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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部一年生
18/457

第十八幕 ルミエル先輩の実力

「……!」


 ガバッ! と勢いよく起き上がる。私の目の前に広がる光景は無機質な部屋だった。

 無機質と言っても今私が寝ているベッドや真ん中にはテーブルと椅子。柔らかなソファーに会場の様子が分かるモニターと色々置かれている。

 けどなんとなく小じんまりとしていて「あ、無機質」……って印象が見受けられる場所。観葉植物でも置いたらいいのに。


「ん……ここは……」

「あ、ボルカちゃん」


 そして隣のベッドで寝ていたボルカちゃんも目覚めた。

 赤い髪を掻きながら欠伸あくびをして起き上がり、少しボーっとして私の方を見る。


「あ、ティーナ。おはよー」

「おはよう……じゃないよ! 今はこんにちは……それも違くて、ここどこだろう?」


 寝惚けている様子のボルカちゃんに返して辺りを見渡す。

 するとそこに一つの声が掛かってきた。


「此処は言わば敗者達の観戦ルームだ。オレ達は相討ちって形になったから治療が施されて運ばれたのさ」


「……!? バ、バババ、バロンさん!?」

「そんなに驚くなよ。ゲーム中は敵同士だったが、今や互いに敗者。残りの試合を楽しもうぜ?」


 見れば確かに全身の痛みが引いている。傷もない。ちゃんと治療してくれたんだ。服装も土汚れとか付いてない清潔な物に変わっていた。

 あ、けど……そうなると私の裸とか見られちゃったのかな……。なんかそれは嫌だ……。


「なんか不安そうだな。心配すんな。ちゃんと男には男、女には女のスタッフが付いているから異性に恥ずかしい格好を晒すような事は無いんだ」


「あ、そうなんだ。良かった……のかな? 同性でも恥ずかしい気もする……」


 私の表情から読み取り説明する。

 どうやら私が懸念していたような事態には陥っていないみたい。

 バロンさんはお菓子を摘まみ、頬張って話す。


「ま、今のオレ達にやれんのは残った奴等の観戦くらいだ。ほら、此処にある菓子類は自由に食って良いんだぜ。飲み物も自由だ。ゲーム参加者の特権ってやつ?」


「そうなんですね……。じゃあいただきます……」


「オイオイ、そんなに距離を置くなよ。ゲームじゃ敵同士だったが、マジで仲が悪い奴等は別室になるんだ。後はまあ異性とかな。今のテメェらに敵意は向けねェよ。むしろ感心してんだ。まさかオレが中等部二人と相打つなんて想像もしなかった」


「お褒めに預り光栄です……」


「うーむ、やはりまだ距離があんな。しゃーねェか。気楽に行こうぜ気楽に!」


 豪快に笑って話す。

 なんか、ゲーム開始前や戦闘中と大きく雰囲気が違う……。素がこれならさっきまでのは戦闘モード的な感じなのかな。

 戦闘モード……戦闘マシン・バロンさん!


【ハッハァ! 全部ブッ潰シテヤルゼェ━━ッ!】

「ハハハ……そんな訳ないか」

「何考えてんだ……?」

「何でもありませんよ。マシンバロンさん」

「明らかに何かを想像していたなァ!?」


 そんなこんなで、この場の雰囲気にも大分慣れたかも。

 意外と親しみやすい人だね。バロンさん。夢が絵物語の王子様と出会う事らしいし、気が合うかも。


「……まァいいか。ほら、さっさとテメェらもゲームの続きだ。そろそろ始まるぞ」

「ルミエル先輩、まだ戦ってなかったんだ」

「バロンセンパイがアタシ達の元に早く来過ぎたのかもなー」

「ハッハッハッ。ま、オレ程の速度で動ける奴ァそうそう居ねェ!」


 私達もソファーに座り、お菓子を詰まんで紅茶を飲みながらモニターを観戦する。

 モニターには私達がさっきまで居た森と川ステージの光景が──



*****



 ──耳を済ませば、静寂の森がたちまち演奏会へと早変わりする。

 ザワザワと風によって葉を揺らす木々の音。サラサラと近くを流れる川のせせらぎ。そんな自然の営みによって奏でられるオーケストラの演奏に、観客は私達だけ。

 フフ、なんて贅沢なのでしょう。


「貴女達が残りの全プレイヤーね♪」


「ルミエル・セイブ・アステリア……!」

「ダイバース“最強”を謳われる女……!」

「相手にとって不足はない……!」


 私を前に、バロンさんのお仲間達三人が警戒を最大限に高める。

 あらあら。血気盛んなお年頃なのかしら。高等部の魔法使いである二年生が二人と剣士の三年生が一人。中々優秀そうな子達じゃない。剣士の子はゲームだから木刀を使ってるわね。


「そう殺気立たないで。ゲームは楽しむものよ♪」

「楽しむ間もなくやってやる!」

「「はい!」」


 三年生の子……副部長かしら。それか副隊長ね。彼女が指示を出し、二年生の子達が左右から挟み込むように飛び掛かる。

 正面は副部長さんが抑え、左右から畳み掛ける隙を減らした在り方。三人の陣形がキレイに嵌まっていて良い感じね。


「でやーっ!」

「「はあ!」」

「良い連携ね」


 副部長さんが木刀をもちいて斬り掛かり、二人は簡易的な魔法で私の逃げ道を塞ぐ。

 正面をいなせば左右の魔法が。左右に気を取られれば正面からの木刀が。

 悪くない動きだわ。私はヒラリと受け流し、木刀と魔法を衝突させて相殺する。

 確かアテナロア学園はバロンさん込みで全国ベスト4だったかしら。彼女が居なくてもベスト16には入れそうな実力者ね。ちょっと強い子が入ってきたらベスト8も夢じゃないかも。

 これ程の相手なら魔術は……。


「使わなくてもなんとかなりそうね♪」

「何を言っている!」

「体術で貴女達と戦うって事よ」

「そうか。関係無い!」


 魔法を相殺した木刀は再び私の方へ。それを見切ってかわし、副部長さんの腕を取る。


「色白で柔らかいお肌じゃない。スキンケアをちゃんとしてるのね」

「……っ。うるさい!」


 下方から足が迫り、仰け反ってかわす。危うく掠るところだったわ。気を付けないと。

 その勢いで腕が振り払われ、側頭部から木刀が迫り来る。背後には放たれた魔力の塊が。


「大丈夫そうね」

「……!」


 しゃがんで木刀を避け、そのまま片手で地面を押して跳躍。対象の居なくなった魔力が副部長さんに当たり、怯みを見せた。

 この可能性を考慮して威力は弱め。同士討ちで気絶とまではいかないようね。


「副部長!」

「気にするな! 目の前のルミエルがフリーだぞ!」

「空中では身動きが取れない筈……! “ウィンドブロー”!」


「………」


 空中の私へ風の一撃が。一瞬だけ気を取られたみたいだけれど、透かさず仕掛けられる胆力は良いわね。

 けど私、別に空中でも不自由じゃないのよ。


「狙いは悪くないわよ」

「……! 空気を蹴って上昇を……!?」

「バロン部長みたいな事を……!?」


 身体能力には少しだけ自信があるわ。

 人は空気を思いっきり蹴れば魔法無しでも飛べない事はない。コツは……そうね、踏み込んだ衝撃で破裂音が響いてソニックブームが生じればいけるわ。

 爆風で周りの子達は髪を揺らし、私の姿を一瞬見失う。その間に一人()し、脳天に衝撃を与えてもう一人の意識を奪う。


「三対一があっという間に一対一になってしまったわね」

「……ナメるな!」


 残ったのは副部長さん。魔力を込めた木刀が振り下ろされ、私は紙一重でかわす。それによって背後の大地が割れ、亀裂が入った。

 やるじゃない。バロンさんにも引けを取らない威力だわ。


「ハッ!」

「切り返しも上手」


 即座に振り上げて横に薙ぎ、背後の木々が倒される。

 微かに魔力を飛ばしているようね。並みの実力者なら遠近感が狂うかも。


「そこォ!」

「そこは無よ」


 腕を引いて木刀を突き、押し出された空気が弾丸のように背後へ吹き飛ぶ。

 力は申し分無し。後はもうちょっと技術力を上げれば全国でも上位に入れる逸材へと成長するわね。


「はぁ……はぁ……のらりくらりと……」

「後輩達が見ているもの。余裕があるアピールしたいのが先輩としての考えなのよ」

「は、はあ……?」

「カッコいい先輩で居たいの♪」

「ハッ、だったら私も、もう少し格好付けさせて貰おうか……!」

「良い表情ね♪」


 分かるわ。副部長さんの気持ち。バロンさんも見ているだろうし、みんなにはカッコいい自分を見て欲しいものよね。


「まだまだ仕掛けさせて貰う……!」

「あら、二刀流。素敵ね」


 腰の木刀も手に取り、二刀流で私へと挑む。

 控え室にはそろそろ他のみんなも集まる頃かしら?



*****



 ──同時刻、控え室。


「ス、スゴい……ルミエル先輩強い……」

「相手も決して弱くないけど圧倒しているな」

「クッ、やはりアイツらじゃ荷が重かったか……オレが居れば……!」


 戦闘開始から数分にも満たない時間。私達はルミエル先輩の戦い振りに圧倒されていた。

 三人を相手に一人での立ち回り。それでこのレベルの戦いなんて。しかもダイバースで最強的な事も言っていたし、もしかしてルミエル先輩って本当にとんでもない人なの……?

 そこへ控え室の扉が開いた。


「お、起きたか。二人とも」

「ヤッホー! メリア先輩だぞー!」


「副部長にメリア先輩! あれ? 一体なんで?」


 やって来たのは先輩二人。他の先輩達と一緒に観戦していた筈だけど、どうしたんだろう。

 副部長が私の質問に答える。


「ここは同じ学校やチームの者なら出入り自由なんだ。けどスゴいじゃないか。二人掛かりとは言えバロンを倒すなんて。上手く逃走作戦が嵌まったな」


「えへへ……ボルカちゃんのお陰ですよ」

「お、嬉しい事言ってくれんな~」

「わわ……!」


 ボルカちゃんが肩を組んで笑いかける。

 でも本当に彼女のお陰。適切な魔法使用と判断が無ければ位置を把握していても勝てなかったもん。

 その隣でバロンさんは腕を組んで不敵な笑みを浮かべていた。


「クク、今回は敗れたが、やり方は分かった。次やる時は負けないぞ!」

「バロン。この二人はまだ仮入部だ。今回の試合には出たが、今後出てくるかは二人次第だぞ」

「な、なんだと!? まだ入部すらしていなかったのか……!?」


 あ、そう言えばまだ私とボルカちゃんはまだ正式な部員じゃなかったね。必死だったからすっかり忘れてたよ。

 バロンさんはワナワナと一人言をつづる。


「まさかオレが入ってもいない者達に……いや、それはいいんだが仮に今後入部しなかったら一生リベンジ出来ず、敗れた事実だけを背負いながら生きていかなきゃならなくなるのか……!」


「あの……バロンさん……?」


「気にするな。アイツは人一番負けず嫌いだからな。私やルミにも何度も突っ掛かってきている。じき収まる」


「は、はあ……」


 どうやらバロンさんとはそう言う人らしい。何事にも本気なのは良い事だよね。

 えーと、放置してもいいらしいから話を戻そうか。


「それにしても、ルミエル先輩はスゴいですね。さっきの三人にも今の方に魔法や魔術を使わず体術だけで戦うなんて……。体術の専門家でしょうか」


「んー、ちょっと違うな。要約すれば何でも出来るんだ。一人でな。専門を言えば魔術師で、素の身体能力も常人より遥かに高い。ルミは特別だからな」


「トクベツ?」


 特別って何が特別なんだろう。

 確かになんか普通の人とは違う雰囲気が漂っているし、不思議な感じはする。

 だけどそれはあくまで印象の話。ルミエル先輩自体がトクベツって事には繋がらないよね。

 副部長はニッと笑って言葉を続ける。


「──ルミ。ルミエルは“混血ハーフ”なんだ。“人間”と“魔族”のな」


「……!?」


 衝撃の事実が発覚した。

 ルミエル先輩の血筋。人間と魔族。今時二つの種族からなる混血は別に珍しくないけど、衝撃なのはそこじゃない。


「ルミエル先輩のご先祖様って……人間じゃなくて魔族だったんですか……!? つまりお伽噺とぎばなしの英雄も……!?」


「ん? まあそうなるな。厳密に言えば英雄の時代はまだ魔族で……それから他の種族が共に暮らす事になって英雄の時代から数百年後に人間の血が混ざったんだ」


 歴史の授業でやった内容と絵物語で書かれている物。

 英雄達の時代直後はまだ偏見とか解けなくて、他種族の混血は少なかったけどそれが無くなった頃合いに人間と魔族が結ばれてこうなった。

 種族に歴史ありだねぇ。今では考えられない。世界規模の戦争があったなんて。

 一説では多元宇宙規模にまで発展したって聞くし、どんなレベルの戦いだったんだろう……。

 何にしてもルミエル先輩はやっぱり特別な人だったんだ……。


「……まあ、知っての通り人間と魔族の混血は他にも居たり、人間よりも素の能力が高い魔族と魔物の混血も居る。そんな種族達としのぎを削る中で“最強”を謳われるルミ。最も着目すべき点は計り知れぬ努力だな。そしてその様を一切思わせない徹底振り。文武両道の才色兼備。天才が努力をしたらどうなるかの完成形だ」


「なるほど……」


 改めてルミエル先輩はスゴい人だなと思う。

 特別と言えば特別だけど、それに甘んじないで自分のやれる事を極限まで突き詰める。それが今のルミエル先輩を作ったんだ……。

 そんな事を話している時、どうやら決着が付いたらしい。


「これで終わりね。貴女、更に鍛えればもっと上に行けるわよ」

「……っ」


 モニター越しで見る分には脳天を軽く突いただけで相手の意識を奪い去る。多分あれには魔力の流しているんだよねきっと。

 その直後、司会者の声が響き渡った。


『魔専アステリア女学院、主将、ルミエル・セイブ・アステリアさんの勝利! よって“多様の(ダイバース・)戦術による(タクティクス・)対抗戦(ゲーム)”親善試合の勝者、魔専アステリア女学院!!』


「「「わああああああっ!!!」」」


 控え室まで届く程の声量。

 私達が話しているうちに決着が付いちゃった……。

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