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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部二年生
191/457

第百九十幕 誤作動

 ──“医務室”。


「ボルカちゃん。エメちゃん。居るー?」


 試合が終わるや否や、私達はボルカちゃん達が居るかもしれない医務室へと行ってみた。

 二人の仲は悪くないし、居るなら一緒の筈。ヒョコっと顔を出した医務室に居たのはエメちゃんの先輩達くらい。


「此処にあの子達は来ていないぞ。ティーナ・ロスト・ルミナス。不甲斐なくやられてしまった私達だけだ」

「くぅ……植物魔法による兵力の増加……!」

「何て強さだ……!」

「私は回復魔法使えるから良いけど、アナタ達は大変ね」


「あ、そうですか……」


 ボルカちゃん達は居ないみたい。

 医務室の担当者とヒーラーの先輩が治療を施している。その人は去年に会ってるね。今回はゲームルール的に出場せず、控え室に居たみたい。

 肩を落とす私を前にほうき乗りの先輩が話し掛ける。


「まあ、此処に居ないという事は控え室の方か、既に会場の何処かだろう。試合前には戻ってくるさ」


「はい……私もそう思います」


 医務室に居ないという事は、大したダメージは負わずに済んだという事。なので状態的には安心出来る筈。

 何の心配も要らないとは思うけど、こうも姿が見えないとそれはそれで不安になっちゃうね。私って心配性なのかも。


「あら、ティーナさん。どうしたの? ボルカさん達は見つかった?」

「ううん。居ないみたい。ボルカちゃんなら勝った瞬間いの一番に会場に来て喜んでいたと思うけど、それも無かったからちょっと心配」

「確かにそうね。医務室に居なかったのなら……本当にすぐ飛んでくるでしょうからその気持ちも分かるわ」


 一先ずみんなの元に戻るけど、やっぱりボルカちゃんの姿はなかった。

 エメちゃんの姿も会場や彼女達の控え室を見てもおらず、本当にどこに行っちゃったのやら。決勝戦は明日だけど、準決勝は今日中に行われちゃうのに。


「……やっぱりもうちょっと探してくる!」


「そう。分かったわ。準々決勝は試合数も少ないし、すぐに出番が来てしまうものね。ボルカさんはともかく、エメさんが行方不明なのは気掛かり。気を付けてね」


「うん!」


 そう、準々決勝は出場チームが少ないから試合数も少なくなる。当たり前だよね。トーナメントってそう言うものだもん。

 だから私達の出番はすぐに来ちゃう。にも関わらず姿を見せないのは、いくらボルカちゃんと言っても不自然。

 私はなんとか二人の魔力の痕跡を探り、捜索に移るのだった。



*****



「……なあ、エメ。此処はどこだ?」

「……さ、さあ……」


 まだ微妙に痛む体を起こし、アタシは周りの様子を見やる。

 さて、此処は何処だろうか。見た限りは花畑や草原と言った雰囲気。風が心地好く、心も落ち着く。

 疲れてるしこのまま寝ちまおうか。って、傷口が痛む時点で変だよな。だって此処が控え室なら既に治療を終えている筈。それが無いという事は、何らかの理由で治療が出来なかったって訳だ。


「結局アタシ達ってどうなったんだ?」

「えーと……ボルカさんの海底火山と私の雷で耐久戦になって、お互いに力尽きて意識を失ったかと」

「だよなぁ。だったらなーんで控え室や医務室じゃなくてこんな花畑に……はっ! もしやアタシ達死んだのか!?」

「そしたら痛みを感じるのは変じゃないでしょうか……亡くなった状態であの世に行くなら話はまた別ですけど、亡くなるレベルのツラさにしてはいささか弱いかと」

「うーん、確かになー」


 エメと話し合ってみた結果、特に何も分からなかった。

 取り敢えず此処で寝転がりながら話すのも悪くないけど、見て回らなきゃ何も分からないんで一通り探索してみる事にした。


「こう言う雰囲気の場所、人間の国にも普通にありそうだしな~」

「そうですね。お花畑と草原。向こうに見えるのは透き通った湖に空の雲が映り込んでます」


 とまあ、幻想的とかノスタルジーとか美しいとか、色んな表現が出来そうな良いスポット。写真にでも収めてティーナ達にもこの景色を見せてやりたいけど、ダイバースの試合中に小型魔道具は持ち込まないからな。牴牾もどかしいぜ。

 取り敢えずなんの悪意も感じない綺麗な──


「……ボ、ボルカさん……反対側……」

「んあ? 反対側ってなんの……っ!?」


 エメに言われ、振り向いた先の景色。それは真っ赤に染まり、黒煙立ち込める地獄のような光景だった。

 一つの大きな川を挟んだ先にある、真逆の景色。何が一体どうなってんだ?


「……考えられる線は転移の魔道具の誤作動で戦争中の国にでも行ったか、ダイバースの……天国と地獄ステージ的な所に飛んだかだな」


「前者は今のところそう言ったニュースが他国でも無いので有り得ないと思います。そうなると後者。転移の魔道具の誤作動が原因なのは明白ですし、何処かのステージでしょう」


「ま、そうなるよな。アタシも同意見だ。でもそうなると整備スタッフでも居なけりゃ抜け出せないぞ?」


「困りましたね……」


 アタシ達が生きてるなら考えうる可能性は決着の後の魔道具。その誤作動。

 今回はその前提で物事を進めるとして、ステージから抜け出すには転移の魔道具が必要になりそうだ。


「取り敢えず脱出方法を考えるとするか。アタシに大陸規模のステージその物を壊す程の力はまだ無いからな」

「私もあくまで速度上昇とか貫通力アップとかで広範囲の破壊技はありませんからね」

「だよなー。ま、使われていない転移の魔道具はあるだろうし、ステージの端っこに到達すれば穴くらいは空けられるかもしれないしな」

「その後の弁償が問題では……」

「うーむ……確かにティーナやルーチェはお嬢様でそれくらい造作無いと思うけど、アタシは一般の出だから懐事情に余裕は無いな。一先ずそん時はそん時考えるか」


 どうしようもない事を考えるのはよそう。一番確率の高い方法で突破して、その後はその後に考える。それが一番だ。

 なのでステージの端の方に向かってみる。もちろん行くのは湖の方。危険なのも好きだけど、此処にはエメも居るしな。


「「………!」」


 すると、何処からともなく美麗な音色が響き渡ってきた。

 この場にピッタリな音。ステージの調整中か何かか?

 それなら好都合。話をして此処を抜け出す手助けをして貰おう。


「あのー! すんませーん!」

『……?』

「ちょ、ボルカさん!? そんなに堂々と……!」

「ん? 別に大丈夫っしょ。此処がステージとして整備の人だろうしな!」

「それはそうですけど……私にはそんなグイグイ話し掛けられません」

「なんでだ……っと思ったけど、最初の頃のティーナもそんな感じだったな。んじゃ、概要はアタシがササッと説明するから方法見つけて帰ろーぜ」

「本当に行くんですね……」


 ティーナとかエメみたいに、別にやましい事を隠してる訳じゃないのに話せない人はそこそこ居るようだな。

 んなもんでアタシがその代わりに聞いて話を終わらせればOK。音色を辿ってそちらに向かう。


「あれ……この辺から急に花が増えましたね」

「そーだな。さっきの花畑からは割と距離があるけど、此処まで種子が飛んだのか、魔力で作って敢えてそう言うステージにしてるのか……っと、あの人か」


 話の途中、ハープ的な物を弾いている人を発見。整備士じゃないのか? それともハープもステージギミックの一つなのか。我ながら不確定要素が多過ぎて“なのか?”を繰り返してんなー。

 見ればその人の周りが一番花が咲き誇っていた。だったらあの人の植物魔法からなるギミックって訳だ。三つのエレメントからなる組み合わせの植物魔法。それを使えるって事は中々の腕前だな。

 ま、既に知り合いにはティーナとレヴィア先輩って言う上級植物魔法使いが居るから驚きはしないけど。


「道に迷ってしまって、この場所から出たいんですけど分かりませんか?」

『貴女達……その傷……』

「え? ああ、ダイバースをしていて、転移の魔道具の誤作動でこんな感じになっちゃいました」

『ふふ、そう。元気な子達なのに……もう来てしまったの……』

「……?」


 その人は女性であり、綺麗な長い金髪に碧色の目。透き通るような白い肌。何処か儚げな雰囲気があり、初対面なのに見た事あるような顔立ちだった。

 年齢は結構若い。大人だとしても、二十代前半とかそれくらいに見える。

 そして何故か女性はアタシ達を愁いのような、悲しげな表情で見やり、頬を撫でる。するとまた別の反応を示した。


『……違う……わね。本当に道に迷ってこの場所へ……?』

「違う?」


 よく分からない言い回しをするお姉さん。

 取り敢えず迷ってる……迷ってるか。確かにそうとも言えるかもしれないなー。


「まあ、道に迷ったと言えばそうッスね。誤作動とは思うんスけど、転移の魔道具に気絶ペナルティと炎魔術と雷魔法がぶつかり合ってしっちゃかめっちゃかのてんやわんやッス」

『……そう。良かった。ダイバースをしていると言っていたものね。それで貴女達はそのままの姿で此処に来ちゃったの』

「ですよねー。傷は浅くて助かりましたけど、治療を施されてないんで全身がヒリヒリしますよ」

『痛みは生きてる証拠よ。大事にしなさいね♪』

「それは分かってるんですけどね~。やっぱり不愉快な感覚ではありますし、早く治したいなーって」

『それも分かるわ。ずっと痛みに苦しめられてた時は……不覚にも私だけ解放されたい気分になってしまったけど、何年も無いなら無いでちょっと名残惜しさもあるもの』

「え? いやいや、痛みなんて無い方が良いじゃないですか。と言うか何年もって、お姉さんは月一の痛みとか無いんですか?」

『お姉さん……ふふ♪ そう見えるなら嬉しいわ♪ でもね。私、実は既にとても可愛い子供が居るおばさんなのよ。年齢は28歳だから、お姉さんと思われるのは嬉しいけれどね♪』

「マジッスか!? 全然見えませんよ! すげぇ若々しいですって! お子さんは何歳くらいで?」

『最期に会ったのは7歳の時かしら』

「最後にって事は……別居中って訳ですか?」

『そんなところね。何年後かには会えるけど、しばらく会えないのよ。夫とは少し早めに再会出来ると思うのだけれどね~』

「複雑な家庭なんスねー」

『かもしれないわ♪ 今はもう12歳……ううん。13歳かしら』

「13ってアタシと同い年くらいですねー。……てか、13歳って……お姉さんが28歳で子供が13歳……!? つまり15歳出産!? いや、あり得なくはない年齢ですけど……マジですか……無くはないとは言え、今の時代(ほとん)ど無いですよ……」

『そんなに若い頃は流石に産んでないわよ♪』

「え? うん? どういう事ですかね」


 なんかさっきから微妙に会話が噛み合わない気がする。性格的にはアタシと合いそうだけど、話が少し変な感じ。

 特に異常がある様子も無いし、一回り以上年下のアタシを揶揄からかっているのかもしれない。自分のペースに乗せるのが上手い人だ。


「ス、スゴい……ボルカさん。初対面の人とこんなに楽しそうに話してる……けど本題が……」

「あ、そーだ! 本題忘れてた! 取り敢えず、そんな感じなんで出口無いですか?」

『出口……そんな物があるのか分からないけど、貴女達なら抜けられると思うわ』

「出口があるか分からないって……それこそ変な話じゃないですか?」

『ふふ。頑張ってね♪』

「えーと……はいです」


 なんか調弄はぐらかされた気がする。

 来た道があったんだから帰る道は当然ある筈。にも関わらず存在しないみたいな言い回し。まるで本当の事みたいな話術で思わず引っ掛かりそうになるや。

 応援はしてくれてるみたいだけど、取り敢えず当ては無いし探してみるしかないか。


「あ、そうだ。お姉さんの名前ってなんでしたっけ?」

『■■■よ。■■■・■■■・■■■■。あの子をよろしくね。ボルカさん』

「分かりました。■■■さん! ……あれ?」


 アタシ、名前教えたっけ? それに“あの子”……ってのはまあ、不安でオドオドしてるエメか。

 不思議な雰囲気の人だったなー。あ、そうだ。気になる事があったし聞いてみっか。


「その姓なんですけど、もしかして■■■さんってアタシの親友の親戚か何か……って、あれ?」


 よく聞く苗字だったんで訊ねてみようとしたけど、既に女性の姿は無かった。

 周りにはあの人が弾いていたハープがポツンと置かれている。座っていた場所の周りには色とりどりの花々が。

 なんだったんだ? よく分からないまま終わったけど、取り敢えずこのステージから抜け出す事にアタシとエメは改めて行動を開始するのだった。

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