第百八十五幕 二年目・地区大会決勝
「やったな。ティーナ指揮での公式大会初陣、初勝利だ!」
「うん。ボルカちゃん!」
「ふふん、やはり私の実力あってこそですわ!」
「してやられた挙げ句、意識を失い掛けていた者が何を言う」
「ま、ウチらもそうなんだけどね~」
「完全に油断しちゃってましたね。気を付けないと」
一回戦を突破し、控え室で後輩達は少しはしゃいでいた。
まだ地区大会の一回戦だけど、初勝利って嬉しいもんね~。私にも分かるよ!
「まだまだ粗は目立つわね。本人達がそれを自覚しているからいいけど、この調子で地区大会、都市大会、代表決定戦、代表戦まで行けるのかしら」
「全部不安なのですか……」
「改めて試合多いなー」
「一回戦でこの有り様。不安に思われるのは仕方無いですか……」
「ですわね。油断が招いた失態……今後二度とこう言う事の無いように励まなくては……!」
ウラノちゃん的にはどの時点でも不安が残る結果だったみたい。
けれどその言い分は一理ある。油断大敵とはよく言ったものだねぇ。
ウラノちゃんが言うように、ディーネちゃん達は自分で不覚を理解しているから同じ轍を踏む事はないと思うけど、気を付けないとね。それは私にも当て嵌まるから肝に命じておかないと。
「ま、なんにせよ一回戦は無事突破。二回戦以降は出番が減るかもしれないけど、しっかり準備はしとけよー。戦力になるのは今回で分かったからな!」
「「はい!」」
「「はい!」」
ボルカちゃんの言葉に返す後輩達。ホントに素直で良い子達だよねぇ。
このままの調子で行ける所まで行っちゃおー!
──“二回戦・魔導庭球”。
「食らいな! “ファイアショット”!」
「くっ……打ち返せない……!」
「ディーネ!」
「うん! リゼちゃん! “空間掌握・止”!」
「ボールが空中で……!?」
「空間魔術か……!?」
「“空間掌握・弾”!」
「“加速風”!」
「超速でボールが……!」
「止められ……!」
「庭球は紳士淑女のスポーツ。ふふ、私にピッタリですわね」
「光魔法の目眩ましが淑女の在り方か!?」
「もう負け確だが、せめて一試合は貰い受ける……!」
「そう。譲ってあげても良いけど……」
「……!?」
「手を使わなくてもアナタに勝てるのよ」
二回戦の魔導庭球。ボールに魔法・魔術を付与したりして行うルール。シングルスが三試合でダブルスが一試合。
それは私達“魔専アステリア女学院”が圧勝した。でも庭球ってもっと落ち着いた物の筈なんだけど……発火したり急停止からの急加速があったり視覚が奪われたり一人の相手が複数に増えて戦うモノだっけ……?
これがダイバースの魔導庭球。ルール無用だね……。
──“三回戦・ほうきリレー”。
「炎魔法って、レースにめっちゃ良いよねー!」
「くっ……同じ火なのに追い付けない……!」
「土魔術で速度は上げられませんが、元々差が空いていたらこれ程便利な物はありませんわ!」
「くそっ! 遮蔽物が次から次へと……!」
「ハハッ! 遅いぜ!」
「炎魔術の練度が違い過ぎる……! これがボルカ・フレム。ファーストレースのギャルよりも遥かに速い……!」
「植物魔法って絶対レース向きではないよね……」
「くぅ……! そう言っている割には棘に大木に蔦のネットに……! 本人は植物に乗って更に加速を……!」
「本家本元本命の私が来たー!」
「な、なんだこの箒捌きは……!? 最終レーンの複雑な道筋を的確に最速で突き進んでいる……!」
三回戦。一日目の最終試合はほうきリレー。
ほうきレースと殆ど同じだけど、全員で一斉に進むんじゃなくバトンを渡して力を合わせた一位を決めるというもの。
この試合には速さに自信がある選手を集めたから余裕を藻って勝利を収める事が出来た。
速さならディーネちゃんやリゼちゃんが出ても良かったけど、まだまだ不馴れな大会だから一年生は一試合毎に変えるって感じにしたの。
一回戦の全員参加は例外だけどねぇ~。
何はともあれ、これで地区大会の初日が終わった。
後はこの数日で全てを終わらせて間を開けてから都市大会、そして去年は勝てなかった代表決定戦に臨むよ!
──“数日後・地区大会・最終日”。
初日と二日目も無事に終わった更に後、私達は再び会場へ足を運んでいた。
この数日は順調に勝ち上がれたからね。今日も頑張らなきゃ!
今日勝てば晴れて都市大会へ移行出来る。地区大会の準々決勝辺りからは既に都市大会レベルのチームが来るから昨日も結構大変だったよ~。
何はともあれ、みんなも調子良いので期待は出来る。
《さあさあさあ! 今日の勝利チームはいよいよ都市大会への切符を手にする事が出来ます!! それでは参りましょう!!! まずは地区の絶対王者“魔専アステリア女学院”ンンンッ!!!》
「「「わあああぁぁぁぁっ!!」」」
司会者さんの言葉と同時に入場。お客さん達の盛り上がりて和会場が大きく揺れる。
代表戦とかと比べると劣るけど、それでもかなりの盛り上がりを見せているね。最初の頃は地区大会の盛り上がりですら怖かったっけ~。
私達に続き、相手チームの紹介も入る。そしてある程度の口上を述べた後、壇上の私は今回のステージへと赴いた。
《さあ! 今回のルールは“魔球で点取りゲーム”! 魔道具からなるボールを相手のゴールに入れ、多く点を取ったチームの勝利となります!》
ルールは“魔球で点取りゲーム”。なんか初等部のレクリエーションでやりそうな名前だけど、似たような事はやってるね。
何はともあれ、地区大会の決勝戦が始まる。
*****
──“点取りゲーム”。
「お、今回はこんな感じなんだ」
「成る程なー。数百メートルのコート。んで、陣地の後ろにゴール。中心にある、浮いているボールを奪取して入れりゃ良いのか」
今回のステージは、ステージというよりも大きなコートと言った方が正しい表現かな。
そんな場所が舞台。人数は五人だから守備と攻撃で上手く分けなきゃね。
ある程度の作戦会議は控え室でしている。何の情報も無しに決勝戦は始まらないからね。それくらいの猶予はあるの。
参加メンバーは私とボルカちゃん、メリア先輩にウラノちゃんとディーネちゃん。
ボルカちゃんとメリア先輩はスピードが速いから前衛で相手のゴールを狙う役割。一つの能力に様々な力を有する本魔法のウラノちゃんと空間魔術のディーネちゃんが中軸を担い、広範囲を守れる私が後衛の守備に当たる。
結構良い陣形なんじゃないかな。このルールでは大会運営の審判もおり、今笛の音と共にスタートした。
「迅速に奪い取るよ!」
「そっスね! 先輩!」
開始と同時にメリア先輩とボルカちゃんが風と炎で一気に加速。
中心に置かれたボールを手に取り、互いにパス回しで繋げながら相手の陣に切り込む。
「なんて速さ……!」
「だが、それを想定してゴール付近は三枚重ねだ!」
三人の守護陣がボルカちゃん達を迎え撃つ。
向こうは防御中心の陣形を組んだみたいだね。攻撃二人。中軸二人。守護一人(四人)の私達が攻撃寄りのバランス型なら相手は鉄壁の防御って感じ。
だけどあれくらいなら、ボルカちゃんとメリア先輩の敵じゃない!
「ハッ! その程度の防御は簡単に突破出来るぜ!」
「その通り! 私達の速さは捉えられないよ!」
「「「…………!」」」
二人は三つの壁を容易に突破し、そのまま炎と風で加速したボールを相手のゴールに打ち込み一点を先制。
「っしゃあ! 一点先取!」
「やったね!」
「なんて速度……」
「スピードがそのまま攻撃に繋がっている……!」
「こんなに差があるとは……!」
相手のレベルも勿論高い。だって地区大会の決勝まで上り詰めたチームだから。
だけど私達は更に上のレベルを知ってるからね。なんならルミエル先輩のような世界最強ともダイバースをした事がある。
そう簡単にはやられないよ!
「くそっ。だが次はこちらが攻撃だ!」
「俺達で駆け抜ける!」
点を取ったら次は相手ボールでスタートする。
向こうも攻めには炎と風の使い手を配置しているから速攻で仕掛けて来るね。
でも中軸もスゴいよ!
「私、体育会系はあまり好きじゃないのだけれど」
「「……!?」」
ウラノちゃんが本の壁を造り出し、二人の動きを止める。
そこに向け、ディーネちゃんが仕掛けていた。
「“空間掌握・引”!」
「ボールが……!」
「空間魔術……!」
一瞬でも動きを止められれば空間から引き寄せる事が可能。
ボールを奪取し、そのままボルカちゃん達にパスを回す。
「二点目!」
「させるか! “岩石落とし”!」
「“地割れ”!」
「“グランドウォール”!」
一気に加速するボルカちゃんへ、土魔法や魔術を使う三人がそれぞれで壁を形成して防ぐ。
流石の決勝戦。魔力出力はとても高い。だけど壁や岩の雨、足元の地割れだけじゃボルカちゃんは止まらない!
「やるじゃねえか!」
「くっ……!」
「まさか全てを……!?」
「なんと言う身の塾し……!」
降り注ぐ岩を躱し、地割れを踏み跳び、壁を越え、手に魔力を込めて火炎を放出。ボールはゴールへ吸い込まれる。それによって二点目を取った。
次に相手は空中からウラノちゃんとディーネちゃんを飛び越えて迫る。ゴール前まで来たけど、そこでは私が守ってる!
「うおおお! “突風掌”!」
「“加速炎”!」
風の勢いでボールが射出され、炎で加速。加速系の魔法は結構色んな人が使えるんだね。
でもこのくらいの威力、全国で戦った人達の攻撃の方が遥かに上!
「“樹木壁”!」
「止められた……!」
「樹に火が負けるなんて……!」
木々からなる壁で止め、蔦でボルカちゃん達の方へパス。
今度は三人がゴール前に立ちはだかった。
「ならばボールの通り道を塞ぐのみ!」
「この多重の岩からなる壁を攻略出来るか!」
「今度こそ止めて見せる!」
魔力を込め、土の壁を複数枚生み出してゴールを完全に閉鎖。
ボルカちゃんはメリア先輩にボールを渡し、自身は掌に魔力を込めた。
「んなもん、正面突破だ! “爆炎”!」
「「「なっ……! 岩が火に……!?」」」
「これで三点目ー!」
炎の爆発を起こして岩の壁を砕き、その瓦礫を抜けてメリア先輩が高速で到達。そのままゴールへ押し込み三点目を取った。
「くっ……まだだ……!」
「まだ負けてない!」
「意気消沈しないのは見事だ! アンタらはまだまだ強くなれるさ!」
それからの試合展開は一方的とも言えるものだった。
相手のゴールは破られ、こちらは完璧に防ぐ。まだまだ相手はやる気を無くさず、試合終了のその瞬間まで全力で臨んでいた。
「今度こそォ!」
「……うん。アナタ達はとても強かったよ!」
風と炎がボールを包み、高速回転して空気を切り裂きながら突き進む。
ママに力を込めて大樹を生やし、いくつかは貫かれたけれど、ゴールは完全に守り切った。
「くっ……!」
「これが“魔専アステリア女学院”……世界レベルのチーム……!」
《試合終了ーッ! 10-0で勝者“魔専アステリア女学院”ンンンッッ!!!》
「「「どわあああぁぁぁっ!!」」」
試合の終わりが告げられ、結果が分かる。
試合時間は三十分くらいかな。それで得た点数は十点。何度かゴール前まで来たけど、完璧に防いで見せたよ!
司会者さんから言葉が続けられる。
《これにより! 次回行われる都市大会への切符を掴んだのは“魔専アステリア女学院”となりましたァーッ!!!》
「「「わあああぁぁぁぁっっ!!」」」
「やった! 都市大会決定!」
「とても強かったよ。“アステリア学院”の皆さん。俺達の分まで頑張ってくれ」
「ああ! アタシ達が成果を出せば出す程にアンタらの強さも露見する! すげぇレベルの高い地区大会だったと知らしめてやるぜ!」
「ふふ、それは良かった」
相手のリーダーとボルカちゃんは握手を交わす。これも大会の醍醐味だよねぇ。
本来ならこんなに点差が開いた時点でやる気を無くしてもおかしくない。でもそうはならなかった。根性があるこの人達は来年、もっと強くなって来るよね。
それまで私達も負けないように頑張らなくちゃ!
《ご覧いただきました一戦は──》
司会者さんも締めに入る。後は閉会式を終わらせて、次の都市大会に備えて特訓だね!
ダイバースの地区大会。私達は見事優勝を飾り、終わりを迎えるのだった。




