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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部二年生
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第百八十九幕 二年目・都市大会準々決勝・決着

(これで決着を付ける)

「また再スタートだな(さて、どうしたものか。また慣らし始めたからその分の時間はあるとして、もう決めてくるだろうしな)」


 エメちゃんが再び雷魔法を己に宿し、一気に加速して翻弄する。

 光の軌跡は無数に増え、海中を揺らす。気泡が辺りを包み、通った後は熱と衝撃波で爆発に近い現象が起こった。

 その場に居ない私ですら感じる身の危険。雷の恐怖は本能に刻まれてるって言うもんね。そう思わない人も勿論居るし、多分ボルカちゃんは怖がらない側。

 だけどこの感覚を間近で感じるのはプレッシャー的な意味でとても強いかもしれない。


「取り敢えずもう貼っとくか……!」

(また炎の膜……今回は出すのが早いですね。あれに触れたら自動的に反応を示すのなら……!)


 体外へ魔力を放出し、その力を炎に変換。

 取り敢えず全方位を囲む。そうする事で相手が仕掛けてきたら炎の揺らめきとかで反応する事が出来るから。

 だけどそれはエメちゃんも分かり切っている筈。ボルカちゃんはそれについてどう対処するんだろう。


(これで決める……!)

(来そうな雰囲気だ)


 更に更に速く速く加速し、一つの軌跡がさながら幾何学模様のように映る海底ステージ。

 見ればボルカちゃんを囲う炎の膜が薄れていた。この水は本物の水じゃないから利用して相手の守りを削る事は出来ない筈。一体どうなってるんだろう……。


(この感じ……雷魔法だけじゃないな……)

(アドリブかつ初めての試みだけど、出来ない事は無い筈。雷魔法の身体付与と他の魔法の併用……!)

(魔法の同時使用。高速で動きながら水魔法か何かを使ってアタシの守りを削ってる……当人じゃなけりゃ環境利用でそうしてるように見えるだろうな……!)


 ボルカちゃんの守りが更に薄くなり、いよいよ体が剥き出しに。

 エメちゃんの速度も更に高まり水の中を突き抜ける。


(これでおしまい……!)

「……」


 一筋の軌跡が直線上に迫り、防御も崩れたボルカちゃんには成す術無し。

 光の軌跡が真っ直ぐ迫り、ボルカちゃんの体がレイピアに貫かれた。同時に放電。


「やった! ボルカさんに勝った!」

「……いや……まだ決まってないぜ……!」

「……!」


 次の瞬間、海底の更に底から燃え盛る炎が上昇した。

 その炎は水を蒸発させながら競り上がり、二人の体を飲み込んだ。


「これ……は……!」

「そうだな……この状況でなら“海底火山”とでも言っておくか」

「海底火山……そんな物ありましたっけ……?」

「さあな。あるかもしれないし無いかもしれない。もしあってもステージギミックなら大したダメージにはならないだろ? これはアタシが炎魔術で下準備していた火山だ」

「下準備……」


 曰く、ボルカちゃんは魔術をもちいて海底火山を準備していたとの事。

 いつの間にそんな事仕組んだんだろう……。ずっと見てたけど全く気付かなかった……。


「一体いつから……」

「最初からだ。少しずつ火種を下に落としてな。んで、魔力は大量に放出されるから自然とそれを吸収して大きくなった」

「そんなバカな……!」


 最初から……確かに私がティナで確認した時には既にエメちゃんと出会っていたし、何かを準備していても分からない。

 だけどそれが今の時点で上手い具合に発動するなんてそんな都合の良い事が……。

 エメちゃんもそれが気掛かりなのか、私の思考と同じような事を話す。


「何かしらの合図が無ければ発動しないと思いますけど……」

「全身を炎に包まれてんのに……割と長時間耐えるな。感電してるアタシもか。それについては完全に運と賭けだ。既にアタシはエメの考えを読み違えて危機に陥った……だったらと、発動までに時間も掛かる火山をすぐに噴火させちまおうって炎を込めたのさ」

「……! さっきより早かった炎の膜……!」

「その通り。どのタイミングで来るか分からないから、あの時点で作動させた。前述したように時間が掛かるから発動してもアタシがやられた後かと半ば諦めていたけど、エメがレイピアで炎の膜を小刻みに削ってくれて助かった」

「あの時点で……」


 今回の勝因。もしくは敗因は、エメちゃんの慎重な性格。ボルカちゃんの話を聞く限りその慎重な性格によって負けるかもしれないピンチに陥ったけど、慎重な性格のお陰で仕組んでいた火山の発動に間に合ったとの事。

 運の良し悪しが決めた試合だったのかな……ちょっと違うかも。読み違えた時点で運は悪い方に傾いたし、本当に性格によって決まろうとしているだけなんだ。


「……っ……意識が……」

「ハハ、アタシもだ……」


 火山に飲み込まれ、意識が遠退くエメちゃん。ボルカちゃんも電流と蓄積したダメージによってフラつく。

 どちらかの決着が付こうとした瞬間、私の意識はティナの感覚共有から戻される。



*****



「……来たわよ。ティーナさん」

「……! あの人、エメちゃんがボルカちゃんと戦っている間に回り込んでいたんだ」


「旗を貰い受ける!」


 ボルカちゃんとエメちゃんの勝負に決着が付きそうな頃合い。向こうのチームの人も攻め入ってきた。数は一人。作戦は私達と同じ感じみたい。

 ボルカちゃん達の戦いは基本的に高速戦闘。なので終了まで掛かった時間は実は短く、向こうの陣地からここに来るまでくらいしか経っていない。

 この人を倒せば私達も多少は自由に動けるようになり、メリア先輩の手助けにも行ける。

 勝負の行方は気になるけど、今はこちらが優先。旗を取られたらどの道負けちゃうから……!


「覚悟!」

「あら、私の本魔法がドンドン斬られちゃうわね。ほうきを使っているし、風魔法かしら」

「あの人……メリア先輩と去年戦った人!」

「今年も居るという事は、去年は二年生のレギュラーだったのね」


 エメちゃんとのチームメイトとは一通り面識がある。なので今回迫ってきた人も知っていた。

 と言っても一年上の先輩であり、ほうきに乗るくらいしか情報は無いし、最速で旗を取りに来たって考えるのが妥当かな。


「去年は不甲斐ない戦いをしてしまったが、このチームを任された身として成果を挙げる! エメだけのチームじゃないと見せてやろう!」


「スゴい気迫……」

「言葉からして相手チームのリーダー的存在かしら。意気込みが違うわね」


 暴風と共に突き進み、私達の正面へ。

 本魔法の鳥は破壊され、ディーネちゃんの反応速度じゃまだ間に合わないスピード。

 シャボン玉は植物で囲んでいるからまだ大丈夫として、動きを捉えない事には始まらない。


「一気に仕掛ける! “ウィンドカッター”!」

「斬撃……! 当然の判断だよね……!」

「そうね。樹にせよシャボンにせよ、斬撃には弱いもの」


 風の刃が放たれ、水を切って突き抜ける。

 私達の動きが水の中で鈍っているからか普通よりも速く感じる。しかも海底ステージだけあって結構暗いもんね。更に言えばさっきの戦いは炎と雷で明るかったけど、改めて戦ってみると視界自体が悪い。風の刃の軌跡が見えにくいや。

 水は除けられてるからそこから位置を把握しなくちゃね。その刃はなんとか防いだ。


「“トルネード”!」


 次いで竜巻を発生させ、水流を巻き込んで場を掻き乱す。

 攻撃と視界の妨害を両立するやり方。でもディーネちゃんが居るからその手の事柄は対処可能。


「“空間掌握・止”」

「……! 風が……!」


 空間魔術で竜巻を止め、これ以上場が荒れるのを防ぐ。

 向こうは一瞬驚くけど、即座に魔力を込め直した。対応の早さは流石。でも自由にはさせないよ!


「はあ!」

「……!」


 植物を一斉に押し付け、その体を吹き飛ばす。それによって意識が失われ、光となって転移した。

 これで防御は完了。後は誰が来るのか。メリア先輩が奪ってくれるのか。それまでの持久戦。ボルカちゃんが負けちゃっていたらエメちゃんが来る可能性もあるし、他の誰かかもしれない。あらゆる可能性を考慮した上で最善の策を狙わないとね。


「こういう時は……“フォレストゴーレム”&“フォレストアニマル”!」

『『『………』』』

『『『………』』』


 エメちゃんが来る可能性もある以上、私は自由には動けない。なのでこの子達を使って味方の援護が最善策。

 ある程度は自由に動けるし、味方のサポートをするようにプログラム……で良いのかな? 厳密に言えば違うけど、そうするようにしてある。

 後は本当に時間の問題。

 ボルカちゃん達の方の結果は気になるけど、まだ戦っている可能性を考えればメリア先輩のサポートをしてこちらの勝利を確実にした方が良い。なので今回はティナをそちらに先行させた。


──

───


「そーれ! “ウィンドキャノン”!」


「“ロックブロック”!」

「“フレイムレーザー”!」

「“ウォーターサーベル”!」


 到達し、映るメリア先輩の様子。

 一人で三人を相手取っているのを見るに、ボルカちゃんはここまで来ていない事が分かった。

 結果は分からないけど、もしエメちゃんが勝っているなら私達の方に来る筈。植物でシャボンを覆っているから破壊されたらちゃんと分かるようにしてある。

 そして相手チームの顔触れだけど、やっぱり去年とは結構変わってるね。試合終了後に挨拶に来た先輩達は進学したりでもうおらず、新二年生や三年生が主体のチームになってる。

 今のところ顔見知りはエメちゃんとさっき来た先輩だけ。前の練習試合を経て後輩達の方が詳しく分かるレベル。

 取り敢えずサポートサポート!


『『『…………』』』

「あ、ティーナちゃんの」

「……! あれは……!」

「人形?」

「いや違う……後ろの奴らだ!」


 そして今回は、ティナと共に森の動物達を同時にけしかけた。

 だからティナの姿が見つかっても問題無く、数の有利をこちらのものにする事が出来る!


「それ! みんなやっちゃって!」

『『『………』』』

「「「くっ……!」」」

「ふふ、流石のティーナちゃん。今のうちに行かせて貰うよ!」


 動物達が足止めする中、土魔法からなるシャボンの守りを風魔法と動物達の力を借りて破壊。

 風を打ち付け、腕力や顎で削る。


「くそっ! 押し切られる!」

「これが……」

「“魔専アステリア女学院”……!」


 次の瞬間、土球は砕かれ、シャボンは割れる。メリア先輩が風で加速して旗を奪取。

 動物達を撫で、それを掲げた。


「やったよー!」

《──勝者! “魔専アステリア女学院”ーッ!!!》


「「「わあああぁぁぁぁっっ!!!」」」


 そして私達は会場に戻るけど、そこにボルカちゃんの姿は無く、エメちゃんも見当たらない。

 という事は引き分けだったのかな? お互いに一歩も譲らない攻防だったもんね。

 何はともあれ、私達によるダイバースの準々決勝。それに勝利し、準決勝へと登り行くのだった。

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