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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部二年生
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第百八十幕 的当てゲーム・決着

『ゲギャア!』

「そう言えば、こう言う獣形体の相手は初めてかも……!」


「前回は違ったんだ」

「前は人型の魔物の育成を中心におこなったからな。今回は獣や鳥型中心だ」

「そんな風に決めてるんだ~」


 相手の一匹が爪を放ち、それをかわしたサラちゃんが話す。

 一概に魔物と言っても人型や獣型と様々。シュティルさんは順番に後輩達を育成しているらしい。

 ステージを変えたのもそれが理由かな。相手に合わせてるんだ。


「“火球”!」

『ゴギャア!』


 サラちゃんが放った火球へ相手の魔物は火炎で対処。二つの炎がぶつかり合って文字通り火花を散らし、辺りを飲み込みながら霧散した。

 今の攻防では誰の的にも当たっていない。その空中ではリゼちゃんと翼の生えた魔物がせめぎ合いを織り成す。


『人間にしては空中移動が上手いな』

「風魔術を扱うものでな。自然と動きは身に付くんだ」


 風の刃と暴風が衝突し、周りの瓦礫を巻き上げる。その瓦礫は土の壁にぶつかって止まった。


「ホホホ! 魔物の方でも正面衝突は厳しいでしょう!」

『確かにそうだが、砕けば問題無い!』


 岩と見紛う土が放たれ、正面から突進で粉砕する。

 流石の肉体強度。私達より遥かに頑丈。その分私達は魔力の精密操作で強化出来るけど、単純な強化なら魔物のみんなも可能だから総合的な防御力は人間が劣っちゃうね。

 でも、その全てを無礙むげにする子が私達の仲間に居る。


「“波動水流”!」

『『『『…………!』』』』


 ディーネちゃんが水を広げて一気に押し出す。

 相手は大波に飲まれて飛ばされ、また一つ転移の光が目に映った。


「フム、この広範囲魔法。些か此方側に不利過ぎたか」

「ご、ごめんね。魔力の放出だけしかしてなくて。これじゃ練習にならないよね……」

「何を謝る? ステージは私達が選んだのだ。つまり地の利は此方にある。その上で単純な魔力の放出に押されてしまうのは私達の実力不足と言う他にあるまい。課題が見つかったのは良い傾向だ。更に鍛えられる」

「そ、それなら良いけど……」


 結構厳しく指導しているみたいだね。シュティルさん。

 私達も決して甘やかしてるって感じじゃないけど、この向上心は見習わないと……!

 何はともあれ相手の数は残り二人。炎を吐いていた子と空を飛ぶ子。位置関係から当たらなかったみたいだね。

 その二匹は互いに集まり、力を込め直した。


『残るは我らだけか』

『シュティルさんはあくまでサポート。此処で決める他あるまい』


「何かを仕掛けてきますわね」

「そうだな。警戒は高めておこう」

「どんな攻撃もウチらが集まれば余裕っしょ!」

「仕掛けられる前にやるって選択肢は無いの……?」


 翼の魔物が四足歩行の魔物を抱え、空を飛ぶ。

 ディーネちゃん達は最大限に警戒を高めて向き直り、二匹はけしかけた。


『はあ!』

『カァ!』


「「……!」」

「「……!」」


 放たれたのはディーネちゃん達も……主にサラちゃんとリゼちゃんが行う風と炎の合わせ技。

 風に煽られた炎は更に大きく燃え広がり、四人の姿を狙い撃つ。


「大きくても、炎は炎です……! “水障壁”!」


『なんと……!』

『一人の人間の力に……!?』


 その業火はディーネちゃんが水魔術からなる防壁を生み出して防御。炎は水にぶつかって蒸発させ、辺りは水蒸気からなる白い霧に包まれた。

 それと同時に時計塔が鳴り響く。なんだか雰囲気があるね……。


「ふふ……では私もサポートに回るとするか」

「……!」


 その霧に紛れ、シュティルさんが姿を消し去る。

 しまった! 狙いが私でもディーネちゃん達の方でも彼女をフリーにするのは危険。私は直ぐ様ママに魔力を込める。


「ディーネちゃん達! シュティルさんが霧に紛れて姿を眩ませたから気を付けて!」


「……! は、はい! 分かりました」

「四人で背中合わせになった方が良さそう」

「そうだな……!」

「ドキドキしますわ……!」


 霧でよく見えないけど、ディーネちゃん達は自分達で対処しているみたい。それは良かった。

 流石にこの短時間であそこまで行ける訳が無いし、街は今植物が覆ってるから自由には行動出来ない筈。


『これがティーナ・ロスト・ルミナスの植物魔法』

『街ステージが一瞬で森の中だ』

「……やれやれ。お前達。もっと魔物の特性を生かして行動してみろ。例えば──」


「……!」


 シュティルさんの声。仲間達にアドバイスしてるみたい。

 霧で反響して色んな所から聞こえるけど、多分近くに居る。

 そのアドバイスと同時に魔物達が動く気配を感じ取った。……あれ? まただ。姿が見えてないのに何となく動きが分かる。この霧の環境が気配や魔力の探知力を高めてるのかも。


「みんな! 左右か前後、どちらか分からないけど挟み撃ち!」

「わ、分かりました!」

「スッゴーイ! こんなに見えないのに場所が分かるんですね! ティーナ先輩!」


 取り敢えずサポートとして場所の情報を与える。次の瞬間、霧を突き抜けて暴風と轟炎が放たれた。


「って、ちょ、同時攻撃……!」

「確かに挟み撃ちだな……!」

「固まってたのが逆に仇に……!」

「ですわー!」


 それは周りを警戒し、背中合わせになった四人を狙ってのもの。

 私も植物魔法でなんとか防ごうと試みるけど、正確な位置はまだ完全には分からないから無造作になっちゃう。


「大丈夫!?」

「なんとか……!」

「って、ディーネが居ない!」

「どこに行きましたの!?」


 ディーネちゃんが居ない!?

 まさか今の攻撃でディーネちゃんだけがはぐれ……って、相手の狙いは……!?


『貰った!』

「……っ。“水砲”!」

『何処を狙っている!』


 孤立させ、一人一人確実に倒す事!

 それにつき、シュティルさんがどんなアドバイスをしたのか理解した。

 魔物は基本的には人間よりも五感が優れている。ルミエル先輩とかイェラ先輩とか、レモンさんみたいな一部上級プレイヤーは幻獣や魔物よりも能力の高い人が居るけど、本来は生物的な性能で劣っちゃうの。

 改めて今のこの状況、視界が悪い水蒸気からなる霧の中。私達よりも相手の方が互いの居場所は把握している事になる。

 今回の狙いはそれで……だから一番能力が高いディーネちゃんが狙われたんだ!


「“水滴”……!」

『威力不足だ!』

『この距離なら我らが勝つ!』


 最後にディーネちゃんが何かを施したものの、的に攻撃が当てられて転移。リタイア。

 次第に霧は薄まるけど、まだまだ濃くて見えにくい。


『残りの者達もジワジワと嬲り倒してやる!』

『既に霧の掛かっている時間は少ないが、それでも十分! 我らの勝利は確実だ!』


 また霧の中を高速で移動。一匹は空を。一匹は地上を。濃い霧に紛れた上と下からの挟み撃ち。この環境下だと相手が有利。

 でもおかしいね。なんで霧が未だに消えないんだろう……炎と水の衝突によって生まれた水蒸気でしかないのに。


「フッ、疑問に思ってるようだな」

「……! シュティルさん……! 考えが分かったの!?」

「此処でこの様な戦法を取る事は少なくないのでな。大抵の者が疑問に思うんだ。特に君のように勘の冴えてる者はな」

「そうなんだ……そして一応攻撃してくるんだ……」

「参加者ではあるからな。まあ防御しながら聞くと良い」

「教えてくれるんだね……!」

「耐えてるうちはな。ある種の褒美だ」


 鋭い爪が迫り、紙一重でかわして植物を放つ。

 それらを破壊し、コウモリのような翼で飛翔して降下。その勢いを利用した蹴りを受けながらシュティルさんの言葉に耳を傾ける。


「此処のステージは高層建造物が多くてな。それによって吹き抜ける風の流れが他とは違うのだ」

「他と違う風……」

「端的に言えば、此処に吹き抜ける気体は全方位からの風に押されて留まるという事。少しずつは消えていくが、他よりも少しだけ長く残るという訳さ」

「そうだったんだ……」


 ここで生じる気流により、水蒸気とかであってもこの場に残っちゃうとの事。

 本来ならそれでももっと早くに消えるんだろうけど、魔力からなる水蒸気の霧だから自然の物とは違うんだね。

 シュティルさんの攻撃を防ぎ切り、彼女は更につづった。


「まあ、どちらにせよこの勝負はもうすぐ決着となる。その事に気付かなければ……負けだ」


「……?」


 なんだか含みのある言い方。

 シュティルさんの示す“その事”。普通に考えればこの気流の事だけど、それにしては少し遠回しな感じ。

 でも決着が付くと言うのは本当みたい。魔物達がトドメの為に動き出した。


『これで終わりだ!』

『纏まったのが運の尽き! この霧では動けまい!』


 空中と陸上の挟み撃ち。更に更に加速し、霧が乱れてより分かりにくくなる。

 サラちゃん、リゼちゃん、ベルちゃんは互いに確認して魔力を込めた。


「果たして終わるのはどちらかな?」

「流石のディーネさんですわ。私達への勝利の布石を準備しておりますの!」

「持つべき者は頼れる親友だね!」


『何を言っている?』

『気でも狂ったか? 今楽にしてやる!』


 お互いに勝利を確信した様子の面々。

 魔物達の移動によって乱れる気流。しかしそれにより、私も何が狙いなのかを理解した。


『終わりだ!』

『カァ──!』


 暴風吹き抜け、轟炎が差し迫る。

 三人は互いに力を込め、正面と背面の上に狙いを定めていた。


『なにっ!?』

『我らの居場所が……!?』


「「「終わりだ(っしょ)(ですわ)! ──“火蝶風月”!」」」


『『……──!』』


 三人による合体魔導。

 火が蝶々の形になって進み、それを風が包み込んで威力を増大。土魔法からなる月を象った岩石がそれらを押すように背後と正面に突き抜ける。

 居場所がバレていると気付かなかった魔物達は避ける事も叶わず、それらが直撃した。


『な……何故……!』

『場所が分かった……!?』


「簡単な事ですわ! ディーネさんはやられる直前、アナタ方に水滴を付けましたの!」

「ポタポタポタポタと垂れ流してるから痕跡バレバレ!」

「更にお前達はより居場所を分からなくさせる為、大きく動き回って霧を巻き上げるからな。隙間から水の流れている場所が分かりやすかったんだ」


 そう、私も気付いたディーネちゃんの目印。

 魔物だけあって毛皮がモフモフで、人間よりも濡れたら分かりやすいんだよね。それに加え、ベルちゃん達の説明通り。

 動き回る事で足元や自分の周りの霧が少し減っちゃって、本来なら問題無いんだけど濡れてる体だと明らかにその地点だけ水の量が多いから見つけやすかったの。

 流石のディーネちゃんだね。自分がやられる事が分かったからこそ迅速に使える魔術でマーキングしていたんだ。


『『そ……んな……!』』


 それを聞き、的を失った魔物達は転移。つまりリタイア。この勝負はサラちゃん、リゼちゃん、ベルちゃんの勝利!

 そして、


「やれやれ。やはり負けてしまったか。攻撃に夢中で自分が水浸しの事に気付かないとはな」

「……! 気付かないと負けって……」

「ああ。私の後輩達の事だよ。全く、やれやれってやつだ」


 それだけ告げ、シュティルさんは的を取り出す。それを放り、張り巡らせてある植物にぶつけた。


「取り敢えず、少しは君と戦えて良かった。来月……いや、人間の国とは再来月だな。再来月の代表戦、楽しみにしているぞ」

「まだ勝ち上がれると決まった訳じゃないんだけど……」

「君達なら大丈夫だろう。きっとな。後でまた会おう。その時もっとゆっくり話したい」


 それだけ告げ、転移。“神魔物エマテュポヌス”のメンバーが全員リタイアとなり、結果として私達“魔専アステリア女学院”が的当てゲームの勝者となった。

 うーん、少し複雑だけど、練習試合だもんね。今回の事を参考にもっと頑張って行こうかな。


「あら、シュティルさんは?」

「アハハ……後輩達が敗れたから自主的にリタイアしたかな」

「えー! 全国レベルと戦いたかったのにー!」

「ほら、サラ。敬語。しかし、結果的には私達の勝利だが……譲り受けたようなものだからまだまだ余裕は持てないな」


 後輩達も集まり、私達もみんなの所に戻る。

 大会前最後の練習試合。それは私達が勝利を収めた事になって終わりを迎えるのだった。

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