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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部二年生
189/457

第百八十八幕 二年目・都市大会準々決勝

 ──“都市大会・二日目・準々決勝”。


 初日が順調に終わった今日、いよいよ始まる準々決勝。

 対戦相手は一回戦終了時点で予想していたチーム。


多様の(ダイバース・)戦術による(タクティクス・)対抗戦(ゲーム)! 都市大会二日目、準々決勝第一試合は! 前回大会の王者、“魔専アステリア女学院”vs前回大会で決勝を行ったエメ・フェアリ率いる──》


 司会者さんが口上を述べる中、私達は舞台の方へ。

 エメちゃんのチームは強敵。エメちゃんが特筆している印象が見受けられるけど、他の人達もレベルアップした筈。私達と同じようにね。

 新生チームで挑むには十分過ぎる相手。今まで以上に勝つか負けるか分からない。より集中して挑まなきゃ!


《それでは開始しましょう! 準々決勝、“旗取りゲーム”!! スタァァァトォォォーッ!!!》


 告げられると同時に転移の魔道具で移動。

 旗取りゲーム。ルールはお互いの陣地にある旗を奪い合う、取られたらその時点で負けのシビアなもの。

 よく海でやってる人も居るよね~。それがダイバース仕様になったら白熱した物になると思うよ。

 取り敢えず、頑張ろー!



 ──“海底ステージ”。


「……って、旗取りゲームなのにステージは海底!?」

「肝心の旗はシャボンに包まれてるな~」

「呼吸は出来るけれど、浮力があって動き辛いわね」

「水の中でも構わず突き進むよー!」

「水は私の得意魔術ですので……なんとかします……!」


 今回のメンバーは私とボルカちゃんにウラノちゃん。そしてメリア先輩とディーネちゃん。

 旗取りゲームだから速度重視のボルカちゃんとメリア先輩は確定として、旗を守る私に臨機応変に対応出来るウラノちゃん。そして利便性の高い空間魔術を使えるディーネちゃんと言う布陣。

 今までの試合も例外は無いけど、今回は相手がエメちゃんだからね。今まで以上に気合いを入れなきゃ。

 そんな試合が開始される。


「それじゃ、ボルカちゃん。メリア先輩。後は頼みます!」

「任せとけ!」

「オッケー!」


 海底ステージとは言え、炎魔術や炎魔法が使えない訳じゃない。あくまで動きとかそちら方面での感覚だからね。

 なので二人は一気に加速して相手の陣地へ攻め入る。

 ボルカちゃんは炎魔術で推進力を高め、メリア先輩は風でスクリューのようにして移動速度を上げた。

 私はママの植物魔法でシャボンを更に包み込んで完全防御。ウラノちゃんは本の鳥達を出し、周りの守備を固めた。

 ディーネちゃんは主に対人メインだからまだ待機中かな。

 今のうちにティナも先行させ、エメちゃん達の行動を窺ってみる。


「お、やっぱり攻めてくるのはエメだな!」

「ボルカさん……!」


 向かわせた瞬間、ボルカちゃんと対面するエメちゃんの姿が。

 周りにチームメイトの姿はなく、単独で行動しているのが分かった。

 ボルカちゃんとメリア先輩も二手に分かれており、正面を一直線に進んでいたボルカちゃんが彼女と鉢合わせたって感じだね。


「先手必勝! “フレイムスピア”!」

「旗を取りに行かず、攻撃ですか……!」

「相手チームの最高戦力を倒しておくのは定石だろ? アタシがエメを無視して旗を取りに行くメリットとエメを倒すメリットには大差無し! どちらも同じくらいの功績になる!」

「そうですか……!」


 炎魔術からなる火の槍でエメちゃんを突き、彼女はかわして身を翻す。

 そのまま風を操り、ボルカちゃんへ渦巻きを放った。


「風が水流を起こして……!」

「貴女も向こうの最大戦力ですけど、私が貴女を倒すよりは無視して旗を取った方がメリットは大きいですから……!」

「ハハ、そうかもな。アタシらは全員が強いから向こうの最高戦力を一つ欠くだけで一気に優位になるからな!」

「私の仲間達も強いです!」


 お互いの仲間自慢を挟み、渦巻く水流をボルカちゃんは熱で突破。

 その間にエメちゃんは加速して抜け出すよう試みるけどボルカちゃんは回り込んでそれを阻む。


「もっと強くなきゃアタシは抜けないぜ!」

「その様ですね……!」


 炎剣を作り出して薙ぎ、それをレイピアの模擬刀で防御。二つの軌跡にある水は払われ、二人の体は弾かれる。

 だけど水の中なのもあってそんなに距離は離れず、浮力でお互いの体勢も変わる。

 本来なら踏ん張る所だけどそれが働かず、逆さまになったり少し回転したりしちゃうみたい。


「そう言や、海底ステージとかで戦う経験はそんな無いしな。動きに慣れなきゃならないか」


「互いの攻防すら大変ですね……!」


 でも流石の身体能力。空中でも上手く体勢を立て直し、二人はお互いに向き直る。

 立ち泳ぎの要領でその場に留まっているけど、踏み込みも効かないから自由度は低くなってるね。二人の得意な機敏性は損なわれてるや。


「ま、そういう時は無理矢理整える!」

「同感です!」


 炎と風を使い、鈍くなる動きへの対処。

 基本的に直線移動が多くなっちゃうけど、両者条件は同じ。即座に状況を判断出来る空間把握能力とかの方が重要になるかもね。

 すれ違い様に水の中で炎と風がぶつかり合い、また周りの水が巻き上がる。同時に蒸発して一部が消え去った。

 その分は即座に周りが埋め、エメちゃんは姿を眩まして移動。


「基本的に逃げの一手らしいな(向こうにはティーナ達が居るから大丈夫とは思うけど、やっぱエメとも本格的に戦いたい。……でも逃げられたか?)」


 一言だけ呟いて踏み込み、エメちゃんの気配を探って火炎を放出。周りの水を消し去った。

 その水流の中からエメちゃんのレイピアが突き出された。


「……! へへ、逃げたんじゃなかったのか!」

「はあ!」


 水流を巻き込んだ刺突がされ、ボルカちゃんは炎剣で受け流すように逸らす。

 次の瞬間にバチバチと小さな破裂音がほとばしり、目映い光と共に水中へ雷撃が広がった。


「……っ」

「そこです!」


 雷で視界は悪いけど、ボルカちゃんがピンチなのは分かった。感電しちゃったみたい。

 でも私はここから動けないし、私の速度じゃあそこに行くまでに勝負が終わっていてもおかしくない。

 それによって陣地に攻め入られたら元も子もないもんね。ボルカちゃんを信じるしかないや。最初から信じてるけど!


「今のうちに……!」

「目眩ましと怯ませて即移動か……! 徹底してるな……!」

「……! 体の痺れで動けない筈……!」

「体はな……! 魔力操作にも若干の支障はきたすけど、使えない訳じゃないんだ!」

「炎魔術を巧みに扱って……!」


 流石ボルカちゃん!

 肘や足の裏とか、部分的に炎を放出して麻痺した部分の動きを可能にしてるみたい!

 炎の遠心力による回し蹴りを避け、咄嗟に腕でガードするけど弾き飛ばされる。

 その懐へと迫り、至近距離で火炎を放出。エメちゃんは水の中を回転するように吹き飛んだ。


「痺れも取れてきたぜ!」

「回復が早い……!」


 その先へボルカちゃんが先回りしており、体勢を立て直した直後のエメちゃんへ炎剣を振り抜く。

 彼女もなんとか立ち回り、悪い体勢のままレイピアを振り抜いて防御。そこから回し蹴りが放たれ、エメちゃんの体勢がまた崩れる。


「“ファイアショット”!」

「……!」


 至近距離から放たれる炎の攻撃。

 直撃したエメちゃんは怯み、間髪入れずボルカちゃんはけしかける。


「“加速脚”!」

「……っ」


 炎によって速度を上げた蹴りを放ち、エメちゃんの姿はボルカちゃんの前から消え去った。


「……おっと?」

「ここではあまり使いたくなかったんですけど……やられたら元も子もありませんから……!」

「成る程な。本気モードって訳だ……!」


 バチバチと火花を散らし、迸らせるエメちゃん。

 彼女の真価、雷魔法の身体付与。

 雷魔法だけなら使っていたけど、本領を発揮するのはその力を身に宿してから。

 この状態の彼女は、まさに雷その物って言った感じ。エルフ族の精密な魔力操作と膨大な魔力が成せる技だね。


「行きます……!」

「っし、来い!」


 返答した瞬間に消え去るような速度で移動し、ボルカちゃんの肩をレイピアで貫く。

 ルール的に急所は外しているけど、それでも十分なダメージになってしまう。

 なぜなら今のエメちゃんのレイピアに付与された力は──


「……ッ!」


 ──体内に直接電流が走るから。

 前より更に動きに磨きが掛かっているね。練習試合の時はお互いに新入生以外は本気を出さないやり方だったから、たった一年でこんなに成長しているなんて思わなかった。

 このままでは意識を失うのも時間の問題。ボルカちゃんは周りに熱を集め、一気に発火させた。


「……! 自爆覚悟で……!?」

「へへへ、炎の使い手は火耐性が高いからな……!」

「どういう理屈ですか!?」


 肉体構造はそんなに変わらない筈だけど、妙に説得力のある理屈で捩じ伏せる。

 要するに気合いと根性って事だよね。それもボルカちゃんの精神力あっての御技。


「でも確かにダメージは受けている筈。一気に終わらせます!」

「流石に雷速は見えないかー。速えなー(厳密に言えばエメの速さは雷速の1/10くらいだろうけど、第三宇宙速度以上はあるから捉え切れないや。なんなら水の中だからまた速度に少し変化があるし)」


 高速で移動するエメちゃんの軌跡のみを目で追い、呟くように軽口を叩く。

 簡単な言葉だけど、わざわざ口に出して話しているという事は結構ギリギリみたい。意識を失わないように言い聞かせてるって事だもんね。それと同時にエメちゃんの動きを推測くらいはしている筈。

 どう転んでも決着は早めに着くと思う。


(んでも、前のティーナ戦を見る限り向こうも自分の速さは制御し切れていない。今は少しでも正確にする為慣らしている最中って訳か。あー、やべ。フラついてきた。キツい日でもこのレベルはあまりいかないぞ。傷痕は痛いし痺れは中々取れないし……)


 ゆっくりと呼吸をし、静かに軌跡を見届ける。

 その瞬間にエメちゃんは方向を転換し、ボルカちゃんの体を掠った。


「ハハ、仕掛けてきたな……(って事は大分慣れてきたって訳だ。けどもこの速度でアタシ達の陣地まで移動しないのは、時間内に旗を取れるか分からないくらい使用時間は短いからかな。あと三回以内にはトドメを刺してくる筈……狙い目はそこで、対処が間に合わなけりゃアタシがやられる)」


 一言だけ呟き、エメちゃんの動きを観察。

 ティナ越しの私では最早もはや何が起こってるか分からない状態。でも、決着が近いのだけはなんとか分かる。


((トドメを刺すタイミングは──))


 電流の軌跡がまた少し動きを変え、徐々にボルカちゃんとの距離を詰める。

 二人の周りに更なる魔力が広がっているのが確認出来た。


((次の次です(この次だろ)……!))


 二人の思考が整ったのか、エメちゃんはボルカちゃんへと迫る。その周りには炎の膜が貼られていた。


「……!」

「そこだ!」


 エメちゃんがその膜に突入した瞬間、ボルカちゃんの反応が間に合い炎剣が通り道を切り裂く。

 それによってエメちゃんの動きが鈍くなり、一定の距離を置いて停止。ボルカちゃんは水の中でも分かるような冷や汗を掻いていた。


(……あちゃー……読み違えた)

(あ、危なかった……今のはあくまで距離の調整……そうじゃなかったら軌跡の上……そのまま斬られてた……!)


 エメちゃんが負ったのは掠り傷。意識を奪うまでは届かない。

 対するボルカちゃんも直撃は避けたけど息も荒くなり、もう限界が近いと言った面持ちだった。


(でも仕掛けて来たという事はトドメを刺すつもりだった。炎の膜を周りに張る事で私の動きの探知。自動的な反応を起こしたんだ。だったらそれだけに気を付ければ……次の一突きで倒せる……!)


(……的な事を考えてるんだろうな……。マジだから困る。エメもエルフだけあって頭の回転が速い。んで、それに対するメタ的な防衛手段を見つけなきゃ次の瞬間にはアタシの負けが決まる。……けど……地味に掠り傷でも体内に電流が巡ってアタシにダメージが蓄積してるんだよな……さて、困った)


 二人は向き合ったまま動かない。相手の出方を窺っているのかな?

 そうだとしても、見てるだけの私視点ですらボルカちゃんの不利は明白。どうなっちゃうんだろう……。

 先行しているメリア先輩の動きも気になるし、エメちゃん以外にも向かってきてるであろう相手陣営も気掛かり。まだウラノちゃんやディーネちゃんに反応は無いし、植物魔法の壁が突破された気配も無いから、この二人以外はしばらく硬直状態が続きそう。

 ダイバース都市大会準々決勝。エメちゃん達のチーム。やっぱりスゴい強敵だよ。

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