第十九幕 祝・初勝利
『それでは再び登場だーっ! 今回のゲーム勝者、魔専アステリア女学院の皆様です!』
「「「どわああああああ!!!」」」
勝利が決まった私達が舞台に立ち、一際大きな歓声が響き渡った。
スゴい迫力……選手は私達の方だけど、こっちが気圧されちゃうよ……。
『見事な勝利を収めました! 主将ルミエルさん! 今回の戦いはどうでしたか!?』
「はい。今回は親善試合という事もあり、アテナロア学園の皆様と手合わせ出来た事を心より──」
慣れた口振りで今回の試合についてのインタビューを受ける。
この調子なら全部ルミエル先輩がやってくれるかな? それならいいんだけど。
『今回の形は元々四人でしたが、急遽中等部の一年生二人と貴女だけになってしまいましたが、勝因はなんでしょう?』
「こちらの二人が優秀だったからですね。相手が全国区のチームという事もあって不安でしたが、二人の実力を見てこれはイケると確信しました」
「フッ、半分は嘘だな。始めから勝つつもりだったろうに」
「ぐぬぬ……悔しいが否定は出来ねェ……!」
ルミエル先輩がインタビューを受ける中、舞台外では私達の副部長とバロンさんが話す。……今更だけど副部長の名前ってなんなんだろう。ナイトさんじゃなさそうだし……。
だけどルミエル先輩は最初から勝てるつもりだったんだ。それはちょっと嬉しい。
『では、話題に上がった今年から……というより一昨日から中等部に入学したこちらのお二人にインタビューをしてみましょう!』
「わ、私達も……!?」
「ハハハ。まあ、あの試合運びだとそりゃ目立つよなー。引き分けとは言え、相手の主将を取った訳だし」
司会者さんが音声伝達の魔道具を私達の方に向け、話を聞く体勢に入っていた。
最初はボルカちゃんからだけど、私に受け答えなんて出来るかな……。
ルミエル先輩とボルカちゃんを参考にしよう!
「ボルカ・フレムさん! 貴女は元々天才魔法使いとして界隈では有名でしたね! 今回このゲームに参加した切っ掛けや、今後の方針など教えて下さい!」
「切っ掛けは些細な事ですね。隣に居る友人が誘ってくれたんです。アタシ自身、元々興味があったので折角の機会と判断して参加しました。まだ正式な部員ではないので今後の方針については不明瞭ですね」
『なるほどなるほどぉ。切っ掛けはご友人でしたか。では、そのご友人へ窺ってみましょう!』
「は、ひゃい!」
噛んじゃった……。恥ずかしい……。
突然の流れ弾はビックリだよ。こんな感じでスッて入ってくるんだ……。
『貴女は珍しい人形魔法。そして高度なエレメントの組み合わせからなる植物魔法を使っていましたね。誰から教わったのですか?』
「はい。それはマ……母が使っている魔法で、昔見せて貰ったのを参考にしました……」
思わずママって言いそうになったけど、こういう場ではこっちの呼び方の方がいいんだよね……?
司会者さんは更に訊ねる。
『という事は、人形魔法も植物魔法もお母様からの相伝の魔法という事ですね!』
「えーと……はい。多分そうだと思います」
『娘さんがこの様な魔法を使えるだなんて! お母様も誇らしいでしょうね!』
「はい。母もきっと──」
【──貴女を産んで……本当に良かったわ】
「天……」
……あれ、なんだろう。天……なんて言おうとしたの? 天国? なんで? ママは生きてるのに?
それにこの記憶……なんか……変……。ママは私の所に居てくれる。今は目立たないように話さないけれど、ずっと見守ってくれているもん。何も変じゃない。だけど今の記憶は変……。
「喜んで……くれて……」
『……? ティーナさん?』
司会者の声が遠退く。なんだろう。なぜか涙まで出てきた。
ママは居る……ずっと居る……ずっと私の近くに居てくれてる……。
「……。……どうやらティーナさんのお母様は彼女の事を誇りに思っているようですね。それと同様に本人もお母様の事をとても信用しているみたい」
『え? あ、そうですね。確かにそんな様子です』
「けれど今日は初めてのゲームという事もあって、傷が癒えてもちょっと疲れちゃったみたいね。緊張し過ぎているもの。ここからは私が全部答えるわ。先輩風吹かせなきゃね!」
『おお! これは頼れる先輩ですね! ではお言葉に甘えてガンガン質問して行きますよ~! ルミエルさん! 彼氏さんとか居ますか?』
「その質問は少し違うわね!」
その言葉に会場から笑い声が。
私の様子を気に掛けてか、ルミエル先輩が遮るように全ての注目を自分へ寄せた。
あ、なんだろう……。少し動悸が収まったかも……。ママは居る……それは変わらない……今日はママと沢山お話ししなきゃ……。
悶々としているうちに質問が終わり、バロンさん達の方へと移った。
『それでは、お次は惜しくも敗れてしまったアテナロア学園の皆様にお話を窺いましょう!』
「皮肉か貴様。オレは兎も角、コイツらは終始翻弄されて完敗だったろーが」
「バロン。君の負けも変わらない事実だ。君がもう少し早く来てくれたらまた戦況も変わったんじゃないか?」
「違ェ無ェ……次は勝つ!」
『あの、まだインタビューしてませんよ……』
バロンさん達も受け答えは慣れてる様子……というか自分のペースを突き通してる……。私もあれくらい出来るようにならなきゃ……!
今日は上手くいかなかったけど、参考になる事は色々あった。もし次の機会があったらもっとちゃんとしよう。
そう心に誓い、インタビューを終えるのだった。
*****
──“魔専アステリア女学院、部室”。
「それじゃあ、勝利を祝してお茶にしましょうか!」
「「「おー!」」」
「相変わらずだな。ルミ」
「うーんと……」
「これはなんですか……?」
ゲームが終わり、転移の魔道具で夕方頃学校に着いた私とボルカちゃんはルミエル先輩の案内の元部室に連れられ、入った先には他の先輩達がティータイムの準備をしていた。
テーブルに立ち並ぶ紅茶。中心に置かれたスタンドには下からサンドイッチ、スコーンにケーキが積まれており、大皿には色鮮やかなクッキーやビスケットが置かれて美味しそうな雰囲気が漂っていた。
私達は呆気に取られ、ルミエル先輩が説明する。
「見ての通り祝勝会よ。貴女達の初勝利のね。お祝いしなくちゃ勿体ないでしょう♪」
「祝勝会……」
「豪華だなー」
祝勝会。ちょっと大袈裟な気もするけど、嬉しいかも。
元々ルミエル先輩達はティータイムをルーティンの一つに組み込んでいて重視しているもんね。私達の為に準備してくれたんだ。
私達は椅子に座り、ルミエル先輩が直々に紅茶を淹れてくれる。
「あの、こう言うのって後輩の私達が淹れた方が良いんじゃないでしょうか……」
「いいのよ。私、お茶を淹れるのも好きなの。お茶菓子も大好きだけどね。それに今回は貴女達の祝勝会なんだもの。心身の疲労を癒して頂戴!」
「あ、ありがとうございます!」
トットットっと紅茶が注がれ、湯気が立ち上る。
なんて優雅な一時。屋敷でお茶会をした事もあるけど、その時はママとティナだけだったからみんなで一緒にするのは楽しい。
あ、もちろん二人としたのも楽しかったよ!
「では頂きましょう」
「はい」
「はーい」
先輩の言葉と同時に紅茶を一口。芳醇な香りが鼻腔へと伝わり、口いっぱいに仄かな甘味が広がった。
昨日も飲んだけどルミエルさんの淹れる紅茶はスゴく美味しい。甘さ控えめの紅茶には甘いお菓子がよく合う。あれ、けど最初はサンドイッチから食べるのがマナーなんだっけ。
「フフ、一瞬止まったわね。何を食べるか迷っていると見たわ」
「す、スゴい指摘……! 今までもボルカちゃんとかによく言い当てられたけど……私ってそんなに表情に出やすいですか?」
「それなりにね。ティータイムは楽しむのが目的。マナーも大事と言えば大事だけど、一番のマナーは心置き無く満喫する事よ♪」
「わ、分かりました……! 気合い入れて楽しみます……!」
「うーん……力んで楽しむのはまた違うような……無理に合わせず貴女のペースで良いのよ」
「はい!」
「ふふ、初々しい子の反応を見るのも楽しいわね♪」
取り敢えずこの時間はとことん楽しむのが目的みたい。
それならそれに乗っかろうかな。なんとなくインタビューから調子が優れなかったし、その鬱憤を晴らす気概で思い切り楽しんじゃお! お腹も空いてるからね!
「このお菓子美味しいですね!」
「そうでしょう? 特別腕に縒りを掛けて作ったわ!」
お茶会を満喫するうちにモヤモヤが軽くなってきた気がする。
本当になんだったんだろう。さっきの動悸と息切れ……何かの病気かな? 病気……病気って単語にはなんとなく嫌悪感が生じる。そりゃ病気は怖いけど、別方面の恐怖とか、誰かが居なくなったような──
「ティーナ! お菓子だけじゃなくてサンドイッチもイケるぜ! 満遍なく食べよう!」
「ボルカちゃん。……うん、一緒に食べよ!」
ルミエル先輩に続き、ボルカちゃんと話すとまた心が軽くなるような感じがする。
よく分からない問題。だけど深く考えるのはそれこそ良くない事みたい。
私達はお菓子を摘まみながら祝勝会を楽しむのだった。