスターには友好的な方法。
そこへディーネちゃんが手を向けていた。
「“空間掌握・潰”!」
『……』
絡め取った相手へ空間魔術を使い、その体を押し潰す。
普段の相手にはルール違反になっちゃうから使えない方法。でも今回はそれで一気に倒せた。
「やったね! ディーネちゃん!」
「はい! 先輩達のアシストのお陰です!」
誘導したメリア先輩と私とディーネちゃんでハイタッチ。私達に光の粒子が入り込む。
時間は大事だから深くは浸らず、そのまま次のエリアへ。
──“湖”。
町を抜け、その先にあったのは大きな湖。という事は水棲モンスターが居るって考えるのが妥当かな。
なんたかんだで既に四体目だし、向こうの様子は分からないけどこのままの調子で行こう!
「今までみたいにすぐに姿は現さないね」
「このまま待っていても埒が明かないし、ティーナさん。湖の中を調べられるかしら?」
「うん。大丈夫。すぐに乾かす事も出来るからね」
ウラノちゃんに促され、ティナを湖の中へ。水中での視界は確保しにくいけど、何かしらのモンスターが居るならすぐに分かる。
飛び込み、水飛沫が上がる。目の前には細い何かが居た。
「もう見つけた。ずっと潜んでいたみたい」
「成る程ね。臆病なタイプのモンスター。明らかな時間稼ぎね。ルーチェさん。真下にどんどん撃ち込んじゃって」
「分かりましたわ!」
指揮役はウラノちゃん。それはボルカちゃんが居ても同じ。
その言葉に従ってルーチェちゃんは光球を湖の中へ放ち、光の爆発が広がる。次の瞬間に水面がボコボコと動き出した。
『キュオオオォォォォッ!』
「出てき……って……」
「速いわね」
細長い体が飛び出し、次の瞬間には移動。なんて滑らかで速いんだろう。
三連続でスピードタイプ。時間が掛かった方が負けだからゲームの難易度を上げるとすれば理に適ってる。
「早く倒して終わらせちゃおっか!」
「はい!」
メリア先輩が声を上げ、私達は細長い水棲モンスターに向き直った。
ボルカちゃんは絶対にルミエル先輩が見つけてくれるからここは勝たなきゃ!
準決勝、“モンスター討伐レース”。おそらく順調に進んでいた。




