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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部二年生
174/457

第百七十三幕 練習試合・その3

 ──“数日後”。


 七不思議を調べた不思議な体験から少し経ち、三回目の練習試合。

 今回はユピテルさん率いる“ゼウサロス学院”が相手になる。他のチームと同じようにここもかなりの強豪。なんなら代表戦の常連校。手強い相手になるね!


「今日はよろしくね! ユピテルさん!」

「うむ。しかし、ティーナ・ロスト・ルミナスよ。主は出ぬのだろう?」

「そうだよ。今日出るのはね──」

「ふふん。わたくしになりますわ! ジュピター・ユピテルさん!」

「ルーチェ・ゴルド・シルヴィアか。相手にとって不足はない」


 今回の出場者はルーチェちゃん。そして今までと同じようにディーネちゃん達。向こうもユピテルさんと新入生の子達が出る事になっている。

 早速今回のステージに向かい、試合が開始された。


「さて、それでは早速始めましょう。今回のルールは“妨害レース”ですわ。その名の示す通り、妨害ありのレースゲーム。ほうきの操作は後々にも必要になる事柄ですもの。試合や私有地以外では十五歳まで乗れませんので、この機会に練習して置きましょう」


「「はい!」」

「ですわ!」

「はい……!」


 レースゲーム。なので最初から新入生達は全員がおり、レーンに並ぶ形となっていた。

 ルーチェちゃんとユピテルさんも参加はするけど、どちらかと言えば妨害に回るだけで本レースは新入生達が行う事になるね。それがコンセプト。

 因みに今回についてのメリア先輩はと言うと、


「むぅー。私も参加したかった~」

「アハハ……メリア先輩は最速なんですから参加しちゃったら鍛練になりませんよ」

「ふふ……そうかなー。そうかもねー。しょうがない! もうすぐ誕生日だし、すぐに乗れるようになるからここは我慢してやろう!」


 ……的なやり取りをしていた。

 メリア先輩の誕生日ってもうすぐだったんだ~。そう言えば私達って誕生日については特に話してなかったかも。

 お祝い事とか関係無く基本的に一緒に居るもんね。

 ま、それについては心の内に秘めながらいつかの話題として出そっか。今はルーチェちゃん達の試合に集中しよう!


《レディ……ゴー!》


 炎魔法を使える、新入生じゃないユピテルさんのチームメイトが天へ火球を放ち、開戦の合図が切られる。

 選手達は一斉にスタートし、その後をルーチェちゃんとユピテルさんの二人が追って互いの相手へ妨害に出る。


「行きますわよ! “光球”!」

「今回は抑えめで……“サンダー”!」


 ほうきがコースを進み、そこ目掛けて二つの目映い光が放たれた。

 一つは熱を帯びた光の球。もう一つは触れるだけで体を不自由にさせる雷。

 二つの光は衝突してより目映く輝き、コースに衝撃波を散らした。


「……っ」

「まぶし……!」


 光と雷。その目映さは確かな妨害となる行為。それを前提としてのレースだもんね。広いけど、八人が横並びに進むには狭いこのコース。

 悪い視界の中でどのような行動に出るか。一番上手く受け流せた人が頭一つ飛び抜ける。


「“空間掌握・切”……!」

「“闇の夜(ダークナイト)”!」


 その人物は、ディーネちゃんと“ゼウサロス学院”の一人。

 ディーネちゃんは空間を切り抜いて覆い光から逃れ、あの人は多分闇魔法か闇魔術か何かの使い手かな。自分の周りを暗闇にして視界を確保したみたい。原理で言えばサングラスみたいな感じ。

 光への対抗する術を持ち合わせている二人。そして二人が抜けた事で団子状態が少し緩和し、視界の確保が出来なかった選手達は誰も離脱せず二人の後を追う形となる。


「強そうな者だ。“影の爪(シャドウクロー)”」

「……! やられません……!」


 妨害レースは、何も外部からの妨害だけじゃない。

 選手が選手への妨害行為も勿論アリになっている。でも魔法や魔術を使うまでに少し間があり、当たらなかったら逆にロスしてしまうので一長一短かな。

 まさに今がそんな感じ。ディーネちゃんは相手の攻撃をかわし、曲がり角をスムーズに旋回。一方で放った側は少し遅れ、大回りになってしまった。

 確実に当てられるタイミングを探さなきゃならないね。私の贔屓目ではディーネちゃんがリードして嬉しいけど。

 そんな二人に続くよう、他の選手達もカーブを曲がる。


「次の妨害へと以降しますわ!」

「フッ、なれば我もそれに合わせよう」


 ルーチェちゃんとユピテルさんは再び仕掛けようと試みる。

 妨害と言うのは相手に対してなんだけど、同じタイミングで行動に移すから結局のところ自チームのサポート役にはなってないような気もする。


「“光球・連弾”!」

「“雷雨”!」


 光の球と雷が無数に降り注ぎ、ステージ全体を大きく揺らす。

 雷雨って……文字通り雷が降る雨の事を示してるんだ……。ルーチェちゃんの光も着弾と同時に爆発を引き起こして妨害の形を成し、選手達は上手く避けて突き進む。


「もうこれ、ゲームのジャンル変わってませんか~!?」

「“魔専アステリア女学院”のディーネ・スパシオよ。その意見には同意だ……!」


 うん。私も思った。

 これはもうレースじゃなくて光と雷から逃れる為の障害物競争。

 ある意味スゴく鍛練にはなると思うけど、やられる側からしたらたまったモノじゃないよね……。


「故に、その妨害人を討つ!」

「フフ、悪くない判断ですわ」


「させない……!」

「フム、我は見向きもされぬか。しかし力を上げれば仲間も巻き込んでしまい兼ねん。難しいところよ」


 闇を伸ばしてルーチェちゃんに仕掛け、それをディーネちゃんが空間を遮って防ぐ。

 狙われなかったユピテルさんは複雑そうだけど、ディーネちゃんの性格的にあまり人は狙いたくないって感じだよね。

 でも雷が消える事は無く、ルーチェちゃんを狙った攻撃も空間に防がれたから結局何も変わらず平行線を保っていた。


「今のうちに……!」


 その攻防のうちに後方のメンバーが一気に追い上げて来る。

 再びお団子状態になりそうな雰囲気だけど、ディーネちゃん達は目配せをして何かを合図していた。

 それを終わらせ、ベルちゃんを筆頭にサラちゃんとリゼちゃんが動き出す。


「“大防岩”!」

「“押風圧”!」

「“火炎圧”!」


 大きな岩を顕現させ、その後ろから二人が押し込む。それによってディーネちゃんは加速し、再び一歩前に躍り出た。

 本当にこの四人はコンビネーションが良いね。どうせ混雑するならと、信頼のある一人だけはどうしても進めようって魂胆みたい。

 それは見事に成功し、ディーネちゃんが頭一つ抜けたね。


「むぅ、我らのチームがやられ気味だな。手数を増やすとするか。“雷獣”」

「物理的に増やして来ましたわね……!」


 それを見たユピテルさんは雷から動物を作り出し、先行を阻止。そんな雷の動物達に光球が放たれて爆発が起こり、衝撃波で雷の体が吹き飛んだ。


「数の差ならば負けませんわ!」

「そうでなくては面白くない!」


 対岸に向かい、一直線の電流と光球が迫る。それらは正面衝突を起こしてステージを揺らし、それによって生じた粉塵の中をディーネちゃん。そして少し遅れ、張り合っていた子が突き抜ける。

 今のところあの二人が上位って感じかな。他の選手達はお互いに妨害し合っているから、基本的には総合成績が勝敗の鍵になるけど最終的には一位が居るチームが勝つ事になりそう。


「私も妨害を……“空間掌握・斬”!」

「……っ。崖を切り崩して……味な真似をする。“闇斬り”!」


 ディーネちゃんが崖を落とし、降り注ぐ岩を闇魔術で斬り防いで加速し、速度そのままお互いにコーナーを曲がる。

 大きく旋回した事でぶつかりそうになるけどそれらは自分達の魔導で防ぎ、更に加速して直進。もうゴールは目前。


「ここだ……!」

「……!?」


 その瞬間、闇の魔力が伸び、ゴールの更に先にある樹を掴む。瞬時に引き寄せ、自分自身が加速してディーネちゃんの前へと躍り出た。


「闇を使って……!」

「伸縮自在のこの力! 向こうから引き寄せる事も、自分自身が向かう事も出来る! そして……闇の戻る速度はほうきよりも遥かに速いッ! 勝ったッ! “ゼウサロス学院”の勝利だッ!」


 闇に自分を引いて貰い、ほうきの速度が増す。

 このままではディーネちゃんが負けてしまう。団子状になっている後方は順位が不確定だけど、多分どちらも同じくらいのポイントになりそう。

 だから絶対に一位でゴールしなきゃならないのに、圧倒的に不利な状況。

 その打開策は──


「“空間掌握・斬”!」

「……! 闇を空間ごと……だが、双方の速度はほぼ同じ! どちらにせよ一歩リードした我々が──」

「“空間掌握・繋”!」

「な……! 闇に自分の空間を……!?」


 闇を切り裂き、相手の速度を緩める。だけど差は縮まらず、終わるかと思った瞬間にディーネちゃんは自分の居る空間と先程切り離した空間を繋ぎ止め、結び付けた。

 空間同士をくっ付ける事も出来るんだ……スゴい魔導。

 そして空間その物を繋いだので闇がディーネちゃんの体とほうきを引き寄せ、一気に加速して相手と並んだ。


「くそっ……!」

「消されましたけど……この差なら……!」


 相手は慌てて闇を消し去り、ディーネちゃんの加速を止める。

 でも既に並んだ二人。後は僅かな速度の差が勝敗を決する要因となる。

 そしてディーネちゃんは魔力を込めた。


「──“爆進水行”!」

「……! 水魔……!」


 後方から水を放出し、相手を追い抜き加速。何かを言うよりも前に到達し、見事にディーネちゃんは一位でゴールした。

 そして“ゼウサロス学院”の新入生は二位通過。残りの人達はせめぎ合いながら進み、あまり変わらない順位でゴール。

 それにより、一位通過を可能にした“魔専アステリア女学院”の勝利となる。


「くっ……負けてしまったか。我が出ていれば雷速でゴールし、勝利を収めていたと言うに……!」

「妨害役ではなくという事ですの? 確かにそれならそうでしょうけど、今回はあくまで後輩達の為のレースですのよ。わたくし達は妨害に徹せねばなりませぬわ!」

「そんなものは心得ている。だから現に“ゼウサロス学院”が破れてしまったのだろうて。むぅ……納得出来ぬ!」

「心得ているならよろしいです事よ。私達としてもユピテルさんが本格参戦していない相手への勝利では物足りませんからね。本番では今度こそ確実に勝ちますわ!」

「前の戦闘も実質我らが敗北していたも同然。今度こそ我らが完全勝利を収めてやる!」


 負けちゃったユピテルさんは悔しがるけど、そのユピテルさんがあくまで妨害役だったこの試合。勝ちは勝ちでもあまり誇れるモノじゃないよね。それについては私も同意。

 だけど後輩達は仲良くなったみたいだし、数多の妨害を乗り越えられたから更に成長はしたと思うな~。

 何はともあれ、今回の練習試合も形だけは私達が勝利を収めるのだった。

 残っているのは魔物の国のシュティルさん達との練習試合だけだね!

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