第百七十六幕 vsオーク&ゴブリン
『さっさとこの拠点を渡して貰おうかー! 俺達が有効に使ってやるってんだよ!』
『オラオラァ! 出てこォい!』
『チーム“ゴブローク”様のお通りでェい!』
『奪い尽くしてやる!』
街……と言っても拠点内だけど。
そんな街ではならず者の方々が騒いだり暴れたりと悪い事をしていた。
これは許せないよね! この建物類は魔力で造られた物じゃない。なので再興するのにも時間と費用が掛かっちゃう。
暴れるだけ暴れて弁償しようって気分にもならないだろうし、本当に迷惑な存在。
「……“ゴブローク”って、ゴブリンとオークの混合チームって事だったんだ」
「まさにならず者の集団って感じのチームだなぁ~」
「えーと、どこからが法律適用外区域ですの?」
「この辺かしら。此処からなら自由に魔法を使えるわ」
『『『オラオラオラオラァ!』』』
棍棒を用いて建物を打ち、破壊するゴブロークのメンバー。
眺めている場合じゃないよね。早く止めないと……!
「や、め、なさーいー!」
『『『…………!?』』』
ママに魔力を込め、植物を展開。暴れているオークさんとゴブリンさん達を絡み取るように拘束した。
基本的には無力化を図れば良いから、この植物魔法は適任だね。
『シュティルらの仲間か!』
『ありゃあティーナ・ロスト・ルミナスだぜ』
『となると周りの女共は“魔専アステリア女学院”の面々か』
『ケッ、お高くとまったお嬢様学校のご令嬢様方と来た』
『親の力だけで何もしねェクズ共が!』
な、なんかスゴい偏見を向けられてる気がする……。
“魔専アステリア女学院”は入学までも入学後も、好成績を収めなくちゃ退学になっちゃう大変な学校なんだけどなー。
そりゃ学費は高いしお嬢様は多いけど、入学出来れば一部は免除になったり良心的なサポートシステムがあるのに。
だからボルカちゃんみたいにとてつもなく優秀な一般家庭の出身者も居るんだもんね。そもそも家の出自で優劣が決まるなんて何百年前の概念だろう。
『そんな奴らにやられるかァ!』
「それってスッゴい逆恨みー!」
相手は数が本当に多い。オークもゴブリンも元々そう言う種族だもんね。何より繁殖を優先するって聞くし。
だから纏めて拘束したとしても次から次に波のように押し寄せてくる。シュティルさんは一度はこの人達を払い除けたなんてスゴいや。
『『『ウオオオォォォォッ!!』』』
「もう何人か拘束しちゃったけど……話し合いで解決出来る問題じゃないよね……」
「だなー。そもそも、一週間前に撃退されてる時点で逆恨みによる理不尽な復讐劇だ」
話し合いの通じる相手じゃないのは明白。更に言えば追い払うだけじゃ何度でも攻めて来るだろうし、全員を完全に抑え込む事が重要かな。
ボルカちゃんは加速し、オーク達の真ん中に飛び込んだ。
「って、ボルカちゃん!? 敵陣に!?」
「一気に攻めなきゃだろー?」
『なんの……!』『こんなガキ一人!』
オーク達は棍棒を掲げ、ボルカちゃんは相手を見定める。
同時に振り下ろされ、地面にはヒビが入った。そこにボルカちゃんはいない。
『『……!』』
「気絶させりゃ良いんだな。ダイバースで慣れてる! “ファイアショット”!」
『『──』』
炎の弾丸が眉間を撃ち抜き、意識を奪い去る。
十本の指から放たれ、周りのオークとゴブリンも意識が無くなった。
「更におまけだ! “フレイムトルネード”!」
『……! ……?』
『周りを燃やしてるだけ?』
『ハッ、そんなもの……!?』
周りに炎を展開し、直接的なダメージは与えない。けれどゴブリンとオークは次々と意識を失っていく。
これって……。
「酸欠にしてやったぜ。火は別に燃やさなくても意識くらいは奪えるんだよー!」
極端に酸素を燃やし、酸欠状態を生み出す事で意識を奪い去った。
これなら囲むだけで大勢を倒す事が出来るんだ。
『『『ウオオオォォォォッ!!』』』
「品の無い方達ですわ。けれど、近距離しかないのは好都合ですの。“光球”」
『『『………!』』』
光球を放ち、光の爆発によって熱と衝撃でオークとゴブリン達の意識は消え去る。
見たところ武器は棍棒か素手。力も常人よりは強いけど動きは遅く重鈍。
今のところ私達がやられる道理は無い。でも力が強いのは変わらないから油断はしないよ。
『ゲヘヘ……弱そうな奴も居るじゃねえか』
『邪魔立てするなら容赦はしねえ!』
「この世界に置いて、人を見掛けで判断するのは愚の骨頂よ。生まれつきの体格や力は確かに便利だけど、主に魔力が主体の世界なんだもの。物語──“鬼”」
『召喚師……!?』
『いや、本魔法だ……!』
魔導書がパラパラと開き、鬼が生まれてオーク達を金棒で吹き飛ばす。
ウラノちゃんはパタンと本を閉じた。
「あら、これは魔力と言うより腕力寄りの力だったわね。ま、身体能力を極めて世界に名を馳せた先輩も知ってるし、結局はその為の鍛練を積んだ人が強いのね」
髪を靡かせ、メガネをクイッと動かす。オーガは留まらず仕掛け続け、次々と蹴散らしていた。
私達が相手する一方で、シュティルさんもオークとゴブリンの中に飛び込んでいく。
「せっかく生かしてやっているのだ。もはや敗北する為にやって来るマゾとしか思えんぞ?」
『うるせー!』『オラァ!』『終わりだ!』
棍棒が振り下ろされ、ヴァンパイアの腕力で抑え込む。
オークの腕力からなる両手持ちの棍棒がシュティルさんにとっては指一つで止められる物。改めてスゴい力。
「そうだな。間違いなく終わりだ」
『『『…………!』』』
『貴様“ら”が……だがな』
棍棒を返し、跳躍と同時に頬へ膝蹴りを打ち付けて意識を奪い去る。
背後からのし掛かるように攻めてきたオークをヒラリと躱し、肘打ちでまた気絶させる。たくさんのゴブリンが飛び掛かり、念力にて停止。互いに衝突させて場を沈めた。
『くっ……強ェ……』
『ルールに縛られたお遊びゲームのプレイヤー如きが……!』
『無法の地で暴れまわる俺達を上回るだと!?』
『ふざけるな!』
「ふざけてるのは貴様らの方だろう。何度もこの地を奪い去ろうと来ては返り討ちに遭いの繰り返し。不意討ちも闇討ちも奇襲もありのお構い無し。礼儀知らず。仁義の欠片もない。ただひたすらに面倒極まりなく、鬱陶しいゴミ以下の屑共め」
他のオークとゴブリン達へ手を翳し、一気に念力で吹き飛ばす。ちょっと口が悪くなってるけど、本当にうんざりしている証拠だね……。
シュティルさんは相手を建物へと激突させて倒し、私達も各々で無力化を成功させていた。
『くっ……』
『またやられてしまうのか……!』
『こんな奴らに……!』
「そもそも、なんでこの土地を狙ってるんですか!? 何か訳ありなんじゃ……」
全体的に士気が下がり、後退るオーク達。
ここまでしてこの場所を狙うには何か理由があるんじゃないかと思って訊ねてみた。
こんなに負けてるのに奪うなんて変だもん。必ず何かしらの理由が……。
『んなもん決まってんだろう!』
『整っていて住みやすそうだからだ!』
『しかも支配しちまえば“神魔物エマテュポヌス”の奴らを奴隷に出来る!』
『それ以外に理由があんのか!?』
『なのに奪おうとしたら反撃しやがって!』
『だからその復讐だ!』
「……あ、そう」
ダメだこの人達。本当にただの自分勝手と我が儘と逆恨みを極めてる。加害者なのに被害者のつもりで挑んできてる。
流石にもう呆れて何も言えないや。
「じゃあもう帰ってください。永遠に」
『永遠に?』
ママに魔力を込め、全方位から締め上げる。
こんなに自分勝手な人達、もう知らない。更に締め付けを強くし、その意識を消し去る。
オーク達は後退し、一頭が姿を現した。他のオークより一際大きな体躯を有する存在。
『アニキ! 生意気なガキ共に分からせてやってくだせぇ!』
『クックック……俺達の邪魔をするような奴らがこんなに居るんですよ。目に物見せてやってくだせぇ!』
『──……………………』
「大っきい……」
「アイツはドン・オーク。この辺りでは五本の指に入る実力を有するオークのボスだ。基本的にはつるまない性格だが、無類の戦闘好きと聞く。他のオーク共は性欲が凄まじいらしいが、それが全て戦闘意欲に移っている程にな。私達の事を聞いてやって来たのだろう」
「ドン・オークさん……」
お腹が出てる他のオーク達と違い、筋骨隆々な逞しい肉体を有するオークのボス。
聞くだけじゃ武人っぽい感じだけど、負ける訳にはいかないよね。負けちゃったらこの場所が奪われちゃうもん。
『ゲヘヘ……もしも奴らをボコったら俺達にお裾分けを──』
『……』
『へ……?』
──瞬間、ドン・オークさんの棍棒によってすり寄っていたオークの一人が吹き飛ばされた。
複数の建物を貫通して飛び去り、ドン・オークさんは棍棒の先を地面に叩き付け、言葉を続ける。
『下らぬ事を言うな。木っ端オークが。そして“もしも”だと? 貴様は“もしも”と言ったのかァーッ!? この俺が敗れる方向で考えるのなら、その命は失う事となろうッ!! 今回協力しているのは強者と戦り合えると聞いたからに過ぎん!! 貴様らのような小物の屑とはそう言った機会以外で関わる事は決ッッッッして無ァァァァいッ!!!』
『『『ヒ、ヒィィィ!』』』
衝撃波のような怒号が響き渡り、ビキビキと周りの建物にヒビが入る。周りのオークとゴブリン達はそれだけで意識を失っていく。
なんて声量。下手したらこれだけで対戦相手を倒す事も出来ちゃうよね……。事実余波でこの有り様だもん。
『小娘ら!! 貴様らの実力は把握したッ!! 我へ挑む権利があるッ!! さあ、粉骨砕身!! 思う存分、力と力のぶつかり合いにて高め合おうぞ!!!』
「スゴいやる気……」
「バロンセンパイとの戦いを見てみたいな~」
「そうですわね……けど、そんな事言ってる余裕なんてありませんわ……」
「そうね。文字通り有象無象とは次元が違う」
「そうだな。私でも苦戦しそうな相手。“神魔物エマテュポヌス”にも何度かスカウトしているが、全て断られてしまった。ほんの戦闘こそが全ての武人タイプだ」
おそらくスゴく純粋な存在なんだろうね。ただひたすらに自分の力を高める事を考えているような魔物。
悪い人じゃないとは思うけど、戦闘は避けられない相手。多分私達が負けたら周りのオークやゴブリンが漁夫の利を得る為に便乗して仕掛けてくるよねきっと。だから負けられない。
私達による魔物の国への練習試合の為の遠征。それは少し厄介な事態に巻き込まれちゃって大変な事になった。
“魔専アステリア女学院”とシュティルさんによる、打倒“ゴブローク”用共同戦線。それはドン・オークさんを前に次のステージへと進む。




