第百七十四幕 誕生日
──“後日”。
「ねぇねぇ。ボルカちゃんって、誕生日はいつなのー? 前にメリア先輩とそんな話してから気になっちゃった。先輩は今月らしいよー」
「ん? アタシは三ヶ月後だな。暑い時期に産まれたらしいぜ!」
練習試合の翌週、その日の放課後。私は早速ボルカちゃんに誕生日を聞いてみた。
そうだったんだねぇ。火の系統は暑い季節に産まれると大成するって言われてるし、まさにボルカちゃん自身がそれを体現しているよね。
「メリア先輩は今月かー。春風吹くって感じの季節でピッタリだ。……んで、そう言うティーナはいつ産まれなんだ?」
「私は五ヶ月後だよ~。その最初の方くらい!」
「マジか。そんじゃあ、本格的に涼しくなり始める頃合いだな」
私の産まれは五ヶ月後の涼しい季節。葉っぱも衣替えする時期だね! 様々な色味を見せる頃合いで綺麗だよね~。
「あら、何の話をしてますの?」
「ずっとソワソワして入りたがっていたじゃない。本を読んでいた私を席から連れ出してまで……」
「ホホホー! なんの事ですのー?」
ボルカちゃんと話しているといつものようにルーチェちゃんとウラノちゃんもやって来る。
偶然ってスゴいね~。いつもタイミング良く来てくれるんだから!
「誕生日について話し合ってたんだ。アタシは三ヶ月後でティーナは五ヶ月後。メリア先輩は今月らしいぜ。二人の誕生日も教えてくれよ。そう言えば友達なのに誕生会とかしてなかったしな!」
「ふふん、私の誕生日は四ヶ月後ですわ! 残暑残る、暑くも涼しい季節。即ち両方の性質を合わせ持ってますの! 故に、最高峰の季節!」
「それはなんか違う気がすんぞ? で、ビブリーは?」
「言う必要あるかしら? ……はあ……半年後。季節も丁度真ん中の曖昧な時期よ」
「そっかー!」
「そうなんだねー」
ルーチェちゃんは四ヶ月後。ウラノちゃんは半年後。仲良しのみんなの誕生日を知りたいところだけど、いつも居るメンバーの誕生日は分かったね!
これで今年はお誕生日会を開けるよー! 今から楽しみ~!
「それならメリア先輩の誕生会とか開きますの?」
「出来れば開きたいよね~。でも近いってだけで具体的な日付は聞いてないや」
「そんなの普通に聞けば良いんじゃないかしら?」
「分かってませんわねぇ。こう言うのはサプライズが一番ですのよ!」
「それで日付も何もかもが違っていたら元も子も無いでしょうに……」
メリア先輩の誕生日も出来ればお祝いしたいけど、肝心の日付が不明。
聞くべきか、サプライズの為に聞かないべきか。迷うところだけど……どうしようか。
「それなら他の先輩達の誕生日やディーネちゃん達のも聞いておきたいね」
「ハハ、全員分やってたらキリが無いと思うけど、気持ちは分かるぜ」
「アハハ……確かにほぼ毎月お祝いしちゃう事になっちゃうかも……私はそれで良いんだけど」
「アタシもそうしたいけど、お祝いされたら向こうもしようって事になっちゃうからな。それは先輩達や後輩達にも迷惑だ」
「うぅ……言われてみればそうかも……」
お誕生日を知り、全員分のお祝いをしたいところだけど毎回お誕生日会をしていたら時間も出費も掛かって拘束しちゃう事になる。出費については問題無いんだけどねぇ。でも残念だけど断念しなきゃかな……。
ボルカちゃんは言葉を続ける。
「だから誕生日会をするのはアタシ達だけで、先輩や後輩にはプレゼントだけを渡しておこうぜ!」
「ボルカちゃん!」
会場を用意したりするのは色々と大変。けれどプレゼントだけなら毎年毎月あっても問題無い。
なのでボルカちゃんの案通り、お誕生日会は私達だけ。先輩や後輩にはプレゼントをあげるという方向に纏まった。
「という事で直近のメリア先輩にも何かプレゼントだけしよう。誕生日になれば外でも自由に箒に乗れるって言ってたし、その方向性にするか、それとも箒は自分で買うだろうと判断して別の物にするかだ」
「前者なら全員で渡す必要も無いから、一人は箒で他の人は別の物で……って感じの方が良いかな? それともみんなで選んで買った物を上げるとか」
「それならば私達が全員で選んだ一つでよろしくなくて? 当然ご自分でもご購入されると思いますけれど、メリア先輩の性格ならその日の気分で乗る箒を変えたりもしそうですもの」
「誕生日プレゼントはそれで良いとして、その日付についても忘れずにね」
プレゼントの方向性はみんなで選んだほうきという事になりそうだね。それは良いとして、後はメリア先輩の誕生会の日について。
それについては本人から直接聞くしかないかな~。サプライズもしてみたかったけどね。
「誕生日の日かぁ……。前の休みの時点で“もうすぐ”だから、もうすぐを一週間前後で考えたら今週中な気はするんだよね」
「それなら先輩の性格を考慮してみたらどうかしら。先輩はせっかちなところがあるもの。そんな先輩がもうすぐと言うのならば、2~3日以内と考えるのが妥当ではなくて?」
「あ、そっか。一昨日くらいの話だから……それから日数を計算すると今日か明日が誕生日!」
「なら、もう今日中に買ってた方が良いな。今日は部活もあるし、先輩の様子から分かる筈だ。それにもし今日だとして、間に合わなかったとしても、一日遅れならあまり支障は出ない」
「元より去年は私達や先輩達のお誕生日を祝ってませんでしたものね。誤差の範囲ですわ」
「あー、そう言えばそうだよねぇ。ルミエル先輩とイェラ先輩の誕生日はお祝い出来なかったなぁ」
「「「あー……」」」
一番お世話になったであろう先輩二人のお誕生日。それをお祝いする事は叶わなかった。
それだけがちょっと心残り。大学の方も忙しいだろうし、わざわざこれから聞く訳にはいかないよね。
ちょっと気が沈み、ボルカちゃんは手を叩いた。
「ま、その分今年は目一杯祝わなきゃな。ルミエル先輩やイェラ先輩とも機会が無い訳じゃない。その時に考えよーぜ!」
「うん、そうだね。そうしよう! それじゃあそろそろ部活に行こっか! 情報収集も大事だし!」
「だな!」
「ですわね」
「そうね。そろそろ他のクラスも終わって集まる頃合いじゃないかしら」
今日私達のクラスⅡ-Ⅰは早めに授業が終わり、放課後に部活動がある生徒は少しの間待機する事になっていた。
なので雑談したり予習復習したり読書したりとそれぞれで過ごしており、もうすぐ他の授業も終わったんじゃないかと判断して他の人達もそれぞれで部活動へ向かい始めていた。
私達も荷物を持って立ち上がり、部室の方へと向かうのだった。
*****
──“数時間後・雑貨屋”。
「いらっしゃい。今日は何をご用かな?」
「はい。先輩への誕生日プレゼントとして箒を……」
「成る程ね。ならあっちのコーナーにあるよ」
部活動が終わり、門限までまだある時間の中、私達はメリア先輩へのプレゼントとして箒を買う為に前に寄った雑貨屋へと来ていた。
お馴染みの女性店員さんが出迎えてくれて、そちらのスペースへと案内してくれる。
相変わらず色々置いてあり、箒とかも完備してるんだね。と言うか魔導関連の物は色々あるみたい。
「いやー、まさか本当に明日だったとはな~」
「直接聞いた訳じゃないけどね~」
どうして現在に至ったのかというと、その経緯はこれ。
─
──
───
【さて、どうやって先輩の誕生日を探るか】
【話の流れで自然に引き出すのが良いんじゃないかしら?】
【そうだねぇ。先輩なら嬉しそうに話してくれるかも】
【それが良さそうですわね】
サプライズの体は守りつつ、具体的な日付を聞く為に行動していた私達。
部室へと入った瞬間にそれは訪れた。
【やったー! いよいよ明日から外部でも箒に乗れるー!】
【良かったですねぇ~】
【あまりはしゃぎ過ぎるなよ】
【【あ……】】
【【あ……】】
入った瞬間にリタル先輩とレヴィア先輩と話しているメリア先輩の姿が。
思ったよりも早く分かる事が出来、私達は部活動が終わったらここに寄ろうとすぐに決めたのだった。
─
──
───
そんな訳で、私達はこの雑貨屋へとやって来たのでした。
ここなら品揃えも豊富だし、現に店員さんから教えて貰う事も出来た。丁度良さそうな箒を探す。
「これとかどうだ? 黒を基調にした赤のラインがクールだぜ!」
「何だか禍々しいですわ。この金と銀のカラーリングを施し、宝石のような装飾が付けられた物は如何でしょう」
「少し派手過ぎるわね。落ち着きのある青を基調にしたこれとかどうかしら」
「メリア先輩って落ち着く感じの色味好きなのかな? 私もこの緑を基調にした優しい色合いのを選んで思ったけど……」
ボルカちゃんはカッコよさ重視。ルーチェちゃんはゴージャスな感じ。私とウラノちゃんは近い物であり、落ち着いたり主張しないような色合いの物を選んでいた。
でもメリア先輩の好みからは外れてそうでちょっと不安。
取り敢えずみんなで選んだ物を見合わせてみた。
「うーん、どれが先輩の好みなのかな……」
「好みだったとしても自分で買う物と色被りしたらそれはそれで問題だ」
「だったら二番目……いいえ、三、四番目に好きな色を考えた方が良さそうですわね」
「そうね。初めての箒は好みの物を選ぶ人が多いと聞くし、一番好きな色の物が品切れで買えなかった場合の時とかを踏まえたらそれくらいにするのが良さそう」
一番好きな色のほうきを選んじゃうと、先輩自身が買ったやつと被る可能性は大いにあり得ちゃう。
なので選ぶのはその次の次くらいに好きそうな物。そうなると……。
「その上で重要になるのはメリア先輩の好みかぁ。本人は空色の髪で、薄緑の目……」
「まさに風の系統って感じの色合いだな。アタシも自分カラーの赤や黄色にオレンジみたいな暖色系は好きだし、多分メリア先輩も自分に関わりのある色は好きなんじゃないか?」
「そんな気がしますわね。そうなると好きそうな色は青緑系……」
「結構幅広いけど、それのどれかが一番好きな色になるなら、三番目や四番目は中間に位置する黄色や紫方面かしら」
緑と向き合う関係にある色は赤で、青と向き合うのはオレンジ。そこから少し青緑寄りに染めると黄色や紫になる。ウラノちゃんが言っているのはそういう事、
それを踏まえた上で先輩が好きそうな色はそれらになるかもしれないという事。
「ま、実際は本当に自分カラーが一番好きかは分からないんだけどな~」
「アハハ……それを言っちゃおしまいだよ……でも嫌いな色って事は無いだろうし、良いんじゃないかな」
「そうですわね。ともすれば先輩へのプレゼントは……!」
「いちいち溜めなくて良いでしょう。この色の箒をください」
「はーい。かしこまりましたー」
拙い推測だけど、メリア先輩が好きそうな色の箒を選択。
それを四人で出しあって購入し、雑貨屋さんを後にした。
「じゃ、後は明日渡すかー」
「そうだねー」
「それでは解散ですわ!」
「寮まで一緒なんだから解散は難しいわね」
「んじゃ、夕飯今日は四人で外食しよーぜー!」
「あ、良いねー!」
「ふふん、構いませんわ!」
「どういう起承転結を経て“んじゃ”に繋がったのか分からないんだけど……はあ、仕方無いわね」
せっかく外に出た訳だから、そのまま夕御飯を食べてから帰る事にした。
見てみれば“魔専アステリア女学院”の生徒達もたくさん居るし、何の問題もない。
その後夕食を終えて寮に帰宅。いつものように過ごしてまた明日。放課後の部活動、メリア先輩にプレゼントを渡す。
「メリア先輩!」
「お誕生日おめでとうございまーっす!」
「私達からプレゼントですわ!」
「どうですか? このカラーリングの箒」
「えー!? 何で今日が私の誕生日って分かったの!?」
「ハッキリ言ってましたよぉ~」
「日付は公言してなかったが、素振りから簡単に分かったな」
「そ、そうだったんですか……!」
「ウチら何も用意してなーい!」
「うーん、残念でございますわ」
「誕生日なのは気付いていたが、出会って一月ちょい。何をあげれば良いか分かりませんでしたよ」
以上、メリア先輩、リタル先輩、レヴィア先輩に後輩達。ディーネちゃん、サラちゃん、ベルちゃんリゼちゃんの反応。
確かに出会ってからあまり経ってない後輩達は分からないかもね~。それは仕方無い事。
「大丈夫だよ。ディーネちゃん達。私達も今年初めて知って初の誕生日プレゼントだから」
「そ、そうですか……」
「あー、そう言えば具体的な日付は言ってなかったね~。なのに本当によく分かったよー!」
そんな感じで、フォローしつつプレゼントを渡し終える。
メリア先輩は嬉々としてそれを開けた。
「もう開けちゃうんですか」
「こう言うのは新鮮な方が良いんだよー……お! 箒だー! しかも買おうか迷っていた欲しかったやつ!」
そしてプレゼントの方も正解を引く事が出来たみたい。
良かった~! 喜んで貰えるとこっちも嬉しくなっちゃうね!
「これで二つ! ふふ♪ その時の気分で乗り換えようっと! 本当にありがとねー!」
「いえいえ」
「喜んで貰えて何よりでーす!」
「ふふん、私の見立てには間違いありませんでしたわ!」
「1/4の見立てね」
活用法も推測通り。完璧な選択を選べたみたいだね! 本当にホントに良かったー!
何はともあれ、これでバッチリ成功。メリア先輩への誕生日プレゼントを渡し終えるのだった。




